荏原 畠山美術館 (えばら はたけやまびじゅつかん)は、東京都 港区 白金台2丁目にある美術館 。所蔵品は茶道具 を中心とした日本 ・東洋 の古美術品、国宝 6件を含む。実業家畠山一清 (号:即翁、1881 - 1971)が自らの収集品[ 2] [ 3] を公開するために開館した。運営主体は荏原製作所 傘下の公益財団法人 荏原畠山記念文化財団。
2019年 (平成31年)3月17日までの施設名は「畠山記念館 」(はたけやまきねんかん)。翌日18日から9月4日までの施設のリニューアル工事に伴いいったん施設を休館したのち、2024年 (令和 6年)9月5日より現在の施設名に名称変更し、同年10月5日より営業を再開した[ 4] [ 1] 。
概要
煙寺晩鐘図 伝・牧谿 筆
当館は港区と品川区 の境界付近に位置し、崖地の斜面に立つ本館の敷地は、城郭を思わせる石垣と白壁の塀に囲まれ、江戸時代に薩摩藩 主島津家 の別邸が置かれた。1669年(寛文9年)に江戸幕府 から島津家に下付されると、この地に隠居した島津重豪 は高低差のある邸内の景勝地を「亀岡十勝」と称し、1804年(文化元年)、諸侯文人が賦した七言律詩 を刻した「亀岡十勝の詩碑」を建立。この碑はそのまま伝えられ当館庭園に現存する。
畠山一清がこの土地を買い取ったのは1937年(昭和12年)であった。シンプルな外装の本館は畠山自らの設計になる。館内は土足禁止で来客はスリッパに履き替えて入館する。1階には平櫛田中 作の和服姿の畠山一清像があり、2階に展示室に当てて、障子を通した自然光のもとで作品を鑑賞できるように配慮されている。その一部に畳敷きの展示空間を設けて、床の間 に掛けた掛軸 を本来の目線で鑑賞することができる。隣に茶室「月庵」があり、蹲踞 や切支丹 灯籠 (織部灯篭)を配した露地 を備える。希望者には抹茶と菓子が供される(入館料とは別に茶券が必要[要出典 ] )。記念館には「明治天皇行幸所寺島邸記念碑」が建てられ、庭園に恩師の井口在屋 と並んで畠山の胸像が建っている。
畠山一清
当館の敷地内には本館のほか、新座敷と浄楽亭の建物、毘沙門堂に加えて沙那庵[ 5] 、翠庵、明月軒などの茶亭 を構える。このうちの翠庵、明月軒、沙那庵、浄楽亭、毘沙門堂の5棟は、2020年10月28日に東京都港区より有形文化財の指定を受けた(建造=物昭和の木造平屋建て建築)[ 6] 。
かつて隣地にあった料亭般若苑 は般若寺 (奈良)の客殿を移築し、三島由紀夫 の『宴のあと 』に登場する料亭のモデルとして知られる[ 注釈 1] 。
所蔵品は、茶道関係を中心とした約1300件。日本と東アジアの陶磁器、水墨画 、墨蹟 (禅僧の筆跡)、琳派 を中心とした日本絵画などである。畠山は幼時から宝生流 の謡(うたい)をたしなんでいたので、能面 、能装束などの能楽 関連品も多数所有している。茶道具は大名物、中興名物、雲州名物などの名物 や、大名家伝来の品々が多い。これらの蒐集は、畠山の抱いた能登畠山氏の末裔 という自負に由来する。特に畠山は松平不昧 を尊敬しており、「雲州蔵帳」記載の茶道具を30点所蔵している[ 13] [ 14] [ 15] 。展示は「春季展」「夏季展」のように季節ごとに入れ替えている。
開館の経緯
当館の敷地には明治維新 を経て、薩摩出身で後の参議・外務卿 となった寺島宗則 (旧名松木弘安、1832 - 1893)が屋敷を構えた[ 16] 。寺島邸時代に明治天皇 が行幸 し観能 を催したことから、1934年(昭和9年)に聖蹟[ 注釈 2] の指定を受けた。
株式会社荏原製作所 の創立者として知られる畠山一清は1881年(明治14年)、金沢 の生まれで、家系は能登 の守護大名畠山氏 の血筋を引くという。畠山は東京帝国大学 機械工学科を卒業後、1912年(大正元年)、荏原製作所の前身にあたる「ゐのくち式機械事務所」という会社を興した。これは大学の恩師井口在屋(1856 - 1923)の発明した井口式ポンプの販売会社であった[ 18] 。1920年(大正9年)にはポンプ販売の事業を発展させ、荏原製作所を設立した[ 18] [ 19] [ 20] 。
