『骨壺の風景』(こつつぼのふうけい)は、松本清張の短編小説。『新潮』1980年2月号に掲載され、同年10月、短編集『岸田劉生晩景』収録の一作として、新潮社より刊行された。
祖母カネは父峯太郎の貧窮のさいに死んだ。昭和のはじめ、大雪の日だった。墓はなく、骨壺が近所の寺に一時預けにされ、いまだにそのままになっている。このごろになって私は、小倉の寺に預け放しになっている祖母の骨壺が気になり出した。妙なことだが、「死人の村」の夢を見たせいでもある。骨壺の預け先が何という名の寺だったか思い出せない。
調査の末、あの寺が戦後の道路拡張で前の場所を逐われ現在は清水へ移っている大満寺であることを突き止め、過去帳には祖母カネの記載があった。祖母の骨壺はすでに寺で処分され、今は他の一時預りの遺骨といっしょに境内の石塔の下に埋納されてあるということだった。
骨壺が無ければ、せめて祖母の位牌を持って帰り、多磨墓地の両親といっしょに埋めたいと考えた。私はひとりで九州に降り立った。大満寺で位牌を貰い、祖母を焼いた清水の火葬場、私たちの家があった中島や紺屋町、続いて下関の旧壇ノ浦や田中町を再訪し、かつて父峯太郎、母タニ、祖母とで生活した過去を回想する。