ユリノキ (百合の木・百合木・百合の樹、学名 : Liriodendron tulipifera )は、モクレン科 ユリノキ属 に属する落葉高木 の1種である。高さ45メートルに達することもある大きな木であり、特徴的な形の葉をもつ(右図)。花期は晩春から初夏、オレンジ色の斑紋をもつ黄緑色の花が上向きに咲く(図1)。北米 東部原産であるが、日本を含む世界各地で植栽 されている。植物の学名の出発点であるリンネ の『植物の種 』(1753年 ) で記載された植物種の1つである[ 11] 。
名称
学名 の種小名 tulipifera は「チューリップ(のような花)をつける」の意味である。本種が日本に渡来した明治時代 にはチューリップ がまだポピュラーではなかったため、ギリシア語 由来の属名である Liriodendron (lirion ユリ + dendron 木)を「ユリノキ」と訳し、これが標準和名となった。
英名では tulip tree とよばれ、これに由来するチューリップツリーやチューリップノキ、ウッコンコウジュ(鬱金香樹; 鬱金香はチューリップの漢字名)との別名もある[ 4] [ 7] 。また花が蓮 の花を思わせることから、レンゲボク(蓮華木)ともよばれる[ 6] 。ユリノキは葉の形が特異であり、これに由来するハンテンボク(半纏木)、グンバイボク(軍配木)[ 7] 、ヤッコダコノキ(奴凧の木)[ 7] 、クラガタノキ(鞍形の木)[ 7] 、サドルツリー[ 7] との別名もある。
特徴
落葉広葉樹 の高木 であり、生長が早く、高さ20–30メートル (m)、胸高直径50–100センチメートル (cm) になり、原産地では高さ 45 - 60 m に達するとの報告もある[ 3] [ 14] [ 15] [ 16] [ 17] (図2a, b)。分枝が多く、自然に整った樹形になる。樹皮 は灰褐色から灰黒色で、細かく縦に深く裂ける[ 3] [ 16] (下図2c)。枝 の髄には隔膜がある[ 3] 。
葉 は互生 し、葉身 は長さ・幅ともに 6–18 cm、左右で1–3回浅裂し先端もややくぼむ非常に特徴的な形であり、裂片の先端は尖り、基部は切形、質は薄くてかたく、表面は光沢がある緑色で無毛、裏面は灰薄緑色で葉脈上に毛がある[ 3] [ 15] (下図3)。葉柄 は長く、3–18 cm[ 3] [ 15] (下図3)。秋には黄葉 して、黄色から黄褐色に変化し、落葉すると褐色になる[ 3] (下図3c)。
冬芽としては枝先に頂芽 がつき、枝に側芽 が互生する(下図4a)。冬芽は著しく偏平な形をした楕円形から長楕円形でアヒル のくちばし のような形をしており、無毛でやや緑色を帯びた灰褐色の芽鱗2枚に包まれている[ 3] (下図4a)。頂芽はよく発達して長さ 1–1.5 cmと大きく、葉柄が密着して残る。側芽はやや小さく長さ4–8ミリメートル (mm) である[ 3] (下図4a)。葉痕は円形で大きく、維管束 痕は約10個、托葉 痕は筋状で枝を一周する[ 3] (下図4a)。
花期は5–6月、枝先に直径 5–6 cm の碗状の花 が上向きに咲き、この花がチューリップ やユリ に例えられる[ 3] [ 14] [ 15] [ 4] (上図4b–d)。花被片 は9枚、外側の3枚は緑白色の萼片 状で反曲し、内側の6枚は花弁 状で黄緑色を帯び、基部にオレンジ色の斑紋があり、直立して碗状になる[ 3] [ 14] (上図4b–d)。雄しべ は線形、長さ 4–5 cm、花糸 は白色で短く、葯 は外向、30–50個が輪生し、順次脱落する[ 3] [ 14] [ 16] (上図4b, d)。雌しべ は60–100個、円錐形の花軸 についている[ 3] [ 14] [ 16] (上図4b, d)。花の匂いは強くないが、主成分はリモネン である[ 20] 。多量の蜜 を分泌する[ 20] 。
果実 は10 - 11月ごろに熟す[ 3] 。各雌しべ は翼果 となり、扁平で長楕円形、3-5.5 × 0.5-1 cm、1–2個の種子 を含む[ 3] [ 14] (下図5c, d)。多数の果実が果軸につき、松かさ状の集合果 を形成する[ 3] (下図5a, b)。モクレン科 としては珍しく果実は裂開せず、種子を含んだままそれぞれ回転しながら落下して風散布され、晩秋から初冬にかけて最外輪の果実だけが残ってコップ状になっていることが多い[ 3] [ 16] (下図5c)。染色体 数は 2n = 38(2倍体)または114(6倍体)[ 14] 。
