K2-18b
K2-18bの想像図。奥には主星K2-18と、K2-18を公転する別の惑星K2-18cも描かれている。提供: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI)
星座
しし座
分類
太陽系外惑星 スーパー・アース ? サブ・ネプチューン?[ 1]
軌道 の種類
周回軌道
天文学上における意義
ハビタブルゾーン内を公転する惑星としては初めて大気から水蒸気が検出された惑星
発見
発見年
2015年 [ 2] [ 3]
発見者
ケプラー宇宙望遠鏡 [ 2] (K2ミッション)
発見方法
トランジット法 [ 3]
位置元期 :J2000.0 [ 4]
赤経 (RA, α)
11h 30m 14.5176249117s [ 4]
赤緯 (Dec, δ)
+07° 35′ 18.257210626″[ 4]
固有運動 (μ)
赤経: -80.377 ミリ秒 /年[ 4] 赤緯: -133.142 ミリ秒/年[ 4]
距離
124.0 ± 0.3 光年 (38.025 ± 0.079 パーセク [ 5] )
軌道要素 と性質
軌道長半径 (a )
0.1429+0.006 −0.0065 au [ 6] (21,377,840+897,600 −972,400 km)
近点 距離 (q )
0.1143 au
遠点 距離 (Q )
0.1715 au
離心率 (e )
0.20 ± 0.08[ 6]
公転周期 (P )
32.939623+0.000095 −0.000100 日 [ 6]
軌道傾斜角 (i )
89.5785+0.0079 −0.0088 ° [ 7]
近点引数 (ω )
-5.70+46.40 −33.80 °[ 6] [ 8] [ 注 1]
通過 時刻
2457264.39144 ± 0.00065 BJD[ 6]
準振幅 (K )
3.55+0.57 −0.58 m/s[ 6]
K2-18 の惑星
物理的性質
直径
34,582 ± 829 km
半径
2.711 ± 0.065 R ⊕ [ 5]
表面積
3.749× 10 9 km2
体積
2.158× 10 13 km3
質量
8.63 ± 1.35 M ⊕ [ 5]
平均密度
2.4 ± 0.4 g/cm3 [ 5]
表面重力
11.5 ± 1.9 m/s2 [ 5] (1.17 ± 0.19 G )
脱出速度
19.9 ± 1.6 km/s[ 5]
平衡温度 (Teq )
272 ± 15 K (-1 ± 15 ℃ )[ 2] 265 ± 5 K(-8 ± 5 ℃)[ 5] 284 ± 15 K(11 ± 15 ℃)[ 6]
大気 の性質
大気圧
不明
水素 [ 9]
割合不明
ヘリウム [ 9]
割合不明
水蒸気 [ 3]
0.1 - 50%[ 9] [ 10]
メタン [ 11]
割合不明
二酸化炭素 [ 11]
割合不明
他のカタログ での名称
EPIC 201912552 b EPIC 201912552.012MASS J11301450+0735180 b
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K2-18b は、地球 からしし座 の方向に約124光年 離れた位置にある赤色矮星 K2-18 の周囲を公転 している太陽系外惑星 である。ハビタブルゾーン 内に位置する太陽系外惑星としては、史上初めて大気 中から水蒸気 が検出されたことで知られている[ 9] [ 10] [ 12] [ 13] 。2023年 には、地球上では生命由来で特に生成されることが知られているジメチルスルフィド (硫化ジメチル)が大気中に存在している可能性があるとする研究結果が公表された[ 11] 。
発見
K2-18bは2015年 に、アメリカ航空宇宙局 (NASA)が太陽系外惑星探査のために打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡 の延長ミッション「K2ミッション」による観測で発見された[ 2] [ 13] 。K2ミッションも含めて、ケプラー宇宙望遠鏡は惑星が地球から見て主星の手前を通過 する際に生じるわずかな主星の減光を観測することで惑星を発見する、トランジット法 と呼ばれる観測方法で発見された。主星K2-18が太陽 よりも小規模で暗い赤色矮星 であるため、発見当初から大気を観測できる可能性があるとされていた[ 2] 。
