巣箱 に入るミツバチ。
蜂群崩壊症候群 (ほうぐんほうかいしょうこうぐん、英語 : Colony Collapse Disorder, CCD )とは、ミツバチ が原因不明で大量に失踪 する現象である[ 1] 。日本では「いないいない病 」(「イタイイタイ病 」と「いないいないばあ 」がかけられた造語 )という別名で紹介される場合もある[ 2] 。
ヨーロッパ 、アメリカ合衆国 、インド 、ブラジル、日本 などで観察されている。フランス 政府は、科学的根拠が無いものの、殺虫剤 の成分とミツバチ失踪の因果関連を踏まえて、予防原則 に基づき、一部の農薬 を使用禁止にした。
概要
群崩壊症候
カナダの養蜂協議会 (Canadian Honey Council) によればCCDが発生したコロニーでは共通して以下のような兆候が最終的なコロニー崩壊の前に発生している[ 3] 。
幼虫を維持するだけの若い成蜂(働き蜂 )がコロニーから不足または完全にいなくなるものの、コロニーの周囲には死んだ蜂がほとんど見られない 。
コロニーに巣房蓋のある巣房が残っている。これは羽化前の蛹が存在することを意味する。ミツバチは通常、蛹が全て羽化して巣房を出るまで巣を放棄しない。
蜂蜜 や花粉 といった食料は備蓄されたままである。そのため、これらがごく短時間のうちに他の蜂に奪われることはない(盗蜂は容易に起きない)。また食料が備蓄されていれば、蜂の巣を襲う天敵 (蜂にとっては害虫 )例えば、ハチノスツヅリガ やケシキスイ からの攻撃も巣に籠もることで防御できるため、敵による攻撃も考えにくい。
コロニーの構成員は、砂糖水 や蛋白質 などの餌をあまり食べようとしない。
女王蜂 は生存する(失踪しない)。
発生地域
2006年秋から現在にかけてセイヨウミツバチ が一夜にして大量に失踪 する現象が米国 各地で発生[ 4] 、その数は米国 で飼われているミツバチ の約4分の1になった。ヨーロッパの養蜂家においても、スイス 、ドイツ では小規模な報告ではあるが、他にもベルギー 、フランス 、オランダ 、ポーランド 、ギリシャ 、イタリア 、ポルトガル 、スペイン [ 5] において同様の現象に遭遇している[ 6] 。また、CCDの可能性のある現象は台湾でも2007年4月に報告されている[ 7] 。
1971年 から2006年にかけ、米国における野生種のミツバチ数が激減(今ではほとんど存在しない[ 8] )し、養蜂家の保有しているミツバチのコロニーがいささかゆるやかに、しかし顕著に減少した。これは、都市化 や農薬 の使用、アカリンダニ (Acarapis woodi) やミツバチヘギイタダニ (Varroa mites)、商業養蜂家の撤退などの要因が重なって累積的に減少しているものだが、2006年の終わりから2007年の始めにかけ、減少率は大きな比率となり、「蜂群崩壊症候群 (CCD) 」の名称を用いて、突発的なミツバチ失踪現象を表すことが提唱された[ 4] 。2004年から2005年の冬に同様の現象が発生し、ミツバチヘギイタダニによるものとされたものの、断定には至っていない。過去に発生した事例についても原因は明らかになっていない。
1990年代の初めからヨーロッパ [ 9] 全域、フランス 、ベルギー 、イタリア 、ドイツ 、スイス 、スペイン 、ギリシャ 、ポーランド 、オランダ 、オーストリア やイギリス [ 7] などでも完全にCCDが原因だとは認められていないものの、同様の消失は発生している[ 5] 。ほかにインド やブラジル でも報告され[ 10] 、日本 でも類似症例が報告されている[ 11] 。
症状が最初に観察され、CCDの現状が報告されている米国ではジョージア州 、オクラホマ州 、ペンシルベニア州 、ウィスコンシン州 、カリフォルニア州 をはじめとする複数の州のグループでそれぞれ解析されている[ 12] 。北アメリカ全体ではカナダ [ 13] と24の州[ 14] [ 15] でもCCDが報告されており、ケベック州 のある養蜂家は、養蜂している蜂の40%が死亡したと述べている[ 7] 。合衆国では2006年から2007年に養蜂の25%が消失した[ 5] 。
しかし、報告されたこれら全ての例がCCDであると断定するには不確かな点が多い。CCDはかなり知られてはいたものの、症状が事細かに述べられることはまれであったためである。例えば、ドイツではヨーロッパで最初にCCDが報告されたが、ドイツの国家養蜂家組合によれば40%のミツバチのコロニーが絶滅 した[ 7] ものの、科学的な検証は行われていないため、2007年5月には「ドイツではCCDと断定できる事例は発生していない」とドイツのメディアが報道した[ 16] 。
名称
CCDと同一症例であるかは不明であるが、CCDに似た大量失踪現象はすでに1896年 には報告されており[ 17] [ 18] 、この現象は過去様々な名称で呼ばれてきた(「消失病」(disappearing disease )、「春の減少」(spring dwindle )、「五月病」(May disease )、「秋の崩壊」(autumn collapse )、「秋の減少病」(fall dwindle disease )[ 19] 。イギリスでは、1872年 に乗員が消失した船にちなんで「メアリー・セレスト 現象」とも呼ばれた。
2006年の蜂群崩壊症候群予備報告書では、この現象が季節に限定されない[ 20] ことや、通常の意味での「病気 」ではない(病気であれば、それを引き起こす原因 が存在するはず)から、この症候群は名称の変更を受けた[ 21] 。
対策
MAARECによる対処法
2007年3月1日 現在、中部大西洋養蜂研究および成長コンソーシアム(Mid-Atlantic Apiculture Research and Extension Consortium、MAAREC[ 22] )は、CCDの兆候を報告した養蜂家に以下の対症療法 を推奨している[ 23] 。
崩壊しかかったコロニーを勢いの盛んな別のコロニーとあわせてはいけない。
CCDにより崩壊したと推定されるコロニーを見つけた場合、他のミツバチがそれにアクセスできないような防止策を使用できるような装備を準備する。
