この項目では、アンデルセン著の童話について説明しています。その他の用法については「裸の王様 (曖昧さ回避) 」をご覧ください。
"裸の王様"
著者
ハンス・クリスチャン・アンデルセン 原題
"Kejserens nye klæder " 国
デンマーク 言語
デンマーク語 ジャンル
メルヘン 収録
『童話集』(Eventyr, fortalte for Børn. Første Samling. Tredie Hefte. 1837.)[ 1] 出版形態
メルヘン集 出版元
C. A. Reitzel 出版日
1837年4月7日[ 1] 前作
"人魚姫 " テンプレートを表示
『裸の王様 』(はだかのおうさま)または『皇帝の新衣裳 』[ 2] (丁 : Kejserens nye klæder (Keiserens nye klæder ) - 発音 、英 : The Emperor's New Clothes )は、デンマーク の童話作家 ハンス・クリスチャン・アンデルセン が翻案し1837年 (天保 8年)に発表した童話 である。人間心理の弱点を辛辣に捉えた寓話 として著名な作品であり、アンデルセンの代表作の1つとされる。原作はスペイン の王族フアン・マヌエル が1335年 (建武 2年)に発表した寓話集『ルカノール伯爵 (スペイン語版 ) 』[ 3] [ 4] に収録された第32話「ある王といかさま機織り師たちに起こったこと」[ 5] [ 6] [ 7] である。
身の回りに批判者や反対者がいない(あるいは我が強すぎて批判・反対を自分にとって都合よく解釈する。ときには権力を利用して批判者・反対者邪魔者扱いして粛清 することすらある)ため、本当の自分(の実力)がわかっていない人を揶揄するために用いられる。当然ではあるが、正当な批判・反論すらも聞かずに猛進するため当人が破壊的な影響を及ぼすようになり、いずれ必ず当人も組織も大きなダメージを受けるため、組織人として見た場合には非常に有害な人物になる[ 8] [ 9] 。
原作と翻案との違い
原話と物語の大枠は変わっていないが、元の話では、馬鹿 の目には見えない布地ではなく、姦通 から生まれた者には見えない布地であり、「王 さまは裸だ」と真実を告げるのは、子供ではなく馬丁 の黒人 である。
一橋大学附属図書館 が公開している『アンデルセン と「裸の王様」』によると主な違いは以下のようになる[ 10] 。
原作と翻案との違い
フアン・マヌエル(1335年)『ルカノール伯爵』
アンデルセン(1837年)『童話集』
題名
ある王 といかさま機織り師たちに起こったこと
皇帝 の新しい服
主人公
王
皇帝
主人公の関心事
王室の財産を増大させること
美しい新しい着物
詐欺師の人数
3人
2人
誰に見えない衣裳か
父親の実の子ではない者
自分の地位にふさわしくない者や、手におえないばか者
真実を告げる者
王の馬丁をしていた黒人
1人の小さな子供
あらすじ
岩波文庫 の大畑末吉 訳「皇帝の新しい着物」をテキストにしてあらすじを記載する[ 11] 。
ある国に、新しい服が大好きな、おしゃれな皇帝 がいた。ある日、城下町 に二人組の男が、仕立て屋 という触れ込みでやってきた。彼らは「自分の地位にふさわしくない者や、手におえない馬鹿 者」の目には見えない、不思議な布地をつくることができるという。噂を聞いた皇帝は2人をお城に召し出して、大喜びで大金を払い、彼らに新しい衣装を注文した。
彼らは作業場に織機 を設置し、さっそく仕事にかかる。皇帝が大臣を視察にやると、仕立て屋たちが忙しく織っている「ばか者には見えない布地」とやらは大臣の目にはまったく見えず、彼らは手になにも持っていないように見える。大臣はたいへん困るが、皇帝には自分には布地が見えなかったと言えず、仕立て屋たちが説明する布地の色と柄をそのまま報告することにした。
その後、視察にいった家来はみな「布地は見事なものでございます」と報告する。最後に皇帝がじきじき仕事場に行くと「ばか者には見えない布地」は、皇帝の目にもさっぱり見えない。皇帝はうろたえるが、家来たちには見えた布が自分に見えないとは言えず、布地の出来栄えを大声で賞賛し、周囲の家来も調子を合わせて衣装を褒める。
いよいよ、皇帝の新しい衣装は完成した。皇帝はパレード で新しい衣装をお披露目することにし、見えてもいない衣装を身にまとい、大通りを行進する。集まった国民も「ばか者」と思われるのをはばかり、歓呼して衣装を誉めそやす。
その中で、沿道にいた一人の小さな子供が、「だけど、なんにも着てないよ!」と叫び、群衆はざわめいた。「なんにも着ていらっしゃらないのか?」と、ざわめきは広がり、ついに皆が「なんにも着ていらっしゃらない!」と叫びだすなか、皇帝のパレードは続くのだった。
登場人物
2人の詐欺師
おうさま
→新しい服が大好き。逆らえる者は誰もいない。
2人の詐欺師
