スコティッシュフォールド (英語 :Scottish Fold )は、イギリス 北部に起源をもつネコ の一品種 である。スコットランド で発見された、突然変異 した猫の個体から発生した。折れ曲がった独特の耳が、何よりも際立った特徴とされる[ 1] [ 2] 。
歴史
発祥の地、テイサイド
1961年 にスコットランド 中部に位置するテイサイドの農家 に生まれた、一匹の雌の白猫 、スージーに始まる[ 2] [ 3] 。スージーは農場に生まれた他の猫らと違い、いつまでも耳が立たなかった[ 4] 。その後成長すると、スージーが1963年 に出産した複数の子猫に、同じ折れ耳を持つ個体が発見[ 4] 、耳が遺伝形質と確認され、計画的繁殖が始まった[ 4] 。
スージーと同じ雌であった子猫は、ウィリアム&メアリー・ロス夫妻[ 5] へと引き渡され、スヌークスと名付けられた。スヌークスはブリティッシュショートヘア の雄と交配し、雌が出産した雄の白猫はスノーボールと名付けられ、地元の展覧会へ出陳されるなどした[ 2] 。
スージー誕生からちょうど10年目の1971年 、数匹の「スコットランドの折れ耳猫」がメアリーによって、アメリカ合衆国 の遺伝学 者ニール・トッドへ移送された。以後米国でブリティッシュショートヘアとアメリカンショートヘア とを用いた品種改良 が続けられ、折れ耳猫は1994年 に、「スコティッシュフォールド」の名で一猫種として公認された[ 2] 。
特色
「ロングヘアフォールド」
ブルーとホワイトカラーのスコティッシュフォールドの子猫
耳が垂れていない立ち耳のスコティッシュフォールド
通称『スコ座り』という特有の座りかたをするスコティッシュフォールド
「折れ曲がり」を意味する英語 の「フォールド (fold)」という名が説明するように、最大の特徴は、前方に折れ曲がりながら垂れた耳である[ 6] [ 2] 。加えて短めの首、丸い顔、丸みを帯びた小柄な身体も、独特とされている[ 2] 。
「耳の先に触れずに頭上に手を乗せられる唯一の猫」でもあり、小さく折り畳まれた耳に大きな眼という特徴から、その外観はフクロウ のようと形容される[ 7] 。
耳
その耳は優性遺伝 で発現するもので、折れ曲がり具合には様々な段階が存在している[ 2] 。折れ耳は生まれた時からでなく、生後13 - 23日目に生じ始める―すなわち耳が畳まれ始める[ 8] 。
また、通常の耳を持つ猫と比べ、耳の伝染病を罹患しにくいという実利的な特質がある[ 9] 。その一方で、耳道の閉塞により耳垢排出不全を起こし外耳炎を起こすケースもある。
全てのスコティッシュフォールドの耳が折れ曲がっているわけではなく、立ち耳も存在する。タレント猫として広く知られ、いずれも一時はギネス世界記録 保持者であった「まる」と「もちまる」(『タレント猫 』節を参照のこと)は、立ち耳の個体 の実例として最適で、彼ら2匹は普通のネコと同様であるが、耳以外のスコティッシュフォールドの特徴は残っている。
被毛
短毛種と長毛種が存在[ 1] 、長毛種には「ハイランドフォールド」あるいは「ロングヘアフォールド」の異称がある[ 3] 。
前述のスージーが長毛遺伝子だったことが明らかとなっており、その血を漏れなく引いているスコティッシュフォールドは、直近の祖先が短毛でも、スージーからの長毛遺伝子を保有している可能性がある[ 3] 。加えて原産国イギリスでの交配史において、異種交配の相手はブリティッシュショートヘア が多く、そのブリティッシュショートヘアの異種交配相手はペルシャ であることがしばしばであった。つまりそうして紛れ込んだ長毛遺伝子も保有する可能性が存在する訳である[ 10] 。
毛色にはあらゆるものがあり[ 2] 、ビロード の様に柔らかな手触りにして厚みを有し[ 5] 、一般的には首の周りが少し長めである[ 1] 。長毛種の特色は、その分厚い被毛の他には特に存在しないが、短毛に対し劣性なため、長毛種は「出会えれば幸運」と言われるほど希少ではある[ 10] 。
頭部