分布・生態
6 . ユリノキの自然分布
北アメリカ 東部原産であり(図6)、丘陵地 や低山の森林に生育する[ 16] (下図7a, b)。また世界の温帯各地で広く植栽 されており[ 16] 、日本へは明治 初期に渡来したといわれている(下図7c, d)。植栽樹の一部から、野生化したものも見られる。
ユリノキは、トラフアゲハ (eastern tiger swallowtail 、Papilio glaucus )の幼虫 の食樹 の一つである[ 22] [ 23] 。また日本で植栽 されたユリノキがヨシブエナガキクイムシ(Platypus calamus )の食害にあったことが示唆されている[ 24] 。
人間との関わり
萌芽力旺盛で成長が早く、樹形がよいため、街路樹 や公園 樹として世界各地で植栽 されている[ 4] [ 16] [ 25] [ 26] (下図8a)。日本では街路樹として11万本以上が植えられており、特に関東、東北地域に多い[ 7] 。数の上では東京都内が最も多く、岩手県盛岡市 内も特に多いことで知られる。葉に斑 が入るものや、枝が横に広がらないものなどの品種 が作出されている[ 16] (下図8b)。また同属のシナノユリノキ (Liriodendron chinense )との雑種も利用されることがある[ 16] 。
東京国立博物館 本館前には、ユリノキの巨木がある[ 7] (上図8c)。またユリノキをモデルとした「ユリノキちゃん」が、東京国立博物館の公式キャラクターとされている[ 28] (上図8d)。ユリノキは明治時代 初期に日本 へ持ち込まれたが、東京国立博物館のユリノキはそのころのものであり[ 7] 、添えられた銘板に以下のように記されている。
明治8、9年頃渡来した30粒の種から育った一本の苗木から明治14年に現在地に植えられたといわれ、以来博物館の歴史を見守り続けている。東京国立博物館は「ユリノキの博物館」「ユリノキの館」などといわれる。
また、札幌市の北海道大学 植物園内にある高さ30 m、幹径1 mになるユリノキの大木は、明治時代 に初代園長の宮部金吾 が、留学先の米国ハーバード大学 アーノルド樹木園から種子を持ち帰り、育てられたものだといわれている。
9 . ユリノキの材
ユリノキの材 は比較的柔らかく狂いが少ないため、建築 、家具 、器具 などに利用される[ 4] [ 7] 。材はやや軽く、道管 が均質に散在した散孔材であり(図9)、木理が通直で肌目は緻密、辺材 は白く、心材 は淡黄褐色から淡緑褐色[ 7] 。ユリノキ原産地の先住民は、ユリノキの材をカヌー の材料としていた[ 16] 。
ユリノキは重要な蜜源植物 であり、大量の蜜 を分泌する[ 29] 。日本の東京都内においても、ビル屋上の養蜂 に貢献している。
ユリノキ原産地の先住民は、ユリノキの根 の樹皮 をさまざまな症状に対する薬に用いていた[ 16] [ 30] 。
ユリノキは、アメリカ合衆国 のインディアナ州 とテネシー州 の州の木に選定されている[ 16] 。
「ゆりの木の花」は初夏の季語 である[ 31] 。また花言葉 は「見事な美しさ」や「幸福」、「田園の幸福」、「早く私を幸福にして」であり[ 32] 、8月17日の誕生花 とされる[ 33] [ 34] 。
エドガー・アラン・ポー の『黄金虫 』(1843年)には、ユリノキが登場する[要出典 ] 。
ギャラリー
黄葉
葉と花
葉と花
葉と花
花
花
花
果実
品種'Integrifolium'
葉と花
脚注
出典
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^ “ユリノキとは?気になる花言葉や育て方をご紹介!時期ごとのコツは? ”. はなたま (2029年8月27日). 2022年2月19日 閲覧。
^ “ユリノキ(百合の木)の花言葉 ”. LOVEGREEN . 2022年3月5日 閲覧。
参考文献
関連項目
外部リンク
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