もし、ミツバチに砂糖汁を与える場合、フマギリン をあたえること。
もし、コロニーの崩壊が起こっていて、ヨーロピアンファウルブルード などの二次感染が見られれば、タイラン でなくテラマイシン でそのコロニーを処理すること。
米国農務省による対策
2007年7月に、アメリカ合衆国農務省 (USDA) は「CCD対策[ 24] 」を公開した。それによれば、CCD危機に対して、
調査とデータ収集
サンプル解析
仮説に基づいた研究
軽減策や防止策
の「4つの戦略」があると報告した。
原因の研究
CCDのメカニズムは不明 であり、因果関係の科学的解明が進んでいない。
原因の仮説 には、
疫病・ウイルス説 [ 17] (イスラエル急性麻痺ウイルス (IAPV) [ 25] [ 26] など)
栄養失調説
ネオニコチノイド (イミダクロプリド )などの農薬 ・殺虫剤説
電磁波説 [ 9]
害虫予防のための遺伝子組み換え作物 説[ 27]
ミツバチへの過労働・環境の変化によるストレス説 [ 14]
ダニの寄生説 とダニが感染させるウィルス感染説
が唱えられている。
これらのほかに飢餓、病原体 や免疫不全 、真菌 、養蜂上の慣習(例えば抗生物質 の使用や、養蜂箱 の長距離輸送)なども指摘される。一つの要素が原因であるか、複数の要素の組み合わせが原因であるか、またCCDの影響を受けた異なる地域において独立におきるのか、関連して発生するのかは分かっていない。同様に、CCDが、以前あまり大きな影響を与えなかった現象ではなく、全く新しい現象であるのかどうかについても、分かっていない。
ペンシルベニア大学 を主拠点とする蜂群崩壊症候群研究グループ (Colony Collapse Disorder Working Group) の予備レポートはある種のパターンを指摘したが、強固な結論は導き出せていなかった[ 21] 。
2007年に行われた養蜂家対象の調査では、趣味 で養蜂をする者のほとんどは、飢餓がCCDの主因であると考え、一方、生業として養蜂をする者は、有害な無脊椎生物(ミツバチヘギイタダニとケシキスイの両方、またはいずれか一方のみ)がCCDの主因に違いないと考えていることが明らかになっている[ 28] 。
2007年6月の論文でも、多くの仮説や要因として考えられそうなものについて列挙しているが、結論は見送っている[ 19] 。
栄養状態と気候変動
ペンシルベニア州 の研究報告では、予備調査の対象である全ての生産者が、問題の死亡現象の前にコロニーが「特殊なストレス 」にさらされていたことを記載しているというものがあった。そのストレスとは栄養不足 や水不足、あるいはどちらか一方である[ 21] 。この報告においては、「ストレス」という要因がCCDの全事例に共通する唯一の要因である。従って、この現象が栄養状態のストレスと相関関係にあり、健康で栄養が十分に与えられたコロニーでは影響が見られないという可能性はあるだろうと思われる。
気候変動 が原因とする説もある。地球全体の温暖化 によって局所的には通常より低い温度になったり高い温度になったり、また寒波 の周期が遅れるためではないかと指摘される[ 29] 。
確かに、異常に乾燥した温暖な冬であれば多くの植物が開花しなくなる。2007年6月にカリフォルニア大学デービス校 のエリック・マッセン教授は、崩壊したコロニーの多くで見られる病原菌など共通の脅威がもしないとするならば、気候変動によってカリフォルニア州は乾燥状態となり、ハチが花粉をつける花が開花せず、蜂は栄養不良 となったとすれば、ミツバチが弱まったメカニズムを説明できる[ 30] [ 31] として、「こんなにも暖かいのですが、この温度の頃はだいたい花のつぼみが形成され、花粉粒ができ始める頃なのです。つぼみができ、花粉粒ができるとどうなるか。受粉不能な花粉ができます。養蜂家は蜂の巣を調べて言うでしょうね、『蜂の巣にはありとあらゆる花粉があるが、ミツバチが見当たらない』と。その通りなんです。確かに花粉はあるけれど、栄養があるのでしょうか?[…]昨年の終わり、ここだけでなく、世界中の温帯あちこちで何かが起こって、ミツバチの食糧供給を混乱させたのだと考えています。他の人から違った意見が出ない限り、私は気候に責任があると考えます。[…]理由はどうあれ、我々は以前にも増して極端な状況を目の当たりにするサイクルに陷り始めたとでも言うべきでしょう。旱魃(かんばつ)はより暑く長く、嵐と洪水はより厳しくなることも考えられます。将来の状況はそれほど良い状況には向かっていませんね。」と語った[ 32] 。
実際2006年前半は、アメリカ合衆国で記録的な暖かさであった[ 33] 。他方、例年より花が早く開花していると言う者もいる。『自然の養蜂 (Natural Beekeeping )』の著者コンラッドは、気候の変動と早い春の到来が被害をもたらし、アメリカハナノキ (red maple) やネコヤナギ (pussy willows) のような植物は、ふつうミツバチが最初に花粉摂取しに向かうものであるが、春にミツバチが飛べるようになる数週間前に咲いてしまっているので、ミツバチたちは重要な花粉源に到達しながら何もできずにいるのだ、と言った[ 34] 。花粉源については、NASAの気象学者で養蜂家であるウェイン・エサイアス (Wayne Esaias) は、利用可能な花粉源を監視し続けている[ 35] 。
殺虫剤仮説
事例間には、環境の共通要因も認められないとする研究もあるが、より一般的な仮説の1つに、農薬 (具体的には殺虫剤 )説がある。2012年までにネオニコチノイド 系殺虫剤の農薬成分(イミダクロプリド 、アセタミプリド 、ジノテフラン など)と蜂群崩壊現象との因果関係 を示す研究がヨーロッパを中心に多数発表された。
