ジャン=ロベール・ピット, サン=ディエ=デ=ヴォージュ , 2013
ジャン=ロベール・ピット (Jean-Robert Pitte、1949年 8月12日 - )は、パリ 生まれのフランス の地理学者 。ピットは景観と食文化の専門家であり、パリ地理学会 会長、国際地理学フェスティバル 開発協会 (l'Association pour le développement du Festival international de géographie (FIG)) 会長、食の遺産と文化のフランス委員会 (Mission française du patrimoine et des cultures alimentaires (MFPCA)) 委員長を務めており、さらに、シャトー・デュ・クロ・ド・ヴージョ (Château du Clos de Vougeot ) で開催される『Livres en Vignes (ワインの本)』祭の代表者でもある。2011年 には、フランス・ワイン・アカデミー (Académie du vin de France ) 会長となった。
2008年 3月3日 、ピットはフランス学士院 倫理・政治学アカデミー (Académie des sciences morales et politiques ) 歴史・地理学部門の会員に1回目の投票で選出され、ピエール・ジョルジュ 死去後の空席を埋めた。
ピットは、2003年 から2008年 まで、パリ第4大学(パリ・ソルボンヌ) (Université Paris Sorbonne-Paris IV ) の学長を務めた[ 1] 。
ピットは、大学入学試験の堅持を求め[ 2] 、また、大学授業料の引き上げを求める立場から論陣を張り[ 3] 、これによって生じる影響を緩和するために奨学金の引き上げと、所得に応じた負担の調整を行なうべきだと主張した[ 4] 。
学歴
ピットは1966年 から1971年 にかけてソルボンヌ (パリ大学 )に学び、1971年 に学士となった。1975年 、パリ第4大学 で地理学の博士号を取得した。1986年 には、同大学から文学博士号を得ている。
業績
ピットには、人間と栗 の関係史についての著作もあり[ 5] 、景観形成史や食文化研究におもな関心を寄せている。
1983年 に公刊された、ピットの『フランス文化と風景 (Histoire du paysage français )』[ 6] は、フランスの都市や農村の景観の進化を跡づけたものである。そこでは、人間の諸活動がいかに景観を改変して来たかを、ローマの属州としてのガリア (Gaule romaine ) の体系的な都市計画 から、田園空間の馴致化の進行を経て、近代における農地の交換分合 (remembrement ) やグランド・アンサンブル (grand ensemble :大規模集合住宅)の建設に至る過程に焦点が当てられている。ピットは、古代における自然と都市建設から中世 までの時代を「神聖な (sacré)」ものとし、ルネサンス 以降の近代を特徴付けて「世俗的な (profane)」ものとして対置した上で、現代が「凡庸な景観 (paysage banal)」に終わる虞れがあると論じている。
大学関係の職歴
教職
ピットは、アグレガシオン (教授資格)を得た後、パリ のリセ・シャプタル (lycée Chaptal :高等学校)の教授を1年務めてから、国家奉仕活動に志願してヌアクショット (モーリタニア )の高等師範学校の助手を2年務めた。1974年 、パリ第4大学 の助手となり、その後、講師を経て助教授 (Maître de conférences ) となった。さらに1988年 に、地理学の教授となっている。
行政職
ピットはパリ第4大学 において、1988年 から1991年 まで都市計画 ・開発研究所の代表を、次いで1991年 から1993年 には地理学・開発分野の教育研究単位 (unité de formation et de recherche :学問領域別の教育研究組織)の代表を務めた。1992年 、ピットは地理学のフランス全国委員会の会長となり、2000年 まで2期の任期を務めた。1993年 から1995年 まで、ピットは高等教育・研究省 に置かれた大学地図・地方業務委員会 (Mission de la Carte universitaire et des Affaires régionales) の委員長であった。
1997年 から2001年 まで、ピットはパリ第4大学 の副学長となり、2003年 から2008年 にかけては同大学の学長を務めた。
ピットは、フランス大学長評議会 (conférence des présidents d'université ) の渉外委員会の委員でもあり、また、欧州・歴史と食文化研究所 (Institut européen d'histoire et des cultures de l'alimentation ) の学術顧問でもある。
2010年 6月23日 からは、2009年の労働法典の改正によって新設された情報・進路指導委員 (délégué à l'information et à l'orientation) [ 7] となった。
言論
人文学系の研究者の中で、ピットは、率直な物言いで際立っている。
ピットは、特に、2006年 の初期雇用契約 導入に反対する学生運動の高揚以降、社会的な論争となるような多くの問題について発言している[ 8] 。ピットは学生たちによる大学の占拠に反対し、そのような行為は「違法で醜聞的」だとし、学生たちの振る舞いは「甘やかされた子どもたち」のようで、「何でももらえる」と思いこんでいる、と述べた[ 9] 。こうした批判は、著書『Jeunes on vous ment 』にまとめられ、運動終息の数週間後に出版された。ピットは、ブレス鶏 (poule de Bresse ) の飼育には1羽に10m2 の空間が用意されるのに、ソルボンヌ(パリ大学 )の学生たちにはひとり2.6m2 しか空間が与えられていないことを指摘し、その責任は「教育機関の公的所有」と「労働組合による改革への妨害」にあると主張した[ 10] 。この本は、一部の労働組合関係者の間から、強い反発を招いた[ 11] 。
ピットは、「幽霊学生 (étudiants fantômes)」の追放を求める動きを支持し、「その犠牲の上に、学園の名声や評判を守る」ためには、授業料の引き上げこそが唯一の解決策だとした[ 12] 。
こうした言論によって、ピットは「反動」と評された[ 13] 。
2007年 3月、ピットは、大学自治の機構改革や入学検定料・授業料の引き上げが速やかに行なわれないのであれば、パリ・ドフィーヌ大学 (Université Paris-Dauphine ) から 特別高等教育機関 (grand établissement ) の位置づけを剥奪すべきだと表明した[ 14] 。
2007年 、ピットは大学の自由と責任に関する法律 (loi relative aux libertés et responsabilités des universités ) の内容を行き過ぎであると主張し、特にガバナンス(組織統治)について、大学共同体が余りに閉鎖的に過ぎると論じた。ピットは、偽善 的な現行の学生選考制度は失敗であり、知性的な進路指導に基づく選抜によってすべての者に成功を、速やかに仕事に結びつく学位の取得という型でもたらすことが可能だと論じた[ 15] 。こうした発言は、ピットを「右派への肩入れで知られる」[ 16] 存在としたが、他方では、同僚教員、大学職員、そして学生たちの支持を失い、2008年 3月14日 にパリ第4大学 ソルボンヌの学長職を追われ、2007年のフランス大統領選挙 で社会党 のセゴレーヌ・ロワイヤル 候補を支持していた左派のジョルジュ・モリニエ (Georges Molinié ) 教授が学長に復帰した。
2010年 6月23日 、ジャン=ロベール・ピットは、フランソワ・フィヨン 首相 によって「情報・進路指導委員」に任命された。
栄誉
著書
2011年 :Une famille d'Europe Fayard
2010年 :Le génie des lieux, CNRS-Éditions.
