もっとも極端な剰余環の例は、環 R の極端なイデアル(つまり、{0} および R 自身)で割ることで得られる。剰余環 R/{0} は R に自然同型であり、剰余環 R/R は自明な環 {0} に自然同型である。これは、簡単に言うと「より小さなイデアル I で割ったほうが剰余環 R/I はより大きくなる」という一般的な法則に、適合している。I が R の真のイデアル(つまり I ≠ R)ならば R/I が自明な環になることはない。
代数多様体の座標環は代数幾何学における剰余環の重要な例である。簡単な場合として、実代数多様体 V = {(x,y) | x2 = y3} を実平面 R2 の部分集合とみる。V 上で定義される実数値多項式函数の全体が成す環は剰余環 R[X,Y]/(X2 − Y3) に同一視されて、これを V の座標環とみなす。これにより代数多様体 V を調べることが、この座標環を調べることに帰着される。
M が C∞-多様体で p が M の元とするとき、M 上定義された C∞-級函数全体の成す環 R = C∞(M) と、そのような函数 f のうちで点 p の適当な近傍U で(U は f ごとに異なってもよい)恒等的に消えているようなもの全体からなるイデアル I を考えると、剰余環 R/I は点 p における M 上のC∞-級函数の芽全体の成す環となる。
F を超実数体 *R の有限な元からなる環とする。これは標準実数とは無限小の寄与の分だけ異なる超実数全体からなる。言い換えれば、F は標準整数 n を十分大きく取れば −n < x < n とできるような超実数 x 全体からなる。また集合 I を *R の無限小の全体に 0 を合わせて得られるものとすると、これは F のイデアルとなり、剰余環 F/I は標準実数体 R に同型となる。この同型は F の各元 x に x の標準部分(x に無限に近い標準実数)st(x) を対応させることによって導かれる。実は、環 F を有限超準有理数(超準整数の比)の全体が成す環としても同じやり方で同じく R を得ることができる。
より具体的に書けば、R の両側イデアル I と環準同型 f: R → S で ker(f) が I を含むものが与えられたとき、環準同型 g: R/I → S で gπ = f を満たすようなものがただひとつ存在する。すなわち写像 g が R の任意の元 a に対して g([a]) = f(a) とおくことによって矛盾無く定まる。実際、このような普遍性を持つものとして、剰余環および自然な射影を「定義」することもできる。
上記の帰結として、
任意の環準同型 f: R → S は剰余環 R/ker(f) と像 im(f) の間の環同型を誘導する(準同型定理を参照)
という基本的な主張を得る。
環 R のイデアルと剰余環 R/I のイデアルの間には密接な関係がある(対応定理)。すなわち、自然な射影を考えることにより、R の I を含む両側イデアルと R/I の両側イデアルとの間に一対一対応がつく(「両側イデアル」を「左イデアル」や「右イデアル」にいっせいに取り替えても同じことが成り立つ)。このイデアルの間の対応関係は対応する剰余環の間の対応関係に拡張することができる。すなわち、M を I を含む R の両側イデアルとし、これに対応する R/I のイデアルを M/I(= π(M)) と書けば、写像
F. Kasch (1978) Moduln und Ringe, translated by DAR Wallace (1982) Modules and Rings, Academic Press, page 33.
Neal H. McCoy (1948) Rings and Ideals, §13 Residue class rings, page 61, Carus Mathematical Monographs #8, Mathematical Association of America.
Joseph Rotman (1998), Galois Theory (2nd edition), Springer, pp. 21–3, ISBN0-387-98541-7
B.L. van der Waerden (1970) Algebra, translated by Fred Blum and John R Schulenberger, Frederick Ungar Publishing, New York. See Chapter 3.5, "Ideals. Residue Class Rings", pages 47 to 51.