ニアス語 (ニアスご、Nias)はオーストロネシア語族 に属する言語である。話者は主にインドネシア のニアス島 とバトゥ諸島 に居住する。分類としてはメンタワイ語 やバタク語 と同じNorthwest Sumatra-Northern Barrier Islands諸語に属する[ 1] [ 2] 。話者数は2000年時点で約770,000人である[ 1] 。方言 として北部方言、中央方言、南部方言の3つがあり[ 3] 、グヌンシトリ (英語版 ) 方言は北部方言にあたる[ 1] 。
歴史
1865年 にライン伝道協会 (英語版 ) のデニンガー牧師 (E. Ludwig Denninger)がニアスの地に降り立って以来、言語学的に価値のある書物の多くはドイツ語 によって記述が行われた[ 2] 。その中でも最も重要な文法書 は1913年 に出版された同協会の宣教師 ズンダーマン (ドイツ語版 ) によるものである[ 4] 。
音韻論
音素
ニアス語南部方言の音素 の一覧を以下に示す[ 5] 。
音節
ニアス語の音節 は極めて単純な開音節 構造であると言える。語末は必ず母音となり[ 10] 、子音で終わる場合はない上に子音連結 や長母音 も一切存在しない[ 7] 。なお母音で始まる語は実際には語頭が声門閉鎖音 [ʔ] で発音される場合が多い[ 7] 。
強勢
僅かな例外を除き、最後から二番目の音節に強勢 が置かれる[ 5] [ 11] 。この際、語に接続した接尾辞 は音節の一部として数えられる一方、接頭辞 は音節の一部とは見做されない[ 5] 。
文法
名詞 と動詞 は存在するが形容詞 は無く、動詞が代わりに置かれる[ 12] 。
語頭音の交替
ニアス語の名詞や、動詞句を一時的な行為者を表す名詞句に変える機能を持つsi 〈…している者〉は特定の文法的な条件下で以下の様な語頭音の交替 を起こす[ 13] 。この現象は「外連声 」とも呼ばれる[ 8] 。
語頭音の変化
基本形
変化形
f
v
t
d
s
z
c
k
g
b
mb
d
ndr
母音
n + 母音g + 母音
語頭音の変化が起こるのは以下の場合である[ 13] 。
自動詞 の主語 または他動詞 の目的語 となる、つまり絶対格 となる場合[ 14] 。
所有者(ズンダーマンの用語では「従位」(status constructus (de ) ))となる場合[ 15] 。
例: salawa mb anua (< b anua 〈村〉) - 村長
前置詞 の目的語となる場合。
母音が語頭音の場合n-かg-が付加されるが、どちらがつくかは語によって決まっている[ 13] 。多義語であるöri はn öri となれば〈複数の村を集合的に捉えた単位〉、g öri となれば〈腕輪〉や〈お守り〉の意味しか表さないようになる[ 13] 。
語順
ニアス語の基本的な文の語順 はバタク・トバ語 やマダガスカル語 と同様のVOS型 であり[ 16] 、名詞句は基本的に「名詞-関係節 」[ 17] 、「名詞-指示代名詞」の順番となる[ 18] [ 19] 。また「被所有者-所有者」の順となる[ 20] 。
脚注
^ a b c Lewis et al. (2015).
^ a b Hammarström et al. (2016).
^ Brown (1997).
^ Brown (2005:562).
^ a b c Brown (2005:564).
^ 北部方言には存在しない(Brown 2005:563)。
^ a b c Brown (2005:563).
^ a b 柴田(1989:1527)。
^ 柴田(1989:1527); Brown (2005:563). 南部方言の[dʒ] に相当する。
^ ダナンジャヤ&クンチャラニングラット(1985:64)。
^ Dryer & Haspelmath (2013).
^ Brown (2005:566).
^ a b c d Brown (2005:567).
^ Brown (1997:398–399).
^ 柴田(1989:1528–1529)。
^ Dryer (2013a).
^ Dryer (2013d).
^ Dryer (2013c).
^ Brown (1997:397).
^ Dryer (2013b).
参考文献
Brown, Lea (1997). "Nominal Mutation in Nias ." In Odé, Cecilia & Wim Stokhof Proceedings of the Seventh International Conference on Austronesian Linguistics , pp. 395-414. Amsterdam: Rodopi. ISBN 90-420-0253-0
Brown, Lea (2005). "Nias." In Adelaar, Alexander & Nikolaus P. Himmelmann (eds.) The Austronesian Languages of Asia and Madagascar , pp. 562–589. Abingdon: Routledge. ISBN 0-7007-1286-0
J. ダナンジャヤ (id ) 、クンチャラニングラット (英語版 ) 共同執筆「スマトラ西海岸沿いの島々とその社会および文化――ニアス、マンタウェイを中心として――」 クンチャラニングラット 編、加藤剛 、土屋健治 、白石隆 訳『インドネシアの諸民族と文化』めこん、1985年。
Dryer, Matthew S. (2013a) "Feature 81A: Order of Subject, Object and Verb ". In: Dryer, Matthew S.; Haspelmath, Martin, eds. The World Atlas of Language Structures Online . Leipzig: Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology. http://wals.info/
Dryer, Matthew S. (2013b) "Feature 86A: Order of Genitive and Noun ". In: Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.), op. cit. .
Dryer, Matthew S. (2013c) "Feature 88A: Order of Demonstrative and Noun ". In: Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.), op. cit. .
Dryer, Matthew S. (2013d) "Feature 90A: Order of Relative Clause and Noun ". In: Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.), op. cit. .
Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Nias” . Glottolog 2.7 . Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/nias1242
"Nias ." In Lewis, M. Paul; Simons, Gary F.; Fennig, Charles D., eds. (2015). Ethnologue: Languages of the World (18th ed.). Dallas, Texas: SIL International.
柴田紀男「ニアス語」 亀井孝 、河野六郎 、千野栄一 編『言語学大辞典 』第2巻、三省堂、1989年、1526-1530頁。ISBN 4-385-15216-0
関連書籍
Sundermann, H. (1913). Niassische Sprachlehre . The Hague: M. Nijhoff.
外部リンク
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