農薬による致死の経由には、蜂蜜 と花粉 の2つが考えられる。花粉経由説 では、ミツバチが餌とするものに使用される農薬は、体内に貯蓄される蜂蜜 経由でなく、花粉 経由でコロニーに運ばれるため、花粉が媒介として考えられる。花粉は体の外側を使って運ぶのに対し、蜂蜜は体の内部を使用して運搬され、毒性があった場合、そのミツバチが死に至るはずだからである。もっとも、天然・人工を問わず、ミツバチにとって致命的であり得る化学物質の全てがミツバチの成虫に影響するわけではないが、もしそういった化学物質があれば、真っ先に幼虫に影響があるはずなのにCCDの事例では幼虫の死亡は発生していない。蜂蜜経由説 では、幼虫は蜂蜜を食べず、大人のミツバチはそれに対してほとんど花粉を消費しない。CCDの症状は、もし環境から入る細菌や毒素 が原因であるならば、幼虫が死亡せずミツバチの成虫が死亡している(もしくはどこかに行ってしまっている)ことから、それは蜂蜜を経由して入ってきている可能性が高いと説明される。
現在まで、CCDにおける農薬作用に関しては、養蜂家から提供を受けた調査結果によっている。しかし、ネオニコチノイド などの農薬は、養蜂家不在の場合でも土に撒かれることから残留などが考えられるため、養蜂家不在の地でも、影響を受けたコロニーからサンプルを入手し直接調べる必要がある。
ネオニコチノイド系
ネオニコチノイド 系殺虫剤の農薬成分には、イミダクロプリド 、アセタミプリド 、ジノテフラン などがあり、農薬には日本の住化武田農薬 (現住友化学 )が開発したクロチアニジン (2001年日本で農薬登録)、ニテンピラム (1995年販売)などがあり、バイエルクロップサイエンス と共同で欧州市場で展開した[ 36] 。
蜂群崩壊症候群の発生以降、ミツバチの大量消失とネオニコチノイド系農薬殺虫剤との因果関係について研究がされ、オランダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリアなど、ヨーロッパの多数の国家で、予防原則 を適用し使用が禁止された。
イミダクロプリド (Imidacloprid ) は土に撒かれ、花粉や蜂蜜といった植物の組織に吸収される。ミツバチをはじめとする昆虫に見られるイミダクロプリドの効果は、CCDの症状と一致する[ 37] 。例えば、シロアリ へのイミダクロプリドの効果は免疫系に影響を与え、方向感覚を喪失させる[ 38] 。ヨーロッパでの「ミツバチの死亡」現象とイミダクロプリドの関係については議論と研究が蓄積されてきている[ 39] [ 40] [ 41] 。
欧米における調査と規制
1994年 にフランスでイミダクロプリド による種子処理(種子のコーティング)が導入された後、ミツバチ大量死事件が発生。1999年 1月にフランス政府はイミダクロプリドによるヒマワリ種子処理を全国的に一時停止し、調査に着手。
2000年にはオランダ がイミダクロプリドの開放系栽培での使用を禁止し、デンマーク でもイミダクロプリドが販売禁止された。
2002年 にミツバチ全滅事件(蜂群崩壊症候群)発生。
フランス世界環境基金 (FFEM) [ 42] の研究機関Comité Scientifique et Technique (CST) [ 43] は、イミダクロプリド(フランスでの商品名GAUCHO(ガウチョ))のフランスにおける部分的禁止を提言し、2003年 にフランス農業省の委託を受けた毒性調査委員会はイミダクロプリドの種子処理によるミツバチへの危険性を警告する政府報告書が発表された[ 44] 。同2003年 にはスクロース に溶けた致死量に近いイミダクロプリドは、ミツバチの帰巣本能 と摂食活動に影響を与えると指摘され[ 45] 、また働き蜂と農地に与えられた致死量に近いイミダクロプリドは飛翔活動と嗅覚機能を減少させ、嗅覚機能による学習能力の減少が生じたと研究発表された[ 46] 。
2004年にフランス農業省はイミダクロプリドを活性成分とするネオニコチノイド系殺虫剤であるバイエル 社の農薬「ガウチョ」の許可を取り消した[ 44] [ 47] [ 48] 。またイミダクロプリドによるトウモロコシの種子処理も禁止された。
2005年 、ボローニャ のイタリア 国立養蜂研究院は、イミダクロプリドが付いた種から得られた花粉は致命的なレベルの殺虫剤を含むことを発見し、汚染された花粉はミツバチのコロニーを死に導きかねないと発表した[ 49] 。トウモロコシ とヒマワリ におけるイミダクロプリドが付いた種の解析では、多量の殺虫剤がミツバチのコロニーに再び運ばれていくことを示唆している[ 50] 。働き蜂に与えられるスクロースに溶けたイミダクロプリドは数時間でミツバチのコミュニケーションを減少させる[ 51] 。
2006年にネオニコチノイド系農薬のクロチアニジン がドイツ で市場に出回ると、ハチの大量死・大量失踪が初めて報告された。2007年にはアメリカでもネオニコチノイド 系農薬がミツバチに被害を与えると指摘された[ 52] [ 53] 。カナダ の養蜂家も消失現象を経験しているが、彼らはネオニコチノイド の農薬を散布している。
欧州連合 では2013年12月より、ネオニコチノイド系農薬のうちクロチジアニン ・イミダクロプリド ・チアメトキサム の3種に対する使用規制が導入された。 ただし、開花時期以外での散布、温室ハウス内での散布、ミツバチのこない作物への使用、この3種以外のネオニコチノイド剤の使用は、禁止対象外である[ 54] 。
フランスでの禁止
2006年 4月、フランス最高裁の判決を受け、ネオニコチノイド系農薬ガウチョは正式に使用禁止となる。フランスでの禁止に対して2006年に欧州連合 科学者委員会は「モニター研究は主にフランスで行われており、EUの加入国は自分の国の環境とこれらの研究結果の関係を考える必要がある」と述べた[ 55] 。
2016年7月、フランス国民議会 はネオニコチノイド 系農薬の使用禁止などを盛り込んだ生物多様性法案を可決。2018年9月からネオニコチノイド剤は一部の例外を除き使用禁止となる。2020年7月からは例外使用規定が廃止され、全面禁止となる予定である[ 56] 。
ドイツ・イタリアでの禁止
2008年 に被害が深刻化したことや研究報告を受けてドイツ連邦消費者保護・安全局 (BVL) は、イミダクロプリドとクロチアニジンの認可を取り消し、ネオニコチノイド系農薬7種類を販売禁止。同2008年 、イタリア農水省もイミダクロプリドやクロチアニジンによる種子処理を禁止。
日本におけるCCD発生
