トイレットペーパー (英語 : toilet paper , toilet-paper )とは、用便の際に排泄 器官の汚れを清拭するために用いる紙 をいう[ * 1] 。
名称
日本語 においては、用便の際の清拭用の紙を「落とし紙 /落し紙 (おとしがみ )」[ 1] [ 2] と総称するが、この語がいつ頃から用いられてきたかは不明である。ただ、落とし紙という紙そのものは古くから用いられてきた。英語 由来の外来語 「トイレットペーパー (toilet paper , toilet-paper )」は、落とし紙の一種と見なすことができ、紙自体も語としても、近代 以降のいつ頃からか用いられるようになったものである(巻き取りタイプは明治 時代末期から)。
また、鼻紙/花紙(鼻水 を拭いたりするための紙)や落とし紙(落下式便所 などで使って下に捨てる紙)を始めとする多用途の低品質紙を「塵紙 /ちり紙 (ちりがみ、ちりし)」という[ 3] ので、塵紙品質の落とし紙をその名で呼ぶことがある。加えて、円筒 形の巻き取りタイプ(ロール紙タイプ)[ * 2] を「トイレットロール (和製英語 :toilet roll )」と呼ぶこともある[ * 3] [ * 4] 。ほかにも、総称的な語として「便所紙 (べんじょがみ)」があるものの、広く通用しているとは言えず、方言 としての用法に限られ、昔ながらの平判タイプを円筒形・巻き取りタイプと区別する際の呼称であることも多い。
同じ漢字 文化圏 でも中国語 では大きく異なり、排便時の清拭用紙を「簡体字 :卫生纸 (繁体字 :衞生紙 )」「手纸 (手紙 )」「厕纸 (厠紙 )」「纸巾 (紙巾 )」などといい (cf. wikt:zh:卫生纸 、wikt:en:衛生紙 )、円筒形・巻き取りタイプは「厕纸卷 (厠紙捲 )」という。
概説
巻き取り型、漂白パルプ製で、絵柄と香りを付けた製品の一例
円筒形・巻き取りタイプには、長尺紙を重ねるか否かで区別があり、重ねない一枚ものを「シングル巻き」、二枚を重ねるものを「ダブル巻き」といい、珍しいが三枚重ねの「トリプル巻き」もある。
紙の材料とその色は国・地域や時代によって大きな違いがあり、無漂白 のクラフトパルプ などを材とした茶色 がかった自然紙の色をしたもの、再生紙 であるために再生前の印刷 用インク や微細な不純物が影響して灰色 がかった白いもので巻紙所状態では白くても便器の溜水部に浸かると灰色や褐色がかった色になり、そして、漂白パルプ を材とした真っ白なものといい便器の溜水部に浸かっても真っ白であるものの、3種類に大別できる。漂白パルプを使った製品では、その白さを生かして淡色系の着色の施されたものもあり、ピンク 系・黄色 系・緑色 系・水色 系などといった様々な色の製品が販売されている。
絵柄と、法人 の名称やロゴタイプ を始めとする、それぞれに異なる目的をもって印刷された情報を紙面に施された製品も、数が多いとは言えないまでも、商品史の黎明期から (cf. J C Gayetty N Y ) 変わらず作られ続けている。絵柄には、インダストリアルデザイン に適うよう開発されたものもあれば、女性・子供など特定の消費者 層に合わせて開発・販売されるものもある。クイズ と解答、名言 集、ジョーク 集などといった濃厚な文字情報を載せた製品も、変わり種と呼べないほどに珍しいものではなくなっている。
使用感と清拭・吸収性の向上のためにエンボス 加工を施した製品もある。ティッシュペーパーなどの一般的に用いられる紙と違い、水で繊維が解けないようにするような樹脂加工などは行っていない。
芯については、従来どおりの芯紙 のある製品が一般的であるが、エコロジー の観点から芯紙を無くした製品も開発され、「芯が無い」という意味合いの「コアレス」などといった名称で流通している。芯紙のある製品の場合、材料はボール紙 と水解紙 があるものの、圧倒的多数は昔からあるうえに安価な前者である(■右列に画像あり)。ほかにも、芯紙に香料 で着香した製品もある。
下水道に流すか否か
トイレットペーパーには、下水道 に流すか否かという問題がある[ 4] [ 5] 。排水設備や管路の詰まりや堆積物などに深く関係して、インフラストラクチャー 上の都合と流通品の品質の如何で、国家・地域によって差異が極めて大きく、その地域で用いられているトイレットペーパーも、材料として使用した紙が水で解けやすい(紙は水で溶ける(飽和)ということはなく、繊維としてほどけるため残留する)かどうによっても変わる。
