『サイレント・ウィッチ』は、依空まつりによる日本のライトノベル。2020年2月から同年10月まで『小説家になろう』にて連載され、2021年6月から書籍版がカドカワBOOKS(KADOKAWA)より『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』のタイトルで刊行されている。イラストは藤実なんなが担当している。
2020年11月からは本編『サイレント・ウィッチ』のその後を描いたエピソードや、本編に入りきらなかった小話が『サイレント・ウィッチ(外伝)』にて連載され、2024年8月に完結した[3]。また、サイレント・ウィッチ本編よりも前に「記憶喪失軍医ロザリー・ヴェルデの考察」という本編の元となる作品が小説家になろうにて2019年11月から2021年2月まで連載された。[4]なお、この作品は「サイレント・ウィッチ -another- 結界の魔術師の成り上がり〈上・下〉」として書籍化された。
メディアミックスとして、『B's-LOG COMIC』(KADOKAWA)にて桟とびによるコミカライズ版がVol.102(2021年7月配信)より連載されている[5]。2024年8月にはアニメ化が発表された[6]。
あらすじ
モニカ・エヴァレットは世界で唯一の無詠唱魔術の使い手であり、史上最年少の15歳で王国最高の魔術師・七賢人に選ばれる。しかし、モニカは極度の人見知りであり、無詠唱魔術も人前で話さなくていいように練習して会得したものだった。七賢人に選ばれたモニカは同期のルイス・ミラーに学園に編入して、第二王子を護衛する極秘任務を押しつけられる。
登場人物
声の項はアニメ版の声優。
- モニカ・エヴァレット
- 声 - 会沢紗弥[6]
- 本作の主人公[2]。史上最年少の15歳にして、王国最高峰の魔術師・七賢人になり、無詠唱魔術が使用できることから「沈黙の魔女」と呼ばれる[2]。才能はあるものの性格はかなりの人見知り。潜入中は、モニカ・ノートンと名乗っている。魔術と数学の理解度が非常に高い。
- 生徒会役員:会計(編入してすぐのころに任命された)
- 「ピーキーで尖った性能」という著者の好みが全面的に反映されている。「才能は時として呪いにもなる」という点においてモニカがどのように向き合っていくのかを見てみたいという著者の思いからモニカは誕生している[2]。
- ネロ
- モニカの使い魔で普段は猫の姿をしているが、人型にもなることができ、人の言葉も理解している不思議な使い魔。冒険小説等の小説が好き。[7]魔力に敏感だったり、人間に化けたり、セクシーポーズができたりと色々多芸。[8]
- ルイス・ミラー
- 七賢人の1人で「結界の魔術師」と呼ばれる。モニカの同期で、態度こそ上品だが、癖がとても強い[2]。元ヤン。竜の単独討伐数で歴代二位を誇る超絶武闘派魔術師。モニカとは同時期に七賢人になったので、モニカのことを同期殿と呼ぶ。モニカより10歳年上。[7]作中では妻のロザリーを溺愛している。
- 作者はルイスのことを「いかにも正論っぽい暴論を笑顔でゴリ押してくるキャラ」と表現している。[2]
- ロザリー・ミラー
- ルイスの妻。医者。旧姓はロザリー・ヴェルデ。
- ルイス・ミラーのミネルヴァでの元クラスメイト。父は元七賢人。
- リィンズベルフィード(リン)
- ルイスと契約している風の上級精霊。感情にとぼしいため、本の登場人物のマネをする癖がある。メイド服の美女の姿でいることが多いが、男性にも鳥にもなれる。性別に意味はない。[9]
- 作中に登場する登場人物は癖が強い人達ばかりのため、なんでもこなせるルイスや他の七賢人達、著者にとってもこのキャラクターは重宝されている[2]。
- 作者はリンのことを「容赦のない言葉をズバズバぶち込む」キャラだと表現している。[2]
- フェリクス・アーク・リディル
