トランス=ユーラシア・ロジスティクス路線図。紫の北、緑の中央、赤の西ルートに大別される
トランス=ユーラシア・ロジスティクス (英語 :Trans-Eurasia Logistics または China Railway Express, CRE , CR Express [ 1] 繁体字中国語 : 中歐班列 , 簡体字中国語 : 中欧班列 ちゅうおうはんれつ)は、中華人民共和国 (中国)とヨーロッパ (欧州)を結びユーラシア大陸 を横断する貨物列車 で、中国政府からは一帯一路 の中核と位置付けられている[ 2] 。ドイツ鉄道 とロシア鉄道 および中国国家鉄路集団 による合弁事業 。日本 などとの航空貨物 や海上コンテナ との積み換え分を含めた貨物を、中国とロシア 、モンゴル国 、カザフスタン を経由してドイツ など西欧諸国との間で鉄道輸送 する[ 2] 。
2008年 10月6日 にテスト運行された貨物列車は富士通・シーメンス のコンピューターを積載し、中国の湘潭市 からドイツのハンブルク まで17日掛け到着している[ 3] 。2011年 3月19日 に正式な営業を開始し、重慶市 から欧州行きの貨物列車が出発している[ 4] 。複合一貫輸送 を行うプロバイダ としてドイツのポルツーク(Polzug)、コンビファケア 、ロシアのトランスコンテナ などもこの事業に参加している。
1990 年に開通した港 から港までの路線となる連雲港 - 阿拉山口 - ロッテルダム 経路は「チャイナ・ランド・ブリッジ (CLB )」「Trans-China Railway (CHR )」とも呼称され[ 5] 、ボストチヌイ港 からシベリア鉄道 を経由するモスクワ や欧州向け路線は「シベリア・ランド・ブリッジ (SLB )」と呼称される[ 6] 。また、2011年3月に開始された重慶 - デュースブルク 路線は渝新欧(号) と呼称される[ 7] 。
概要
ポーランド ・マワシェビチェの欧州ターミナルに積まれたコンテナ
アジア と欧州や中東 を結ぶシベリア・ランド・ブリッジの貨物輸送を目的として始まり[ 8] 、1980年代 、海運アライアンス が設立されたことで海運の運賃が高騰し、運賃が半分だったこともあり最盛期を迎えた[ 8] 。当時はソビエト連邦 下であり、軍事政策上、ロシア - 欧州間の運行スケジュールが公開されず輸送日数も不安定であった[ 8] 。1991年 のソビエト連邦の崩壊 によりロシア鉄道による一貫輸送体制も崩れ、輸送品質の低下や運賃の高騰もあり輸送の主軸は海上へと移行した[ 8] 。この状況を改善すべくロシア政府 は多額の国家予算を投入し運行管理のデジタル化やICタグ の導入によるトレーサビリティ の確立などを行い輸送安定度の向上と品質面での改善を行っている[ 8] 。2008年、国際貨物ネットワークを目的にトランス=ユーラシア・ロジスティクスは設立され、2013年 9月7日 にカザフスタンのナザルバエフ大学 において中国共産党総書記 の習近平 が「一帯一路構想 」を提唱し、2017年 4月に北京 で「一帯一路国際協力フォーラム (BaRF)」が開催されており、このフォーラムの中で中国、ベラルーシ 、ドイツ、カザフスタン、モンゴル、ポーランド 、ロシアの鉄道部門が「中欧鉄道貨物協力の深化に関する協定」に署名したことで[ 9] 、トランス=ユーラシア・ロジスティクスは一帯一路の中核事業として位置付けられており、現代のシルクロード から「鉄のラクダ 」とも称される[ 4] 。
2019年 6月4日 にはロシア鉄道、ベラルーシ鉄道 、カザフスタン鉄道 の3者共同出資(各社共に33.3%)による「統一輸送物流会社-ユーラシア鉄道アライアンス(OTLK ERA)」が締結され経営の効率化と中欧班列コンテナ増強に向けた取り組みが開始されている[ 10] 。なお、この前身として「OTLK」が2014年11月にロシア鉄道主導 (99.8%) により設立されている[ 10] 。輸送実績は2015年に20フィート コンテナにして48,000本、2017年は175,800本、2018年は28万本にまで増加し、2019年第1四半期時点で前年同期比54%となる62,622本を記録した。内訳は東行きとなる欧州から中国向けが27,086本となり、中国から欧州向けの西行きが35,536本であった[ 10] 。