一つに、トイレットペーパーから便器清掃用の紙製品まで流してよい例、一つに、トイレットペーパーしか流せない例、今一つに、紙類一切を流せない(ごみ箱 に捨てる別の処分方法がある)例がある[ 6] 。国・地域別での具体例を挙げるなら、中華圏 (中国本土 〈香港 と澳門 を除く〉と台湾 )では、水洗式便所 にトイレットペーパーを流すのは非文明的・非常識な行為とされていて[ 4] [ 5] 、それ以前の社会全体が貧しかった時代から使っていた新聞紙 と同様、ごみ箱 に捨てるのが社会良識となっている[ 5] 。そのため、日本 のように正反対の行為が社会良識として浸透している文化圏 もあって、そういった地域を旅行する際には注意が必要であることを、現地メディアが紹介しているくらいである[ 5] 。一方で、中華圏の中のトイレ先進地域(先進的な都市部)では、「抽水馬桶(水洗式便所) に紙を流してはならない」旨の注意書きが、正反対の常識を持つ日本人 向けに用意されている例も、2010年代 後期には見られる[ 4] ようである。中国本土や台湾でトイレットペーパーなどを下水道に流してはならない理由は、なんと言っても下水道インフラが未発達で[ 4] 管路が細く詰まりやすい[ 5] ことにあり、しかし2つ目には紙質が“良すぎて”解けにくいも挙げている[ 5] ことがある[ * 5] 。
歴史
平らな裁断紙のトイレットペーパー/"Le Troubadour (ル・トゥルバドゥール )" という銘柄のパッケージに収められている、1960年代 のフランス 製品。
前史
普及以前は、富める人は、羊毛 、レース 、麻 を用い、その他は直接手を用いるか、木の葉、草 、干し草 、トウモロコシ の皮、苔 、水 、鉋 屑 (かんなくず )、石 、貝殻 、砂 、雪 、ぼろ布や、付近にヤツデ を植栽して葉を用いるなどしていた [疑問点 – ノート ] 。古代 エトルリア の便所(公共水洗便所 を含む)では、使い捨て にしない用具として天然のスポンジ である海綿 が使われており、この習慣は古代ローマ にも継承された。日本 では、使い捨てにしない用具として、貝殻や籌木 (しゃがんで排便する際に姿勢を維持するために用いる木片で、体などに便が付着した際は掻き落とすのにも用いる)が長いあいだ使われ続けた。
清拭用紙の登場
851年 に中国を旅したアラブ人 の旅行記に中国人が用を足したのちに紙で拭くことを記述しているが、水で洗わないことから、清潔を気にしない人種として記録されている[ 7] 。
帝政ロシア では、皇帝 専用紙に皇帝の印が家臣によってなされた。イングランド王 ヘンリー8世 の宮廷では、王族の用便後に素手で清拭する便所担当には特に信頼された廷臣が選ばれ、王と個別に相対する好機として影響力を期待し望む者も多かった。日本 でも、江戸時代 の大奥 に似たような慣習があり、大奥女中に拭わせるしきたりにどうしても馴染めない御台所 が自ら拭うということもあったという。
1857年 12月8日 には、アメリカ合衆国 の実業家 ジョセフ・ガイエティー (英語版 ) が[ 8] 、"J C Gayetty N Y (J・C・ガイエティー・ニューヨーク )" の名を透かし 印刷 で紙面に載せた巻き取り型のトイレットペーパーを[ 8] 痔 の医療 用製品として生産し始め[ 9] 、これがトイレットペーパーとして世界初の工業製品 であった[ 8] 。
日本 では、明治 中期頃より古紙 が原料の塵紙 とパルプ が原料の落とし紙や京花紙 などが主に用いられていた[要出典 ] 。また、明治時代末からは巻き取り型のトイレットペーパーも使われ始めたが、当時は舶来品 が占めていた[ 10] 。それでも、そういった変化は都市部での話で、農村 部では、大正 時代の頃まで木の葉や藁 のほか、古来の籌木 が用いられ続けていた[ 2] 。
日本で最も早い時期に巻き取り型のトイレットペーパーを発売した企業は、紙の博物館 によれば、記録の残る限りで、神戸市 内にあった貿易商の島村商会(嶋村商會)である[ 10] 。1924年 (大正13年)、島村商会は高知県 の工場に原紙の製造を依頼し、同商会がトイレットペーパーに仕上げた上で外国汽船などに納入していた[ 10] 。
上下水道整備の進捗に伴い、1955年 (昭和 30年)前後から便所の様式が「汲み取り式」から「水洗式」へ「和式便器」から「洋式便器」へ変化し、合わせて巻き取り型のトイレットペーパーの生産量も増加した。使用量は2008年から2011年で、日本人 一人あたり年間およそ8キログラム と推算[ 11] されるほど生活必需品で、非常時に備えて平時の備蓄 が望まれる。2020年に日本で流通する97%は日本産であり、原材料も日本で調達される自給率の高い製品である[ 12] 。
コンパクト化をめぐる争い