2009年には日本の長崎県 の壱岐 、五島 、平戸 、的山大島 などでミツバチの大量死が発生し、三井化学アグロ のスタークルメイト では蜂の3分の1は生き残り、住化武田農薬 のダントツ では全滅すると報告された
[ 57] 。
日本では、残留ネオニコチノイドの許容基準値が、欧州連合 よりも大幅に緩く、アセタミプリド の場合、EUでは0.01ppm 以下に規制されるのに対して、日本では500倍の5ppmが許可されている[ 57] 。
2012年 4月5日 には、ハーバード公衆衛生大学院は蜂群をイミダクロプリドにさらす実験を行い、23週間後に16のうち15の蜂群において崩壊が起きた事を発表した[ 58] [ 59] 。2012年4月20日の『サイエンス 』で、イギリスのチームはマルハナバチをイミダクロプリドにさらした結果、対照群と比較しハチの体が小さくなり、女王バチの誕生数が85%減少すると発表した[ 60] 。
2012年 3月29日 、米国の科学誌サイエンス [ 61] はネオニコチノイド系殺虫剤が低用量でもハチには多大な影響を与えるという英仏のチームによる2本の論文を掲載した[ 62]
[ 63] [ 64] [ 65]
[ 66]
[ 67] 。
2013年 には、金沢大学 教授山田敏郎 の研究で、ネオニコチノイド系農薬によって蜂群が最終的に消滅することが確認された[ 68] 。実験で使用された農薬は、三井化学アグロ の「スタークルメイト 」(ジノテフランを10%含有)と住化武田農薬 の「ダントツ」(クロチアニジン を16%含有)であった[ 68] 。実験では高濃度から低濃度(100倍に希釈)までの農薬を餌に混ぜて、セイヨウミツバチ1万匹8群に投与したところ、濃度にかかわらず成蜂数が急激に減少し、群は最終的に絶滅した[ 68] 。
山田は、慢性毒性によりミツバチは帰巣能力を失ったのではないかとし、また毒性が強くても従来の有機リン 系農薬の場合は、時間経過とともに蜂は回復するとしたうえで、ネオニコチノイド系農薬は「農薬というより農毒に近い」もので、「このまま使い続け、ミツバチがいなくなれば農業だけでなく生態系 に大きな影響を与える」と警告した[ 68] 。
フィプロニル、チアメトキサムなど
ほか、フィプロニル 、もしくはフェニルピラゾール殺虫剤 (ヨーロッパでは代用品「リージェント (Regent)」が使用されている) もミツバチに対して毒性があると分かり、フランスでは2004年に部分的に使用禁止となった[ 69] 。2007年2月、UMPのメンバーであるジャック・ルミレ (Jacques Remiller) 率いる約40人のフランスの代議士は、この10年で蜂蜜の生産が1000トン減少していることに言及し、ミツバチ大量死研究委員会 [ 70] の創設を要求した[ 71] [ 72] 。「フィプロニル」を元にした他の5種類の農薬はミツバチを殺す原因として指摘された。
2012年 4月フランスのチームはミツバチを致死量以下のチアメトキサム (Thiamethoxam ) にさらした結果、巣に戻れずに死ぬ確率が2-3倍高まり、これが蜂群崩壊を招く恐れがある事を指摘した[ 73] 。
抗生物質とダニ駆除剤
CCDの影響を受けた大多数の養蜂家は、ただ一つの化学物質を使っているというわけではないため[ 21] 、特定の化学物質が原因であると特定することは困難だが、抗生物質とダニ駆除剤はコロニーに使用されると報告している。しかし、そのような化学物質全てがミツバチに対する効果を試験されているわけではなく、CCD現象への潜在的原因である可能性は否定できない[ 19] 。一方、抗生物質やダニ駆除剤を使用していない有機養蜂家は、CCDの影響を受けた非有機養蜂家の近くにもかかわらず、CCDの影響を受けていないことを示す報告もある[ 74] 。
病原菌と免疫機能不全説
蔓延経路が感染症 のように機能しているとの指摘もある。しかしながら、CCDには、免疫系を弱化させるような先述の「ストレス」との潜在的なつながりを持つような免疫抑制 メカニズム[ 28] が関係しているのではないかという先入観もある。ペンシルベニア州立大学 の研究によれば、蜂の成虫内にいる感染病原体の検出数の多さからみて、ある種の免疫機能不全が考えられる。この研究は当初、ミツバチヘギイタダニ の蔓延とCCDのつながりを示唆しており、これらのダニと(ダニが運ぶ)羽変形病ウイルス、細菌 が共謀して免疫を抑制し、CCDの一因になるのではないかと考えていた[ 75] 。この研究グループは原因として可能性のあるウイルスや細菌や菌類の病原体を探すことに注目していると報告されている[ 21] 。
いかなる原因によるものであっても、(養蜂場でよくあるように)あるコロニーが崩壊しかかっていて、近くに健康なコロニーが存在する場合、健康なコロニーのミツバチはしばしば死にかけたコロニーに入り込んで、貯蓄物を勝手に奪っていく。もし、死にかけたコロニーの貯蓄物が(天然もしくは人工の毒物により)汚染されているならば、結果として起こるパターン(死にかけたコロニーの近くにあったために健康なコロニーで病気が発生した)から、感染症の関与が疑われることになるだろう。しかし、CCDの場合、死にかけたコロニーの貯蔵物は盗まれることが無く、これは少なくとも、こうしたメカニズム(他のコロニーからの奪取により毒物が広がり、それにより病気が広がる)はCCDにはあてはまらないことを示している。
ほか、CCD伝染病説を示す観察証拠として、CCDにより死亡したコロニーの蜂の巣は、DNA破壊をする放射線で処理を行なった場合にのみ、健康なコロニーとして再利用することができたことも挙げられている[ 26] 。
腐蛆病・ノゼマ病
腐蛆(ふそ)病 や、微胞子虫 の真菌性「ノゼマ病 」がCCDの正体ではないかとする説がある。ペンシルベニア州の蜂の標本では高い比率のノゼマ病感染が報告されたが、他の場所からは同一パターンの報告がなかった[ 21] 。
2006年にスペイン のグアダラハラ 国立農業センターのマリアーノ・イゲスは、セイヨウミツバチの巣がノゼマ病微胞子虫に感染すると、8日以内にコロニーの成員が消えたこと[ 76] から、CCDがノゼマ病微胞子虫により生じると結論付けた。イゲス率いる研究チームは2000年 以降この問題に取り組み、他の潜在的な理由を除外することができたと主張している[ 71] [ 77] 。
