校則問題 (こうそくもんだい)とは、主に日本 の学校 において、校則 が原因となって発生している教育問題 ・社会問題 のことをいう。問題となっている校則のことをブラック校則 (ブラックこうそく)と呼ぶこともある。
概要
時代や実情に合わなくなった内容であったり、順守させる理由がわからない不合理な校則に関しての疑問を呈する動きは、1980年代 から始まっており(管理教育#管理教育的とされることのあるもの も参照)[ 1] 、頭髪や下着などを一律に制限、規定する校則は「人権 や多様性 の観点、セクシャルハラスメント の観点からも問題である」との批判があるほか、制服 、部活動 の強制(帰宅部を認めないこと)など見た目やプライバシー・自由 に関するもの、水分補給の禁止などの安全面に関するもの、携帯電話 の持ち込み禁止などの持ち物に関するものなどにも見直しが必要なのではないかとの声が上がっている。更に、NPO法人「カタリバ」 のような、対話の手段を用いて、校則問題の解決に児童 ・生徒 が深く関わるべきとの考え方がある[ 2] 。
自身も学生時代は校則の意味が分からず、茶髪にするなど破っていた時期があったビリギャルの小林さやか は、校則が少なくても校内秩序が保てている高偏差値 の学校ほど校則が緩くなっていると述べている[ 3] 。親の育て方や周囲の環境、学力を背景に学校内外で悪さをしたり、学級崩壊の原因となっている学生の割合が高い低偏差値の学校ほど校則が細かく、厳しい校則だと述べている[ 3] 。こうした学校では、いちいち細かく決めないと校内秩序が保てないため厳しくしているという[ 3] 。
実態
問題となっている主な校則
問題となっている校則や、関連する生徒指導 は以下の通りで、これらを生徒のみに適用して教職員が遵守すべき事項を示さず、責任の所在が明示されていない[ 4] [ 5] [ 6] [ 7] [ 8] 。
なお、制服に関する校則(防寒着着用不可など)は、制服デザイナーの意向の場合もあり、学校側とデザイナーとの折り合いが付かず、校則改定に至らない場合もある。
頭髪・眉に関するもの
生徒の染髪やパーマ加工など、頭髪に加工を施す行為の禁止(教職員は染髪を禁止する規定がないか、あっても形骸化している)
「男子は丸刈り 、女子は二つ結び」など、特定の髪型の指定
頭髪を半端に残す丸刈りは一切禁止しない一方、頭髪を全部剃り落とすスキンヘッド を禁止する
男子・女子で認められる髪型や長さの差
生まれつき黒髪でない者や癖毛 の者に地毛証明書 を提出させることの義務付け
「髪は黒色でなければならない」という規定から派生した黒染めの強要
ツーブロック やポニーテール 、お団子 、コーンロウ などの、特定の髪型の禁止
「前髪は眉 の一番下のライン(眉上)まで」など、髪の長さに関する規定
眉剃りの禁止
上記のような校則を違反していないかを教員がチェックする頭髪検査 の実施
上記のような校則を違反していた生徒に対する丸刈りの強要
服装に関するもの
制服 着用の義務
「指定品以外のコート や鞄 を持ってきてはいけない」などの学校指定品の着用の強制
「下着 の色は白色に限定する」などの下着の色の指定、及びそれを男性も含めた教員 によって確認する検査の実施
靴下 や靴 、防寒着 などの色の指定
スカート や靴下 の丈の長さの指定
スカートの下にジャージ ・オーバーパンツ などの着用禁止
冬服や夏服への切り替え時期を学校が指定するもの
校則に反する服装を「異装」とし、「やむを得ない場合は事前に届け出る必要がある」としているもの
体育の授業時における下着着用禁止(汗で汚れるため)
コートやマフラー などの防寒具の着用の禁止
化粧や持ち物等に関するもの
化粧 の禁止
学校内で整髪料 や香水 をつけた状態で過ごすことの禁止
合理的理由のない日焼け止め の禁止
ピアス やネックレス などの装飾品の着用禁止
髪どめやゴムの色の指定
携帯電話 の持ち込みの禁止(学校外での使用の禁止も含む)
シャープペンシル 、カッター、はさみの持ち込み禁止
装飾品や携帯電話、玩具等、校則で持ち込みが禁止されているものを持ち込んでいた場合は没収および廃棄する規定
持ち込み禁止の物品を没収したまま返却せず、廃棄する(返却および弁償の義務がない)
学校外での行動に関するもの
その他
授業中の水分 補給の禁止