- リディル王国第二王子。モニカの護衛対象。母方の祖父がクロックフォード公爵。色々と謎が多い。魔術に興味のないフリをしているが、実は〈沈黙の魔女〉の隠れファン。[10]
- 生徒会役員:会長
- シリル・アシュリー
- ハイオーン侯爵令息。養子。氷の魔術の使い手。フェリクスに忠誠を誓っており、フェリクスにもまた信頼されている。真面目で勤勉。隠れ甘党でチョコレートが大好き。[10]クローディア・アシュリーの義兄。妹との仲は微妙。
- 生徒会役員:副会長
- エリオット・ハワード
- ダーズヴィー伯爵家長男。身分階級主義。タレ目。陽気で軽薄に見えるが、他人にも自分にも厳しい性格。[9]
- 生徒会役員:書記[11]。
- 著者によれば「噛めば噛むほど味のするスルメのような、絶妙な人間臭さが魅力のキャラクター」であるという[2]。
- ブリジット・グレイアム
- シェイルベリー侯爵令嬢。やることが完璧、気位の高い才女。学園三大美人の一人。フェリクスの幼馴染で、婚約者候補の一人。
- 生徒会役員:書記
- ニール・クレイ・メイウッド
- メイウッド男爵令息。温厚。〈調停者の家系〉の人間でクローディアの婚約者。大人しく控え目な性格。背が低いことを気にしており、チビは禁句。調停者の家系。分からないことは自分で徹底的に調べる主義。[10]
- 生徒会役員:総務
- クローディア・アシュリー
- ハイオーン侯爵令嬢。冷酷。他人に利用されるのが嫌い。ニールの婚約者。学園三大美人の一人。シリル・アシュリーの義妹。兄との仲は微妙だが、兄の動かし方はよく分かっている。[9]
- イザベル・ノートン
- ケルベック伯爵令嬢。モニカの任務の協力者。モニカの任務の手助けをすべく、悪役令嬢になりきっている。[8]
- 学園内では、モニカをいじめているふりをしているが、裏ではモニカのことをモニカお姉様と呼び、慕っている。[12]
- なお、ケルベック伯爵家はモニカがウォーガンの黒竜を撃退したことに深く感謝しており、ノリノリで協力した。[13]
- 高笑いのキレは誰にも負けないと自負している。[12]
- ラナ・コレット
- コレット男爵令嬢。モニカのセレンディア学園初の友達で、クラスメイト。モニカを大切に思っている。父親が豪商で流行に詳しい。
- グレン・ダドリー
- モニカと同時期に編入した編入生。魔術師見習いの肉屋の息子。怖い師匠がいるらしい。好きな女性のタイプはクールな年上。
- エリアーヌ・ハイアット
- レーンブルグ公爵令嬢。フェリクスのはとこで、フェリクスの婚約者候補の一人。学園三大美人の一人。
- アニー
- 焦げ茶の髪を首の後ろで括った、モニカ曰く同年代の子どもと比べて頭の良い少女。文字が読める上、職人の娘なので数字に強い。モニカの山小屋のあったの村の少女で、毎月モニカに食料等を届けていた。[14]
- メアリー・ハーヴェイ
- 七賢人の一人〈星詠みの魔女〉、星を詠んで国の行く末を占う。美少年好き。[15]
- エマニュエル・ダーウィン
- 七賢人の一人〈宝玉の魔術師〉、付帯魔術の使い手。古き良き小悪党。[15]
- ブラッドフォード・ファイアストン
- 七賢人の一人〈砲弾の魔術師〉、六重強化術式の使い手。戦闘狂。[15]
- レイ・オルブライト
- 七賢人の一人〈深淵の呪術師〉、呪術の使い手。病的な愛されたがり。[15]
- ラウル・ローズバーグ
- 七賢人の一人〈茨の魔女〉、植物に魔力を付与する研究をしている。 魔術に関しては天才だが、それ以外は割とポンコツで、空気が読めない。友達募集中。 作中でも一、二を争う美貌の持ち主だが体はムキムキ。標準装備は野良着と麦わら帽子。[15]
用語
- リディル王国
- 本作の舞台。
- 貴族階級
- リディル王国における爵位は、上から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となっている。[16]
- 魔法
