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『ウォッチメン』(原題: Watchmen)は、DCコミックスより出版されたアメリカン・コミックス、グラフィックノベル。1986年から1987年にかけて全12巻のリミテッド・シリーズ(英語版)として出版され、1987年には全1巻にまとめられ単行本化された。作者は、ライターのアラン・ムーア、作画のデイブ・ギボンズ(英語版)、カラリストのジョン・ヒギンズ(英語版)。
日本では、1998年にメディアワークスより、石川裕人、秋友克也、沖恭一郎、海法紀光による訳書『WATCHMEN』が刊行された。その後、長らく絶版状態であったが、2009年2月28日に小学館集英社プロダクションより再刊された。
作者のアラン・ムーアは新たにスーパーヒーローを創造するにあたり、現代の不安を反映させてスーパーヒーローの概念を脱構築することを試みた。ムーアは主要人物を6通りの「反社会性」を表現するキャラクターとして創造し、そのいずれが最も道徳的に理解可能であるかの決定は読者に委ねている[1]。本作の主要登場人物は、1980年代初頭にDCがチャールトン・コミック(英語版)から権利を取得した一連のスーパーヒーローが原型となっている。なお、本作ではコスチュームを着て犯罪と戦う者を「スーパーヒーロー」と呼んでおり、多くのヒーローがいわゆる「超人的な能力」を持っていない。
本作はヒーローコミックであると同時に、スーパーヒーローが実在するアメリカの社会を想定した歴史改変SFでもある。1938年に初めてスーパーヒーローが姿を現したことで分岐点が発生し、作中では世界が彼らの存在により以下のような劇的な影響を受けていることが示される。
物語の開始時点では、1977年に「キーン条例」と呼ばれる法律が制定されてスーパーヒーローによる自警団活動が非合法となったことを背景に、スーパーヒーローという存在は既に警察や民間人から敵対されるようになっている。そのため、ヒーローの多くは引退しているが、「Dr.マンハッタン」と「コメディアン」とはアメリカ政府が認可したエージェントとして活動している。特にDr.マンハッタンの存在はアメリカにソビエトを上回る戦略的優位性を与えており、両国間の緊張を高めている。物語はコメディアンが何者かによって殺害される場面から始まる。
本作は12の章から構成され、第1章は矢印のような血痕が付着したスマイリーフェイスマークのバッジの極端なクローズアップから始まる。この血痕の形のイメージは物語を通じて何度も繰り返され、第2章以降は11時49分から始まり深夜0時0分に至る世界終末時計を彷彿とさせる黄色い時計の文字盤から始まる。各章のタイトルは章の終りで示される引用文からの抜粋であり、この引用文ではその章での出来事が暗示される。最終章を除く各章末には、キャラクターの背景設定や彼らによって世界が受けた影響を様々な側面から記述する架空の文書が含まれている。これらの作中内資料は引退したスーパーヒーローの自伝や新聞記事、雑誌のインタビュー記事、警察資料、精神科医の報告書などからの抜粋という形式をとっており、『ウォッチメン』の世界を知るのに有効であると共に世界観にリアリティを与えている。
タイトル及びテーマは、ユウェナリスの『風刺詩集(英語版)』第6篇「女性への警告」からの抜粋に由来する[2]。
noui consilia et ueteres quaecumque monetis amici, "pone seram, cohibe". sed quis custodiet ipsos custodes cauta est et ab illis incipit uxor — Iuvenalis、Saturae VI l.346-349[3]
"pone seram, cohibe". sed quis custodiet ipsos custodes cauta est et ab illis incipit uxor
I hear always the admonishment of my friends: "Bolt her in, and constrain her!" But who will watch the watchmen? The wife arranges accordingly, and begins with them — Juvenal、Satires 6 l.346-349[4]
"Bolt her in, and constrain her!" But who will watch the watchmen? The wife arranges accordingly, and begins with them
