半旗(はんき、英語: Half-staff, Half-mast)とは、弔意を表すために旗竿の先端から三分の一から半分ほどさげて掲げる旗のことである[1]。
概要
かつて船上においては、国旗に喪章を付けて弔意を示す弔旗という慣習があったが、洋上では視認しにくいことから、国旗を半下する方法に変化したものである。
現在は、洋上に限らず実施されており、弔意を示すためには原則として半旗を掲げ、半旗の掲揚ができない場合は弔旗とするのが一般的である。
掲揚方法
解説
半旗の掲揚は、旗を旗竿の最上位まで一度掲げ、その後に旗竿の半分の位置にまで降ろすことで行われる[2]。
半旗の位置とは、おおよそ旗の一辺から旗竿の2分の1の範囲であり、半旗であることが分かる位置であればよいとされる。
逆に半旗としない場合は、旗竿の構造上、可能な範囲において最上位に掲げて固定し、傍目に半旗であると誤解されないように掲揚するべきであるとされる。
また、半旗を降ろす場合には、再び旗を旗竿の最上位まで掲げ直してから降ろす。
上記の掲揚方法は慣習であり、国旗の取扱いに関する国際儀礼(プロトコル)の一部である。
ただし、国や組織によっては掲揚方法について明文化した法律、規定を定めている場合もある。
使用する旗
多くの場合、国旗が用いられる。
それ以外に、都道府県や市町村・州などの自治体の旗、海外領土・植民地など非独立地域の旗、校旗、党旗、社旗などその他団体の旗などが用いられる場合がある。
また王室や貴族制度を維持している国では、王旗などのように固有の紋章をあしらった旗も半旗に用いられている。
世界各国
アメリカ合衆国
- 現職の大統領、元大統領の死亡時
- 死亡(公式発表)後30日間
- 現職の副大統領、元副大統領、連邦議会議長、連邦最高裁判所長の死亡時
- 死亡(公式発表)後10日間
- 連邦最高裁判所判事、国務長官・副長官、国防長官・副長官、各州知事の死亡時
- 死亡時(各機関においてそれを知った時点)から埋葬の日まで
- 連邦議会議員の死亡時
- 死亡時(各機関においてそれを知った時点)から翌日にかけて
- 大統領令に基づく場合
- 9.11テロ、教皇ヨハネ・パウロ2世の逝去(2005年)、2015年パリ同時多発テロ事件、安倍晋三銃撃事件(2022年)など
- 連邦議会の定める法に基づく場合
- 真珠湾攻撃追悼記念日(英語版)、戦没将兵追悼記念日など
イギリス
本来、イギリス王室には半旗の伝統は無い。これは、そもそも国王の旗である王室旗(英語版)は国王が宮殿にいる事を示すものであり、なければ下ろされ、滞在中は掲げられるものであったこと、そして国王が崩御しても、即座に新たな君主が即位することになるため、“王位に空位はなく、常に国王は健在である”ため、王室旗を半旗にして喪に服す必要はないという考え方であった。
しかし、ダイアナ元王太子妃が死去した際には、国民の間から「王室はバッキンガム宮殿に半旗を掲げるべきだ」との世論が起こった。世論の反発をやわらげるため、国王(エリザベス女王)がダイアナ元王太子妃の葬儀のために宮殿を出たところで、王室旗が下げられてユニオンジャックの半旗が掲げられた。この経緯については、映画「クィーン」の中で描かれている。
これ以後は、国王不在の際は王室旗の代わりにユニオンジャックを掲揚し、必要に応じてそれを半旗にするという慣習が誕生し、実際にエリザベス女王の母であるエリザベス皇太后と妹のマーガレット王女の葬儀の際、さらにロンドン同時爆破事件の際にユニオンジャックの半旗が掲げられた。王室旗による半旗は今のところない。
政府機関等
政府機関等においては、勅命に基づき出される文化・メディア・スポーツ省の通知により、旗竿の長さの3分の2のところに掲げるのが正式な半旗の方法である。
政府の建物に半旗が出される条件と期間は以下の通りである。
- 国王の崩御が発表されてから葬儀までの期間。ただし新国王の即位の日には午前11時から日没までは半旗にしない
- 王族の葬儀の日
- 外国の君主の葬儀の日
- 首相あるいは元首相の葬儀の日
- その他、特別に勅命が出た場合。
この際、王室関連の休日(イギリスの場合は、王族の誕生日などでも政府機関が休みになる)などの国旗を掲揚するべき日と、半旗にすべき日が重なった場合は、特別な勅命がない限りは半旗にしない。
カナダ
次の場合に半旗を掲揚している。
- イギリス国王=カナダ国王・現職の総督・現職の首相の死去時
- 死亡時から葬儀日の日没にかけて
- イギリス国王の配偶者・イギリス皇太子・イギリス王子・元総督・元首相・カナダ最高裁判所長官・カナダ国務大臣の死去時
- 死亡時から翌日の日没にかけて
- 4月28日、労働災害などにより亡くなった人を追悼する日