しかし、CCDに影響された蜂の集団に対して2009年にアメリカ合衆国において実施された大規模な調査からは、CCDには病原体と他のストレス因子との相互作用が関与している可能性が高いものと示唆されている。実際、CCDであるか否かにかかわらず、調査されたコロニーの半数しかノゼマ病微胞子虫に感染していなかったという結果が報告されており、ノゼマ病ですべての発症例を説明することはできない。
「ノゼマ病 」に対して使用される主な抗生物質は、フマギリン (Fumagillin) である。これは微胞子虫を減らすというドイツの研究計画で使用され、蜂群崩壊症候群研究グループが治療方法の可能性として言及している[ 23] 。2009年のスペインの研究では、崩壊を起こしているコロニーにフマギリンを投与したところ、蜂が死ぬのが食い止められコロニーを存続させることができた[ 78] 。この研究について雑誌 Nature に掲載されたレビュー[ 79] は、期待の持てる結果であるとしながらも、「『ノゼマ病微胞子虫』はコロニー崩壊のすべての事例の原因であるというわけではないかもしれない」と注意を喚起している。ヨーロッパの様々な地域でこの真菌が報告されたものの、CCDとの直接の関係はまだ確立されていない[ 80] [ 81] 。
2007年、ノゼマ病微胞子虫が関係しているという極めて限定的な証拠がカリフォルニア (USA) のマルセドバレー地域における一部の蜂の巣で報告された[ 82] [ 83] 」。 しかし、この研究者はこれがCCDとつながる決定的な証拠であるとは考えていなかった。「我々はこれで問題が解決したという印象を与えたくはない[ 84] 。」
USDAのあるミツバチ研究者も同様に、「寄生虫、ノゼマ病微胞子虫は要因の1つかもしれないが、これが唯一の原因ではありえない。真菌は以前から無事なコロニーにおいても時々見ることができるからだ」と述べている[ 85] 。 同様に「ノゼマ病微胞子虫」を自分の蜂の巣でよく知っているワシントン州のある養蜂家は、これをCCDの原因と考えていない[ 86] 。
「ミツバチヘギイタダニ」とイスラエル急性麻痺ウイルスおよびバロア症
2007年発表の論文によると、「ミツバチヘギイタダニ 」がミツバチの死亡原因において最も可能性があるものとして君臨しているという。そのダニは、CCDに関連があるとされてきた奇形羽ウイルスやミツバチ急性麻痺ウイルスなどのウイルスを運ぶと言われることがあるためである[ 75] 。ミツバチヘギイタダニによる病気は、ミツバチの免疫系 を弱める傾向もある。そのため、このダニはCCDの原因である可能性が高いと考えられているが、死亡したコロニーの全てでこれらのダニ が見つかっているわけではない[ 87] 。
2007年9月には、問題が発生しているコロニーと発生していないコロニーについてRNA 配列の大規模な統計 結果が報告された。コロニーの全生物種由来のRNAを分析し、RNA配列データと比較して病原体の存在を検出しようというものである。その研究には、ヒトゲノム 配列用に開発された454ライフサイエンシズ社の技術が使用された。全てのコロニーは様々な病原体に感染していることが分かったが、イスラエル急性麻痺ウイルス (IAPV) はCCDと顕著な関連を示した。すなわち、CCDの症状が認められた30のコロニーのうち25のコロニーにウイルスが見つかり、CCDに感染していないコロニーでは、21コロニーのうち1つにしかウイルスが見つからなかった[ 26] 。科学者は、以上の関連が因果関係を証拠立てるものではないと指摘しており、他の要素が病気に関係している可能性もあるし、IAPVの存在はコロニーが病気であることに対する指標であるにすぎず、真の原因ではない可能性もある。因果関係を証明するために、ウイルスをコロニーにわざと感染させる諸実験が計画されている[ 25] 。
IAPVは2004年に発見され、ジシストロウイルス科に属している。これはミツバチを麻痺 させ、蜂の巣の外部で死に至らしめる。このウイルスはミツバチヘギイタダニにより運搬されることがある。しかし、これらのダニはCCDに感染したコロニーの半数からしか見つかっていない[ 26] 。
このウイルスはオーストラリア のミツバチの標本でも見つかっている。オーストラリアのミツバチは2004年[ 25] より米国へ輸入されており、最近まで、この輸入によってウイルスが北米に到達した可能性があると考えられていた。しかし最近になって、2002年にはすでにこのウイルスはアメリカのミツバチに存在していたことが明らかになった[ 88] [ 89] 。
2009年に報告された研究は、CCDに影響されたミツバチにはタンパク質の合成に不具合があることを示す証拠が共通して見られることを見いだしている。これはIAPVと共通するパターンである。ジシストロウイルスはIAPVと同様に、タンパク質の合成を担っているリボソームの機能低下を引き起こし、こうして生じたリボソームの機能低下がミツバチを弱らせ、通常時には致死的ではなかったはずの種々の要因からの影響を受けやすくするのではないかと推測されている。
またミツバチヘギイタダニは「イスラエル急性麻痺ウイルス(Israel acute paralysis virus )」に加え「急性麻痺ウイルスとカシミール蜂ウイルス (Acute bee paralysis virus and Kashmir bee virus )」「遅発性麻痺ウイルス (Slow paralysis virus )」「慢性麻痺ウイルス (Chronic paralysis virus )」「黒色女王蜂児病 (Black queen cell virus, Filamentous virus and Y virus )」「チヂレバネウイルスとエジプト蜂ウイルス (Deformed wing virus and Egypt bee virus )」「クモリバネウイルス (Cloudy Wing Virus、CWV )」を媒介し、これらミツバチヘギイタダニによる感染症はバロア症 と称され特にセイヨウミツバチ に対して致命的な影響を与える。
