交響曲第64番 イ長調 Hob. I:64 は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが1773年頃に作曲した交響曲。『時の移ろい』(ラテン語: Tempora mutantur)の愛称で知られる。
概要
本作はブライトコプフ・ウント・ヘルテル社の1778年のカタログに現れる[1]。自筆譜は残っていないが、フランクフルト・アム・マインで発見された、明らかにエステルハージ家で使われたパート譜が残っており、使用された紙の研究から、1773年頃のものであることがわかった[2]。
愛称の由来
『時の移ろい』という愛称は、本作のパート譜のカバーにラテン語で書かれた "Tempora mutantur"(テンポラ・ムータントゥル、「時は変わる」の意)という謎めいた言葉が由来となっている。ジョナサン・フォスターによれば、これはエリザベス朝のウェールズのエピグラム作家ジョン・オーウェン(英語版)による有名な詩の冒頭で、全文は
「
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時は変わり、我々も時の中で変わる。どのようにか。人は時とともに悪くなる。 Tempora mutantur, nos et mutamur in illis. Quomodo? Fit semper tempore peior homo.
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」
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というものであるという[3]。この詩がハイドンの音楽とどう関係するかは議論があり、ジョナサン・フォスターはこの句を最終楽章と関係があるものと考えたが、エレーン・シスマンは第2楽章と関係があると考えた[4]。
編成
オーボエ2、ホルン2、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、低音(チェロ、ファゴット、コントラバス)。
曲の構成
全4楽章、演奏時間は約20分[5]。
- 第2楽章 ラルゴ
- ニ長調、4分の3拍子、ソナタ形式。
- 弱音器をつけたヴァイオリンによる旋律を中心とする。きわめて風変わりな曲で、カデンツが期待される場所がことごとく休符になっており、解決が延び延びにされてひどく落ち着かない[4]。最後はホルンの極端に低い音が使われ、静かに終わる。
- 第4楽章 プレスト
- イ長調、2分の2拍子(アラ・ブレーヴェ)、ロンド形式。
- 流れるような快速なフィナーレ。ロンドの主題が終わる前に突然新しいエピソードが挿入される。ロンド主題も単純に繰り返されるわけではなく、転調したり展開したりする。
出典
- ^ 大宮(1981) 表p.6
- ^ 音楽之友社のミニスコアのランドンによる序文
- ^ デッカ・レコードのホグウッドによるハイドン交響曲全集第7巻、ジェームズ・ウェブスターによる解説。1996年
- ^ a b Sisman (1990) p.372
- ^ 音楽之友社のミニスコアによる
参考文献
- 大宮真琴『新版 ハイドン』音楽之友社〈大作曲家 人と作品〉、1981年。ISBN 4276220025。
- 『ハイドン 交響曲集VI(58-65番) OGT 1594』音楽之友社、1982年。 (ミニスコア、ランドンによる序文の原文は1967年のもの)
- Sisman, Elaine (1990). “Haydn's Theater Symphonies”. Journal of the American Musicological Society 43 (2): 292-352. JSTOR 831616.
外部リンク