食用のアスパラソバージュ
アスパラソバージュ (仏:asperge des bois )はオルニトガルム・ピレナイクム [ 1] [ 2] [ 注釈 1] (学名:Ornithogalum pyrenaicum [ 4] )の食用となる若芽の名称。同じキジカクシ科 であり、アスパラガス という名前がついているが、アスパラガス属(クサスギカズラ属 )ではなく、オオアマナ 属に分類される[ 5] 。
本稿では野菜として供されるアスパラソバージュ、および植物としてのオルニトガルム・ピレナイクムの両方について述べる。
オルニトガルム・ピレナイクム
自生するオルニトガルム・ピレナイクム
分類 (APG IV , Cantino et al. (2007)[ 6] )
学名
Ornithogalum pyrenaicum L.
シノニム
本文参照
英名
Prussian asparagus Bath asparagus Pyrenees star of Bethlehem spiked star of Bethlehem wild asparagus
名称
野菜としてのアスパラソバージュは『森のアスパラガス』 (仏 : asperge des bois )[ 8] [ 9] とも呼ばれる。フランス語ではほかに Aspergette とも呼ばれる。
本種オルニトガルム・ピレナイクムの英名は、Prussian asparagus (プロイセン のアスパラガス)、Bath asparagus (バスアスパラガス)、Pyrenees star of Bethlehem (ピレネー のベツレヘムの星 [ 注釈 2] )、spiked star of Bethlehem (尖ったベツレヘムの星)とも呼ばれる[ 5] [ 10] 。イギリス でバスアスパラガスと呼ばれる由来はイングランド南西部のバース 地方(Bath )の特産物だったからともいわれている[ 5] 。
学名
学名の Ornithogalum pyrenaicum はピレネー山脈 のオオアマナ属 の意。1753年 、カール・フォン・リンネ によって著書『Species Plantarum 』に記載された[ 4] 。
属名 の Ornithogalum はギリシア語 で鳥 を意味する ὄρνις (ornis )の単数属格 形 ὄρνιθος (ornithos )と牛乳 を意味する γάλα (gala )の合成語(ギリシア語名詞 ὀρνιθόγαλον に由来する)で[ 注釈 3] 、花の白い色に由来すると考えられている[ 3] 。また、この属のある種の花が鳥の糞 に似ているからともいわれる。 種形容語 pyrenaicum は「ピレネー山脈の」を意味するラテン語 形容詞 pyrenaicus の中性 単数 主格 形で、フランス とスペイン の国境に聳えるピレネー山脈 の周辺に分布していることから名付けられた[ 3] 。
以下のように多くのシノニム がある[ 3] [ 15] 。
名称の混同
本種はフランス語では『アスペルジュ・ソバージュ asperge sauvage 』(野生のアスパラガスの意)ではなく、『アスペルジュ・デ・ボワ asperge des bois 』(森のアスパラガスの意)と呼ばれている。フランス語での『asperge sauvage 』はオオアマナ属ではなく、アスパラガスと同じくキジカクシ属の植物であるAsparagus acutifolius を指す[ 16] [ 17] 。
しかし、日本語の文献やウェブサイトでは、両者の情報を混同して「アスパラソバージュ」として紹介される場合がある[ 5] [ 18] [ 19] 。
例えば、かつて存在した農林水産省の消費者相談ページでは、本種について
『フランス語でAsperge sauvage(アスペルジュ・ソバージュ)と言われ「野生のアスパラガス」を意味し、「森のアスパラガス」とも呼ばれています』
としていた[ 20] 。
一方で、両者は英語圏でも混同される例があり[ 21] 、Asparagus acutifolius を指す『ワイルドアスパラガス wild asparagus 』も、「アスパラソバージュ」の別名として流布している[ 22] 。さらに、フランスのカーニュ=シュル=メール にあるレストランでオーナーシェフを務める神谷隆幸によれば、両者はフランスにおいても混同がある[ 23] 。
学名
画像
フランス語表記