かなりの丸みを帯びた輪郭で、ふっくらとした頬を持つ。雄の個体の頬は特に肉付きが良いことから、垂れているようにすら見える。鼻は幅広く、横から見ると緩やかな曲線を描いているのがわかる[ 1] 。見開いたような大きな眼を持ち[ 4] 、その色は毛色に準ずる[ 6] 。あらゆる目色が存在し、最もありふれたものは銅色である[ 11] 。
障害
骨格に、関節の異常を特徴とする障害を持つことがある。これは折れ耳同士の交配によって生まれた、つまり折れ耳を生じる遺伝子同士の同型接合 で生まれた個体に起こるもので、生後4 - 6か月目に発現する。太く短い尻尾がその徴候である[ 3] [ 2] 。いわゆる奇形 であり[ 4] 、交配の観点からすれば、健康なスコティッシュフォールドを生むためには、真っ直ぐな耳を持った猫が不可欠になってくる[ 2] 。この障害はイギリスにおいて、一猫種としての認定を長年にわたって妨げてきた[ 2] 。
1970年代初頭、イギリスの遺伝学者 Oliphant Jackson は報告書を発表した[ 12] 。スコティッシュフォールドは当時、X線診療において骨病変がしばしば見受けられるようになっていた。報告書によれば、品種の健康状態を回復するためには、異種交配による遺伝子プールを広げることが重要かつ必要だという決定がなされた。博士によるとジャクソンの報告書には、70年代以前に関連する骨格変形の既述はなかった。科学者とブリーダーは折れ耳自体ではなく、折れ耳の繁殖の歴史の中で大きな過ちがあったとする結論に達した。その後の15 - 20年にわたる慎重な繁殖により、健康なスコティッシュフォールドの品種を再び取り戻すことに成功した。
2001年には、ドイツにおいてスコットランド・フォールド(短毛種の呼称)/ハイランド・フォールド(長毛種の呼称)の健康状態のサンプル調査が実施された[ 13] 。この目的のために50匹以上の猫が部分的に放射線措置によって、一部は獣医師や審査官または資格のある審査員によって検査された。平均年齢は3歳、最高齢は15歳だった。 1000回にわたる検査で骨やその他欠陥、また時間経過によっても、猫のネガティブな結果は得られなかった。調査結果の概要では、オルトルン・ワーグナー監督は次のように報告している。『5カ国の22匹の血筋から得られた56匹の猫は、11カ国の獣医師と品種審査員によって評価された。スコティッシュフォールドは、優れた健康を楽しむことができ、特異的なボディを保有し、手足や尾は完全に可動し、ドイツにおける動物福祉法の§11b「虐待の禁止」に該当する繁殖の問題は存在しない』
しかしながら、UFAW(動物福祉のための大学連盟)は、両親が折れ耳の場合は、激しい痛みを伴う体の変形と壊滅的な関節疾患を引き起こし、早い段階で安楽殺されることが多いこと、また片親だけが折れ耳の時でも、痛みや傷害を伴う重大な関節疾患を伴う場合もあると報告[ 14] 。GCCF(イギリスの血統猫の登録機関:Governing Council of the Cat Fancy)もまた、1970年代初めにスコティッシュフォールドの登録を禁止して以来、禁止を継続している。英国獣医協会もまた、健康への懸念からスコティッシュフォールドの繁殖をやめるべきだと警告する[ 15] 。オランダ では2026年1月から、折れ耳や毛のない猫(スコティッシュフォールドやスフィンクスなど)を飼うことは、動物福祉 の観点から違法になる[ 16] 。
2018年において、スコティッシュフォールドの交配はアウトブリード やアウトクロス が心掛けられており、ブリティッシュショートヘア やアメリカンショートヘア との交雑種が許容されている[ 17] 。同様の理由から交雑種を認められる猫種には、デボンレックス やエキゾチック・ショートヘア が存在する。
座法
スコティッシュフォールドはしばしば「人間のよう」「プレーリードッグ のよう」「ブッダ のよう」と言われる特有の座り方を見せ、『スコ座り』と言われる。これは折れ耳を有するスコティッシュフォールドほとんどで見られる。この座法で辺りをきょろきょろと窺うその姿は、この品種の可愛らしさを物語る多くの特色の中でも特に著名である[ 11] 。ただこの座り方をする事は、後ろ足に障害を持っている可能性に注意が必要である。
