『究竟一乗宝性論』(くきょういちじょうほうしょうろん、梵: Ratnagotra-vibhāga-mahāyānottaratantra-śāstra, ラトナゴートラ・ヴィバーガ・マハーヤーノーッタラタントラ・シャーストラ)とは、インド大乗仏教の中で如来蔵思想を組織的に説いた論書である。『宝性論』(ほうしょうろん)と略称される。
原名の「ラトナゴートラ」(ratnagotra)は「宝石の鉱山、鉱石」[1](宝性=仏性)、「ヴィバーガ」(vibhāga)は「分別・分析」、「マハーヤーノーッタラタントラ」(マハーヤーナ・ウッタラ・タントラ、mahāyāna-uttara-tantra)は「大乗の優れた(究極の)教説」、「シャーストラ」(śāstra)は「論」であり、総じて「宝性の分別を通じた大乗の究極の教えについての論」、漢字要約すると『宝性分別大乗究竟要義論』となる。
著者は原典に記載はないが、中国では、智顗が作者を「堅意」とし、円測と香象大師法蔵が「堅慧」(梵: Sāramati、娑囉末底)と伝えている[2]。チベットでは韻文を弥勒、散文の註釈を無著の作とする[2]。
チベットでは略称を『ウッタラタントラ』Uttaratantra (Rgyud bla-ma)という。漢訳年代、および内容から判断して、成立は4世紀末-5世紀初と考えられる。 漢語訳をサンスクリットに還元すると『Uttara-ekayāna-ratnagotra-śāstra』となる[3]。
サンスクリット本によると全体は5章に分かれている。
漢訳は第1章相当部分を7品にひらき、併せて11品とする。
第1章は序論としての7種金剛句(教化品第1)、三宝への帰依(仏、法、僧宝品第2-4)の説明を含む。7種金剛句とは仏法僧の三宝と、如来性、菩提、仏功徳、仏業の7をいい、このうち後4は如来性の4種の見地を示すものとして、それぞれ第1-第4章の題名を形成している。
ここで如来性とは、仏性、すなわち仏たるべき性質のことで、それが因となって三宝を生み出すので、宝性(ratnagotra)といわれる。この如来性が衆生のうちにあって煩悩にまとわれているとき、これを如来蔵(tathāgatagarbha)と呼ぶが、論はこれを10種の観点(自性、因、果、業〈はたらき〉、相応、行〈あらわれ〉、時差別、遍一切処、不変、無差別)および3種の意義(法身、真如、性)によって述べ(一切衆生有如来蔵品第5)、9種の譬喩によって説明する(無量煩悩所纒品第6)
第2章は、同じ如来性が離垢清浄となった状態すなわち菩提の説明で、これを仏の法身の全現という意味で、転依と称する(身転清浄成菩提品第8)。そして、転依によって仏の徳性(如来功徳品第9)と慈悲の働き(仏業品第10)がのこりなく顕現するというのが第3、4章の主題である。
第5章(校量信功徳品)は、本論の無上性を強調し、末尾には阿弥陀仏への帰依がみられる。
なお、論述作の目的に関して、第1章の末尾(為何義説品第7)に、『般若経』の空説を批判し、この『宝性論』では仏性の有を説くのであると述べている。本書には、『華厳経』の<性起品>『智光明荘厳経』『如来蔵経』『勝鬘経』『不増不滅経』『大乗涅槃経』や『大集経』の諸品(<陀羅尼自在王品><無尽意菩薩品><宝女品><海慧菩薩品><虚空蔵菩薩品><宝髻菩薩品>等)が引用され、インドにおける如来蔵説の発展を知るための好資料を提供している。また『大乗荘厳経論』『大乗阿毘達磨経』の引用をはじめとし、論述の端々に唯識説との深い関係が看取される。
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