チオテパ (英語 : Thiotepa 、N ,N′ ,N′′ -トリエチレンチオホスホルアミド )は、抗がん剤 の一種。
化学式SP(NC2 H4 )3 で表される有機リン化合物で[ 1] 、N ,N′ ,N′′ - トリエチレンホスホルアミド(TEPA)のアナログ である。分子構造は四面体で、リン酸塩 に似る。アジリジン と塩化チオホスホリル から造られる。エチレンイミノ基 を持ち、これが腫瘍細胞のDNAをアルキル化 することにより腫瘍の増殖を抑制する作用を表す。類似の作用機序を持つ物質に、ブスルファン やシクロホスファミド 、イホスファミド がある。
歴史と用途
チオテパはアメリカンシアナミド 社 (American Cyanamid ) が1950年代前半に開発し、1953年に発表した[ 2] 。広く使用されるようになったのは、1960年代に入ってからである。
イタリアのADIENNE Pharma & Biotech社の申請により、2007年1月29日に欧州医薬品庁 、2007年4月2日にアメリカ食品医薬品局 より、造血幹細胞移植 の前処理に用いる希少疾病用医薬品 の登録を受けた[ 3] 。
日本では1958年 に認可され、テスパミン(大日本住友製薬 )などの商品名で販売されたが、原薬メーカーの設備老朽化により2009年 に出荷を終了した[ 4] 。その後、「小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療」用の「リサイオ®点滴静注液100㎎」(大日本住友製薬)として2019年 に再認可[ 5] ・薬価記載[ 6] された。同社では、「悪性リンパ腫 における自家造血幹細胞移植の前治療」についても治験 (フェーズ1)を行ったうえで申請し、翌2020年 に製造販売承認事項一部変更承認という形で認められた[ 7] 。小児悪性固形腫瘍治療においてはメルファラン 、悪性リンパ腫治療においてはブスルファン と併用される。
チオテパは他の化学療法と組み合わせて使用される。
全身照射 の有無にかかわらず、成人および小児の血液疾患 患者における同種または自家造血幹細胞移植 (HPCT) の前処理
HPCTによる高用量化学療法が、成人および小児患者における固形腫瘍の治療のために適切であるとき[ 8]
チオテパは、多種の腫瘍 性疾患の緩和療法 に使用されている。
乳癌 、卵巣癌 、膀胱癌 などにおける漿膜 の空洞の拡散や胸水 を制御する[ 8] 。
チオテパはまた、膀胱癌における化学療法として使用される。用法の3つのパターンが識別される。
予防 - 膀胱鏡 を用いた生体組織診断 の際に腫瘍細胞の播種を防ぐために、採取前に使用。
生体組織診断時の補助。
治療 - 経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TURBT) の術後の再発防止。
4週間から6週間、膀胱内に毎週30 mgの用量で投与される。多くの研究では、成功率が55%と報告されている。
主な副作用は骨髄抑制 、血小板 ・白血球 減少および貧血 がある[ 9] 。血液、肝臓および呼吸器系を含む重篤な毒性は、前処置レジメンおよび移植プロセスによるものと考えられている。
効能・効果
化学的性質
CAS番号 は52-24-4。わずかな匂いのある白色の固体で、融点は52 ℃。マウスへの経口投与での半数致死量 (LD50) は46 mg/kgのデータがある。医療用のほか、昆虫不妊剤としての用途もある[ 10] 。国際がん研究機関 は、発癌性 リスクをグループ1 (ヒトに対する発癌性が認められる化学物質)と評価している。
脚注
^ Maanen, M. J.; Smeets, C. J.; Beijnen, J. H. (2000). “Chemistry, pharmacology and pharmacokinetics of N,N',N" -triethylenethiophosphoramide (ThioTEPA)”. Cancer Treatment Reviews 26 (4): 257–268. doi :10.1053/ctrv.2000.0170 . PMID 10913381 .
^ Sykes, M. P.; Karnofsky, D. A.; Philips, F. S.; Burchenal, J. H. (1953). “Clinical studies on triethylenephosphoramide and diethylenephosphoramide, compounds with nitrogen-mustard-like activity”. Cancer 6 (1): 142–148. doi :10.1002/1097-0142(195301)6:1<142::AID-CNCR2820060114>3.0.CO;2-W .
^ “EMA Grants Adienne Marketing Rights for Tepadina ”. dddmag.com . Drug Discovery & Development (19 March 2010). 25 November 2011 閲覧。
^ 『販売中止予定のご案内 』(pdf)(プレスリリース)大日本住友製薬、2008年11月。https://ds-pharma.jp/product/kaitei/pdf/hanbaityuusi/2008/tespamin_0811_tyuusi.pdf 。2013年5月31日 閲覧 。
^ 造血幹細胞移植前治療薬「リサイオ」の製造販売承認取得について 、大日本住友製薬、2019年3月26日配信
^ 造血幹細胞移植前治療薬「リサイオ」新発売のお知らせについて 、大日本住友製薬、2019年5月22日配信
^ 造血幹細胞移植前治療薬「リサイオ」の悪性リンパ腫における自家造血幹細胞移植の前治療の効能・効果を追加する一部変更承認取得について 、大日本住友製薬、2020年3月25日配信
^ a b “URGENT – THIOTEPA UPDATE ”. Food and Drug Administration . ADIENNE Pharma & Biotech (5 April 2011). 25 November 2011 閲覧。
^ Agnelli, G.; de Cunto, M.; Gresele, P.; del Favero, A. (1982). “Early onset life-threatening myelosuppression after low dose of intravesical thiotepa” (pdf). Postgraduate Medical Journal 58 (680): 380-381. doi :10.1136/pgmj.58.680.380 . PMC 2426344 . PMID 6812036 . http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2426344/pdf/postmedj00210-0063.pdf .
^ 製品安全データシート 厚生労働省 職場のあんぜんサイト 2010年3月31日作成 2021年9月22日閲覧。
外部リンク