私は我が友の忠告を常に聞く。 「彼女に閂を掛け、拘束せよ!」 しかし、誰が見張りを見張るのか? 妻は手筈を整えて、彼らと事を始める — ユウェナリス、『風刺詩集(英語版)』 第6篇 l.346-349
「彼女に閂を掛け、拘束せよ!」 しかし、誰が見張りを見張るのか? 妻は手筈を整えて、彼らと事を始める
1985年、DCコミックスはチャールトン・コミックから一連のキャラクターの権利を取得した[5]。当時ムーアは、かつて1980年代初頭に『ミラクルマン』シリーズで行ったように、自らの手で改革可能なキャラクターを登場させたストーリーの執筆を考えていた。アーチー・コミックの前身MLJコミックのマイティ・クルセイダーシリーズがこの計画に使用できるかもしれないとムーアは考えており、星条旗をモチーフにしたコスチュームを身にまとった愛国ヒーローで、FBIの諜報員でもあるザ・シールドの死体が港湾で発見される事から始まる殺人ミステリーのプロットを温めていた。読者に見覚えのあるキャラクターを使うことで、「読者がこれらのキャラクター達にリアリティを感じ、大きな驚きと衝撃を受け」さえすれば、最終的に使用するキャラクター達は誰であろうと構わないとムーアは思っていた[6]。ムーアはこの着想を用いてチャールトンのキャラクターを登場させた企画書『Who Killed the Peacemaker』(『誰がピースメーカーを殺したか』)を作り上げ[7]、DCの編集長ディック・ジョルダーノにいきなり送り付けた[5]。ジョルダーノはこの企画を採用したが、チャールトンのキャラクターを使用するという案には反対した。ムーアは「金のかかったキャラクター達が、死んだり役立たずにされて終わってしまう事に、DCは気付いたんだ」と述べている。ジョルダーノはその代わりに、オリジナルキャラクターを使用して企画を作り直すようムーアを説得した[8]。最初のムーアはオリジナルのキャラクターでは読者の感動は引き起こせないと考えていたが、後に考えを改めた。ムーアは「結局、私が代用となるキャラクターを充分に描写すれば、彼らはある意味で見慣れた存在となり、彼らの外見はある種のスーパーヒーロー一般を思い起こさせる物となる事に気付いた。そして、それはうまくいった」と述べた[6]>。
過去の作品でムーアと組んだ経験のあるアーティストのデイブ・ギボンズは、ムーアがある読み切り作品の構想に取り組んでいる事を聞き付けた。自分も参加したいと述べたギボンズに、ムーアはストーリーの概略を送った[9]。ギボンズはジョルダーノにムーアが企画したシリーズの作画を手掛けたいと伝えた。ジョルダーノはギボンズにムーアの意向はどうかと尋ね、ギボンズがムーアも自分の作画を望んでいると答えた事で、ギボンズは参加することになった[10]。カラリストのジョン・ヒギンズの風変わりな作風を好んでいたギボンズは、ヒギンズをこの企画に誘い入れた。ヒギンズはギボンズの近所に住んでおり、2人は「(作画について)語り合ったり、海を越えて手紙を送りあうよりは親密な近所づきあいをしていた」[7]。ジョルダーノが監修者としての地位に留まる一方で、レン・ウェインが編集者として加わった。ウェインとジョルダーノの両者は企画から距離を置き、やがて企画を離れた。ジョルダーノは「そもそも、アラン・ムーアの校正ができる奴がいるかね?」と述べている[5]。
企画の許可を得たムーアとギボンズは、ギボンズの自宅でキャラクターの創造と、物語内の詳細な社会環境の構築、着想の元となるアイデアについての議論を行った[8]。2人が特に影響を受けたのは、『MAD』誌における『スーパーマン』のパロディ『スーパーデューパーマン』である。ムーアは「我々はスーパーデューパーマンの180度反対を目指した――喜劇的ではなく、劇的な」と語った[8]。ムーアとギボンズは、「全く新しい世界で生きる、懐かしいお馴染みのスーパーヒーロー達」の物語を考え出した[11]。ムーアの意図したのは「ある程度の重厚さと密度を備えた何か。言わば、スーパーヒーロー版『白鯨』だ」と述べた[1]。ムーアは登場人物の名前と説明を思い付いたが、その外見の詳細はギボンズに任せた。ギボンズは敢えてその場でキャラクターのデザインはせず、代わりに「手の空いた時にそれをやった。(中略)おそらくスケッチだけで2、3週間は掛かった」[7]。ギボンズは彼のキャラクター達を描き易いようにデザインした。ロールシャッハが一番お気に入りのキャラクターだったとギボンズは語っている。その理由について「描かねばならないのは帽子だけだ。帽子さえ描ければ君にもロールシャッハは描ける。後はただ顔の輪郭を描いて黒インクの染みを何滴か垂らせば、それでロールシャッハの出来上がりだ」と述べた[12]。
