インドネシア国軍 (インドネシアこくぐん、英語 : Indonesian National Armed Forces , インドネシア語 : Tentara Nasional Indonesia , 略称:TNI )は、インドネシア の軍隊 。正規軍 は総兵力39万5500人[ 2] で、陸軍 (TNI-AD)、海軍 (TNI-AL:海兵隊 を含む)、空軍 (TNI-AU)の3軍種からなる。2021年10月、民間人による予備部隊 「Komcad」(コムカッド)が発足した[ 3] 。
かつてはインドネシア共和国国軍 (インドネシアきょうわこくこくぐん、インドネシア語 : Angkatan Bersenjata Republik Indonesia 略称:ABRI "Republic of Indonesia Armed Forces")と称していた。
概要
インドネシアは、東南アジア に広がる世界最多数の島嶼 に中 、印 、米 に次ぐ世界第4位の人口が散在して生活しており、国土と領海 ・排他的経済水域 およびその上空の防衛負担は大きい。また、インドネシアにおいては、その民族 ・宗教 などの多様性や、人口 ・経済力 ・政治力 の集中するジャワ島 ・ジャワ人 への反発もあって、いくつかの民族紛争 を抱えていることから、国内治安維持も国軍の重大な任務である。また、スハルト 政権下でインドネシア軍は、国家を防衛するとともに、これを監督するものとして位置づけられていた。実際、9月30日事件 においては、国軍とインドネシア共産党 が対立する構図が背景となっている。スハルト政権の多くの閣僚が軍人 としての経歴を有していて、このことは、社会全体に軍の影響力をおよぼすこととなり、多様な民族・宗教を有する同国の統一に益することとなった。しかし、この方針は同時に、政府の軍に対する統制を弱体化させることとなった。インドネシア軍は、9月30日事件直後のインドネシア共産党の物理的解体など、複数の重大な人権侵害 事案を主導または関与したとして、国際的な非難を受けている。
インドネシア国軍は、インドネシア独立戦争 の最中にゲリラ戦 部隊 として誕生した。1945年 8月17日 のオランダによる植民地支配 からのインドネシアの独立直後の同22日、人民治安団(Badan Keamanan Rakyat)が政府布告によって結成され、さらに10月5日 には、より軍事 組織としての性格を強めた人民治安軍(Tentara Keamanan Rakyat)が結成されている。これらは、第二次世界大戦 下の日本 の占領下で現地軍として編成されていた郷土防衛義勇軍 や蘭印軍などの将兵を糾合し、急速に体制を整備していった。また、その過程において多数の残留日本兵 が国軍の創設を援助していたことが知られている。
2000年 1月までは警察 も国軍の管轄下に置かれていたが、民主化に伴う改革の一環として同月以降は国軍から分離され、国家警察本部として再編された。
現在のインドネシアは志願制度 である[ 2] 。兵器 体系は、かつてはアメリカ に準じていたが、東ティモール 問題のために禁輸措置 を受けてからは、東側 の兵器も導入されている。なお、禁輸措置は2005年 に解除された。
陸軍
陸軍の紋章
国産のPindad SS1 自動小銃 を手にする兵士
インドネシア陸軍 の兵力は30万40人[ 2] 。40万人の予備役 を有しており、インドネシア国軍における最大勢力である。
基本的には軽装備の歩兵 部隊 であり、多彩な小火器 とともに、軽戦車 や榴弾砲 ・多連装ロケット砲 などといった少数の重装備によって武装 している。
編成
陸軍は、12の軍管区担当司令部 (Kodam)と複数の機能別軍によって構成されている。それぞれの軍管区司令部は、複数の歩兵 大隊 と、場合により1個の騎兵 大隊、また、砲兵 および工兵 の分遣隊を有しており、この他に、地域の保安を担当する部隊と訓練部隊がある。現在の陸軍の基本戦術 単位は大隊で、作戦 単位としての師団 制は採用されていない。また、機能別軍としては、特殊作戦軍 (Kopassus )と戦略予備軍(Kostrad )、航空作戦軍の3つがある。
