ダイナミックメディア(メタメディア)機能を備えた「本(ブック)」のようなデバイスという意味で、ケイが1972年に著わした「A Personal Computer for Children of All Ages」に登場する(なお、このときの表記は商品化を想定した「DynaBook」。後に一般名詞を意識してDynabookと改められる)。構想としては、1968年にマービン・ミンスキーのLOGOに関する研究成果を見た帰りの飛行機内で、よく知られる「ネットワークでつながったダイナブックを使い、二人の子どもが屋外で同じゲーム画面を見ながらそのプログラムを編集する様子」のイラストを描いたのが最初とされる。[1]
ダイナブックというと、小型で安価、直感的なUIを持ち、マルチメディアが扱えれば実現可能といった安易な解釈があるが、これらだけでは十分ではない。「A Personal Computer for Children of All Ages」における記述や、その暫定実装においてSmalltalkをオペレーティングシステム (OS) に据えていることからも明らかなように、そのシステムは、エンドユーザーが理解できるシンプルで均一なルール(メッセージング)と要素(オブジェクト)で構成され、このシステム自体をもユーザーが自由な発想で再定義できる柔軟性や可塑性を持ち合わせていることも肝要である。特に最後の条件を完全に満たすOSはまだない。
^Kay, Alan (1993). The Early Hstory of Smalltalk. ACM. https://worrydream.com/EarlyHistoryOfSmalltalk/. "この序文は35,000フィートの上空の飛行機の中で書いている。膝の上には5ポンドのノートブックコンピュータ——1992年の「暫定的なDynabook」——がある。この年の終わりまでには700ドル以下で販売された。このコンピュータには、平らでくっきりとした高解像度のビットマップスクリーン、重なり合うウィンドウ、アイコン、ポインティングデバイス、相当量のストレージと計算能力があり、最高のソフトウェアはオブジェクト指向である。高度なネットワーク機能が内蔵されており、すでにワイヤレスネットワークのオプションも用意されている。Smalltalkはこのシステム上で動作し、現在の子どもたちとの仕事で私が主に使用しているシステムの1つである。ある面(量的に)では、これはDynabookを超えるものであり、ある面(質的に)ではまだ完全ではない。全体として、1960年代後半に考えていたものとほぼ同じものである。"