→布織り職人というふれこみ。ばか者には見えない布を織ると言って皇帝たちを騙す。
大臣
→正直者で通っている年寄り。人が良い。布地が見えたふりをして嘘をつく。
役人
→根はまっすぐ。
家来たち・町の人々
見栄や立場にとらわれ、誰も本当のことを言えない。
日本での紹介
従来の定説では、「孩堤の翁」という筆名 を用いた巌本善治 が、雑誌『女学雑誌 』の1888年 (明治21年)3月10日号と17日号に『不思議 ( ふしぎ ) の新衣装 ( あたらしきいせう ) 』という題名で連載したのが嚆矢であるとされてきたが、それ以前の1886年(明治19年)11月に、Yasuoka Shunjirōがローマ字に翻訳した“Ō no atarashiki ishō” が Rōmaji zasshi に掲載されていたことが発見された[ 10] 。
単行本としては、1888年(明治21年)12月19日に高橋五郎 が「在一居士」という筆名 で春祥堂から『諷世奇談、王様の新衣装』という題名で刊行したものが最初とされる[ 12] 。その他にも多くの訳が出ていて、『帝ノ新ナル衣服』[ 13] ・『領主の新衣』[ 14] ・『狂言衣大名』[ 15] ・『着道楽』[ 16] ・『裸 ( はだか ) の王様 ( おうさま ) 』[ 17] ・『裸体 ( はだか ) の王様 ( わうさま ) 』[ 18] ・『霞 ( かすみ ) の衣 ( ころも ) 』[ 19] ・『皇帝 ( くわうてい ) のお召物 ( めしもの ) 』[ 20] などの題名が付けられている。(明治期の翻訳 を参照。)
19世紀のアンデルセンの初版本に添えられたイラスト では、皇帝は素っ裸ではなく下着 は着ている。現代の翻訳では、皇帝はパンツ一枚きりか、全裸であることもある[ 21] 。
翻訳
デンマーク語の原題「Kejserens nye klæder (Keiserens nye klæder )[ 22] 」を日本語に直訳すると「皇帝の新しい服」となる[ 23] 。ドイツ語版の題名「Des Kaisers neue Kleider [ 24] 」も英語版の題名「The Emperor's New Clothes [ 25] 」もデンマーク語の直訳である。
日本では「王様は裸だ」という訳が知られているが、岩波文庫の大畑末吉 訳では、「だけど、なんにも着てやしないじゃないの!」と訳されている[ 26] 。
デンマーク語の原文とドイツ語・英語の翻訳は以下の通り。
デンマーク語 : »Men han har jo ikke noget paa!« (「だけど、なんにも着てやしないじゃないの!」)[ 22]
ドイツ語 : „Aber er hat ja gar nichts an!“ (「だけど、なんにも着てやしないじゃないの!」)[ 24]
英語 : “But he has nothing on at all.” (「だけど、なんにも着てやしないじゃないの。」)[ 25]
話型分類
「裸の王様」には、ヨーロッパ各地やインドにも類話があり、アールネ・トンプソンのタイプ・インデックス では、「笑話・逸話」の一種の“The King's New Clothes”(王様の新しい衣装)として AT 1620 という番号が付与されている[ 10] 。また、アメリカの民話学者スティス・トンプソン による民間文芸のモチーフ索引 では、“The emperor's new clothes”(皇帝の新しい衣装)として K445 番というモチーフ番号が、“Naked person made to believe that he is clothed”(服を着ていると思い込まされる裸の人)として J2312 というモチーフ番号が付与されている[ 10] 。中国にも、「指鹿為馬」で知られる秦 の二世皇帝胡亥 と趙高 のやりとりが史書に寓話的に残され、日本における「馬鹿 」の語源ともなったとも言われる。
ミュージカル
劇団四季 はアンデルセンの作品を長年にわたり上演している。『はだかの王様』は1964年 (昭和39年)初演、台本は寺山修司 の手による。
脚注
^ a b “Hans Christian Andersen : The Emperor's New Clothes” , sdu.dk , http://www.andersen.sdu.dk/vaerk/register/info_e.html?vid=17
^ 『日本大百科全書』「裸の王様」
^ フワン・マヌエル 1984
^ フアン・マヌエル 1994 , pp. 184–190
^ フアン・マヌエル の『ルカノール伯爵 (スペイン語版 ) (Libro de los enxiemplos del Conde Lucanor et de Patronio )
^ Juan Manuel (スペイン語), Conde Lucanor , ウィキソース より閲覧。