装備
国産のPindad Panser 装甲車
小火器 としては国営企業PT Pindadが製造したPindad SS1 自動小銃 (FN FNC のコピー)を主力小銃 として使用している。PT Pindad社製品では他にもPindad P1 拳銃 ・Pindad SM-2 およびPindad SM-3 機関銃 、Pindad SPR狙撃銃 を使用している。外国製小火器ではSIG SAUER P226 、H&K MP5 、M16 、ステアーAUG 、H&K G36 、AK-47 を特殊部隊 が使用する。
インドネシア は、領土に近接する脅威がなく、また、島嶼国家という特性にもかかわらず洋上・航空輸送 力が貧弱であるため、従来は主力戦車 を保有していなかった。したがって、陸軍の機甲火力 の主眼は軽戦車に置かれており、AMX-13 、スコーピオン とPT-76 を合計で200両前後保有している。2011年 にはAMX-13の近代化改修とともに、韓国 の斗山 社とインドネシアが共同で、斗山社のブラックフォックス装輪装甲車 にCSE-90砲塔 (コッカリルMk.3 90mm低圧砲 )を搭載した火力支援車 を開発し、調達する計画が公表された[ 4] ほか、同年11月にはドイツ 製のレオパルト2A6 主力戦車100両の導入計画が公表された[ 5] 。
また、遠戦火力としては、アメリカ製のM101 105mm榴弾砲 やロシア 製のBM-14 ロケット砲などといった古典的ベストセラーのほか、新型のシンガポール 製FH-88 155mm榴弾砲 やFH-2000 155mm榴弾砲 、チェコスロバキア 製RM-70 ロケット砲なども導入している。
また、陸軍は航空作戦軍の指揮 下に小規模な航空隊を保有している。保有機は、Mi-35 攻撃ヘリコプター ×8機、MBB Bo 105 軽汎用ヘリコプター ×17機、ベル 412 汎用ヘリコプター×28機、Mi-17 輸送 ヘリコプター×16機などである。
海軍
世界最大の群島国家 であるインドネシアにおいて、海軍は、国家防衛にあたって極めて重要な役割を担っている。独立直後に創設され、1960年代 初期にはソ連 からスヴェルドロフ級巡洋艦 など大量の艦艇 を入手したが、1965年 以降の関係冷却を反映し、ソ連から直接導入した艦艇は現在ほとんど残っていない。
現在のインドネシア海軍は、6万5000人の兵員3[ 2] と272隻の艦艇を有している。従来は、比較的旧式かつ小型の艦艇が主力となっており、量的にも不足であったが、1990年代 初頭にドイツから旧人民海軍 (東ドイツ海軍)の艦艇(パルヒム型コルベット 16隻やホイエルスヴェルダ級中型揚陸艦 (ドイツ語版 ) 14隻、コンドール級掃海艇 (ドイツ語版 ) 9隻)を一括取得して戦力を大きく向上させた。また、1990年代後半には世界的に人気の高いドイツ製の209型潜水艦 をチャクラ級潜水艦 として2隻を調達して潜水艦 戦力を獲得し、21世紀 に入ってからはオランダ 製の先進的なシグマ型コルベット を取得、大韓民国 (大宇造船海洋 )に1400トン級潜水艦を4隻発注し、2018年から受領を始める[ 6] など潜水艦戦力の強化計画を進めている。また、インドネシア海軍は小規模な航空隊と海兵隊を保有している。
インドネシア海軍航空隊は小型の対潜哨戒機 と戦術 輸送機 ・練習機 を保有しているが、長距離の対潜哨戒機は空軍の所管となっている。
インドネシア海兵隊 は3個旅団 編制で1万3000人体制となっており、上陸戦 部隊・緊急展開部隊としての任を負っている。基本的には軽歩兵 部隊だが、LG1 105mm榴弾砲 やBMP-3F 歩兵戦闘車 など少数の重装備も保有している。また、特殊部隊として海軍戦闘水泳隊員部隊(Kesatuan Gurita )、海軍特殊部隊(KOPASKA )、海上テロ対策部隊(Denjaka )などを保有する。