畠山は1960年(昭和35年)に畠山記念財団を設立して科学技術振興を支え、これを母体に1964年(昭和39年)に当館を設立し一般に公開[ 注釈 3] 。派手な宣伝をして客を呼ぶことは茶人の精神に反すると考え、開館記念展のポスターも作らず、所蔵品の図録も当初は作らなかったという[ 21] 。畠山は「即翁」と号し、茶人としても知られた。近代日本の美術コレクターには実業家で茶人であった者が多く[ 注釈 4] 、畠山はこの系譜の最後の世代に属する。コレクションには原三溪 旧蔵の茶道具がある[ 23] 。
正門
浄楽亭
沙那庵
「明治天皇行幸所寺島邸」の碑
畠山一清銅像(左)・井口在屋銅像
主な収蔵品
これまでの注目に値する展示は『美術手帖』に掲載がある[ 24] 。
指定文化財
藤原佐理筆書状(離洛帖)
林檎花図 南宋時代
躑躅図 尾形光琳筆
国宝
紙本墨画煙寺晩鐘図 伝牧谿筆 南宋時代
紙本墨画禅機図断簡(智常・李渤図) 因陀羅筆 元時代
絹本著色林檎花図 南宋時代
蝶螺鈿蒔絵手箱 鎌倉時代[ 25]
藤原佐理筆書状(離洛帖)平安時代 三蹟 の1人である藤原佐理 の真筆の書状として名高い。
大慧宗杲 墨蹟 尺牘 南宋時代[ 26]
重要文化財
※典拠:2000年(平成12年)までの指定物件については、『所有者別総合目録・名称総索引・統計資料』(毎日新聞社〈国宝・重要文化財大全 別巻〉、2000年)[ 27] による。それ以降の指定物件については個別に脚注を付した[ 26] 。
絵画
紙本著色法華経絵巻(ほけきょう えまき ざんけつ)1巻
[ 28]
絹本著色清滝権現像
紙本墨画竹林七賢図 六曲一双 雪村 筆
紙本淡彩山水図 横川景三 賛
紙本墨画山水図(南宋)
絹本著色豊臣秀吉像 慶長三年八月日賛
紙本金地銀泥四季草花図下絵和歌巻 書:本阿弥光悦 、下絵:俵屋宗達
絹本著色躑躅図 尾形光琳 筆
紙本墨画竹林山水図 「雑華室印」あり
古筆・典籍
墨蹟
日本の陶磁
古伊賀花生 からたち
粉引茶碗(三好)(こひきちゃわん(みよし))[ 26]
古備前火襷水指
志野芦絵水指 古岸
楽焼赤茶碗 雪峯 本阿弥光悦 作
中国・朝鮮 の陶磁
井戸茶碗(細川)
柿蔕茶碗(かきのへた ちゃわん)(毘沙門堂)[ 33]
金襴手六角瓢形花生 (きんらんで ろっかく ふすべがた)[ 34]
金襴手六角瓢形花生
染付龍濤文大瓶 明時代、景徳鎮窯
唐物肩衝茶入(からもの かたつき ちゃいれ)(油屋)
附:丹地雲文金襴袋、紺綾地花兎金襴袋、本能寺緞子袋(珠光好)、宗薫緞子袋、下妻緞子袋、太子間道袋、黒漆挽家、朱漆四方盆、象牙蓋4枚
檜扇紋散蒔絵手箱(ひおうぎもんちらし まきえ てばこ)[ 26]
割高台茶碗(わりこうだい ちゃわん) - 2017年度指定[ 35] [ 36] [ 37]
漆工
菊枝蒔絵手箱
金地蝶牡丹唐草蒔絵文庫(きんじ ちょうぼたんからくさ まきえ ぶんこ)1合[ 26]
蓬莱山蒔絵櫛箱
能衣装
重要美術品
実業家のコレクション
利用情報
住所:東京都港区白金台2丁目20番12号
交通手段:
開館時間:4月~9月は10:00-17:00、10月~3月は10:00-16:30
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し翌火曜日が休み)、展示替え期間、年末年始
入館料:月庵の利用は別途、茶券を購入。
主な出版物
発行年順。
脚注
注釈
出典
^ a b c d 『開館のお知らせ 』(プレスリリース)畠山記念館、2024年8月5日。オリジナル の2024年8月5日時点におけるアーカイブ。https://web.archive.org/web/20240805154412/https://www.ebara.co.jp/foundation/hatakeyama/notice/detail/1220701_10630.html 。2024年9月28日 閲覧 。