DCの読み切り作品『キャメロット3000』が原因で直面していた出版延期を避けようと、ムーアはすぐさま原作の執筆に着手した[13]。ムーアは第1話の原作を執筆していた時に「私は6話分のプロットしか考えていなかった。我々は12話の作品を契約していたというのに!」と述べた。ムーアが考えた解決策は、物語の本筋と登場人物の過去の出来事を、各話で交互に扱うという物であった[14]。ムーアはギボンズに対して非常に詳細な原作を執筆した。ギボンズは「『ウォッチメン』第1話の原作は、行間のぎっしり詰まったタイプ原稿で101ページはあったと思う。各コマの説明の間に空行はなくて、各ページの間にさえ空行がなかった」と回想している[15]。原作を受け取ると、ギボンズはすぐに原稿にページ数を書き込んだ。「もし床に原稿を落としたりしたら、正しい順番に並べなおすのに2日はかかるだろうからね」と語った。作中のセリフとキャプションや具体的な場面描写には、マーカーで印が付けられた。「マーカーで線を引く箇所を見極めるだけでも、ちょっとした一仕事だったよ」と語った[15]。ムーアは詳細な原作を渡していたが、各コマの説明はしばしば「これは君の作画には向かないかもしれない。一番上手くいくやり方でやってくれ」という注意書きで終わっていた。それにも関わらず、ギボンズはムーアの指示を忠実に実行した[16]。ギボンズは『ウォッチメン』世界の視覚化にあたって、ムーア自身も後になるまで気付かなかったような、背景の細かい描写を多数挿入した[1]。ムーアは調査中の疑問や各話に含まれる引用文について尋ねるため、時おり友人であるニール・ゲイマンと連絡を取った[14]。
その意思にも関わらず、1986年11月に、ムーアは制作の遅れを認めざるを得なくなった。第5話がニューススタンドに並んでいる時に、ムーアはまだ第9話の原作を書いていた[15]。ギボンズは制作の遅れの最大の原因は、彼がムーアの原稿を受け取る時の「細切れの受け取り方」だったと述べている。ギボンズによれば制作チームのペースは第4話あたりから遅れがちになり、これ以降、徐々にギボンズはムーアから、「一度に数ページ分の原作しか渡されなくなった。3ページ分の原作をアランから受け取って作画し、それが終わりかけると、アランに電話して言う。『エサをくれ!』するとアランが次の2〜3ページ分か、ひょっとしたら1ページ分、時によっては6ページ分の原作を送ってくる」[17]。締め切りが迫ると、ムーアはタクシーで50マイルを飛ばしてギボンズに原稿を届けた。後半の各話では、ギボンズは時間の節約のために妻と息子にワク線を引くのを手伝わせた[14]。オジマンディアスがロールシャッハの奇襲を防ぐ場面では、ギボンズがセリフを1ページに収め切れなかったため、ムーアはやむなくオジマンディアスによるナレーションを削った[18]。
制作が終りに近付いた頃に、ムーアはこの作品がテレビドラマ『アウター・リミッツ』の一エピソード「ゆがめられた世界統一」(原題:The Architects of Fear)に似通った物となりつつある事に気付いた[14]。ムーアとウェインは結末の変更について論争し、ムーアが勝利を収めたものの、最終話ではこのドラマが作中に登場するテレビの中で放送されているコマがあり、本作が影響を受けた事を、さりげなく認めている[16]。
1985年10月、ニューヨーク市警はエドワード・ブレイクという男が殺された事件を調査していた。警察は解決をあきらめたものの、条例に反して今もなおヒーロー活動を続けているロールシャッハ/ウォルター・コバックスはさらに調査を継続することにした。ロールシャッハはブレイクの正体が政府に所属するスーパーヒーロー・コメディアンだと知り、「この事件はヒーロー狩りである」という仮説を立て、引退した元相棒の二代目ナイトオウル/ダン・ドライバーグ、超人的な能力を持つが人間性を失いつつあるDr.マンハッタン/ジョン・オスターマンと彼の恋人である二代目シルクスペクター/ローリー・ジュスペクツィク、成功した実業家であるオジマンディアス/エイドリアン・ヴェイトらかつて「クライムバスターズ」として共に戦った仲間たちに警告を発するも、彼の警告を真に受ける者は少なかった。