他学年の教室がある廊下や他クラスの教室に立ち入ることの禁止
校内にある創立者等の像に一礼することの強制(私立学校に見られる)
特定の宗教 への入信を強制(宗教系の私立学校に見られる)
男女交際 を禁止したり、恋愛 を「節度を保って」と細かく規定したりするもの(同性の交際 も含む)
性行為 を交際関係にある生徒によるものであっても「不純異性交遊 」として禁止するもの
(主に1・2年生を対象に)いわゆる「帰宅部 」を一切認めず、保護者の同意を得ないまま部活動 (特に体育会系)への加入を強制するもの(ブラック部活 )
校則に違反した生徒に対する自宅謹慎や再登校の強要、退学処分など、児童・生徒の学習権 を侵害するもの
校則を変えるための手順が記されていない
生徒に対する校則だけ開示し、教職員が遵守すべき事項と責任の所在を明示しない
歴史
(校則#歴史 も参照のこと)
1960年代 後半から、各地で高校紛争 が起こり、紛争を起こした生徒らの要求の中には、教育評価に対する反論や、政治活動の自由、生徒自治の要求のほか、服装の自由化を求める声も含まれていた。1969年 に東京都立竹早高等学校 で「生徒権宣言」が出され、生徒の権利が生徒手帳に明記されたこと、1971年 に大阪府立天王寺高等学校 で服装に関する諸規定が撤廃され、服装が自由化されたことなどが代表例であり[ 9] 、この時期に高校生による自治機能がある程度確立されたとされている。
1970年代 後半になると、「服装の乱れ は心の乱れ」というスローガンのもと[ 10] 、校則が生徒管理の手段として用いられるようになり、非行 防止の観点から頭髪規制やバイク に関する取り締まり(三ない運動 )が厳しく行われるようになった。校内暴力 、特に対教師暴力が増加した1980年代 は「スカートのひだは24本」「立礼は上体を30度に」などのより一層細かな校則が定められ、それを守らせることが目的となっていることを問題視する声も上がるようになった[ 11] 。
1981年 4月、熊本県 の玉東町立玉東中学校 で定められていた「男子生徒の髪は一センチメートル以下、長髪禁止」という校則に従わなかった男子生徒が、全校集会で校長 に非難されるなどの対応を受け、熊本地方裁判所 に当該の校則は「基本的人権 の侵害であり憲法違反 だ」として、中学校に対して校則の無効、玉東町 に対して損害賠償を求めた訴訟 を起こした。これに対して熊本地裁は1985年 11月13日の判決で、「丸刈り校則」の合理性に関しては疑いの余地があるとした一方、学校側の主張を認め、原告の中学校に対する請求を棄却、町に対する請求を却下した(詳細は熊本丸刈り訴訟 を参照)。本件訴訟の判決はやや粗雑な論理展開で生徒の人権主張を否定した学校よりの判決であると多くの論者から批判を受けた。日本弁護士連合会 は、1985年に985校の校則を調査し、「学校生活と子どもの人権に関する宣言」という決議を行っている。
1988年 3月、静岡市立清水第二中学校 で校則に違反する髪型や服装をした約10名の生徒のうち、是正勧告を無視した男女4名の写真を卒業アルバム に掲載せず、花壇 の花 の写真を差し替えるという対応を取って発行した[ 13] 。この事件は新聞各紙で報じられ、同年3月31日には参議院 法務委員会 で取り上げられるに至ったため、文部省初等中等教育局 長は、「校則は必要最小限のものにするように」などの校則の見直しを教育委員会 に指示した。
2017年 、大阪府立懐風館高等学校 に通っていた、「生まれつきの茶色い頭髪 」であった女子生徒が、学校側に「その髪色では登校させられない」などと髪 を黒く染めることを強要 されたのは「指導の名の下に行われたいじめ だ」として約220万円の損害賠償 を大阪府に求める訴えを大阪地方裁判所 に起こした[ 14] [ 15] 。学校側は、生徒の代理人 弁護士 に「たとえ金髪 の外国人 留学生 でも、規則で黒染めさせることになる」と説明し、府側は請求棄却 を求めた。2021年 2月16日、大阪地裁の横田典子裁判長は、「複数の教員が原告生徒の地毛が黒色であったことを確認しており、茶色に染めた髪色を黒に戻すよう指導するのは教育的指導の範囲内だ」として、原告生徒の訴えを棄却した一方で、生徒名簿からの名前の削除については違法と認定し、大阪府にわずか33万円の賠償命令を下した[ 16] 。2021年 11月11日、原告の生徒(当時)は判決を不服として上告した。原告側の代理人は「茶髪を禁じた校則は違憲で、判決には法令違反がある」と上告をした理由を説明している[ 17] 。