- 魔力を行使してなんらかの現象を起こすこと。魔法は人間だけのものではなく、精霊や竜などの種族達も魔法を使うことができる。ただし、彼らは人間とは異なり、生まれつき魔力操作に長けているため詠唱を必要としない。
- 魔術
- 魔法を使うための手段。詠唱によって魔術式を編むことで魔力を行使すること。
- 詠唱
- 人間が魔術式を編みやすくするための行為。人間は基本的に「詠唱をしなくては魔術を使えない」とされており、上級魔術が二十秒から三十秒以上、中級魔術は十秒から二十秒、下級魔術の詠唱時間は凡そ三秒から十秒ほど詠唱時間がかかる。
- 詠唱中に無防備になってしまうことが魔術師の最大の弱点とされており、戦場に於いては詠唱時間が生死を左右するといわれるほど。上級魔術師の中には短縮詠唱を使って、詠唱時間を半分にする者もいる。
- 主人公は頭の回転の速さから、魔術式を編むという行為を頭の中だけで行うことができ、凡そ八割程度の術を無詠唱で行使することができる。[17]
- 魔力
- 魔法を使う元となる力。これがなかったり、少なかったりすると、魔法が使えない。魔力量の目安は、1-49が才能のない一般人。50-99が見習いおよび下級魔術師。100-149が中級魔術師。150以上が上級魔術師である。200を超える者は滅多にいない。250を超えるものは国内にも2人しかいない。[18]
- 竜
- 本作での竜は町や人々の生活を脅かす災害の一種として描かれている。胴体は固く、弱点は眉間と目のみである。竜には種類があり、飛竜や水竜などがいる。強い竜には赤竜のように名前に色が付けられている。その中でも黒竜と呪竜は特に恐れられている。
- 三大名門校
国内の3つの名門校の総称。[19]貴族の子女達の名門校「セレンディア学園」、神殿傘下にある法学に秀でた「院」、魔術師養成機関の最高峰「ミネルヴァ」。
- 七賢人
- 魔術の扱いに長けた七人の称号。魔法伯という特別な貴族階級が与えられる。原則、魔力が150以上ないと七賢人にはなれない。〈星詠みの魔女〉〈宝玉の魔術師〉〈砲弾の魔術師〉〈結界の魔術師〉〈深淵の呪術師〉〈茨の魔女〉〈沈黙の魔女〉の7人(本編開始時)
作風とテーマ
著者曰く、本作は「1800年代あたりの近代ヨーロッパ」をイメージしており、魔術などのファンタジー要素が取り入れられている。時代設定を近代にした理由について著者は、「ストーリーに登場させる小道具や概念などに合わせて、文明レベルも引き上げる必要があった」からであると語る[2]。ミステリの要素や派閥争いといった側面はストーリーを面白くさせる要素に過ぎず、本作の主軸は主人公のモニカ・エヴァレットの成長ドラマとなっている[2]。
制作背景
本作の設定自体は執筆前に出来上がっていたものの、前もって世界観やキャラクターを固めたいという著者の考えから、先に本作から2年前の世界を描いた物語「記憶喪失軍医ロザリー・ヴェルデの考察[4]」を執筆し、その後本作を執筆するに至っている。「記憶喪失軍医ロザリー・ヴェルデの考察[4]」はルイス・ミラーというキャラクターからストーリーが構築されているが、本編はモニカというキャラクターからストーリーを構築しており、世界設定に関しては魔術の普及具合や発展具合が世界観を固める上で重要であることから、魔術が便利になりすぎないようにしている[2]。
評価
2024年8月時点でシリーズ累計部数は60万部を突破している[20]。「次にくるライトノベル大賞2021」では総合部門で13位、WEB発単行本部門で8位[21]、「次にくるライトノベル大賞2022」では単行本部門で5位をそれぞれ獲得している[22]。『このライトノベルがすごい!2022』(宝島社)では総合新作部門7位、単行本・ノベルズ部門2位を獲得している。『このライトノベルがすごい!2023』では単行本・ノベルズ部門4位を獲得している。
既刊一覧
小説
- 依空まつり(著)・藤実なんな(イラスト)、KADOKAWA〈カドカワBOOKS〉、既刊11巻(2024年8月9日現在)
漫画
脚注
出典
参考文献
外部リンク