ロウバイ (蠟梅、蝋梅、学名 : Chimonanthus praecox )は、ロウバイ科 ロウバイ属に分類される落葉 低木 の一種である。中国 原産であり、日本へは江戸時代 初期に導入された。花期は冬であり、甘い香りがする黄色い花を多数つける(図1)。萼片 と花弁 の区別がなく、多数の花被片 がらせん状につく。1つの花から多数の果実 ができるが、これが発達した花托 で包まれた偽果 を形成する。世界中の温帯 域で観賞用に栽培される。種子 はアルカロイドを含み有毒。つぼみなどを生薬とすることもある。
名称
和名 の「ロウバイ」の語源は、漢名 の「蠟梅」の音読みとされる[ 12] 。「蠟梅」の「蠟(蝋)」の由来については、半透明でにぶいツヤのある花被片 (花びら)が蝋 細工のようであるためとする説や、陰暦の12月にあたる朧月(ろうげつ)に開花するためとする説がある[ 12] [ 13] [ 14] 。また「梅」とあり、寒い時期に開花し、香りが強く、花柄が短く花が枝にまとまってつくという点でウメ に似ているが、ウメはバラ科 に属しており系統的には遠縁である。
学名 の属名 Chimonanthus は、「冬 (cheimon )」と「花 (anthos )」を意味するギリシャ語 に由来し、種小名 の praecox は、「早咲きの」を意味している[ 15] [ 14] 。
花に強い芳香があり、英語では「winter sweet/wintersweet」あるいは「Japanese allspice」と称される[ 4] [ 16] 。
特徴
落葉 低木 から小高木 であり、高さ 2–13 m になる[ 12] [ 3] [ 17] [ 18] (図2a)。樹皮 は淡灰褐色で皮目が縦に並び、生長とともに浅く割れたようになる[ 3] [ 18] (図2b)。小枝は灰褐色、無毛またはわずかに毛がある[ 17] 。冬芽 は枝に対生 し、葉芽 は卵形で長さ 2–3 mm 、花芽 はほぼ球形で長さ 4–6 mm、芽鱗は有毛[ 3] [ 18] [ 17] 。枝先には仮頂芽 (葉芽)が2個つく[ 3] [ 18] 。
葉 は対生する[ 18] (図3a)。葉柄 は長さ 3–18 mm 、有毛[ 17] 。葉身 は卵形から長楕円形、5–30 × 2–12 cm 、最大幅は基部よりから中央付近、紙質から半革質、ふつう全縁、基部はくさび形、先端は狭まり尖る[ 12] [ 17] [ 18] [ 19] [ 20] (図3)。表面(向軸面 )はやや光沢があり、ざらつく[ 18] [ 19] 。裏面(背軸面 )は淡色で毛が散生する[ 18] [ 19] 。葉脈は羽状(側脈は5–7対)、裏面に突出する[ 17] [ 18] [ 20] (図3)。
花期は10月から3月(日本ではふつう12–2月)、強い芳香がある直径 1.5–4 cmほどの黄色い花がやや下向きに咲く[ 12] [ 13] [ 17] [ 18] [ 19] (図4)。花柄は長さ 2–8 mm[ 17] 。花被片は多数(15–21枚)、0.5–2 × 0.5–1.5 cm、らせん状についている[ 17] [ 18] (図4)。光沢があり、基本的に黄色であるが、内側の花被片はふつう赤褐色[ 3] [ 17] [ 18] (図4)。雄しべ (雄蕊)は5–8個、長さ 2.5–4 mm、花糸 は幅広い[ 17] 。仮雄しべ (仮雄蕊)は2–15個、長さ 2–3 mm、軟毛がある[ 17] 。雌しべ (雌蕊)は5–15個、花柱 は子房 の約3倍の長さ、基部に軟毛がある[ 17] 。花の芳香は精油 によるものであり、成分としてはボルネオール 、リナロール 、カンファー 、ファルネソール 、シネオール などを含む[ 15] 。