2017年9月、東京都 中央区 特認校 の泰明小学校 が2018年 4月から入学する1年生に対し、イタリア のファッションブランド「アルマーニ 」がデザインを監修した新しい標準服 (学校が指定した着用の強制されない服)への変更を発表、従来の標準服の価格が約17,000円〜19,000円ほどだったのに対し、「アルマーニ」の標準服の価格は最大で80,000円を超えたことで、国会においても物議を醸した[ 18] 。(学童服#標準服の採用を巡る問題 )
2022年3月、大分県では身だしなみ指導は子供の人権の過剰な侵害として、中学に進学する子供の制服や髪形について親が子どもに校則を守らせる義務がないことの確認を求めて父親の弁護士が民事調停を申し立てた[ 19] 。
1980年代以降、問題提起
前述のとおり、1980年代においても日本弁護士連合会などを中心に校則に関する問題提起は行っていたが、近年の校則に対する問題提起は2017年の大阪府立懐風館高等学校における「黒染め訴訟」を契機としたものである[ 20] 。
2021年 になると、校則見直しの動きが活発化した。1月には、岐阜県立高校教諭の斉藤ひでみ が中心となり、「【令和の校則】 制服を着ない自由はありますか…? 制服は強制力のない「標準服」にして 行き過ぎた指導に苦しむ生徒を救いたい!」と題した署名運動 を展開し、1万8888人分の署名と要望書を文部科学大臣政務官 の鰐淵洋子 に提出、現役の高校生らとともに記者会見を行った
[ 21]
。10月には、一般社団法人日本若者協議会代表理事の室橋祐貴 が名古屋大学 准教授の内田良 らとともに「校則見直しガイドライン」を策定し公表[ 22]
。更に11月には、2019年から校則見直しの活動を行っていたNPO法人『カタリバ 』が、熊本大学 准教授の苫野一徳 の監修のもと、生徒や教員・保護者・地域住民などの学校関係者が、校則・ルールについてともに対話し、見直し続けていくことを主な内容とする「みんなのルールメイキング宣言」を宣言した[ 23] 。
2022年1月には、一般社団法人Voice Up Japanの高校生メンバーらが「理不尽な校則 や制服制度 が多い。私たちの意見を聞いてください」として文部科学省に意見書を提出した。提出後の記者会見で「自分たちが過ごす学校のルールを大人が一方的に決めるのではなく、自分たちの意見を反映させたい」として、学校運営に生徒も携わる「学校民主主義」の実現を訴えた[ 24] 。
こうした社会的関心の高まりもあり、国会でも「ブラック校則」が取り上げられている。2018年3月には、参議院議員 の吉良よし子 (日本共産党 )が参院文教科学委員会[ 25] で、生徒の心身を傷つける「ブラック校則」の実態を告発した。更に、衆議院議員 の鈴木貴子 (自民党 )も「理不尽校則問題の調査・改善を通じた学校内民主主義の普及」を政策目標に掲げた[ 26] 。
校則の改訂
前述のような問題提起をきっかけに、各自治体で校則の見直しが行われた。2019年10月頃から、茨城県教育委員会 は制服を含めた校則見直しを推進するよう各校に通知を行っているが、各校は未だ個別対応に留まっている。2021年 5月には、岐阜県教育委員会 が全ての県立高校と特別支援学校 に、行き過ぎた校則などを見直す際にはどのようなプロセスが必要か明文化するよう通知、それに基づいて岐阜県立大垣東高校 は「生徒会が生徒の意見を集約して校長に校則の改正や廃止を求めることができること」「求めを受けて校長はアンケートなどで生徒や保護者の意見を聞くこと」「最終的に校長が対応を決め、理由も明らかにすること」などを盛り込んだ校則改訂のプロセスを生徒側に提示した[ 27] 。同年6月には熊本県教育委員会 が県立高校と特別支援学校計78校に校則の内容に関するアンケートを実施、その結果、下着などの規定があると答えた学校が39校、本来の髪の色を申告させるケースがあるとした学校が13校、校則をホームページに公開しているのは1校のみで、教職員のみで見直すとした学校が46校であるということが明らかになった。これを受けて県教育委員会は12月、人権尊重の観点から、校則の見直しやホームページ での公開、生徒・保護者が参加する年1回の点検の実施を各学校に求める方針を明らかにした[ 28] 。富山県教育委員会 も、県内のトランスジェンダー の生徒や医師 らによる署名運動をきかっけに、同年6月末、男女別に指定された制服や髪型を定める校則の見直しを行うことを県議会 で採択した[ 29] 。