^ a b 畠山記念館 1999 , 「與衆愛玩」
^ a b 與衆愛玩 : 畠山即翁の美の世界」
^ 畠山記念館 2019 , 【再掲】休館のお知らせ(休館期間が変更になりました)
^ 畠山記念館 2019 , 2019年2月24日 冬季展関連イベント茶室公開(全3回)終了いたしました
^ CITEREF東京都港区(文化庁文化遺産オンライン)2024
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参考文献
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第1〔冊〕遣欧幕府使節(山田八郎、松木弘安〔後の寺島宗則〕
小山富士夫 編『金襴手名品集 第1-2輯』第1輯、芸艸堂、1966年。「第二図 重文 金襴手六角瓢形花生 H二八 W一五 糎 畠山記念館蔵」
竹内順一「畠山記念館 秋季展 THE TEA CEREMONYから(20)」『茶道の研究』第20巻第11号(通号240)、三徳庵[1966]-2020、<Z11-435>。
茶道の研究「畠山記念館 秋季展 THE TEA CEREMONYから(20)」『茶道の研究』第18巻6(通号211)、三徳庵[1966]-2020、<Z11-435>。
茶道の研究「口絵 蝶牡丹蒔絵手箱」『茶道の研究』第18巻6(通号211)、三徳庵[1966]-2020、<Z11-435>。
茶道の研究「表紙 重美尾形光琳筆 綸子小袖墨画白梅図/畠山記念館」『茶道の研究』第31巻2(通号636)、三徳庵[1966]-2020、<Z11-435>。
畠山記念館、日本経済新聞社『益田鈍翁 遺愛名品展 : 昭和58年春季』日本経済新聞社、1983年。 NCID BN05278553 。
畠山記念館『数寄者 益田鈍翁』畠山記念館、1998年。 NCID BA68028093 。
畠山記念館、Hatakeyama Sokuō『近代数寄者の交遊録 : 益田鈍翁・横井夜雨・畠山即翁』荏原畠山記念文化財団畠山記念館、2017年。 NCID BB24951540 。 別題『Companionship among sukisha in modern times : Masuda Don'o Yokoi Yau and Hatakeyama Sokuō』
文化庁 編 別巻《所有者別総合目録・名称総索引・統計資料》、毎日新聞社〈国宝・重要文化財大全〉、2000年。 ISBN 4620803332 。
“旧畠山一清邸 翠庵・明月軒・沙那庵・浄楽亭・毘沙門堂 ”. 文化遺産オンライン . 文化庁. 2024年10月25日 閲覧。
「茶碗」第3巻、平凡社、1966年、<751.3-Ty882>。
• 5 三島茶碗 銘 亭 畠山記念館 • 7 柿の蔕茶碗 銘 毘沙門堂 畠山記念館 • 28 ととや茶碗 銘 隼 畠山記念館 • 32 割高台茶碗 畠山記念館 • 37 御所丸茶碗 銘 堅田 畠山記念館 • 40 古伊羅保茶碗 畠山記念館 • 48 彫三島茶碗 畠山記念館
益田 孝、畠山記念館『数寄者益田鈍翁の遺風 : 平成3年秋季特別展』畠山記念館、1991年。 NCID BB01530893 。
佐藤秀明『三島由紀夫—人と文学』勉誠出版〈日本の作家100人〉、2006年2月。 ISBN 978-4585051848
水田至摩子(畠山記念館学芸課長)「三溪旧蔵の茶道具」『原三溪の美術 : 伝説の大コレクション』横浜美術館 企画・監修、求龍堂、2019年7月。<K16-M157>。
関連資料
発行年順。
外部リンク
座標 : 北緯35度37分56.3秒 東経139度43分36.8秒 / 北緯35.632306度 東経139.726889度 / 35.632306; 139.726889