ズックマンは経済的不平等の研究に取り組み、ピケティとの共著論文「Capital is Back: Wealth-Income Ratios in Rich Countries 1700-2010」(2013年)を発表する。1970年から2010年における資本/所得比率の歴史的推移に関する研究であり、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスについては1700年までさかのぼって分析した[6]。この論文のデータは、ピケティの著書『21世紀の資本』(2014年)で理論的支柱になっている[注釈 1][8]。2018年には新たなプロジェクトとして『世界不平等レポート2018』の編集に参加した[9]。
タックス・ヘイヴン研究
著書『失われた国家の富』(2013年)ではタックス・ヘイヴンをテーマとして話題を呼び、各国で翻訳された[注釈 2]。この本の書名(La richesse cachée des nations、英語ではThe Hidden Wealth of Nations)は、アダム・スミスの『国富論(フランス語はLa richesse des nations、英語はThe Wealth of Nations)』を思わせるようになっている[10]。ズックマンはエマニュエル・サエズとの共著『つくられた格差』でもタックス・ヘイヴンと多国籍企業について指摘した[11]。
『失われた国家の富』出版後の2016年にパナマ文書、2017年にはパラダイス文書が公開され、タックス・ヘイヴンの存在を多くの人が知ることになった[25]。ズックマンはコペンハーゲン大学のThomas R. Tørsløv、Ludvig S. Wierとの共著論文「THE MISSING PROFITS OF NATIONS」(2018年)を発表し、多国籍企業とタックス・ヘイヴンの関係について分析した。それによれば、世界の多国籍企業の国外利益の40%がタックス・ヘイヴンで計上されている[注釈 5][27]。
アメリカにおける格差の研究
『失われた国家の富』でフランスの事例を中心に取り上げたズックマンは、その後アメリカの格差問題へと研究領域を拡げた。エマニュエル・サエズと共著論文「Wealth Inequality in the United States since 1913」(2014年)や「Distributional National Accounts: Methods and Estimates for the United States」(2016年)を発表し、サエズとの研究の成果は共著『つくられた格差』に結実した[28]。
ファクンド・アルヴァレド; ルカ・シャンセル; トマ・ピケティ ほか 編、徳永優子, 西村美由起 訳『世界不平等レポート2018』みすず書房、2018年。(原書 Rapport sur les inégalités mondiales 2018, Seuil, (2018))
ガブリエル・ズックマン 著、林昌宏 訳『失われた国家の富 - タックス・ヘイヴンの経済学』NTT出版、2015年。(原書 Zucman, Gabriel (2013), La richesse cachée des nations : enquête sur les paradis fiscaux, Seuil)
ガブリエル・ズックマン; エマニュエル・サエズ 著、山田美明 訳『つくられた格差 - 不公平税制が生んだ所得の不平等(Kindle版)』光文社、2020年。(原書 Zucman, Gabriel; Saez, Emmanuel (2019), Le Triomphe de l'injustice - Richesse, évasion fiscale et démocratie, Seuil)
トマ・ピケティ 著、山形浩生, 守岡桜 森本正史 訳『21世紀の資本』みすず書房、2014年。(原書 Piketty, Thomas (2013), Le Capital au XXIe sièclethe present)