ニホンミツバチ は積極的なグルーミング によってミツバチヘギイタダニを駆除しようとする行動が見られこれによって抵抗性を見せる。
ウイルスと真菌の組み合わせ
米陸軍と協力しているモンタナ大学とモンタナ州立大学のチームは、死んだミツバチを遺伝子検査した。2010年10月、無脊椎無芽球ウイルスまたは無脊椎動物虹彩ウイルス6型、およびノゼマ(微胞子虫・カビの一種)病がグループが調査したすべてのミツバチとコロニーで見つかった。ともに単独では大きく影響はないものの、ウイルスとノゼマ病の組み合わせは常に100%致命的だった。この研究に関する情報は、ニューヨークタイムズの一面記事で一般に公開され、フォーチュン誌には「科学者がニューヨークタイムズに蜂の死亡に関する研究について教えなかったこと」というタイトルの記事が掲載された。
遺伝子組み換え農作物 (GMO)
一部の研究者は、冬用の貯蔵物に高果糖コーンシロップ (HFCS) を与える慣習にCCDの原因があるとしている。CCDの報告に一貫性がないのは、HFCSの可変性が関連しているかもしれない。ヨーロッパの解説者は遺伝子組み換えトウモロコシ から作られたHFCSに関連がある可能性を示唆している[ 6] 。しかし、もしこれが関連する唯一の要因であるのなら、冬にHFCSを与えているコロニーにのみCCDが見られるはずであるが、実際にはHFCSを与えていない養蜂家においてもCCDは多数報告されている。
また、バチルス・チューリンゲンシス (Bt) 毒素を生じる遺伝子組み換え作物 による花粉 や蜂蜜 を採集するミツバチへの潜在的な影響の研究では、そのような植物を訪れるミツバチに悪影響を与えるという実証はまだされていない。トウモロコシ は大々的に遺伝子組み換えが行なわれており、ミツバチには推奨できない作物ではあるものの、トウモロコシ畑の近くでミツバチを飼育している養蜂家は「トウモロコシの雄花では、よく花粉がとれる」と述べている[ 52] 。
二番目に重要なBt植物である綿花 には、蜜をとりにミツバチがよく訪れる(他から花粉が手に入らない場合にのみ、その花粉が消費される[ 90] )。しかし、遺伝子組み換え綿花の開花期に使用される殺虫剤以外の毒性に関しては、明確な証拠がない。Bt毒素 (Bt toxin) には生産株によって様々な種類があり、それらの殺虫スペクトルは異なっている。つまり、鞘翅目 昆虫に毒性を持つが鱗翅目 昆虫には示さない、あるいはその逆というようにBt毒素の種類によってその殺虫スペクトルは大いに異なる。そのため、害虫である鞘翅目 や鱗翅目 昆虫に抵抗性を与えるために作物に導入されたBt毒素の種類が、ミツバチの属する膜翅目 昆虫にどの程度の影響を与えるのか評価する必要がある。つまり、蜂群崩壊症候群をおこした群れの近辺の遺伝子組み換え作物の種類と量、導入されているBt毒素の種類とミツバチに与える毒性、その花粉における含量の情報が必要になる。
シエラクラブ 遺伝子工学委員会はウェブ上でトーマス・ハーキン上院議員への書簡を発表した[ 27] 。「高く尊敬されている科学者は、遺伝子工学による作物への農薬散布とその成長によって作物内に生じる農薬は、CCDの進行と拡散に寄与する要因や原因として、深刻に考える必要があると信じている。」この理論を支持するような文献が9つ引用されている[ 27] 。
昆虫へのBtの影響は主に幼虫 に認められる。そのため、Btの毒性とミツバチへの影響に関する研究は当初、幼虫とその成長過程に注目していた。しかし、蜂パン (bee bread) の材料の一部として重要であり、また成虫の食料にもなるのは花粉であるから、成虫のミツバチは、幼虫のためにフィルターのようなものとなって、花粉の材料の影響をより受けやすいと考えている養蜂家もいる。そして、CCDは成虫のミツバチが消える現象なので、幼虫における症状が認められない問題点や、CCDを被ったミツバチが遺伝子組み換え作物と接触したことがあるという証拠が無い問題点があるものの、直接の関連があるかもしれないと考える人もいる[ 91] 。
米国で1996年以降商業生産されているBtトウモロコシは、2005年に合衆国の総トウモロコシ作付け面積の35% (106,400 km2 ) に達した。対昆虫抵抗性の遺伝子組み換え綿花は1996年より合衆国で栽培されているが、2005年に綿花総作付け面積の52% (28,000 km2 ) に達した[ 92] 。米国養蜂連合の前代表であり、養蜂家としてCCD関連の広報を行っているデイビッド・ハッケンベルグは次のように述べている。「もっとも影響を受けた養蜂家は、コーン 、綿花 、大豆 、カノーラ 、ヒマワリ 、リンゴ 、葡萄 、かぼちゃ の近くにいた。」しかし、ハッケンベルグ個人はネオニコチノイドの農薬を撒布したこれらの作物に原因があると考えている[ 52] 。つまり、Bt作物の中には、後にCCDを発症するミツバチが訪れている可能性のあるものもあるということである。しかし、同様のミツバチの大量死(もしくは大量消失)はこれらの作物を導入する何十年も前から生じており[ 17] 、「Btトウモロコシが栽培されていないヨーロッパやカナダの地域でも発生している[ 93] 。」EU の「GMOコンパス」によれば、Btトウモロコシはスペインやフランス、チェコやポルトガル、ドイツやスロバキアで栽培されている[17] [18] 。
ミツバチについての危険性評価 研究に関連した各種の文章がアメリカ合衆国環境保護庁 (RPA) のホームページ上に公開されている[ 94] [ 95] [ 96] 。これらの研究がミツバチに対するBtの花粉の影響を見出したとは書いていない。