性格
穏やかな性格で[ 8] 感情を表に出さない[ 2] 。見知らぬ人間に甘えてゆくほどに人懐っこく、人間と一緒にいるのが大好きで、とても遊び好きである[ 1] 。もちろん例外もおり、目が合えば逃げ、要求のある時だけ鳴きもせずに人の前を横切ることによって、餌が欲しいことを主張する。抱かれるのを嫌がる、自分の世界を淡々と生きている個体も多くいる。
ギャラリー
人気
愛玩用としては人気の高い品種である[ 5] 。アニコム損害保険 が日本 で2009年 に行った飼い猫についての調査は、最も人気の高い猫の品種がスコティッシュフォールドという結果を示している[ 18] 。2024年の同調査でも最人気品種とされ、その前の過去16年間の調査すべてで最人気品種という結果が出ている[ 19] 。
2024年現在、世界各国でFreeads(UK)[ 20] などを介して生体譲渡(販売)、飼育されており、エド・シーラン (イギリス)やテイラー・スウィフト (アメリカ)、ク・ハラ (韓国)もその愛好家の一人である。その他に日本の著名人では、生まれの早い方から順に、養老孟司 、大杉漣 、石原詢子 、原西孝幸 、つるの剛士 、土屋アンナ 、小嶋陽菜 、深海 、水原希子 、舟山久美子 、横山由依 、高城れに 、知英 、菅井友香 、宮脇咲良 などがいる。
2018年7月に人気YouTuber のHIKAKIN が折れ耳のスコティッシュフォールドを飼い始めたことで、種の健全性を疑う論調が再燃している。名前は「まるお」と「もふこ」である[ 21] 。
上述のアニコム損害保険の調査結果から、日本におけるスコティッシュフォールドの飼育実績は相当数のものであり、同時に保険加入者による保険料請求を一元的に集計できることから、同社や類似する団体などの統計的根拠を有する傾向の報告が待たれている(アニコム家庭どうぶつ白書2023では[ 22] 、疾患の請求割合のうち「歩行異常/跛行/四肢の痛み(原因未定)率」が、他猫種0.9%に対して1.6%であったと報告されている)。
2024年9月にヤバイTシャツ屋さん の新曲「すこ。」の中に登場した。
タレント猫
まる
2007年 (平成19年)生まれの「まる 」は、日本 のタレント 猫、ペット系YouTuber 。2008年 (平成20年)より動画共有サービス サイト「YouTube 」に投稿されて一躍有名になった、スコティッシュフォールドのオスである。テレビ CM に出演し始めた2009年 (平成21年)11月以降は、特に人気が急上昇した。2016年 (平成28年)9月22日の時点で、まるのYouTubeチャンネルである「Mugumogu」が動画再生回数 3億2570万4506回を数え[ 23] 、これをもって "Most Views for an Animal on YouTube (YouTubeで最も視聴された動物 )" 名義でギネス世界記録 に認定された[ 23] [ 注 1] 。
もちまる
2019年 (令和元年)生まれの「もちまる 」も、日本のタレント猫にして、ペット系YouTuberである。2019年12月よりYouTubeに動画が投稿され始めたスコティッシュフォールドのオス。もちまるのYouTubeチャンネルである「もちまる日記」は、2021年 (令和3年)5月14日にチャンネル登録者数100万人を達成。同年8月12日には動画再生回数が6億1958万6290回に達し、これをもって同年9月5日、"Most Views for an Cat on YouTube (YouTubeで最も視聴された猫 )" 名義でギネス世界記録に認定された[ 26] [ 27] 。
映像資料
脚注
注釈
^ "Most Views for an Animal channel on YouTube (YouTubeで最も視聴された動物系チャンネル)" [ 24] とは別。「まる」のは、「チャンネルの」ではなく、「1個体 の」あるいは「1タレントの」記録である。後述する「もちまる」も同様。
出典
外部リンク