2009年 :À la table des dieux, Fayard.
2009年 :Le désir du vin à la conquête du monde, Fayard.
(日本語訳:幸田礼雅 訳)ワインの世界史:海を渡ったワインの秘密、原書房 、2012年
2007年 :Stop à l'arnaque du bac : plaidoyer pour un bac utile , Oh! Éditions ISBN 2915056544
2006年 :Jeunes, on vous ment ! Reconstruire l'université , Fayard ISBN 2213630518
2006年 :Géographie culturelle , Fayard
2005年 :Bordeaux-Bourgogne. Les passions rivales , Hachette
(日本語訳:大友竜 訳) ボルドー vs ブルゴーニュ せめぎあう情熱、日本評論社 、2007年
2004年 :Le Vin et le divin , Fayard
2002年 : Philippe Lamour, Père de l'aménagement du territoire, Fayard.
1997年 :La France , Nathan
1993年 :Paris. Histoire d'une ville (sous la dir.), Hachette
1991年 :Gastronomie française. Histoire et géographie d'une passion , Fayard
(日本語訳:千石玲子 訳)美食のフランス— 歴史と風土、白水社 、1996年
1983年 :Histoire du paysage français , 2 vol., Tallandier. 5e édition, 1 vol. 2011.
1977年 :Nouakchott, capitale de la Mauritanie , Publications du département de géographie de l'Université de Paris IV
出典・脚注
^ “Georges Molinié président de la Sorbonne” . Le Figaro . (2008年3月15日). http://www.lefigaro.fr/flash-actu/2008/03/15/01011-20080315FILWWW00447-georges-molinie-president-de-la-sorbonne.php 2010年7月10日 閲覧。
^ «Instaurer la sélection à l'entrée de l'université» , Tribune dans Le Figaro , 15
^ “Université: insérer d'abord ? ” . L'Express . (2006年6月3日). http://www.lexpress.fr/actualite/politique/universite-inserer-d-abord_458647.html 2013年8月20日 閲覧。
^ “Jean-Robert Pitte : "Remettre en cause les acquis de mai 68" ”. linternaute.com. 2013年8月20日 閲覧。
^ Terres de Castanide, Hommes et paysages du Châtaignier de l’Antiquité à nos jours , Fayard, 1986.
^ Histoire du paysage français, de la Préhistoire à nous jours , Tallandier, 1983. Nouvelles éditions en 2001, 2003 et 2011.
^ 京免徹雄. “口頭発表 第9分科会 フランスにおける生涯進路指導のネットワーク化と質保証 ―「万人のための進路指導」の実現に向けた動き― ” (PDF). 滋賀大学職業指導研究室(若松研究室). 2013年8月21日 閲覧。
^ "J'ai honte de mon pays" , entretien avec Jean-Robert Pitte, Ifrap
^ CPE : "Nos étudiants vivent dans le rêve et l'illusion" , LCI.fr , 6 avril 2006
^ Jean-Robert Pitte : Jeunes on vous ment , Fayard, 2006
^ Un livre indigne d’un universitaire ou tout simplement d’un « honnête homme » , par la Fédération syndicale étudiante .
^ “Des milliers d'étudiants fantômes inscrits dans les universités” . Le Figaro . (2007年10月15日). http://www.lefigaro.fr/actualite/2006/05/13/01001-20060513ARTFIG90913-des_milliers_d_etudiants_fantomes_inscrits_dans_les_universites.php 2013年8月21日 閲覧。
^ Rollot, Catherine (2006年6月9日). “Jean-Robert Pitte Sorbonnard incorrect” . Le Monde . http://www.lemonde.fr/societe/article/2006/06/08/jean-robert-pitte-sorbonnard-incorrect_781005_3224.html 2013年8月21日 閲覧。
^ “Paris-Sorbonne n'exclut pas de demander le statut de grand établissement comme Dauphine ”. boivigny.com (2007年3月25日). 2013年8月21日 閲覧。
^ Entretien avec Jean-Robert Pitte , lemensuel.net
^ Rollot, Catherine (2008年3月15日). “M. Pitte, classé à droite, perd la présidence de la Sorbonne” . Le Monde . http://www.lemonde.fr/societe/article/2008/03/15/m-pitte-classe-a-droite-perd-la-presidence-de-la-sorbonne_1023311_3224.html 2013年8月21日 閲覧。
外部リンク