カシュ環
環論 という抽象代数学 の分野において、右カシュ環 (right Kasch ring) とは環 R であってすべての単純 右 R 加群 が R の右イデアル に同型であるようなものである[ 1] 。同様に左カシュ環 の概念が定義され、2つの概念は互いに独立である。
カシュ環は数学者フリードリヒ・カシュ (Friedrich Kasch) に敬意を表して名づけられている。カシュはもともと真のイデアル が零でない零化域 を持つようなアルティン環 を S-環 (S-ring) と呼んでいた (Kasch 1954 )(Morita 1966 )。以下の特徴づけはカシュ環が S-環を一般化したものであることを示している。
定義
同値な定義を右カシュ環に対してのみ紹介する。左カシュ環に対しても同様のことが正しい。カシュ条件には零化イデアル の概念を用いたいくつかの同値条件があり、この記事では零化イデアルの記事に現れるのと同じ表記を用いる。
導入部で与えられた定義に加えて、以下の性質は環 R が右カシュであるための同値な定義である。(Lam 1999 , p. 281) に書かれている。
すべての単純右 R 加群 S に対して、M から R への非零加群準同型 が存在する。
R の極大右イデアル は環の元の右零化イデアルである、つまり、各極大右イデアルは
r
.
a
n
n
(
x
)
{\displaystyle \mathrm {r.ann} (x)\,}
, ただし x は R の元、の形である。
R の任意の極大右イデアル T に対して、
ℓ ℓ -->
.
a
n
n
(
T
)
≠ ≠ -->
{
0
}
{\displaystyle \mathrm {\ell .ann} (T)\neq \{0\}}
である。
R の任意の真の右イデアル T に対して,
ℓ ℓ -->
.
a
n
n
(
T
)
≠ ≠ -->
{
0
}
{\displaystyle \mathrm {\ell .ann} (T)\neq \{0\}}
である。
R の任意の極大右イデアル T に対して、
r
.
a
n
n
(
ℓ ℓ -->
.
a
n
n
(
T
)
)
=
T
{\displaystyle \mathrm {r.ann} (\mathrm {\ell .ann} (T))=T}
である。
R は稠密 右イデアルを R 自身を除いて持たない。
例
以下の内容は (Faith 1999 , p. 109), (Lam 1999 , §§8C,19B), (Nicholson & Yousif 2003 , p.51) などの文献において見つかる。
可除環 k に対し、k の元を成分とする4次正方行列環のある部分環 R を考える。部分環 R は次の形の行列からなる:
[
a
0
b
c
0
a
0
d
0
0
a
0
0
0
0
e
]
{\displaystyle {\begin{bmatrix}a&0&b&c\\0&a&0&d\\0&0&a&0\\0&0&0&e\end{bmatrix}}}
これは右かつ左アルティン環であり、右カシュであるが、左カシュではない 。
S を体 F に係数を持つ2つの非可換な変数 X , Y 上の冪級数 の環とする。イデアル A を二元 YX , Y 2 によって生成されたイデアルとする。商環 S /A は局所環 であり右カシュであるが左カシュではない 。
R を無限個の例でない環 A k たちの直積 環とする。A k たちの直和 は R の真のイデアルをなす。このイデアルの左零化イデアルおよび右零化イデアルは 0 であることが容易に証明され、したがって R は右カシュでも左カシュでもない。
2×2の上(あるいは下)三角行列環 (英語版 ) は右カシュでも左カシュでもない。
right socle が 0 の環(すなわち
s
o
c
(
R
R
)
=
{
0
}
{\displaystyle \mathrm {soc} (R_{R})=\{0\}}
)は右カシュとはなりえない、なぜならば環は極小右イデアル を含まないからである。したがって、例えば、可除環 でない整域 は右カシュでも左カシュでもない。
脚注
参考文献
Faith, Carl (1999), Rings and things and a fine array of twentieth century associative algebra , Mathematical Surveys and Monographs, 65 , Providence, RI: American Mathematical Society, pp. xxxiv+422, ISBN 0-8218-0993-8 , MR 1657671
Morita, Kiiti (1966), “On S -rings in the sense of F. Kasch”, Nagoya Math. J. 27 : 687–695, ISSN 0027-7630 , MR 0199230
Nicholson, W. K.; Yousif, M. F. (2003), Quasi-Frobenius rings , Cambridge Tracts in Mathematics, 158 , Cambridge: Cambridge University Press, pp. xviii+307, doi :10.1017/CBO9780511546525 , ISBN 0-521-81593-2 , MR 2003785