果期は4–11月[ 17] (図5)。果実 は痩果 、褐色、楕円形から腎形、15-16.5 × 5-5.6 mm、ゴキブリの卵塊に似ている[ 12] [ 17] [ 18] (図5b)。花托 が発達して3-11個の痩果を包んで偽果 である集合果 を形成する[ 12] [ 17] [ 18] 。集合果は卵状楕円形、2-6 × 1-2.5 cm、やや木質、先端に多数の突起がある[ 17] [ 18] (図5)。染色体数は n = 22[ 17] 。
分布
自生地は中国 中部から南部とされ、山林に生育するが、古くから植栽されていたため真の自生地は必ずしも明らかではない[ 1] [ 17] 。日本へは、17世紀初め(江戸時代初期)に渡来したとされる[ 12] 。現在では、日本を含め世界中の温帯域で広く観賞用に植栽されている[ 17] [ 12] [ 18] 。
種内分類群
以下のような種内分類群があり、特にソシンロウバイはしばしば栽培されている。ただし、これらを分類学的には分けず[ 1] 、栽培品種 (変種 や品種 とは規約が異なる)として扱うことも多い[ 19] [ 21] 。
花がやや大きく、黄色味が強い[ 15] [ 24] [ 25] 。「檀香梅」ともよばれる[ 25] [ 注 1] 。「虎蹄」「喬種」などの栽培品種がある[要出典 ] 。
人との関わり
観賞用
冬季に香りのよい花をつけるため、庭 、庭園 、寺社 などに広く植栽されている[ 14] 。盆栽 や鉢植え として利用されることもある[ 14] 。生け花 や茶花 として利用されることもある[ 14] 。
栽培
半日陰から日向で生育可能である[ 21] 。土壌をあまり選ばないが、過湿には弱いため、水はけの良い場所が好ましい[ 21] 。冬に開花するため、寒風の当たらない場所がよい[ 21] 。春から秋の間は、土壌表面が乾いたら十分な水を与える[ 21] 。春と冬に緩効性化成肥料または有機質肥料を施肥する[ 21] 。未開花株には、9月上旬に半分量を追肥する[ 21] 。特に問題となる病虫害はない[ 21] 。
繁殖は、一部を除き挿し木 が一般的であるが、実生 からの育成も容易である[ 21] 。種まき 適期は9月であり、とりまきを行う[ 21] 。タネ(実際には果実)の3倍ほどの深さにまき、乾燥しないように水やりを行えば、春には発芽する[ 21] 。
毒性
有毒植物であり、種子 などにアルカロイド であるカリカンチン (フランス語版 ) を含む[ 28] 。中毒すると、ストリキニーネ 様の中毒症状を示す[ 15] 。カリカンチンの致死量 は、マウス で 44 mg/kg(静脈注射 )、ラット で 17 mg/kg(静脈注射)である[ 15] 。日本では、牧場のヒツジの中毒死と考えられる例が報告されている[ 29] 。
薬用
つぼみを乾燥させたものは生薬名として「蝋梅花(ろうばいか)」とよばれ、鎮咳や解熱鎮痛などに利用される[ 28] [ 30] 。花やつぼみから抽出された油は「蝋梅油(ろうばいゆ)」とよばれ、抗菌、抗炎作用があり、やけど などに使われ、また中国でよく知られた水虫 の薬である「華佗膏」にも配合される[ 12] [ 28] 。
文化
日本 においては、晩冬(小寒 〔1月6日頃〕から立春 の前日〔2月3日頃〕までの間)の季語 とされる[ 31] 。下記のように、俳句や短歌に詠まれることがある[ 15] 。
しらじらと 障子を透す 冬の日や 部屋に人なく 臘梅の花
ロウバイの花言葉は、「慈愛」とされる[ 15] [ 16] 。他に「先導」「先見」ともされる[ 16] 。
夏目漱石 や芥川龍之介 はロウバイを好んだとされ、ロウバイが登場する短編やエッセーを記している[ 16] 。
脚注
注釈
出典
外部リンク
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