フクロオオカミの骨格
フクロオオカミ (袋狼、Thylacinus cynocephalus )は、オーストラリア のタスマニア島 に生息していた、哺乳類 ・フクロネコ目 の大型肉食獣。1936年 に絶滅 [ 3] 。英語では一般的にサイラシン (英語 : Thylacine )と呼ばれる。タスマニアオオカミ の別名があるほか、背中にトラ を思わせる縞模様があることから、タスマニアタイガー とも呼ばれる。有袋類 ではありながらオオカミ にあたるニッチ を占めている、いわば「袋を持つオオカミ」であり、収斂進化 の代表例としてしばしば取り上げられる。
進化
フクロオオカミの剥製。国立科学博物館 の展示。
本種は400万年前にはじめて出現したが、フクロオオカミ科 の他種の出現は中新世 初期にまで遡り、1990年代前半からこれまでに少なくとも7種の化石が、オーストラリアのクイーンズランド州 北東部のローンヒル国立公園 (英語版 ) で見つかっている[ 5] [ 6] 。見つかっている7の化石種のなかで最も古いのが2300万年前に出現したNimbacinus dicksoni で、それ以降の時代の同科の種よりは非常に小さかった[ 7] 。 最大種は体重57kgに達したとされるThylacinus mergiriani で、ダイアウルフ の一種 C. d. guildayi に近い大きさであった。その次に大きかったThylacinus potens はタイリクオオカミ ほどの大きさにもなり、7種のうちでは唯一中新世後期まで生き延びた[ 8] 。更新世 と完新世 にかけては、本記事で扱うフクロオオカミが、多数ではないものの、オーストラリアとニューギニア全土に広く分布していたと考えられている[ 9] 。
収斂進化 の一例として挙げられる本種は北半球 に生息するイヌ科 の種と、鋭い歯や強力な顎、趾行 性や基本的な体の構造など、様々な類似点を持っている。イヌ科の種が他所で占めているようなニッチ (生態的地位)を本種はオーストラリアにおいて占めていたため、それぞれ似通った特徴を獲得したのである。それにも関わらず本種は、北半球のどんな捕食者とも遺伝的に近縁ではない[ 10] 。なお、フクロオオカミ独特の点として、カンガルー のように後ろ足で立ち上がることが出来たという[ 11] 。
生態
広い草原や森を主な生息地としていた[ 12] 。単独またはつがいで行動し、日中は木や岩の陰で過ごし、日が暮れてから狩りに出かけた。ワラビー などの小型哺乳類を主に捕食 していたと考えられている。
絶滅の経緯
もともとフクロオオカミは、オーストラリア大陸 やニューギニア島 を含めたオーストラリア区 一帯に生息していたが、3万年前人類 が進出してくると、人類やその家畜だったディンゴ との獲物をめぐる競争に敗れ、人類の到達が遅くディンゴの生息しなかったタスマニア島のみに生き残ることになった。この状況は、タスマニアデビル も同様であった。
大航海時代 が訪れ、ヨーロッパ から入植者が住み着くようになると、彼らのヒツジ などの家畜を襲うフクロオオカミを目の敵にした。1888年 から1909年 までは懸賞金がかけられ、2,184頭ものフクロオオカミが虐殺されたという。1930年 に、唯一と思われる野生個体が射殺され、次いでロンドン動物園 の飼育個体が死亡し、絶滅したと思われたが、1933年 野生個体が再度捕獲。ホバート の動物園に移されるも、1936年 に死亡し、絶滅となった。(最後の一匹のフクロオオカミはベンジャミンという名前がつけられていた。)
それ以降も度々目撃情報があり、タスマニア大学 の研究チームなどによる生存調査も実施されているが、映像や死骸等の物的証拠が無く、確実な証拠はない。目撃報告も、ディンゴ、フクロギツネ 、外国から持ち込まれた外来種であるアカギツネ の誤認も含まれているとみられる。このため、大半の野生動物の専門家はフクロオオカミの生存説 には否定的である。
出典
^ Burbidge, A.A. & Woinarski, J. 2016. Thylacinus cynocephalus. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T21866A21949291. doi :10.2305/IUCN.UK.2016-2.RLTS.T21866A21949291.en Downloaded on 30 March 2017.
^ Groves, C. (2005). Wilson, D. E., & Reeder, D. M, eds. ed. Mammal Species of the World (3rd ed.). Baltimore: Johns Hopkins University Press. pp. 23. OCLC 62265494. ISBN 0-801-88221-4 .
^ ダニエル・スミス『絶対に見られない世界の秘宝99』日経ナショナルジオグラフィック社、2015年、122頁。ISBN 978-4-86313-324-2 。
^ “Riversleigh ”. Australian Museum (1999年). 2006年6月14日時点のオリジナル よりアーカイブ。2006年11月21日 閲覧。
^ “Is there a fossil Thylacine? ”. Australian Museum (1999年). 2009年6月2日時点のオリジナル よりアーカイブ。2006年11月21日 閲覧。
^ “Lost Kingdoms: Dickson's Thylacine (Nimbacinus dicksoni ) ”. Australian Museum (1999年). 21 November 2006 閲覧。
^ “Lost Kingdoms: Powerful Thylacine (Thylacinus potens ) ”. Australian Museum (1999年). 21 November 2006 閲覧。
^ C.N. Johnson and S, Wroe (2003-11). “Causes of extinction of vertebrates during the Holocene of mainland Australia: arrival of the dingo, or human impact?”. The Holocene 13 (6): 941–948. doi :10.1191/0959683603hl682fa .
^ “Threatened Species: Thylacine – Tasmanian tiger, Thylacinus cynocephalus ” (PDF). Parks and Wildlife Service, Tasmania (2003年12月). 2006年10月2日時点のオリジナル よりアーカイブ。2006年11月22日 閲覧。
^ 「人類が滅ぼした動物の図鑑」長谷川政美 監修・的場知之 訳、丸善出版 、2021年、P63
^ 今泉忠明(監修)『絶滅動物のひみつ3』71頁。
関連項目
ハウリングIII - 1987年のオーストラリア映画。登場する人狼はフクロオオカミと血縁を持っているという設定。フクロオオカミの実際のフィルムも使われている。
タスマニア物語 - 1990年 の日本映画。父親が絶滅したとされるフクロオオカミを探しているという設定。
ハンター (2011年の映画) - バイオ企業に雇われた傭兵 が、フクロオオカミのDNAサンプル採取と全個体抹殺のために行動する。
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
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Thylacinus cynocephalus Didelphis cynocephala