日本語表記
特徴
Ornithogalum pyrenaicum
asperge des bois
アスパラソバージュ
アスペルジュソバージュ[ 24]
ワイルドアスパラガス[ 25]
野生のアスパラガス[ 26]
食用で供される時は茎部分に節がほとんどない
Asparagus acutifolius
asperge sauvage
アスペルジュソバージュ
アスパラソバージュ
ワイルドアスパラガス[ 27]
山アスパラガス[ 28]
野生のアスパラガス[ 29]
一般的なアスパラガスと同様に茎部分に節がある
形態
本種の花序。基部から開花し、上部はまだ蕾である。各花の基部には苞がある。
球根 は長径34-50 (32-58) mm(ミリメートル ) 、短径26-36 (22-38) mmの卵形で、収縮根 を生じ、通常は二次的な鱗芽 (secondary bulbil )を持たない。葉鞘 が乾燥した薄皮は淡褐色で、球根の上10-20 mmが先細り、細い頸部となる。
葉は植物体の基部で4-7 (3-8)枚がロゼット となる。葉の長さは40-75 (38-80) cm(センチメートル ) 、幅は0.7-0.9 (0.6-1.3) cmで、形は線形 または先細りでわずかに竜骨 があり、表面は無毛で白粉に覆われ、緑色でやや光沢があり、先端は枯れる。葉は花より前に出る性質 (proteranthous )を持つ。
花序と花
花序 を除く花茎 の長さは48-78 (46 - 85) cm、幅0.4-0.5 cmで直立し、滑らかでやや光沢があり、白粉に覆われる。花序は総状花序 で非常に長く、頂端はピラミッド形 となる。 花を除いた(ただし花梗 は含める)長さは20-45 (16-51) cm、幅1.5-2.6 (0.7-3) cmで、25-55 (20-64)個の花をつける。
苞 は8-15 (7-19)×2.5-3.7 (2-4) mmで、ふつう小花柄より短いか同じくらい、まれに少し長く、膜質で3脈がある。苞の形は卵形から披針形で、基部はかなり広く、頂端は剛毛で覆われ尖鋭形。小花柄は直立して開出し、下部の花では13-25 (9-29) mm、中間部では11-17 (8-19) mm、上部では3-7 (2-9) mmとなり、結実した小花柄は18-25 (18-29) mmで、直立して茎に沿う。
花の直径は18-23 mmで、わずかに芳香がある。花被片 は6枚で、向軸側が黄色みがかり、背軸側 では黄色みがかっているが中央に幅1-1.2 mmの緑色の帯があり、線形から線状披針形である。花被片は開花初期には縁が滑らかだが、成熟すると縁が曲がったり、うねったりするようになる。外花被片 は長さ7-11 (7-12) mm、幅2-2.3 (1.3-3) mmなのに対し、内花被片 は長さ7-10 (7-11) mm、幅2-2.5 (1.5-2.5) mmで、外花被片よりやや短く、幅が広い。雄蕊 は6本で花被片の長さの1/2-2/3、花糸 は白色で基部の半分が急に広がり、外側の花糸は長さ5-6 mm、径1.2-1.4 mmなのに対し、内側の花糸は長さ5.5-6.2 mm、径1.4-1.8 (1.2-1.8) mmで、外側のものよりもやや長く、幅が広い。葯 は背着し、淡黄色で、裂開前の長さは3 mm、裂開後は長さ1.5-1.8 (1.5-2) mm、太さ0.7-0.8 (0.7-1.2) mm。子房は淡緑色で、長径2-2.5 (1.5-2.8) mm、短径1.5-2.5 (1.2-2.7) mmで、卵形、紡錘形 または短い円筒形で、頂部は切形で、横断面は鈍3稜形、隔壁蜜腺がある。花柱は白っぽく糸状で2.5-3.5 (2-4) mm、柱頭はやや三稜で腺毛がある。
果実
淡褐色の蒴果 は長径8-9 (7-9.5) mm、短径 5.5-6.5 (5-7) mmで、卵形から円筒形、断面は3角となり、3つに裂開する。種子 は1蒴果あたり10-18 (6-20)個(平均 12.25個)、重さ5-7.5 mg(ミリグラム ) で、長径2.5-3.1 (2.3-3.3) mm、短径1.6-2 (1.4-2.3) mm、角張り、不規則に潰れた形状をしている。外種皮 は不規則な皺を作るか微細な網状で、種子の縁に小さな顆粒が散在することもある。
生態
多年草[ 3] 。花期は5月 から6月 、高地では7月 にも開花する。果期は6月から8月 にかけて。繁殖は種子による有性生殖 が主で、花序ごとに多くの種子が作られる。稀に二次的な鱗芽(むかご )を作ることもあるが、栄養生殖は有性生殖に比べあまり重要ではない。
