センリョウ科 (センリョウか、学名 : Chloranthaceae ) は被子植物 の科 の1つである。本科のみでセンリョウ目 (センリョウもく、学名: Chloranthales ) を構成する。多年草 または常緑性 の木本 であり、葉 は対生 し、鋸歯をもつ (図1a)。花 は両性または単性、極めて単純でふつう花被 を欠く (図1b)。東アジア からポリネシア 、マダガスカル島 、中南米 に分布し、センリョウ 、ヒトリシズカ 、フタリシズカ など、4属 約75種 が知られている。被子植物における初期分岐群の1つであり、白亜紀 から化石記録が多い。
センリョウ は冬に美しい果実 をつけるため日本では庭木や正月の飾りなどに用いられ[ 6] (図1a)、またチャラン やフタリシズカ 、ヒトリシズカ 、Chloranthus sessilifolius なども観賞用に植栽される[ 7] [ 8] 。Hedyosmum mexicanum の果実は食用とされ、またセンリョウやヒトリシズカなどは生薬とされることがある[ 2] [ 9] 。
特徴
多年生 の草本 、または常緑性 低木 まれに高木 [ 10] [ 11] (下図2a, b)。一次維管束 は筒状、ときに道管 を欠く[ 11] [ 12] [ 13] 。道管が存在する場合、細く、散在し、道管要素の連結部は大きく斜めに傾き、階段穿孔 をもつ[ 11] 。師管 の色素体 はS-type[ 11] 。節は1または3葉隙 性[ 11] 、しばしば膨らむ[ 12] [ 14] 。葉 は対生 し、単葉 、葉縁 には鋸歯があり、葉柄 基部は葉鞘になって茎を囲むことがあり、また托葉 がある[ 10] [ 11] [ 12] [ 15] (図2b, c)。気孔 の形式は多様[ 12] 。精油細胞をもち、ときに粘液質の分泌道がある[ 11] [ 12] 。プロアントシアニジン 、フラボノール を欠く[ 11] 。
穂状花序 は頂生または腋生し、これがときに二叉または三叉分枝する[ 10] [ 11] [ 12] [ 14] (下図3a, b)。花 は両性 (センリョウ属、チャラン属 )、あるいは単性で雌雄同株 または雌雄異株 (ヘディオスマム属、アスカリナ属)[ 10] [ 11] [ 15] 。花は小さく (4 mm 以下)、左右相称、無柄、ふつう小さな苞 に腋生する[ 10] [ 11] [ 12] [ 15] (下図3a, b)。ヘディオスマム属の雌花は3枚の合着した花被片 をもつが、他は花被を欠く[ 16] (ただしこの"花被"は苞とされることもある[ 15] )。雄しべ は1–3個 (1個が分岐したものとされることもある[ 12] [ 16] )、雌しべ の子房 の背軸側につき、葯 は1–2室で縦裂する[ 10] [ 11] (下図3a, b)。小胞子形成は同時形[ 11] 。花粉 は2細胞性、球形、発芽孔は不明瞭または1個[ 10] 。雌しべは1個、嚢状心皮、子房 は1室、1個の直生胚珠が子房室上部の向軸側から下垂する[ 10] [ 11] [ 12] 。花柱 は短く先端は切形または線形[ 10] (下図3a, b)。珠皮は2枚、厚層珠心[ 15] 。果実 は核果 、卵形から球形、外果皮は肉質、内果皮は硬化し、1個の種子 を含む[ 10] [ 11] (下図3c)。種子は多量の内胚乳 (脂質 及びおそらくデンプン ) と小さな胚 を含む[ 10] [ 11] [ 12] [ 15] 。内胚乳形成は造壁型[ 11] 。染色体 数は基本的に 2n = 16, 28, 30[ 12] 。
センリョウ属 やチャラン属 は、小型の昆虫によって花粉媒介されると考えられており、雄しべが白色や黄色で目立ち、香りを発し、少なくともセンリョウ は蜜腺 をもつことが報告されている[ 12] [ 15] 。一方、ヘディオスマム属とアスカリナ属では花が地味であり、多量の花粉を放出し柱頭が大型であることから、風媒 であると考えられている[ 12] [ 15] 。また目立つ果実をもつ種では、鳥によって種子散布がされると推定されている[ 15] 。
分布
東アジア から南アジア 、東南アジア 、メラネシア 、ポリネシア および中南米 、マダガスカル島 に分布する[ 2] [ 12] 。
系統と分類
極めて単純で特異な花をもつことから、古くから独立の科として扱われていた。被子植物において単純な花が原始的であるとする仮説 (偽花説) では、センリョウ科は最も"原始的"なグループの1つであると考えられていた[ 17] 。また精油 細胞をもつ点ではモクレン目 など原始的と考えられていた木本植物と共通しており、このような特徴をもつセンリョウ科などの草本 (他にコショウ科 やウマノスズクサ科 など) は古草本類 (paleoherbs) とよばれていた[ 17] 。
新エングラー体系 やクロンキスト体系 では、同様に単純な花をもつコショウ科 などと共にコショウ目 に分類されていた[ 18] [ 19] [ 20] 。また独立のセンリョウ目とされることもあった[ 12] 。
その後、20世紀末以降の分子系統学的研究から、センリョウ科は被子植物 の初期分岐群の1つであることが示されている。ただしその系統的位置は明瞭ではなく、単子葉類 の姉妹群 、マツモ目 の姉妹群、ANA (アンボレラ目 +スイレン目 +アウストロバイレヤ目 ) を除く被子植物の姉妹群、などさまざまな解析結果が示されている[ 12] 。そのような中で、2020年現在ではセンリョウ科がモクレン類 (モクレン目 +クスノキ目 +カネラ目 +コショウ目 ) の姉妹群であるとする仮説が示されることが多い[ 12] (APG系統樹参照)。いずれにせよ明瞭にセンリョウ科に近縁なグループは見つかっておらず、センリョウ科はこれのみで独立の目 (センリョウ目) に分類されている[ 21] 。
化石記録は非常に古く、最初期の被子植物 の中で最も普遍的に見られる[ 12] 。センリョウ科に関係すると考えられている化石記録は、前期白亜紀 のバレミアン期 にさかのぼる[ 12] 。
センリョウ科には、4属 (ヘディオスマム属、アスカリナ属、センリョウ属 、チャラン属 )、約75種が知られている[ 2] [ 12] (下表1)。主に木本性で単性花をつけるヘディオスマム属とアスカリナ属、主に草本性で両性花をつけるセンリョウ属 とチャラン属 がそれぞれ系統群をなすと考えられていたが、分子系統解析からは図4のような系統関係が示唆されている[ 12] 。
ギャラリー
脚注
出典
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外部リンク
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