中国を出発したコンテナ列車はモンゴル縦貫鉄道 やシベリア鉄道域内を走行し、ベラルーシとポーランドを経由してドイツへと向かう。また、このルートは「ユーラシア・ランドブリッジ 」としても知られる。西行きの積み替え場として中国とカザフスタン国境となるドストゥク駅 での転換や[ 11] 、アルマトイ州 にあるアルティンコリ駅 に経済特区 として大規模なコンテナターミナル が完成しており[ 12] 、ここでトランスファークレーン などを用いて45分以内に中国の標準軌 から広軌 の貨車へコンテナの転換が行われている。ポーランドとベラルーシも軌間 が違うため、欧州ターミナルとしてベラルーシのブレスト中央駅 に併設されたブレスト貨物ターミナルや[ 11] 、2駅先となるポーランドのマワシェビチェ で再度貨車の転換が行われる[ 11] [ 13] [ 14] 。
トランス=ユーラシア・ロジスティクスは、世界最長距離を走る貨物列車であり、中国、カザフスタン、ロシア、ベラルーシ、ポーランド、ドイツ、フランス 、スペイン に跨る「義鳥 - マドリード鉄道線 」の運行も行っている[ 15] 。
運営
独オーバーハウゼン のアウトバーン 42 に架かる鉄道橋を通過中の列車
2008年 3月、ドイツ鉄道(40%)とロシア鉄道(30%)、トランスコンテナ(20%)、コンビファケア(10%)の出資比率で設立されたトランス=ユーラシア・ロジスティクスは「DBカーゴ・ユーラシア(DB Cargo Eurasia GmbH)」によって運営されており「トランスユーラシア・ロジスティクス (TransEurasia Logistics GmbH)」によって提供が行われている。コンテナ列車としてヨーロッパとアジア間のブロックトレイン [ 注釈 1] を徐々に構築し、関係する鉄道会社の調整役を担うことを主な目的としている。設立された当初、世界金融危機 の影響もあり当初計画されたルート全体での接続は行われておらず、ドイツとロシアまたはCIS諸国 間での交通網の発展が焦点であった。2010年 6月以降、ロジスティクス列車「Moscovite」号によるデュースブルクからモスクワまで7日行程の定期列車の運行を行っている。
料金は船便の倍となるが、輸送日数は海上で60日の掛かる所、列車は20日と1/3程であり、それまでの選択肢であった「安いが遅い船便と速いが高い航空便」の中間の選択肢として機能している[ 4] 。
紅海やスエズ運河の不安定化が起こると迂回ルートとしての重要性が増すため価格、輸送量とも高騰する事が多い。[ 17]
ヨーロッパ支社をデュースブルク、フランス、マドリード 、スイス 、ミラノ に抱える[ 18] 。
路線
主要路線は満州里 経由の北(東)ルート、エレンホト 、モンゴル経由の中央ルート、阿拉山口 、カザフスタン経由の西ルートに大別され、重慶、成都 発の西ルートが輸送全体の7割を占めている[ 19] 。2020年 5月時点で中国71都市[ 20] 、69の運行ルートを経てロシア、東欧、欧州の20か国90都市以上と結ばれている[ 21] 。
主要長距離国際貨物列車
発展
鄭州市 にある隴海線 の貨物駅 である圃田西駅 を出発するCRE。圃田西駅は中国でも最大級となる貨物ターミナルの一つである。
2011年の運行本数17本から始まり[ 11] 、毎年前年の倍となる運行本数を記録するなど順調に成長を遂げており、近年[いつ? ] の郵送実績は特に急増し[ 32] 、2018年には6,300本[ 11] 、2020年 は1万2,400本の運行本数を記録し、前年比56%増となる過去最高を記録している[ 33] [ 34] 。物量は20フィートコンテナ 換算で113万5000TEU に達し、往復路合計での積載率も98.3%となっており[ 33] 、都市別では成都と重慶からの貨車が5,000本と全体の4割を占め欧州向け防疫関連の輸出物資が顕著であった[ 33] 。新型コロナウイルス感染症 の影響により空運 と海運が停滞したことによる代替手段として利用された影響が背景にあると見られている[ 35] 。