コメディアンの葬儀後、テレビの討論番組に出演したDr.マンハッタンは、記者のダグ・ロスから自身の身体から発せられる放射線が友人や同僚の癌の原因となっていることを指摘される。Dr.マンハッタン自身もその指摘に困惑する中、アメリカ政府がこれを事実と認めてしまったことで、Dr.マンハッタンは地球を離れることを選び火星にテレポートする。Dr.マンハッタンはアメリカ最大の兵器でもあったため、彼の失踪を好機と見たソビエトはアフガニスタンに侵攻、世界情勢は悪化の一途を辿る。さらにオジマンディアスの暗殺未遂事件がおこり、ロールシャッハの懸念が現実味を帯び始める。ロールシャッハはかつてのスーパーヴィランであるモーロック・ザ・ミスティック/エドガー・ジャコビへ接触するなど秘密裏に調査を進めるが、自身も罠にかけられモーロック殺害容疑で投獄されてしまうのだった。
Dr.マンハッタンの失踪により政府の給料を受け取る事が出来なくなったシルクスペクターは、ナイトオウルの家に身を寄せる。成り行きで恋に落ちた2人はコスチュームを身につけて自警団活動を再開する。その中でロールシャッハの説を信じ始めていたナイトオウルはシルクスペクターを説得してロールシャッハの脱獄を手助けする。チームとして本格的にヒーロー活動を始めようとしていた3人だったが、火星の旅を経て自分の人生を振り返ったDr.マンハッタンが現れ、シルクスペクターに対して彼女が人類の運命を握っていると詰め寄り、彼女を伴って再び火星にテレポートする。2人の口論がやがて人間の価値についての議論に発展する中、コメディアンがシルクスペクターの母親であるサリー・ジュピター(初代シルクスペクター)に対するレイプ未遂事件を起こした数年後、合意の下で性行為を行ったこと、コメディアンはシルクスペクターの生物学的な父親であるという事実が明らかになる。人間の感情や人間関係の複雑さ、そして人間の誕生の奇跡性を反映したこの発見は、Dr.マンハッタンに人間への関心を再燃させ再び地球に戻ることを決意する。
地球に取り残されたナイトオウルとロールシャッハは調査を続け、Dr.マンハッタンの「犠牲」になった人物が全員、かつて「次元開発社」に勤めていたこと、殺し屋にオジマンディアス暗殺の依頼の仲介をしたのは「ピラミッド宅配会社」だという事を突き止める。これらの関係を調べ上げるためオジマンディアスの力を借りようとヴェイト社へ向かう2人だったが、そこには誰もいない。仕方なくヴェイト社のデータベースにアクセスすると、次元開発社とピラミッド宅配会社はいずれもヴェイト社の子会社であることが判明する。オジマンディアスこそが黒幕である可能性に辿り着いた2人は、南極にあるオジマンディアスの秘密基地「カルナック」の存在も暴き、真実を知るため南極へ向かう準備を進める。この時点でロールシャッハは、それまでの調査記録の全てをまとめた日記を地元の右翼系新聞『ニュー・フロンティアズマン』誌に郵送する。
ナイトオウルとロールシャッハは「カルナック」に到着し、遂にオジマンディアスと対峙する。2人の攻撃を難なく躱したオジマンディアスは自身の計画について語り始める。核戦争による世界の滅亡を憂いていたオジマンディアスは、「地球外からの侵略者」という人類にとっての共通の敵を作る事で敵対する国家同士を結びつけることを画策、自ら巨大なエイリアンを創造し「エイリアンの侵略によりニューヨーク市民の半分が殺された」と偽装するという計画を企てていたのだった。そして、その実現のために強大かつ予測不能なDr.マンハッタンを「放射線による癌」のうわさを流布させて排除し、ロールシャッハによる計画の妨害を警戒して、自らの暗殺未遂を偽装して「ヒーロー狩り」の誤った仮説を補強し、モーロック殺害の罪を着せて逮捕させた。コメディアンは彼の計画に近づき過ぎたため、オジマンディアスによって殺害されたのだった。真実を知り「ともかく、大惨事の前に阻止できて良かった」と安堵の表情を浮かべるナイトオウルに対し、オジマンディアスは「私は昔の漫画本の悪役ではないんだ。妨害される可能性が少しでもあるなら、計画を明かすと思うかね?」「35分前に実行したよ」と言い放つ。
Dr.マンハッタンとシルクスペクターが地球に戻ると、ニューヨークでは悪夢のような大惨事が起こっていた。人々が大量死し、街は崩壊、そして街の真ん中には遺伝子操作によって生み出されたクトゥルフのような巨大な怪物の死骸が横たわる。Dr.マンハッタンは自身の能力が制限されている事に気付き、南極から発せられるタキオンを辿って2人はテレポートする。オジマンディアスは南極に集まった一同に「宇宙から侵略の脅威に直面したアメリカとソビエトは戦争を中止し、共通の脅威に対抗するために電撃的な和解を行った」とのニュース放送を見せ、「やったぞ!」と歓喜の涙を流す。ほとんどの者が世界の平和を守るためにオジマンディアスの陰謀を国民から隠蔽することに同意したが、唯一ロールシャッハのみは「笑わせるな」「世界が滅んでも絶対に妥協はしない」と同意を拒絶する。ロールシャッハはDr.マンハッタンに止められるも「止めたいなら自分を殺すしかない」と言い放ち、Dr.マンハッタンは彼を気化させて殺害する。
