『大乗荘厳経論』(だいじょうしょうごんきょうろん、梵: Mahāyāna-sūtra-alaṃkāra, マハーヤーナ・スートラ・アランカーラ)は、瑜伽行唯識学派の開祖、弥勒の5部論のなかの1論である。
原名は、「マハーヤーナ」(mahāyāna)が「大乗」、「スートラ」(sūtra)が「経」、「アランカーラ」(alaṃkāra)が「荘厳(装飾)」、総じて「大乗経の荘厳」という意味である。
漢訳の『大乗荘厳経論』は13巻。無著(asaṅga、5世紀頃)造と伝えられるが、偈頌(韻文)の部分は弥勒(maitreya、4世紀後半頃)の作であり、無著が授かって世に弘め、長行(散文)の部分は、偈頌に対する註釈として、世親(vasubandhu、5世紀ごろ)が兄無着の教えをうけて著わしたものと認められる。
大乗経は最上の法であり最もすぐれた衆生救済の教えであることを強調するとともに、その大乗経にもとづく菩薩の実践的思想を諸方面にわたって組織的に述べたものであるが、その叙述を荘厳(alaṃkāra)と称する。これはサンスクリット文学における文体の一種であるが、ここでは大乗経の本義を開示顕揚する、という意味に用いられる。
縁起品・成宗品・帰依品・種性品・発心品・二利品・真実品・神通品・成熟品・菩提品・明信品・述求品・弘法品・随修品・教授品・業伴品・度摂品・供養品・親近品・梵住品・覚分品・功徳品・行住品・敬仏品の24品より成るが、サンスクリット本は、21品(章)に分かれている。
この内容は大乗の広範にして深遠な思想を豊かに包含したもので一義的に特徴づけられないが、教義理論の面でいえば、大乗非仏説の非難に応えて大乗仏説を論証している点(成宗品)、智慧の完成たる菩提を仏の本質(仏身)として、法界と衆生の一如、一切衆生悉有仏性、如来蔵大我を説く点(菩提品)、唯識とは虚妄分別にもとづく2取(主観・客観の2元)の顕現であり、それは迷乱で実体なきものであるゆえ有無不二・迷悟不二であると説く点(述求品)などは重要である。
本論の品名は『瑜伽師地論』菩薩地の品目の名称と一致するが、これはたぶん菩薩地にもとづいて本論が述作されたことを示すものとみられている。しかし同じ主題を論じても両者は趣きを異にし、本論のほうが菩薩地より簡潔ながら発達した思想を含むごとくであり、大乗の特色をいっそう鮮明に打出している。とくに『瑜伽師地論』にはあらわれていない如来蔵思想の影響を顕著にとどめていることを注目すべきである。
サンスクリット原典はシルヴァン・レヴィ(Sylvain Lévi)によってネパールで発見され、1907年その校訂本を出版し、つづいて1911年フランス語訳を発表した[1]。また長尾雅人はレヴィ出版本にもとづいてサンスクリット・チベット語訳・漢訳対照の索引を発表した[2]。本論に対するインド人の註釈としては無性(asvabhāva、6世紀前半ごろ)の註および安慧(sthiramati、6世紀ごろ)の註があり、チベット大蔵経の中に収められている。
漢訳に関する註釈は、慧浄(578-645)の疏があったと伝えられるのみである。
心王 - 心所 - 煩悩 - 末那識 - 阿頼耶識 - 種子 - 薫習 - 三類境 - 一水四見 - 遍計所執性 - 依他起性 - 円成実性 - 転識得智
弥勒 - 無著 - 世親 - 徳慧 - 安慧 - 親勝 - 歡喜 - 淨月 - 火辨 - 勝友 - 勝子 - 智月 - 陳那 - 無性 - 護法 - 戒賢 - 法称 - 寂護 - 蓮華戒
真諦 - 玄奘 - 基 - 慧沼 - 智周
道昭 - 智通 - 智鳳 - 行基 - 義淵 - 玄昉 - 徳一 - 真興 - 貞慶 - 良遍 - 光胤
華厳経 - 解深密経 - 大乗阿毘達磨経
瑜伽師地論 - 摂大乗論 - 唯識三十頌 - 唯識二十論 - 成唯識論 - 述記 - 了義燈 - 演秘 - 同学鈔 - 観心覚夢鈔
瑜伽行唯識学派 - 無相唯識派 - 有相唯識派
法相宗: 興福寺 - 薬師寺、北法相宗: 清水寺、聖徳宗: 法隆寺
上座部仏教・部派仏教
パーリ律
サーマンニャパラ経(沙門果経), マハーパリニッバーナ経(大般涅槃経)など
ダンマパダ(法句経), スッタニパータ, テーラガーター, テーリーガーター, ジャータカ, ミリンダ王の問いなど
各種の論
摩訶僧祇律 · 増一阿含経
十誦律 · 中阿含経 · 雑阿含経 · 六足論 · 発智論(前1世紀)・婆沙論(2世紀)・倶舎論(4世紀)・順正理論(5世紀) (根本説一切有部 根本説一切有部律)
五分律
四分律 · 長阿含経
成実論(4世紀)
清浄道論(5世紀)・アビダンマッタサンガハ(11世紀)
大乗仏教
般若経[>理趣経](前1世紀-1世紀)[>般若心経]
維摩経(1世紀)
法華経[>観音経](1世紀) --- 「法華三部経」
華厳経[>十地経](2世紀)
無量寿経 · 観無量寿経 · 阿弥陀経 --- 「浄土三部経」
ブッダチャリタ(2世紀)
中論 · 百論 · 十二門論 · 大智度論 · 十住毘婆沙論(3世紀)
如来蔵経(3世紀)
勝鬘経(3世紀)
大宝積経
大般涅槃経
大集経
金光明経(4世紀)
仁王経(4世紀)
楞伽経(4世紀)
解深密経(4世紀)
大乗阿毘達磨経(4世紀)
瑜伽師地論 · 大乗荘厳経論 · 宝性論 · 摂大乗論 · 唯識三十頌(4世紀)・因明正理門論 · 集量論 · 成唯識論(6世紀)
弥勒大成仏経(成仏経) · 弥勒下生経(下生経) · 観弥勒菩薩上生兜率天経(上生経) (4世紀-5世紀) --- 「弥勒三部経」
薬師瑠璃光如来本願功徳経(5世紀)
地蔵菩薩本願経(5世紀)
蘇悉地羯羅経(蘇悉地経) · 大毘盧遮那成仏神変加持経(大日経・毘盧遮那経)・金剛頂経[>理趣経](7世紀) --- 「大日三部経」(「真言三部経」)
幻化網タントラ · 秘密集会タントラ(8世紀)・呼金剛タントラ · 勝楽タントラ(9世紀)・時輪タントラ(11世紀)
三蔵・一切経・大蔵経
パーリ語仏典(ティピタカ)
サンスクリット仏典
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