上で定義されたような剰余は「最小正剰余」あるいは単に「剰余」と呼ばれる[2]。整数 a は d の倍数か、(q を正として)q⋅d と (q + 1)d の間にある数のどちらかである。
いくつかの場合、a ができる限り d の整数倍になるようにすると便利である。このとき、いくつかの整数 k に対して
a = k⋅d + s(ただし |s| ≤ |d/2|)
となる。
この場合、s は「最小絶対剰余」と呼ばれる[3]。商および剰余と同様に、d = 2n かつ s = ± n の場合を除き、k と s は一意に定まる。例外の場合、
a = k⋅d + n = (k + 1)d − n
となる。
固有の剰余はいくつかの条件(例えば s は正に限る)などの条件を付け加えた場合に得られる。
例
43を5で割る場合、
43 = 8 × 5 + 3
となり、3が最小正剰余となる。また
43 = 9 × 5 − 2
となるから、−2が最小絶対剰余となる。
これらの定義は d が負の場合も有効である。例えば43を−5で割ると
43 = (−8) × (−5) + 3
より3が最小正剰余となり、一方
43 = (−9) × (−5) + (−2)
より−2が最小絶対剰余となる。
42を5で割ると
42 = 8 × 5 + 2
となり、2 < 5/2 であるから、2は最小正剰余かつ最小絶対剰余となる。
これらの例において、(負の)最小絶対剰余は最小正剰余から5、すなわち d を引くことで得られる。このことは一般に成り立つ。d で割った際、両方の剰余は正でそれゆえ等しくなるか、あるいは正負が真逆になる。正剰余を r1 とし、負のものを r2 とすると
r1 = r2 + d
となる。
浮動小数点数
a および d が浮動小数点数で、かつ d がゼロでない時、a は d によって剰余なしで割り切れ、その商は別の浮動小数点数となる。しかしながら、商を整数値に制限するとき、剰余の概念が必要となる。a = qd + r(ただし 0 ≤ r < |d|)を満たすような唯一つの整数商 q および浮動小数点数剰余 r が存在することを示せる。
ユークリッドの整数除法との違いとして、次数条件が剰余 r の境界(非負かつ除数より小さい、このことによって r の一意性が保たれる)に置き換わることがあげられる。整数除法と多項式の除法の類似性から、ユークリッド除法が成立するもっとも一般的な代数学的条件の追求が促されている。このような定理が存在する環をユークリッド整域と呼ぶが、この一般性では商および剰余の一意性は保証されていない[8]。
多項式の除法から剰余の定理(多項式 f(x) を x − k で割るとき、その剰余は定数 r = f(k) となる)と呼ばれる結果が導かれる[9][10]。特に、r = f(k) = 0ならば、f(x)はx − kを因数に持つ(因数定理)。
Rotman, Joseph J. (2006), A First Course in Abstract Algebra with Applications (3rd ed.), Prentice-Hall, ISBN978-0-13-186267-8
Smith, David Eugene (1958), History of Mathematics, Volume 2, New York: Dover, ISBN0486204308
関連図書
Davenport, Harold (1999). The higher arithmetic: an introduction to the theory of numbers. Cambridge, UK: Cambridge University Press. p. 25. ISBN0-521-63446-6
Katz, Victor, ed (2007). The mathematics of Egypt, Mesopotamia, China, India, and Islam : a sourcebook. Princeton: Princeton University Press. ISBN9780691114859
Schwartzman, Steven (1994). "remainder (noun)". The words of mathematics : an etymological dictionary of mathematical terms used in english. Washington: Mathematical Association of America. ISBN9780883855119。
Zuckerman, Martin M. Arithmetic: A Straightforward Approach. Lanham, Md: Rowman & Littlefield Publishers, Inc. ISBN0-912675-07-1