2022年3月11日には同年4月から東京都立学校でブラック校則にあたる校則の廃止が、都教育委員会から発表された[ 30] 。髪を一律に黒染する、ツーブロックの禁止、下着の色の指定などのプライバシーや人権にかかわる校則。さらに自宅での謹慎、「高校生らしい」という、主観的で曖昧な表現など不合理な指導が見直される[ 30] 。
一方、学校の生徒会 によって校則改訂が発案され、学校側が承認することで改訂が行われるケースも多い。2021年、筑波大学附属坂戸高等学校 の生徒会が、2年間にわたる学校との話し合いを経て、15あった細かな「整容に関する校則」を「学校生活にふさわしい服装と容姿を状況や他者にも配慮して自身で判断すること」の1つにまとめた[ 31] 。同年4月には、高知県立宿毛工業高等学校 の生徒会がツーブロック禁止の校則に異を唱え、学校側もツーブロックで登校可能とする「お試し期間」を設けたのちに問題ないと判断して改訂した[ 32] 。また、2019年 に岐阜県立斐太高等学校 の生徒会がタイツ はベージュ色のみ許可され黒は着用できなかったことから認めるように訴えたが、校長は「主観」や「伝統」を理由に訴えを退けた。しかし、保護者や卒業生との会議の場で生徒が訴えた際に賛同を得られると、態度を一変し黒いタイツを認めることになった[ 33] という保護者の声が校則改訂を後押しした事例もある。
2021年6月、文部科学省が全国の教育委員会に対して「校則の見直し等に関する取組事例について」を通知し、校則が子どもの実情や社会常識に則ったものであるかどうかを絶えず見直すことを求めた[ 34] 。
2022年4月より都立高校では、いわゆる「ブラック校則」と呼ばれていた下着の色の指定や髪の毛を一律に黒く染めるなど5項目の校則が全廃となる。生まれつきの髪色や癖毛の有無などを任意で届け出させる校則については疑問が呈されたものの、一部継続となった[ 35] 。
校則の公式ホームページでの公開の普及
「校則」は外部にほとんど公表されないが[ 36] 、学校(特に高校)においては、生徒は校則に従うことになることから、その校則を事前に知ってから入学を決める方法が必要であり[ 37] 、また「校則の秘匿」が指導拒否者等に対する教員の報復的な評価、懲戒など、学校内での生徒に対する不公正な問題の温床となっている場合が多い[ 38] 。
教育委員会に対するアンケートによると、調査対象の2割強にあたる29教委が「校則の外部への公開は望ましい」と回答[ 39] するなど、「校則」の公開への教育行政部の理解も高まっている。
岐阜県 や大阪府 、都内でも世田谷区 (中学校)などが「校則」の公開に踏み切っており[ 36]
[ 39] [ 40] [ 41] 、2020年6月には、名古屋市長河村たかし が保護者や地域が議論できるようにするため、全名古屋市立中学校の校則をホームページ上で公開する方針を示している[ 42] 。また、有志による書き込みによって校則の情報を公開する活動(全国校則Wiki)[ 43] や、各自治体への開示請求 による公開活動(全国校則一覧)[ 44] も進められている。
メディアでの報道増加
2020年代 頃に校則問題の議論が活発になると、新聞 では、2019年9月に西日本新聞 が「校則のハテナ」と題した連載記事を掲載[ 45] 、10月には東京新聞 が「ブラック校則」について調査した[ 46] 。2021年になると、毎日新聞 が人権を守る視点から「ブラック校則」を見直すべきであるという社説 を掲載[ 47] 、テレビ メディアでは、NHK が2020年に校則に関する取材を本格的に開始、2021年9月9日には「クローズアップ現代プラス 」で「その校則、必要ですか? 密着!改革の最前線」と題した特集番組を放送、特設ページも開設している
[ 48] 。
関連作品
楽曲
映画
脚注
参考文献
関連項目