深層、すなわち海洋の水深1,000 m 以深の領域では、主にマリンスノーなどの形で表層から沈降してきた有機物が、バクテリアその他の働きにより分解され、リンや窒素などの無機化合物として大量に蓄積している。一方、太陽光の届く水深200 m 以浅の表層、特に外洋で無機物は、植物プランクトンにより栄養塩としてすぐに使い果たされてしまい、常に枯渇状態にある。外洋の透き通るような美しいコバルトブルーは、珪藻などの大型の植物プランクトンが少なく、ピコプランクトンが卓越している証拠であり、物質は微生物環内で表層水の中を循環している。深層水と表層水は互いに混じり合うことがないので、植物プランクトンは普通、深海に存在する大量の栄養塩を利用することはできない。
アメリカ西海岸のモントレー湾では沖合に切り立った海底渓谷があり、そこを深層水が這い上がってくるため、世界有数の湧昇域になっている。ここに群生する海藻のジャイアントケルプは長さ60 m、1日で最大30 cm 以上も成長するという。この巨大なケルプの海中林を支えているのが、湧昇によって運ばれてくる栄養塩である。そしてケルプの林は他の様々な生物を育むゆりかごにもなっている。ケルプの根元ではウニなどのケルプを食べる生物がおり、小魚はケルプの間に身を隠し栄養塩により増殖したプランクトンを食べて成長する。それらを追ってイルカやシャチなどさらに大型の捕食者も集まる。海面ではラッコが潮に流されないように、ケルプに絡まって休息をとる。このようにモントレーの海洋生態系は実に多くの生物によって成り立っている。
赤道には赤道潜流(クロムウェル海流)という、西から東へ向かう深海の流れがあり、これが海底火山などにぶつかると湧昇を起こす。この最も顕著な例がガラパゴス諸島西岸である。ガラパゴス諸島は、エクアドルの沖合約1,000 km の赤道直下に位置する火山島の集まりであるが、このクロムウェル海流がもたらす栄養塩により、西側の海域は生物が豊富である。海中だけでなく、海上でもペンギンや海鳥が餌を求めて飛来し、営巣を行ったりする。しかし、エル・ニーニョによってクロムウェル海流の勢いが弱まるため、毎年のように頻発するとガラパゴスの生態系に深刻な影響を与えることが懸念されている。