西澤 保彦(にしざわ やすひこ、1960年12月25日[1] -)は、日本の小説家・推理作家・SF作家。高知県安芸市生まれ[2]。高知県高知市在住。高知県立安芸高等学校、米国私立エカード大学(英語版)創作法専修卒業[1]。
大学卒業後帰国し、高知大学経済学部教務助手や土佐女子高等学校講師などを勤めるかたわら小説を執筆。江戸川乱歩賞や小説現代新人賞などに投稿を続ける。
1990年、「聯殺(れんさつ)」が第1回鮎川哲也賞の最終候補に残る(受賞作が芦辺拓『殺人喜劇の13人』、佳作入賞が二階堂黎人『吸血の家』)。受賞はできなかったが、招待された受賞パーティーの席で島田荘司を紹介され、「いいものがあったら見てあげます」と言われる。その後、鮎川哲也賞には第2回、第3回と応募したが予選を通過することはできなかった[3]。1992年、仕事を辞めて執筆活動に専念する。『解体諸因』の第一稿を島田荘司に送ったところ、それが講談社の編集者宇山日出臣に渡り、1995年に小説家デビュー。
第3作『七回死んだ男』は、時間のループにとらわれ同じ一日を9回繰り返してしまうという特異体質の持ち主である少年が祖父の死を食い止めようとする推理小説で、SF設定で本格推理作品が成立することを示した。この作品は、ビル・マーレイ主演のアメリカ映画『恋はデジャブ』にインスパイアされたものである。
その後も、複数人で中に入ると玉突き式に人格が入れ替わってしまうという謎の装置の中で起こる連続殺人事件を描いた『人格転移の殺人』、一定量のアルコールを摂取することで瞬間移動を行うことができる主人公の登場する『瞬間移動死体』、触れた生き物のコピーを作ってしまうという謎の壁が登場する『複製症候群』など、SF的設定を導入した世界で論理的に謎を解く<SF新本格ミステリー>と呼ばれる作品を発表し、「ヘン本格の雄」、「アチャラカ・パズラー」などと呼ばれる。こうしたある種「反則」的な能力の存在が明示されてはいるが、作中においてその能力の規則性や陥穽があまさず明かされたうえでロジカルに物語が展開する。またロバート・J・ソウヤーなどのようなSFより、ピーター・ディッキンソンなどのロジック主体のミステリとしての側面が強い。
また、いわゆる「新本格」の作家の中でも、他の作家がやや淡泊に思えるほど登場人物の心理に深いこだわりを見せる点が異色とも言える(これは西澤が傾倒している都筑道夫、殊に『退職刑事』シリーズなどの影響によるものと思われる)。
シリーズとして、酒を飲むほど推理が冴え渡ってくるという匠千暁(タック)をはじめ、高瀬千帆(タカチ)、辺見祐輔(ボアン先輩)、羽迫由起子(ウサコ)ら地方大学生4人組(卒業後のエピソードも適宜混在する)を主人公とする<タック&タカチ>シリーズや、「超能力者問題秘密対策委員会」(通称「チョーモンイン」)の捜査員である神麻嗣子(かんおみ つぎこ)(一見中学生風美少女だが年齢不詳)が男性ミステリー作家の保科匡緒(ほしな まさお)、美人警部の能解匡緒(のけ まさお)らとともに超能力を用いておこなわれた犯罪の捜査に挑む<神麻嗣子の超能力事件簿>シリーズなどがある。特に後者は西澤の珍名ネーミング(主に姓)が通行人程度の端役まで徹底しており、山田、田中クラスはもちろん、高瀬、辺見程度の名前もまず登場しない。稀に吉川といった名前が出て慣れた読者を戸惑わせるが、意図は不明である。
2014年、腕貫探偵シリーズの実業之日本社文庫版が累計で30万部を発行するヒットになった[4]。
日本推理作家協会、本格ミステリ作家クラブ会員。2001年時点では日本SF作家クラブ会員であったが[5]、2024年8月時点では会員名簿に名前がない。
「」内が西澤保彦の作品