2015年に発表された発見論文ではK2-18系までの距離は34 ± 4 パーセク (111 ± 13 光年 )とされていたが[ 2] 、後にガイア計画 による観測でK2-18系までの距離は38.025 ± 0.079 パーセク(124.0 ± 0.3 光年)に改められている[ 5] 。
特徴
大きさの比較
海王星
K2-18b
K2-18系の惑星の軌道とハビタブルゾーン の位置
高精度視線速度系外惑星探査装置 (HARPS)などを用いた観測では、K2-18bの質量 は地球の8.63倍、半径 は2.711倍で、地球と海王星 の中間の規模を持つ惑星とされている[ 5] 。表面の重力の強さは海王星(11.15 m/s2 )とほぼ同等である[ 5] 。主星K2-18からは約2100万 km離れた軌道を約33日で公転 しており[ 6] 、主星に近いためK2-18bは潮汐固定 を起こしており、常に片面を主星K2-18に向けていると考えられている[ 7] 。この軌道は水 が液体 の状態で存在出来るK2-18のハビタブルゾーン 内に位置していることが2017年に行われたスピッツァー宇宙望遠鏡 による観測で判明している[ 7] 。2018年にCloutierらは発表した研究論文では表面温度は、265 K (-8℃)とされており[ 5] 、他の研究でもいずれも同程度の温度となっている[ 2] [ 6] 。
大気の観測
先述の通り、2015年にK2-18bが発見された当初から主星K2-18の光度が小さいことから、地上の観測所と宇宙望遠鏡 の両方でK2-18bの大気は将来的に観測しやすいとされていた[ 2] 。その後2019年9月に、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン (UCL)とモントリオール大学 のそれぞれ別々の研究グループがほぼ同時期にK2-18bの大気中から水蒸気 の存在を示す痕跡が検出されたという研究結果を発表した[ 9] [ 12] 。前者のUCLのグループの研究論文は同年9月11日付で科学雑誌ネイチャー の姉妹誌であるネイチャーアストロノミー (英語版 ) に掲載され[ 9] [ 14] 、もう一方のモントリオール大学のグループの研究論文もarXiv に投稿されている[ 12] 。
K2-18bの大気はK2-18bが主星の手前を通過する際に、惑星の大気中を通過した光を分光 観測することでその大気中に水素 やヘリウム に加えて、水蒸気が存在していることが確かめられた[ 9] [ 10] [ 13] [ 14] 。分光観測にはどちらのグループもハッブル宇宙望遠鏡 の広視野カメラ3 による観測データが使用された[ 10] [ 13] [ 14] [ 15] [ 16] 。大気中から水蒸気が検出された事例はHD 209458 b [ 17] やWASP-12b [ 18] などが知られていたが、これらはいずれも恒星から至近距離を公転する木星 規模の大きな惑星であった。しかしK2-18bの大気から水蒸気が検出されたことにより、K2-18bは「ハビタブルゾーン内を公転する惑星としては」初めて大気から水蒸気が検出された惑星 となった[ 10] [ 13] [ 14] [ 15] 。UCLの分析ではこの観測結果が事実である確率は99.97%と算出されている[ 9] 。大気中における詳細な水蒸気の割合は分かっていないが、UCLの研究グループはその割合は20 - 50%に及ぶとしているが、別のケースでは0.1 - 12.5%になると示している[ 9] 。大気中に水蒸気が含まれていることから、モントリオール大学側の研究グループを率いている Björn Benneke は地球上と同じように雨 や雲 を介した小さな水循環 が起きているかもしれないと述べている[ 13] 。
