容認発音(ようにんはつおん、英語: Received Pronunciation, RP)とは、イギリス英語の伝統的な事実上の標準発音である。
世間にはイングランド南部の教養のある階層の発音、公共放送・BBCのアナウンサーの発音(BBC English)[1]、王族の発音としても知られ、外国人が学習するのはこの発音である。キングズ・イングリッシュ(King's English)、クイーンズ・イングリッシュ(Queen's English その治世の国王が女性の場合)[2]と呼ばれることもある。
概説
「容認発音(Received Pronunciation)」は、ダニエル・ジョーンズによる用語である。ジョーンズは当初はパブリックスクールで教育を受けたイングランド南部出身者の階級方言を指すものとして Public School Pronunciation(PSP)を提唱したが、のちにこれを修正してロンドンで大学教育を受けた上流階級の発音を指すものとして Received Pronunciation と定義し直した[3][4]。
今なおRPが「イギリス英語の標準発音」と国際的に認識されていて、他の英語圏の人にも理解されやすいことから、自国外ではなるべくRPに近い英語を使おうとするイギリス人も少なくない。またRP自体の変化も進行しており、現在のBBC放送の標準発音は1950年代のそれとは違っている。
しかし1960年代以降、イギリス各地で使用されている地域独自の発音の地位が上がり、BBCでもRP以外の発音が普通になるにしたがい、伝統的にRPを使用していた階級も若者の間ではその使用が失われる傾向にある。現在、RPの話者はイギリス人口の約2%程度であるとも言われる[5]。
イングランド南東部についていうならば、1980年前後からイギリス・ロンドンとその周辺で使われるようになった河口域英語がRPに代わるイギリス英語の標準語となるかもしれない[6]、なっているとする声もある[7]。
例えば、映画『メリー・ポピンズ』のガヴァネスを演じたジュリー・アンドリュースの発音は歯切れがよく、訛りのない容認発音とされる。アンドリュース主演の『サウンド・オブ・ミュージック』でもまったく同じ話し方をしているが、BBC英語に属する類いの、いわゆる「標準英語」である。訛りのある階級に育った者でも、教師、医師、弁護士など、相手の信頼を必要とする職業につく者は、訓練でこういう話し方および発声を身につける必要があった(気取っている印象を与えるのでかえって不利だとされ、地方訛りを身につける例もある)[8]。
音価
音価については、以下のとおりである。先に子音、後に母音について示す。
子音
母音
長母音 |
前舌母音 |
中舌母音 |
後舌母音
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狭母音
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iː |
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uː
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半広母音
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ɜː |
ɔː
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広母音
|
|
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ɑː
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二重母音 |
第二要素が前舌母音 |
第二要素が中舌母音 |
第二要素が後舌母音
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第一要素が前母音
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eɪ |
ɪə |
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aɪ |
ɛə |
aʊ
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第一要素が中母音
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əʊ
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第一要素が後母音
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ɔɪ |
ʊə |
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特徴
- ask、bath、chance など(後続の子音が「二字一音の摩擦音」「摩擦音+破裂音」や「鼻音+他の子音」であることが多いが、規則的ではない)の a は RP(容認発音)では非円唇後舌広母音 [ɑ] となる。
- player など音節末の r(r音化)は RP(容認発音)では発音されない([pleɪə])。ただし、for a long time など後ろに母音が続く場合は連音化(リエゾン)を起こす。
- stop などの o は円唇後舌広母音である([stɒp])。
- better など母音間・強勢後の /t/ は [t](ベター)とアメリカ英語よりもはっきり発音(アメリカ英語は弾音。RP 以外のイギリス式発音は声門閉鎖音が多い)。
- bluntness などの /t/ は声門閉鎖音 [ʔ] になる。
- head など語頭の /h/ を発音する(イングランドでは発音しない人も少なくない)。
- /ou/ を [oʊ] ではなく [əʊ] で発音する。[ɛʊ] のように聞こえることもある。
- new を [njuː](ニュー)、tune を [tjuːn](テューン)と発音する(アメリカ英語では [nuː](ヌー)、[tuːn](トゥーン)と発音する人が多い)。
古い発音
- off、cloth、gone などを [ɒ] でなく [ɔː] とする。
脚注
- ^ 寺澤盾『英語の歴史 過去から未来への物語』中央公論新社、2008年、113頁。ISBN 9784121019714。
- ^ “Received Pronunciation”. 大英図書館. 2012年1月28日閲覧。
- ^ 『新英語学事典』大塚高信、中島文雄(監修)、研究社、1982年12月、1011頁。
- ^ 『現代英語学辞典』石橋幸太郎(編集代表)、成美堂、1973年1月、758頁。
- ^ [1]
- ^ “Rosewarne, David (1984). ''Estuary English''. Times Educational Supplement, 19 (October 1984)”. Phon.ucl.ac.uk (1999年5月21日). 2010年8月16日閲覧。
- ^ 寺澤盾(『英語の歴史―過去から未来への物語』中公新書 2008年)。
- ^ 新井潤美(『不機嫌なメアリー・ポピンズ』平凡社新書 2005年pp.76-93)
関連項目