WASP-76b は、うお座 の方向に約640光年 離れた位置にある恒星 WASP-76 (英語版 ) を公転 している太陽系外惑星 である。
発見
WASP-76bは、2013年 に太陽系外惑星探索プロジェクトのスーパーWASP (Super WASP)によるトランジット法 での観測で発見され、WASP-82b とWASP-90b という別の2つの惑星と共にその発見が公表された[ 2] [ 6] 。発見論文がarXiv で初めて公開されたのは2013年だが、アメリカ航空宇宙局 (NASA)のサイトでは、発見論文がアストロノミー・アンド・アストロフィジックス に掲載された2016年 を発見年としている[ 7] [ 8] 。
特徴
大きさの比較
木星
WASP-76b
WASP-76bは主星から約500万 km しか離れていない軌道をわずか1.8日で公転 しているホット・ジュピター で、質量 は木星 の約9割ほどだが、半径 は約1.85倍にまで膨張している[ 1] [ 5] 。アルベド を考慮しないときの平衡温度 は1,955 ℃ (2,228 K )、主星に面した昼側の温度は2,420 ℃(2,693 K)に達すると推定されている[ 5] 。主星からの強い放射によって大気が膨張することで質量の割に半径が大きくなっているため[ 9] 、密度 は太陽系 の惑星で最も低密度である土星 (0.70 g/cm3 )の約4分の1にあたる0.17 g/cm3 しかない[ 5] 。主星に対して常に同じ面を向けて公転する潮汐固定 の状態にあると考えられている[ 1] [ 9] 。
大気と鉄の雨
「鉄の雨」が降ると考えられているWASP-76bの大気圏の想像図
2019年 にラ・シヤ天文台 に搭載されている高精度視線速度系外惑星探査装置 (HARPS)による観測でWASP-76bの大気にナトリウム が含まれていることが判明した[ 2] [ 10] 。
2020年 には、超大型望遠鏡VLT による観測でWASP-76bの昼側の大気から大量の鉄 蒸気が検出されたことが、ジュネーブ大学 の研究チームによって発表された[ 1] [ 5] 。また、この鉄蒸気はWASP-76bの昼夜の境界のうち、「夕方」側にあたる境界でのみ検出されている。WASP-76bでは、潮汐固定により昼側と夜側の温度差が1,000 ℃以上あることで昼側から夜側へ18,000 km/h(5 km/s)という猛烈な風 が発生している[ 9] 。この風により、高温の昼側にある鉄蒸気が「夕方」の境界を超えて低温の夜側に移動され、そこで凝縮 して「雨」となって降ることで、もう片方の「朝」側にあたる境界では鉄蒸気が検出されなかったとするシナリオが最も可能性が高いとされている[ 1] [ 5] [ 9] 。研究チームを率いたDavid Ehrenreichは、雨として降った鉄は大気循環 を介して昼側の面で再び鉄蒸気となり、WASP-76bではこのような「鉄循環」が永続されているだろうとも述べている[ 9] 。
衛星の可能性
エクソ・イオ であるWASP-76b I が存在する可能性が示されている[ 11] 。
脚注
注釈
^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
出典
^ a b c d e 松村武宏 (2020年3月11日). “太陽系外惑星WASP-76bでは、明けない夜の空から鉄の雨が降る ”. sorae.info . 2020年3月16日 閲覧。
^ a b c d e f g Jean Schneider. “WASP-76 b ”. The Extrasolar Planet Encyclopaedia . 2020年3月16日 閲覧。
^ a b c d e “Results for WASP-76b ”. SIMBAD Astronomical Database . CDS . 2020年3月16日 閲覧。
^ Brown, A. G. A. et al. (2018). “Gaia Data Release 2: Summary of the contents and survey properties”. Astronomy and Astrophysics 616 (A1): 22. arXiv :1804.09365 . Bibcode : 2018A&A...616A...1G . doi :10.1051/0004-6361/201833051 . VizieR catalog entry
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Ehrenreich, David; Lovis, Christophe; Allart, Romain 'et al. (2020). “Nightside condensation of iron in an ultra-hot giant exoplanet”. Nature : 33. arXiv :2003.05528 . Bibcode : 2020arXiv200305528E . doi :10.1038/s41586-020-2107-1 .
^ a b c West, R. G.; Hellier, C.; Almenara, J. -M. (2016). “Three irradiated and bloated hot Jupiters: WASP-76b, WASP-82b & WASP-90b”. Astronomy and Astrophysics 585 (A126): 7. arXiv :1310.5607 . Bibcode : 2016A&A...585A.126W . doi :10.1051/0004-6361/201527276 .
^ “WASP-76 b ”. Exoplanet Exploration . NASA . 2020年3月16日 閲覧。
^ “CONFIRMED PLANET OVERVIEW PAGE: WASP-76 b ”. NASA Exoplanet Archive . 2020年3月16日 閲覧。
^ a b c d e Mike Wall (2020年3月11日). “Molten iron rain falls through the skies of scorching-hot exoplanet ”. SPace.com . 2020年3月16日 閲覧。
^ Seidel, J. V.; Ehrenreich, D.; Wyttenbach, A. et al. (2019). “Hot Exoplanet Atmospheres Resolved with Transit Spectroscopy (HEARTS). II. A broadened sodium feature on the ultra-hot giant WASP-76b”. Astronomy and Astrophysics 623 (A166): 10. arXiv :1902.00001 . Bibcode : 2019A&A...623A.166S . doi :10.1051/0004-6361/201834776 .
^ “Sodium and Potassium Signatures of Volcanic Satellites Orbiting Close-in Gas Giant Exoplanets ”. THE ASTROPHYSICAL JOURNAL (2019年11月12日). 2020年12月11日 閲覧。
関連項目
外部リンク