オジマンディアスはDr.マンハッタンに「最後には私のしたことは正しかったんだよな?」と聞くが、Dr.マンハッタンは「最後など存在しない」と言い残し、新たに価値を見出した生命を創造するために永久に地球を去る。ナイトオウルとシルクスペクターは新たな身分を手に入れ、恋愛を続ける。
ニューヨークでは『ニュー・フロンティアズマン』誌の編集長が、新しい政治情勢のためソビエトに対する批判的な記事が書けず、記事に2ページ分の穴が空いてしまった事を嘆く。彼は助手に適当な記事を作るよう命令し、助手はクランク・ファイルから記事を見つくろい始める。編集者から「悲惨な人生の中で、せめて一度ぐらい責任を持って意味のある仕事をしてみろ!」と叱責された助手の手が山積みになったクランク・ファイルの頂上にあるロールシャッハの日誌に近づいて物語は終わる。
そして、最終ページでは12時を示した核戦争までの『残り時間』がゼロになった、あるいは核戦争の『可能性』がゼロになった世界終末時計が象徴的に描かれる。
1988年、第1回アイズナー賞にて「Best Writer」「Best Writer/Artist」「Best Finite Series/Limited Series」「Best Graphic Album」などの部門を受賞。同年のヒューゴー賞では、特別部門の「Other Forms」部門に選ばれた。コミック作品では唯一「グラフィックストーリー部門」以外の部門でヒューゴー賞を受賞している。また、2005年にはコミック作品でありながら『タイム』誌の「1923年以降に発表された長編小説ベスト100」に選出されている[32]。
本作は、フランク・ミラーの『バットマン: ダークナイト・リターンズ』やアート・スピーゲルマンの『マウス――アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』などと共に、アメリカン・コミックス史上における「モダン・エイジ」の代表的作品に数えられ、当時「コミック離れ」が進んでいた成人読者を再びこのジャンルに呼び戻した作品であると見なされている。
コミックやアニメーション作品に関するオンライン百科事典『Don Markstein's Toonopedia』を運営するドン・マークスタインは、本作の功績を「『マルタの鷹』が推理小説において行い、『シェーン』が西部劇において行ったことを、『ウォッチメン』はコミックで行った。ジャンル内外のすべての読者に対して豊かな読書体験を提供する読物として、本作以前にはフィクションの低級な形式と見なされていたコミックという出自を超越した。」と表現している[33]。
2009年にザック・スナイダー監督による映画『ウォッチメン』が全米では2009年3月6日、日本では3月28日に松竹・東急系で公開された。
2012年から2013年にかけて、本作の前日譚となるミニシリーズ『ビフォア・ウォッチメン(英語版)』全4巻が出版された。
2017年から2019年にかけて、正式な続編となる『ドゥームズデイ・クロック(英語版)』が全12巻が出版された。原作をジェフ・ジョーンズ、作画をゲイリー・フランクがつとめている。『ウォッチメン』の世界は、長らくDCユニバースとは無関係とされていたが、2016年に刊行された『DCユニバース:リバース』において、両者が地続きであることが示唆され、本作で初めてクロスオーバーし、バットマンやスーパーマンなどが登場する。
2019年には、ドラマ『ウォッチメン』がHBOで放送された(全9話)。コミック版の続編となっているが、『ドゥームズデイ・クロック』とは異なる独自の内容である。日本では2020年にスター・チャンネルで放送され、Amazonプライム・ビデオでも配信された[36]。
2017年7月にワーナー・ブラザースは、R指定となるアニメ映画の製作を発表した[37]。2024年6月13日、ティザー映像が公開され、作品が2部作になることが明かされた[38][39]。前編である "Watchmen: Chapter I" のリリース日は、デジタル版が2024年8月13日、Blu-rayおよび4K UHD版が8月27日とされた[40]。
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