- 9月、殉職公務員追悼記念日
- 11月11日、休戦記念日
- 12月6日、女性への暴力を記憶する日
サウジアラビア
サウジアラビアの国旗には、シャハーダ(信仰告白)の一文がアラビア語で記載されており、イスラム教では神聖な言葉であるため、半旗にしてはならないと同国の憲法に相当する統治基本法第3条で定められている[3]。
大韓民国
- 6月6日の顕忠節(殉国者追悼の日)と国葬の際に半旗を掲げる。
中華人民共和国
規定
中華人民共和国国旗法第14条の規定により、以下の人物が死去した場合半旗を掲げることとされる。
このほか、不幸な事件、多数の死傷者が出た重大な自然災害があった場合、国務院の判断により、半旗を掲げることができる。2008年5月の四川大地震の際の例がある。半旗を掲げる期日と場所は、国務院または国が組織する葬儀を司る機構が指定する。
香港
香港特別行政区では、上記に加え、区旗区章条例(區旗及區徽條例)により、以下の人物が死去した場合、区旗を半旗にする。
- 香港特別行政区に対して顕著な貢献をしたと行政長官が認めた人物
- 行政長官が半旗により弔意を表すにふさわしいと認めた人物
重大な事件・自然災害についても、行政長官の判断で区旗を半旗にすることができる。
台湾
- 正副総統の死去から出棺まで
- 2月28日、二・二八事件平和記念日
- 国交を有する国の現職の元首が逝去した場合、外交部領事館で一日(義務ではない)
他に重大な事件により死傷者の発生した場合、総統は全国あるいは一部の機関に半旗を掲げるよう告示することができる。
日本
日本では、国家において半旗を掲げるべき期間を明文化した規定は存在しない。内閣の決定、あるいは各省庁の申し合わせによりその都度各省庁が通達などを発出し国の機関において実施、関係機関に協力を依頼することもある。総理大臣官邸及び外務省における慣行として、諸外国の国家元首死去に伴う国葬の日に、半旗を掲揚している[2]。
例
政府機関に一斉に半旗が掲げられた例として以下のものがある。
- 8月15日、戦没者を追悼し平和を祈念する日(終戦の日)
- 同日に日本武道館で挙行される全国戦没者追悼式に併せ、政府が半旗を掲揚するよう各官庁、学校、企業等に求めている。
- 天皇・皇后、およびその他皇族の葬儀の日
- 近年では昭和天皇の大喪の礼、香淳皇后の斂葬の儀、高円宮憲仁親王の斂葬の儀の際に半旗が掲揚された。その都度、政府より各官庁、学校、企業等に対し協力を求める通知が出される。
- 内閣総理大臣経験者の葬儀の日
- 政府官庁が半旗を掲げた。
- 1995年(平成7年)阪神・淡路大震災
- 全省庁的に半旗を掲げた。
- 2011年(平成23年)東日本大震災
- 発災(3月11日)から1か月間、全省庁的に半旗を掲げた。都内の小中学校などでは4月末まで掲げられていた。この年以降、毎年同日に国立劇場で挙行される追悼式に併せ、半旗弔旗を掲揚するよう政府が各官庁、学校、企業等に求めている[4]。追悼式は10年を区切りに挙行されなくなったが、半旗掲揚は行われている。
- アルジェリア人質事件(2013年1月26日)
- 事件の犠牲となった日本人10名に対する弔意として、自由民主党本部及び各官公庁が半旗を掲げた。横浜市の日揮本社では犠牲者の命日に当たる1月16日において国旗及び社旗を半旗として掲揚している。
- 安倍晋三銃撃事件[5]
- 安倍晋三元首相が銃撃を受けて死去(2022年7月8日)したことを受けて、首相公邸・自民党本部などは同月11日に半旗を掲げた。なお、アメリカやインドの政府機関や民間などではこれよりも早く半旗を掲げた施設もあった。松野博一内閣官房長官は「(安倍が)亡くなったのが8日(金曜日)の夕刻だったため、翌開庁日の11日(月曜日)から掲揚することにした」と説明している[6]。
- 海外の要人に対する弔意
- 英国国王ジョージ6世の崩御に弔意を表して、1952年2月7日と同月15日(訃報のあった日と葬儀の日)、衆参両院で半旗が掲げられた。
北朝鮮
北朝鮮では最高指導者の死去の際に半旗が掲げられている。
その他
企業やスポーツ界などでは国家的な弔意以外にも、代表や貢献者の死去、自社の事故などで独自の判断で半旗を掲げる場合がある。
また、学校でも在籍する教諭及び児童・生徒・学生が死去した場合は半旗を掲げる。
一覧
脚注
注釈
- ^ 事故はこの試合の5日前(8月12日)に発生したが、中埜社長の死亡が確認されたのは事故から4日後の8月16日であった。
出典
関連項目
- マナー
- 敬礼 - 船舶の敬礼は民間船が商船旗を半下し、軍艦が答礼として軍艦旗を半下することで行われる。敬礼の動作として半旗にすると表現されたとき、弔意を含むものと解すべきではない。