2021年アブダビグランプリ (英 : 2021 Abu Dhabi Grand Prix )は、2021年のF1世界選手権 第22戦(最終戦)として、2021年 12月12日 にヤス・マリーナ・サーキット で開催された。
正式名称は「Formula 1 Etihad Airways Abu Dhabi Grand Prix 2021 」[ 1] 。
背景
サウジアラビアGP後のチャンピオンシップ順位
ドライバーズタイトルは、サウジアラビアGPで優勝とファステストラップポイントを獲得したハミルトンがフェルスタッペンと並んでいる[ 注 1] 。コンストラクターズタイトルは、メルセデスが1位と3位、レッドブルが2位とリタイアだったことから、メルセデスがレッドブルとの差を28ポイントまで広げている[ 2] 。
チャンピオンシップの行方
最終戦のためドライバーズ、及びコンストラクターズの両タイトルが決定する。ドライバーズタイトル争いが同点で最終戦を迎えたのは、1974年 のエマーソン・フィッティパルディ とクレイ・レガツォーニ 以来47年ぶり[ 3] 。
相手より1ポイントでも多く獲得する[ 注 2] 。両者が無得点、もしくは同点の場合はグランプリの勝利数によりフェルスタッペンがタイトル獲得となる[ 注 3] 。
メルセデスは17ポイント以上の獲得により、無条件でタイトルを獲得する。レッドブルはメルセデスより28ポイント以上多く獲得した場合、タイトル獲得となる[ 注 4] 。
タイヤ
本レースでピレリ が持ち込むドライ用タイヤのコンパウンドはハード(白):C3、ミディアム(黄):C4、ソフト(赤):C5のソフト寄りの組み合わせ[ 4] 。
ピレリは2022年より18インチのタイヤが供給するため、アブダビGPに持ち込んだ全てのスリックタイヤのサイドウォールに「Next year I turn 18」というメッセージを記した[ 5] 。
DRS :2箇所[ 6] ※( )内は検知ポイント
DRS1:ターン5より210m先から(ターン5の40m手前)
DRS2:ターン7より165m先から(ターン7より50m先)
サーキット
オーバーテイクが少ないという問題点を解消するために、主に3つのエリアが刷新された[ 7] 。この改修によりコース長が273m短くなり周回数は58周で行われた。
バックストレート手前のシケインが撤去され、コース幅も広くなった。
ターン11から14にかけての切り返しが撤去され、緩やかなバンクの付いた高速コーナーになった。
ホテルセクションと呼ばれる90度コーナーが連続したエリアは、コース幅の拡張とコーナーの進入角が緩やかになった。
その他
エントリーリスト
レギュラーシートについては前戦サウジアラビアGP から変更なし。
エントリーリスト
^1 – EU圏外でのレースなのでチーム名にミッション・ウィノウが明記されている[ 12] [ 13] 。
^2 – FP1のみ、ジョージ・ラッセルに代わって走行する[ 8] 。
フリー走行
FP1[ 14]
12月10日 13:30 GST (UTC+4 )
トップはマックス・フェルスタッペン 。コース改修が行われコース長も短くなったことにより、自身が昨年記録したFP1のタイムと比べ、12.369秒速かった。レッドブルの代表は「メルセデスが嫌いなコーナーを全て取り除いたようだ」と冗談を飛ばしていた。
FP2[ 15]
12月10日 17:00 GST (UTC+4 )
トップはルイス・ハミルトン 。シングルラップではメルセデス、レースペースではレッドブルが上回る展開となった。FP2の終了を告げるチェッカーフラッグが振られた直後に、引退レースとなっているキミ・ライコネン がターン14でクラッシュを喫し、赤旗が振られた。
FP3[ 16]
12月11日 14:00 GST (UTC+4 )
トップはルイス・ハミルトン 。メルセデスはソフト、レッドブルはミディアムでのセッションを開始した。フェルスタッペンは途中でリアウイングを交換したことにより、残り20分を切ったあたりからソフトタイヤで走行し2番手につけた。
予選
12月11日 17:00 GST (UTC+4 )(文章の出典[ 17] )
ポールはマックス・フェルスタッペン で今季10度目。0.371秒差でルイス・ハミルトン が続いた。フェルスタッペンは、Q2にて最速タイムを記録したタイヤにフラットスポットを作ったため、ソフトタイヤで最速タイムを更新した。これにより決勝でのスタートタイヤがハミルトンと分かれた[ 注 7] [ 18] 。
予選結果
決勝