2004年には、GMO認可機関の知識は主に、学術雑誌Bee World に発表された研究結果の包括的概要[ 97] をベースにしており、その研究はミツバチへのさまざまな商業的・非商業的導入遺伝子の効果を検証したものであった。その研究は、「これまで分かっている証拠から、商業的に利用可能な遺伝子組み換え作物のどれもミツバチの健康に対して重要な影響を与えることがないことが示される。」と結論付けている。しかし、2005年にApidologie誌で新たに発表された研究[ 98] では、CRY1Abを与えられたミツバチの摂食活動が、処理間に回復を見せることなく、処理の各段階を通じて継続的に減少することがあると示した(ただし、CRY1Abの量を増やす処理を施しても、ミツバチの死亡率に関しては有意な差がでなかった)。EUの欧州食品安全機関 (EFSA) GMO委員会は、「上記の結果は主にCRY1Abに依存したものである」というこの著者の見解を支持しないとした。この委員会では次のような意見を述べている。
「ミツバチに対する否定的な影響は、実験の構成と同時性の管理と再現性を欠いているため、CRY1Ab蛋白に暴露されたことには直接に関連があるのではないと考えられる。」[ 99]
ドイツ で行なわれた研究調査では、ノゼマの感染がない場合には影響が検出できないため、直接な影響ではなく、Btトウモロコシの花粉への暴露でミツバチの成虫のノゼマに対する抵抗力が弱化するのではないかと示唆されている。
「試行を繰り返すときには、コロニーに抗生物質で予防処理を施し、再感染を防いだ。[…]これは、健康なミツバチのコロニーは6週間にわたってBtトウモロコシの花粉に極端にさらされた場合であっても、コロニーの大きさや摂食活動、子育て活動や発達のコロニー維持に必要な活動のどれも、毒素により損なわれることがないことを示している。」[ 100]
しかし、もし、「ミツバチのコロニーがたまたま寄生虫(微胞子虫)に感染したとすれば、その感染によってミツバチの数は減少し、結果として幼虫も減少する。[…]この影響は特にBtの餌を与えたコロニーにおいて顕著に発生した。」更に、「遺伝子組み換えコーンはミツバチの腸の表面を寄生虫が入りやすくするように弱めた可能性がある―あるいはひょっとして、その逆かもしれない。」と示唆されている。しかし、以下のようにも注釈がある。
「もちろん、毒素の濃度は通常のBtコーンの花粉と比較して10倍である。さらに、ミツバチは非常に長い期間、6週間もの間投与されたものである。」[ 101]
より最近の他の研究では健康なミツバチのコロニーにBt花粉を与えた場合の副作用を示すことに失敗しているが[ 93] 、Bt花粉が既に「不健康な」コロニーを更に弱めるという可能性に関しては研究がなされなかった。
秋の減少病 ("Fall Dwindle Disease") [ 21] に関する蜂群崩壊症候群研究グループ[ 17] の予備報告によると、「全てのPAサンプルにはその直腸の中に“ノゼマ病微胞子虫”が存在していることが分かったとしている。調査した多くのミツバチの針腺は明確な黒い“印”で区別できた。すなわち、この種の一点のメラニン化や黒化はある種の病原体に対する免疫反応を示している。」もし、ペンシルベニアのミツバチがBt毒素を含んだコーンの花粉を集めていたなら、潜在的に「ノゼマ」に感染する可能性があり、そのコロニーにCCDを引き起こしていたはずである。しかし、これらのコロニーが死亡前にそのようなトウモロコシの花粉を集めていたという証拠はないし、CCDに感染したコロニーが他の場所でトウモロコシの花粉を集めていたという報告もない。CCDで死亡寸前と報告されているコロニーの多数が、GMトウモロコシを栽培していない場所にある(少なくとも合衆国ではそうである。GMトウモロコシをはじめとして、大量のトウモロコシを栽培している10州のうち5州、イリノイ州、インディアナ州、カンザス州、ミズーリ州、ネブラスカ州ではCCDの報告がない[ 15] [ 19] )し、ペンシルベニア州の外から来たミツバチが著しく「ノゼマ」に感染しているとも報告されていない(例えば[ 21] )。
2006年、全米研究委員会の「花粉媒介の状態と傾向に関する委員会 (Committee on Status and Trends of Pollinators)」は「北アメリカにおける花粉媒介の状態」報告書を発表した[ 102] 。報告書ではこの件に関する先行研究の概観によれば「導入遺伝子の消費に原因を帰すことのできる否定的ではあるが実質的な効果が見られる事例もある」ため、GMOが花粉媒介者の減少の原因となっている可能性もありうると示唆。報告書はさらに、「この効果はどの導入遺伝子を用いるかについて、またその発現量で変化したが、どの事例においても、遺伝子組み換え作物がミツバチの数に与える影響に関しては記録されていない。」と指摘した[ 103] 。
2007年3月28日 、中部大西洋養蜂研究及び成長コンソーシアム[ 104] は「ミツバチにおけるBtトウモロコシの花粉が示す非標的生物への影響に関する研究概要」を発行し、実地研究[ 105] によれば「これまでに現在用いているBtたんぱく質がミツバチに与える致死・準致死効果の証拠はない」と述べ、また、Bt花粉とCCD間の潜在的因果関係に関し「この可能性は排除されてはいないが、ここに報告する証拠の重みは、現在Bt作物を使用していることがCCDとは関連していないことを、強く主張するものである。」とした[ 93] 。
ミツバチの貸し出しと移動養蜂
サウスカロライナ州 からメイン州 へブルーベリーの受粉のため移動するミツバチ。
CCDは、問題の発生した地域の商業養蜂家により報告されており、野生のコロニーや有機養蜂では発生していないとされ、農薬や遺伝子組み換え作物 や自然界ではありえない養蜂の方法が原因という研究がある[ 74] [ 106] 。一方、有機養蜂でも発生率は変わらないとする研究もある[ 107] 。
移動養蜂
ヨーロッパやアジアの養蜂家は移動養蜂 をさせない。ハチの数も変動するし、ごく限られた範囲内でのみハチの交流があるにすぎない(長い距離を移動する例もあるが、かなりまれである)。
しかしアメリカでは移動養蜂 が多く、養蜂コロニーは移動することが多い。1908年 に米国 の養蜂家ネフィー・ミラーが冬の間、国内の別の場所に蜂の巣を移動させて以後、養蜂箱 とともに移動しながらの養蜂が米国で広く広まった。