2020年 までに日本製紙クレシア は、紙の表面に独自の凹凸を付ける技術を開発したとして50件以上の特許 を取得。硬さを感じさせない柔らかさで、最大3.0倍の長さのトイレットペーパーを発売した。こうした流れに同業他社も追随したが、日本製紙クレシアは2022年 に大王製紙 が製造を始めた製品に、自社の特許技術が使われているとして製造差し止めなどを求めて提訴。2024年 8月、東京地方裁判所 は、紙の表面の凹凸の深さが特許発明が定める数値の範囲にないと判断。日本製紙クレシア側の請求を棄却した[ 13] [ 14] 。
設置
紙巻器
専用什器の紙巻器などで設置する。
2個横向きに並列配置した2連紙巻器は紙切れの不便解消[ 15] などに配慮した商品で、公共施設などで設置が見られる縦に2巻配する什器は使用済み芯紙を取り除いて新たな1巻を使用する。
三角折り
巻き始めの先端を三角形に折る事例は、日本では三角折り と俗称する者も見られ、アメリカの消防署で緊急出動受令時に用便中でも迅速な対応を目した「ファイヤーホールド」に由来[ * 6] するなど様々語られており、ホテル、劇場、店舗など公共の場所で散見[ * 7] される。
自動販売機
日本では、鉄道駅のトイレ入り口などを中心に自動販売機 が設置されている場合があるが減少傾向にある[ 17] 。
規格
巻き取り型のトイレットペーパーは、通常は便所個室内で専用什器に装着して使用するため規格化が必要であるが、国情によりロール径や幅が若干異なる。また、トイレ、排水設備、管路等の詰まりや堆積物等の問題を回避するために、ほぐれやすさ(分解性)まで規格化されている国・地域もある[ 6] 。
JIS
日本 では、紙パック などさまざまな再生パルプを多く用いて、およそ4割が静岡県 で製造され、「ティシュペーパー及びトイレットペーパー」として家庭用品品質表示法 の適用対象で雑貨工業品品質表示規程 [ 18] に、品質や寸法などは日本産業規格 (JIS)[ * 8] に定めがある。
市販品は、JIS規格で1ロールの長さが27.5、32.5、55、65、75、100メートル、許容差+3と公定されているが、量販品は60メートル巻きが多い。
また、紙の幅は114mmで誤差±2mm、芯の内径は38mmで誤差±1mm、ロール直径は120mm以下と決まっているが、コストダウンやエコのため105mmなどに幅を落としている商品がある[ 19] 。
公共用途の業務用は1巻あたり150から210、最大500メートルと高頻度需要に適応しているが、1巻重量は最大1 - 2キログラムで軸が鉛直方向の専用大型什器に装着する交換頻度低減を目する製品である。
また、日本では1993年 (平成5年)からJISにトイレットペーパーのほぐれやすさ試験(分解性試験)が付加された。
ISOでの規格化の動き
カナダ では、トイレクリーナーなどトイレに流せると表示された紙製品等によって、トイレ、排水設備、管路での詰まりや、堆積物、スクリーンかす、汚泥の処理費が増大した[ 6] 。そのため、2014年 1月、カナダは ISO/TC224(上下水道サービス運営規格検討委員会)に対して「トイレに流せる製品」 の規格化を提案した[ 6] 。
ドイツ は、水洗便所にトイレットペーパー以外を流してはならないとしており、ISOでの規格化に反対している[ 6] 。また、日本では、日本下水道協会が ISO原案のほぐれやすさ試験(分解性試験)の基準が JIS P 4501 より著しく緩くなっている点について問題を指摘している[ 6] 。
脚注
注釈
^ 他の辞典類での定義として、『大辞泉 』第2版では、うんこ用の紙。
^ 商品になった紙の形態には、平判 ( ひらばん ) と巻取り/巻き取り ( まきとり ) がある。ロール紙 ( ロールし ) は後者の一種で、巻き取りタイプのトイレットペーパーは、「トイレットペーパー・ロール」というのが最も正確な言い回しといえる。出典はコトバンク の「平判」「巻取り」
^ 辞典類では、通用語としては掲載未確認(2018年時点)。
^ 英語 (イギリス英語 )でもこの語はあるが、「トイレットペーパーの一巻き」を意味する。日本語「トイレットロール」に相当する英語としては "toilet-paper roll " がある。
^ もっとも、日本のものは紙質が悪いせいで解けやすいわけではなく、品質向上を追求した結果、速やかに解けて流れる商品が開発されてきたというのが事実であり、水解紙などは目下その最たるものである。
^ 1870年代 にはトイレットペーパーが普及していたアメリカの消防署 で、用便中の緊急出動受令時の迅速対応を目して考案された[ 16] 。
^ 日本では1900年代 半ばに帝国ホテル で「清掃は完了している」旨の従業員同士の伝達手段として用い始め、客室で紙巻器 上部の「清掃済み」ラベルと併せ見た利用客らが自宅などで用い、それら居宅の訪問客が帰宅後に模倣して拡散しているとする解釈も見られる[要出典 ] 。
^ 日本産業規格 (JIS P 4501)
出典
関連項目
外部リンク