12月12日 17:00 GST (UTC+4 )(UTC+3 )(文章の出典[ 23] )
優勝はマックス・フェルスタッペン で今季10勝目を挙げた。2位にルイス・ハミルトン 、3位にカルロス・サインツ が続いた。
スタートで出遅れたフェルスタッペンは、1本目のバックストレート後にハミルトンに仕掛けたが、コース外へ追いやられる形となったハミルトンがトップで復帰、レッドブルの抗議は調査不要と判断された。その後はハミルトンが少しずつ差を広げる展開となり、1回目のピットインでそれぞれハードタイヤへ履き替えた。19周目から1周半にわたり、ピットインを遅らせていたセルジオ・ペレス がハミルトンを抑え込み、フェルスタッペンとの差を5秒も縮めさせた。レース中盤にキミ・ライコネン など3台が相次いでリタイア、36周目にはアントニオ・ジョビナッツィ のマシン回収のためにバーチャル・セーフティカー が導入され、レッドブルはフェルスタッペンに新品のハードタイヤへの交換を実施。38周目に再開されハミルトンとの20秒差を縮めていく展開となったものの、その差はなかなか縮まらなかった。レース終盤の53周目にニコラス・ラティフィ がターン14の壁に激突。セーフティカー が導入され、レッドブルはフェルスタッペンを再度ピットインさせ、ソフトタイヤを履かせて逆転を狙った。周回数が少なかったためセーフティカー先導でレースが終了するかと思われたが、残り1周でレースは再開。フェルスタッペンはターン5でハミルトンのインからオーバーテイクを成功させ、直後のストレートもハミルトンを抑え込み、2.256秒差をつけて優勝。今季10勝目を飾ると共に自身初のドライバーズタイトルを獲得した。
オランダ人として初のワールドチャンピオンで、2014年 から始まった現行のPUでメルセデス以外のドライバーが初めて獲得した[ 24] 。また、ホンダエンジン搭載車としては1991年 のアイルトン・セナ 以来30年ぶりとなった。コンストラクターズタイトルはSCラン中の55周目にセルジオ・ペレス がリタイアしたことにより、メルセデスが8連覇を飾っている。
決勝結果
追記
† - リタイアだが、90%以上の距離を走行したため規定により完走扱い
^FL - ファステストラップの1点を含む
達成された主な記録
論争
レース後
メルセデスは以下2件の抗議申し立てを行い、FIAの規定に基づきレース結果の修正を求めた[ 28] 。
レース再開直前にフェルスタッペンが最終セクターでハミルトンの真横に並んでいたことについて[ 注 9]
ハミルトンとフェルスタッペンの間にいた5台の周回遅れに対しセーフティカーを追い越す指示について[ 注 10]
スチュワードは2件の抗議を却下した[ 29] [ 30] 。
33号車(フェルスタッペン)は、ごく短時間44号車(ハミルトン)より前に出たものの、それが加速と制動を繰り返したときに発生したものであることや、第1セーフティカーラインまでには後ろにいたため。
第48条12項が定めた状況が不完全だった可能性は認めたものの、第48条12項には”all cars”ではなく”any cars”と記されていることや、その目的が「先頭集団のレースを妨害する周回遅れの車を排除すること」であり、この場合において適用されるものであると判断され、加えて第48条13項[ 注 11] 第15条3項[ 注 12] 、の規定が優先されると判断されたため。
メルセデスは抗議却下を不服として上訴する構えを見せたが[ 31] 、控訴期限だった12月16日 に取り止めることを発表、これによりアブダビGPや選手権の結果が確定した[ 32] 。
FIAの調査報告書
2022年 2月17日 、FIAは当時のレースディレクターであったマイケル・マシ (英語版 )をレースディレクターの座から解任したと発表[ 33] 。
2022年 3月18日 には調査書を発表[ 34] 。事実関係や問題点、議論の争点であるセーフティカー (SC)中の無線通信など時系列に沿った分析が行われた。FIAは、マイケル・マシがセーフティカー終了後、レースのリスタート時にヒューマンエラーにより適切な手順をとらなかったことを認めているものの、「彼が誠実に行動した」と主張した。また、当GPと2021年のF1世界選手権 の結果は有効であり、今後変更することはできないとした。
レースディレクターのヒューマンエラーについて
レースディレクターの権限により、競技規則で定められた追加の周回(最終ラップの58周目)を完了させる前にSCを呼び戻したことや、手作業で行われていた周回遅れのマシンの確認作業のヒューマンエラーにより、全てのマシンの周回遅れを解消出来ない事態となった。