ある米国の有名な養蜂家は、蜂の巣を1月にアイダホ州からカリフォルニア州に移動すると、3月にはワシントン州のリンゴ園に移り、その2か月後にはノースダコタ州に、そして11月には再びアイダホ州に戻ると報告しており、その移動距離は数千キロにもなる。他にも、蜂の巣をフロリダ州からハンプシャー州やテキサス州に移動する養蜂家らもいるが、いずれも1月にはアーモンドの受粉のためにカリフォルニア州に立ち寄る。米国におけるこのような広範囲の移動や他のミツバチとの交流が、近年のミツバチヘギイタダニによる大損失をもたらしている可能性があると指摘されている[ 108] 。
ハチの貸し出し
授粉のためのハチの貸し出しは、米国農業にとって必要不可欠な要素である。自然の受粉のみで現在のレベルの生産を行うことが非常に困難だからである[ 109] 。米国の養蜂家は、蜂蜜の生産収入より、授粉のためにミツバチを貸し出す収入の方がはるかに多い。
研究者が関心を寄せているのは、授粉のためにミツバチのコロニーを国中に運搬すると、他のミツバチと交流があり、それがコロニー間でウイルスやダニを広げることになっているのではないかということである。加えて、そのような連続しての移動と定住の繰り返しは蜂の巣全体に対して緊張と混乱を招き、おそらく、あらゆる種類の異常に対する抵抗力を減らすことになるのだと考える向きもある[ 110] 。
電磁波の放射
2007年4月、ランダウ大学 の研究に関するニュースが、インデペンデント に掲載された論文、すなわち研究対象を携帯電話 とし、CCDに関連づけた論文をはじめとして、主要なメディアに登場した[ 9] 。
携帯電話 は他のメディアの報告では述べられていたものの、実際のところ研究ではカバーしておらず、研究者たちは上述の論文の発表以来、自分たちの研究と携帯電話、CCDの間の関係を強く否定し、とりわけ『インデペンデント誌』に発表された論文はその結果を誤って解釈しており、「恐怖物語」を仕立て上げていると述べた[ 111] [ 112] [ 113] 。
2006年ランダウ大学の試験的な調査は、ミツバチ(セイヨウミツバチ)に対する無線周波数 (RF) の非熱作用を研究するためのものであり、ミツバチの巣にコードレス電話 の親機を埋め込んだところ、近距離の電磁界 (EMF) がミツバチの帰巣能力を減少させることがあると示唆している。また、処理を施したコロニーでは蜂の巣の重さも僅かに減少したとも述べている[ 114] 。その研究の過程で、コードレス電話を埋めておかなかった対照群コロニーも含めて、コロニーの半数が壊れてしまった。
この研究チームが2004年に行なった、学習に対する非熱作用の調査研究は、1880-1900 MHzのコードレス電話からのRFへの暴露によるミツバチの行動の変化は確認できなかった[ 115] 。
非電離放射線 の考えられる生物学的影響は存在するものの、一般に最も顕著な効果は熱によるものであることが分かっている[ 116] 。一般の人々への通常の状態でのRFの放射量は、熱を作り出したり、体の温度を上げたりするほどの強度ではない[ 117] 。
現在、コードレスもしくは携帯電話のCCDへの関係は完全に推論的であり、2つの現象間の関係を示すもしくは確認するような研究は行なわれていない。それとは関係なく、そのような説明は断続的かつ突然発生したこれまで及び現在のCCDの状況とは合致しない。
影響
受粉依存の作物への影響
蜂群崩壊症候群の現象による影響は、農家による農作物生産に深刻な影響を及ぼすと指摘されている。ミツバチがほぼ独占的に授粉を行なっているカリフォルニア では、栽培されているアーモンド などの作物においてはとりわけ重要である。ミツバチに授粉を依存している米国の総収穫高は150億ドルを上回る(2000年時点)と推定されている[ 118] [ 119] 。
一方、当地原産の草花は本来的に単一作物を集中的に栽培する場合を除き、受粉にミツバチを必要としない。集中栽培では、開花時期にあわせた受粉のために、(現在の技術で)自然のミツバチの能力を超えた受粉の媒介者として、花粉媒介を行なう昆虫等を集中して運用することが必要となる。
花粉媒介を行なう昆虫は、米国作物の種類のおよそ3分の1の受粉を媒介している。その作物にはアーモンド 、桃 、大豆 、リンゴ 、セイヨウナシ 、サクランボ 、木苺 、ブラックベリー 、クランベリー 、スイカ 、メロン 、胡瓜 、苺 がある。これらの植物の多くは、米国においては他の種類のミツバチなどの昆虫が花粉を運んで授粉を行なうことが可能であり、実際に行なわれることもあるが、商業規模ではない。数種の野生種を栽培している一部の農家は、ミツバチを受粉のために持ち込んではいるが、野生種は特にミツバチを必要としているわけではない。もし、ミツバチがその地域からいなくなった場合、それらの地域自生の植物に適した自然の花粉媒介を行う動物や昆虫がその座を取り戻すと推測されている。しかし、他の種の方が実際に受粉の効果があったとしても、ミツバチが授粉を担う作物の種類の30%では、野生の花粉媒介種のほとんどはミツバチほど効果的に大量使用ができない。多くの例において、それらの昆虫は植物を訪問しようとはしない。蜂の巣は必要に応じて、ある作物から別の作物へ移動することができ、ミツバチは大群を成して多数の植物を訪れる。そのため、これらの作物の商業的生産量は、養蜂 産業に強く依存していることになる。
その他
蜂群崩壊症候群に関する作品
都市伝説
CCDのニュースや08年公開の米映画『ハプニング』において、次のような言葉が引用されることがある。
もし、地球の表面からミツバチが消え去ったら、人間は4年も生きてはいけないでしょう。どのようなミツバチも、どのような受粉も、どのような植物も、どのような動物も、どのような人も。
この言葉はアルベルト・アインシュタイン の発言として引用されているが、この言葉がどのソースから引用されたのかは報告されていない。そして、この言葉が最初に使われたのは、アインシュタインの死後39年たった1994年 であり、都市伝説 と指摘されている[ 120] 。
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参考文献
政府報告
論文
ニュース記事
ポッドキャスト
関連項目
外部リンク
関連組織
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