^ Ejemplo XXXII Juan Manuel (スペイン語), Conde_Lucanor:Ejemplo_32 , ウィキソース より閲覧。
^ “「裸の王様」上司にならない7つの方法 ”. PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2013年1月7日). 2023年5月29日 閲覧。
^ “管理職よ、裸の王様になるな!企業戦士のよろいを脱ぐために必要な職場環境とは ”. ダイヤモンド・オンライン (2021年6月4日). 2023年5月29日 閲覧。
^ a b c d 一橋大学附属図書館 2008
^ アンデルセン 1984 , pp. 157–165
^ 高橋 1888
^ 渡辺 1888 , pp. 81–85
^ 坪内 1900 , pp. 22–27
^ 杉谷 1906 , pp. 29–38
^ 菅野 & 奈倉 1907 , pp. 73–103
^ 木村 1908 , pp. 159–165
^ 和田垣 & 星野 1910
^ 上田 1911 , pp. 30–43
^ 近藤 1911 , pp. 1–18
^ アンデルセン 2011 , pp. 126 f
^ a b Andersen, H.C. (1963年). “Keiserens nye Klæder ” (デンマーク語). 2012年2月6日時点のオリジナル よりアーカイブ。2018年8月22日 閲覧。
^ アンデルセン 2011 , pp. 120–128
^ a b Andersen, H. C. (1900), “Des Kaisers neue Kleider” (ドイツ語), Sämmtliche Märchen , Leipzig, pp. 258-264, http://www.zeno.org/nid/20004412516
^ a b Andersen, Hans Christian H. B. Paull, Henry訳 (1875), “The Emperor's New Clothes” (英語), Hans Andersen's Fairy Tales , London: Warne & Co., http://www.surlalunefairytales.com/emperorclothes/index.html
^ アンデルセン 1984 , p. 164
参考文献
関連文献
高橋健二 『グリム兄弟とアンデルセン』東京書籍、1937年。
明治期の翻訳
Yasuoka Shunjirō「Ō no atarashiki ishō」『Rōmaji Zasshi』第1巻第18号、1886年11月10日。
孩堤の翁(巌本善治 )「不思議 ( ふしぎ ) の新衣裳 ( あたらしきいせう ) (上)」『女学雑誌』第100号、1888年3月10日、229-230頁。
孩堤の翁(巌本善治)「不思議 ( ふしぎ ) の新衣裳 ( あたらしきいせう ) (下)」『女学雑誌』第101号、1888年3月17日、21-22頁。
渡辺松茂 訳「帝ノ新ナル衣服」『ニューナショナル第五リーダー直訳』積善館、1888年6月、81-85頁。NDLJP :870960/49 。
在一居士(高橋五郎 ) 訳『諷世奇談 王様の新衣裳』春祥堂、1888年12月19日。NDLJP :1919445 。
坪内逍遙 訳「領主の新衣」『国語読本』冨山房、1900年10月、22-27頁。
高橋五郎「諷世奇談」『言文一致』第15年11号(逐号341号)、1903年9月、8-13頁。
杉谷代水「狂言衣大名」『早稲田文学』1906年3月、29-38頁。
菅野徳助・奈倉次郎 訳「着道楽」『小九郎次大九郎次/着道楽』三省堂、1907年1月29日、73-103頁。NDLJP :903014/43 。
木村小舟 訳「裸 ( はだか ) の王様 ( おうさま ) 」『教育お伽噺』博文館〈家庭百科全書 第13編〉、1908年10月15日、159-165頁。NDLJP :1168109/88 。
和田垣謙三・星野久成 訳「裸体 ( はだか ) の王様 ( わうさま ) 」『教育お伽噺』小川尚栄堂、1910年10月13日、107-110頁。NDLJP :1901966/62 。
上田万年 訳「霞 ( かすみ ) の衣 ( ころも ) 」『安得仙 ( アンドルセン ) 家庭物語』鍾美堂、1911年4月1日、30-43頁。NDLJP :896637/23 。
近藤敏三郎 訳「皇帝 ( くわうてい ) のお召物 ( めしもの ) 」『アンダアゼンお伽噺』精華堂、1911年4月18日、1-18頁。NDLJP :1919431/10 。
関連項目
外部リンク
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