無線通信について
マイケル・マシがレース終盤に外部(レッドブル ・メルセデス のチーム代表)からの要求に圧倒されたことで、時間的な制約のある決断をする際に、マイナスの影響があり、このようなやり取りは必要でも有益でもないとした。
競技規約について
前述 のように第48条12,13項には異なる解釈ができる可能性があり、セーフティカー導入中の周回遅れ解消に関する競技規則の表現について、混乱があることが明らかだと強調され、これらを明確化することが有益になるとした。
誠実な行動について
以前の話し合いにおいて、F1チームが安全であればグリーンフラッグ 下でレースを終えることを望んだことや、同様の目標が2021年を通して掲げられていたこと、決定までの時間的な制約とチームからの無線通信による圧力など、困難な状況でマシ自身の知識が及ぶ限りの行動をしたとしている。
論争の余波
FIA会長の発言
FIA 会長のジャン・トッド は「ホーナー とヴォルフ が私に電話をかけてきた」と話している、トッドは「干渉することはできない。それはスチュワードとディレクターの責任だ」と答え、今回の裁定問題について不干渉の考えを明らかにした[ 35] 。
後任のモハメド・ビン・スライエム は2022年2月18日にアブダビGPでの問題の反省から、審判システム及びレースディレクションの体制を大きく変更することを発表した[ 36] 。
レースディレクターとドライバーに対する嫌がらせ
上記の裁定を下したレースディレクターのマシと、事故によりセーフティーカー導入の遠因を作ったラティフィはレース後にそれぞれオンライン 上で、嫌がらせや殺害予告を受けている事を明かしている[ 37] [ 38] 。
第22戦(最終戦)終了時のランキング
ワールド・チャンピオンシップ
ドライバーズ・チャンピオンシップ
コンストラクターズ・チャンピオンシップ
注 :いずれもトップ5まで掲載。
注 :いずれもトップ5まで掲載。
注 :ファストテストラップアワードは同数の場合、カウントバック方式 がとられている。
関連項目
1974年アメリカグランプリ (英語版 ) - 1974年 の最終戦、このレース同様にタイトル争いを同点で迎えた。
脚注
注釈
^ 同点の場合はグランプリごとの成績の比較で順位を決定する。フェルスタッペンのこの時点でのグランプリ優勝回数がハミルトンより多いため、順位変動はなかった。
^ 先着してもタイトルが獲得出来ない条件があるため(ハミルトン9位、フェルスタッペン10位+FL)。
^ フェルスタッペン9勝、ハミルトン8勝。
^ 同点でもグランプリ優勝回数で上回るレッドブルがタイトルを獲得する。
^ Dear Kimi, we will leave you alone now(親愛なるキミ、これからは君をそっとしておく事にするよ)|2012年アブダビGPでの無線のやり取りを捩っている。
^ Grazie di tutto, Antonio(アントニオ、今までずっとありがとう)|イタリア語で別れの言葉が記されている。
^ 第24.4条にて、Q3の参加資格があったドライバーはQ2で最速タイムを記録したタイヤを決勝のスタート時点で装着しなければならない。と定められている。(一部抜粋)
^ 第31.1条にて、フリーおよび予選セッション(スプリント予選も含む)に少なくとも1回も参加してないドライバーは決勝でスタートすることはできない。と定められている。
^ 第48条8項で「SCがピットに戻った後、車両が最初にライン(第5条3参照)を通過するまで、ドライバーはコース上でSCを含めた他車を追い越してはならない」と定められている。
^ 第48条12項で「競技長が安全であると判断し、全ての競技参加者に”周回遅れの車両は追い越し可”のメッセージが送信された場合、周回遅れになった車両は、リードラップの車両とセーフティカーを追い越すことが要求される」と定められている。
^ 第48条13項で「競技長がセーフティカーを呼び戻しても安全であると判断した時は、”SAFETY CAR IN THIS LAP(セーフティカーはこの周回で入る)”のメッセージが公式メッセージ送信システムにより全競技参加者に送信され、セーフティカーはすべてのオレンジ色の灯火を消す。これはセーフティカーがその周回が終了した時点でピットレーンに入ることの競技参加者およびドライバーへの合図となる」と定められている。
^ 第15条3項で「レギュレーション内の諸規則のうち、ある事項については競技長の判断が優先権を有する」とあり、セーフティカーの使用がこの中に含まれている。
出典