ヘレーンあるいはヘッレーン(古希: Ἕλλην, Héllēn)は、ギリシア神話の人物である。デウカリオーンとピュラーの息子で[1]、古代ギリシア人の名祖とされる[1]。古代ギリシア人は自分たちをヘレーンの一族(ヘレーネス)と自称した。
長母音を省略してヘレン、ヘッレンとも表記される。
概説
系譜
プロメーテウスの子デウカリオーンは、エピメーテウスとパンドーラーの娘であるピュラーを妻とし[2]、そのあいだに最初に生まれたのがヘレーンである。しかし別の説では、ヘレーンはゼウスの息子であるともされる[2]。また更に別の説では、彼はプロメーテウスの息子ともされ[3]、デウカリオーンの兄弟とされる[4] 。それは「青銅の時代」を終焉させた大洪水の後のことで、人間の種族が地上で再び栄え、「英雄時代」が始まった頃である。
アッティカ王(アテーナイ王)アムピクテュオーンとプロートゲネイア(「最初に生まれた女」の意)はヘレーンの弟と妹とされる[2]。
子孫
ヘレーンは、ペーネイオス河とアイソーポス河のあいだにあるテッサリアー地方のプティーアーの王と見なされていた。彼の王位は息子アイオロスによって継承された[5]。
ヘレーンは山のニュンペーであるオルセーイスを妻とし、そのあいだにドーロス、クスートス、アイオロスの兄弟が生まれた[1]。ヘレーンは息子たちにギリシアの土地を分けて与え、彼らはそれぞれの土地を支配した。クスートスはペロポネーソスの地を得、ドーロスはコリントス湾をはさんだペロポネーソス半島の対岸の地域を得た[注釈 1]。一方、アイオロスはテッサリアー地方とその周辺の土地を得た。ドーロスはドーリア人の祖とされ、またアイオロスはアイオリス人の祖とされる[6]。
他方、クスートスはエレクテウスの娘クレウーサより二人の息子アカイオスとイオーンを得、二人はそれぞれアカイア人とイオーニア人の祖とされた[6]。ヘレーンの子孫たち(ヘレーネス、ヘレーンたち)は古代ギリシアの諸部族の名祖とされ、ヘレーン自身はギリシア人の祖とされたが、実際は事態は逆で、古代ギリシア人の名祖としてヘレーンという人物が創作されたとも言うべきである[4] [7]。
系図
脚注
注釈
脚注
- ^ a b c アポロドーロス、1巻7-2 - 7-3。
- ^ a b c アポロドーロス、1巻7-2。
- ^ Grimal, p.190。
- ^ a b 呉茂一『ギリシア神話』、p.42。
- ^ a b ストラボン、8巻7-1。
- ^ a b アポロドーロス、1巻7-3。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』、p.258。
参考文献