インドネシア海軍は2017年 6月19日、スールー海 でテロリスト などを警戒するマレーシア 、フィリピン との合同警備司令センターをタラカン市 に設置し、海空からのパトロールを始めた[ 7] 。
空軍
空軍の紋章
インドネシア空軍のF-16戦闘機
同・Su-27戦闘機(手前)
同・Su-30戦闘機
インドネシア空軍は独立戦争中の1946年 に創設され、これはASEAN 諸国の中ではタイ王国空軍 に次いで2番目に古い空軍である。当初空軍は旧日本軍 が残した零式艦上戦闘機 や一式戦闘機 等の戦闘機 を多数使用して戦った。そしてそれらの機体の一部はジョグジャカルタ特別州 のインドネシア空軍博物館に現存している。そして現在ではインドネシア空軍はアメリカ製のF-16 とソ連製のSu-27 、Su-30 といった旧東西両方の戦闘機を主力として備えている事で知られている。このような運用は隣国のマレーシア軍 でも見られ、これは調達国を分散させる事で政治的中立を保つ目的があるが、インドネシアの場合は少し事情が異なる。インドネシアは独立後暫くの間米ソ両方の戦闘機を使用していたが、1965年 の9月30日事件 でソ連との関係が悪化してからは長らく現在も主力を担うF-16等のアメリカ製戦闘機を使用してきた。ところが1999年 の東ティモール紛争 でインドネシア国軍が人権侵害を行っているとしてアメリカはインドネシアへの武器禁輸に踏み切った。そのためロシア製戦闘機の導入が検討され、2011年 にSu-27とSu-30に配備が始まった。またアメリカの武器禁輸は2005年 に解除され、2017年 までに24機のF-16が再び導入された。なお今後の計画としてオーストリア からの中古のユーロファイター・タイフーン の購入を検討しており、これが実現すればインドネシア空軍は世界的にも珍しいアメリカ、ソ連、ヨーロッパの戦闘機を使用する多様性のある空軍となる事となる[ 8] 。
前述のように空軍は1946年に創設され、当初日本軍航空隊が使用していた機体を運用していたが、予備部品などの欠乏によってこれは長くは続かなかった。その後、アメリカからの供与機体、続いてソ連機の導入も進められ、MiG-21 の運用も行われたが、その後のソ連との関係悪化を反映して、ソ連機は急速に運用不能に陥った。その後、アメリカから供与されたF-5 タイガーII やA-4 スカイホーク を経て、1980年代 後半にはF-16戦闘爆撃機10機を導入した。それに続いて計画されたロシア製のSu-30戦闘爆撃機の導入計画はアジア通貨危機 によって一時は中断されたものの、2006年 より再度発注が行われ、制空戦闘機 としてのSu-27とともに計10機が2011年に導入された[ 9] 。また、アメリカの武器禁輸 によってF-16の維持は一時期困難に直面していたが、現在は支援が再開されており、F-16C/D の追加導入も検討されている。24機の供与も発表された。また、中国 製の無人攻撃機 である翼竜 と彩虹4 を導入している[ 10] [ 11] 。
一方、航空輸送戦力の主力はC-130 ハーキュリーズ とC-212 であり、これに、スペイン と共同で開発したCN-235 が加えられつつある。また、長距離の海洋監視機も空軍の所管であり、CN-235とボーイング737 の海洋監視型が導入されている。なお、ボーイング737にはVIP 輸送型もあるほか、C-130の一部は空中給油機 としての使用が可能である。
2015年 3月にはオーストラリア空軍 (RAAF)から4機の大型輸送機 C-130H ハーキュリーズ を譲渡され、オーストラリア との友好関係を深めている。
2010年代 後半からSu-35 の導入が検討されたが、前述のアメリカによる制裁を考慮して2021年 までに断念。2022年 までにF-15 戦闘機36機、ラファール 戦闘機42機(最大)の導入を決定した[ 12] 。カタールから中古のミラージュ2000-5を購入することも検討されていたが、契約に至らず断念されている[ 13] 。
空軍特殊部隊(PASKAHAS )を保有し、PASKAHAS内に航空機ハイジャック 対応機動部隊(ATBARA )がある。
出典
外部リンク