生育場所は森林 、草地、河畔など、日陰を好む。主に酸性土壌 に生育するが、他の種類の土壌でも観察される。
染色体 数は 2n = 16、文献により2n = 16 + (O-2B)、2n = 24。Tornadore (1985)によると、本種は2倍体 で染色体基本数はx=8である。
分布
Preston & Hill (1997)におけるSubmediterranean–Subatlantic species (亜地中海 性~亜大西洋 性の種)に区分される。ヨーロッパ 、アフリカ 北部から西アジア までの地域に生息する[ 3] 。ギリシャ 、トルコ 、ロシア 中・東部、モロッコ からイギリス 南部まで分布しているとされるが、分類学的に同種かは不確かである。ユーゴスラビア 北部で最もよく見られる。
イベリア半島 では、北部と西部で比較的よく見られるが、塩基性土壌が多く分布する東部や南東部、バレアレス諸島 では生育しない。
イギリスは分布の北限に近く、主にウィルトシャー 、サマセット 、グロスタシャー のバース 地方に分布している。また、ベッドフォードシャー では Eaton Socon 付近、バークシャー では Ashridge Wood に自生している。その他のシュロップシャー 、サリー 、サフォーク などの場所では、人為的に導入されたと考えられている。イギリスでは低地性の植物で、海抜180 m(メートル ) 以下に生息している。
西ヨーロッパ や中央ヨーロッパ の多くの地域では、局所的な集団に限定された希少種であり、ドイツ のザールラント では小集団のみで保全を要する。
栽培
ヨーロッパ に広く自生 しており、主にピレネー山脈近くで収穫される[ 9] 。
日本への輸入物はフランスからの冷蔵・冷凍ものが主で、栽培ものではなく自生しているものがほとんどである[ 31] [ 8] 。
日本における栽培
日本では2000年頃、山形県 酒田市 の佐藤吉徳が農業新聞 で掲載されていた記事をきっかけにし、独学で栽培を開始。2010年頃から収穫ができるようになった[ 32] 。
日本では種が入手可能で、栽培可能地域は全国となっている。前年の10月から11月に種をまく。翌春に発芽。3年目から収穫ができ、4月から6月に収穫がされる[ 33] 。流通時期が限られており供給量も少ないため、高級食材として高値で取引される[ 8] [ 5] 。
食材として
調理前のアスパラソバージュ
ヨーロッパでは山菜 のような位置づけの春野菜とされる[ 31] 。色は黄緑色。アスパラガスにも似ているが、ツクシのような形状とも言われる[ 31] 。ニンニクの芽 や花ニラ のように若芽を食用とする[ 5] 。若芽を収穫しない場合、草丈は30 cmから60 cmになる[ 3] 。
歯触りはサクサクとし、わずかにぬめりや粘り気があり[ 33] 、やや苦みがある[ 33] 。旬は4月~5月頃[ 31] 。アスパラガスと違い皮をむかずに食べられる[ 34] 。
フランスではオムレツ に、イタリアではパスタ やリゾット などに使う[ 35] 。2015年 6月、改築を控えていたホテルオークラ東京 本館にあるレストラン『ラ・ベル・エポック 』では、ミシュラン 一つ星のシェフであるフレデリック・シモナンとのフェアにおいて、冷製スープのいろどりにアスパラソバージュを使用した[ 36] 。
肉料理の付け合せに使われているアスパラソバージュ
料理例では、上記のスープのいろどりのほか、サラダ[ 37] 、パスタの具材[ 9] 、天ぷら[ 9] 、肉料理の付け合わせ[ 9] 、おひたし[ 38] などがあり、一般的には茹でる・炒めるなど加熱してから調理する[ 37] [ 9] [ 33] 。
フレンチのレシピではサラダ、タルト、カッペリーニでの下ごしらえにおいて、塩ゆでの後に氷水にさらす手順が含まれている[ 39] [ 40] [ 41] 。
栄養価
日本語のウェブサイトによれば、ビタミンA 、ビタミンB1 ・B2 、ビタミンC 、ビタミンE 、カルシウム 、カリウム 、リン 、アスパラギン酸 などが含まれる[ 33] [ 37] 。
脚注
注釈
出典
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外部リンク