史上初めてハビタブルゾーン内を公転する惑星の大気から水蒸気が検出されたことから、K2-18bは大きな注目を集めた。しかし、一部の報道やNASAの発表ではK2-18bは地球よりも数倍大きな質量を持つ岩石惑星スーパー・アース や地球型惑星 と報じられているが[ 10] [ 15] [ 19] [ 20] 、京都大学 が運用している太陽系外惑星データベース「Extrasolar Planet's Catalogue」ではK2-18bは「サブ・ネプチューン(sub-Neptune)」と呼ばれる海王星よりも小型のガス惑星 に分類されている[ 1] [ 14] 。液体の水から成る海 を保有するには地球のようなはっきりとした岩石から成る硬い表面が存在している必要があるが、実際にK2-18bほどの規模を持つ惑星がそのようなはっきりとした表面を持つか、あるいは海王星のように分厚い大気を抱えるガス惑星なのかを判断するのは困難とされる[ 13] 。中にはK2-18bを「ハビタブル惑星(Habitable planet)」と報じているものもあるが[ 19] 、ハビタブル惑星とは「生命が生存可能で、水が液体として存在できる適度な温度と気圧を持つ地球型惑星」とされているため[ 21] 、現時点ではK2-18bをハビタブル惑星と断定することはできない。はっきりとした表面を持つかどうかが不明瞭で、さらに主星がフレア などの強い放射線 を放出する恒星活動が活発な赤色矮星で、強い放射線の影響を受けている可能性が高く[ 15] 、仮にはっきりとした表面や液体の水が存在していたとしても地球とは大きく環境が異なるとされており、K2-18bでの地球上で考えられるような生命の存在は困難になるという懸念もある[ 20] 。UCL側の研究グループを率いている Angelos Tsiaras はK2-18bは「第2の地球ではない」「当初から地球のような惑星ではなかった」と述べている[ 13] [ 14] 。
とはいえ、ハビタブルゾーン内にある太陽系外惑星の大気から水蒸気が検出されたことは非常に大きな発見であり、惑星がどのようにして形成されたのかを調べる手がかりになり得るとされている[ 20] 。K2-18bは2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 や2028年打ち上げ予定のARIEL の理想的な観測対象になると両方の研究グループは述べており、これらの望遠鏡のどちらも太陽系外惑星の大気組成を調べることができる機器を搭載している[ 16] 。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測で得られたK2-18bの分光スペクトル 。縦軸がK2-18bの大気で吸収された主星からの光の割合、横軸は波長 の長さを指している。
2023年 9月、アメリカ航空宇宙局 (NASA) はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によるK2-18bの大気の分光 観測から、K2-18bの大気中にメタン と二酸化炭素 が含まれており、さらにジメチルスルフィド (DMS、硫化ジメチルとも)も存在している可能性があると発表した[ 11] [ 22] 。このジメチルスルフィドは、地球上では生物由来でしか生成されないことが知られている有機硫黄化合物 であり、地球の大気中に含まれるジメチルスルフィドの大部分は海洋環境の植物プランクトン から放出されているため、ジメチルスルフィドは潜在的なバイオシグネチャー となる可能性がある[ 11] [ 22] 。しかし、この分析結果は完全に確定したものではなく、今後も検証を行う必要があるとされている[ 22] 。研究を行ったグループを率いるケンブリッジ大学 の Nikku Madhusudhan は、2020年 に金星 の大気から有機化合物 であるホスフィン が検出されたと報告されるもその後に疑義を呈する研究が発表されたことを受け、今回の分析結果を裏付けるには更なるデータが必要だろうと慎重な態度を見せている[ 23] 。研究チームは今後もジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されている観測機器を用いて追加の観測を行うとしている[ 22] 。
また、メタンと二酸化炭素が大気中から検出され、アンモニア が検出されなかった点が、K2-18bが水素が豊富な分厚い大気を持つもその下に水 で出来た海洋 が広がっているハイセアン惑星 であるとする仮説を支持する結果になったとも報告された[ 11] [ 22] 。
脚注
注釈
出典
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関連項目
外部リンク
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