雲南省 昆明 からラオス の首都ビエンチャン までの1,000キロの鉄道路線(中国ラオス鉄道 )が2021年 末に完成したが、中国ラオス鉄道のヴィエンチャン南駅 とターナレーン駅 を結ぶ連絡線は工事中である。この連絡線が完成することでコンテナの積み替えなどが可能となり、タイ やラオスの工業地帯と陸続きになり大きな変化が予想されており、既にベルギー にある欧州物流センター向けの出荷手段として利用している[ 36] 嘉陵ホンダ (重慶にある汎用エンジン の製造工場)では、ベトナムやタイ方面への利用をも検討している。
2018年 6月20日 、日新 が日欧間の新輸送ルートとして「日中欧Sea&Rail一貫輸送サービス」を開始している。横浜港 から連雲港市 まではコンテナ船で輸送され、ここから貨物列車により中国 - カザフスタンルートを経由しドイツ・ハンブルクまで27日間を掛け到着している[ 37] 。8月22日 には国土交通省 主導による日欧間の第三の輸送手段としての開拓が開始されており、東洋トランス 、日新、日本通運 、郵船ロジスティクス の4社が参加した日本からウラジオストク 経由、ベラルーシのブレスト やポーランドのマワシェビチェまでの試験運行と検証が行われた[ 38] [ 39] 。2020年 には一両借り上げとなるブロックトレインでの試験運行を同ルートで行い概ね良好な結果が得られている[ 40] 。
2020年12月4日、イスタンブールの欧州側にあるトルコ国鉄カズルチェシュメ駅を出発し、トルコ、ジョージア、アゼルバイジャン、カザフスタンを横断して中国の西安に42個のコンテナを輸送する貨物列車が運行された。5カ国を横断する総延長8,693キロの鉄道輸送は、 日本の大成建設によって建設されたボスポラス海底トンネルマルマライ を抜けて、トルコを横断し、バクー=トビリシ=カルス鉄道でコーカサスを横断、カスピ海横断国際輸送ルート(鉄道連絡船 [要出典 ] )を経て、ロシア を経由せず中央アジアから中国に抜ける。まさに歴史上の「シルクロード」をなぞったものとなった。[ 41]
2021年 3月3日 、デンマーク の大手海運 企業A.P. モラー・マースク によって日本初となる日本発の貨物のみで構成されたブロックトレインを横浜からイギリスのフィーリックストウ まで運行した[ 42] 。横浜港からボストチヌイ港 へはコンテナ船 で運搬され、ボストチヌイからサンクトペテルブルク までは貨物列車による輸送が行われ、そこから再度コンテナ船に積み替えられフィーリックストウ港に到着している[ 43] [ 44] 。
脚注
注釈
^ コンテナ専用列車の意味であり、一般的な貨車 とは異なり、同一コンテナによる同一仕向地(配送先)に輸送される形態を指すことからブロック(block: 閉塞)と呼ばれる。列車1編成(貸し切り)を専用ブロックトレイン、多数の荷主によって構成された車両を混載ブロックトレインと呼称する[ 16] 。
出典
参考文献
Tom Miller: China's Asian Dream: Empire Building along the New Silk Road . Zed Books, Februar 2017, ISBN (Paperback) 9781783609239.
NN: List of Container and Contrailer Trains of the Railways of the OSJD Member Countries (as of 13.10.2017) . In: Organisation für die Zusammenarbeit der Eisenbahnen Bulletin 6/2017, S. 61–78.
Die Branche setzt auf „schienesisch“ · Neue Seidenstraße: Bahnangebote zwischen Asien und Europa wachsen · Sie sind schnell, aber auch teuer . In: Sonderbeilage Container in Täglicher Hafenbericht vom 13. Oktober 2017, S. 7, DVV Media Group, Hamburg 2017, ISSN 2190-8753
関連項目
(2020年12月にはカスピ海を横断する鉄道連絡船 を経て、ロシアを経由せずヨーロッパから中国に抜けることが可能となった)
外部リンク