リュウキュウハタンポ (学名 : Pempheris adusta )はスズキ目 ハタンポ科 に属する海水魚 。インド洋 と太平洋 の熱帯 域に広く生息し、日本でも琉球列島 などでみられる。最大でも全長17cm程度の小型魚で、胸鰭 の基部に淡い黒色斑があることなどから近縁種と識別できる。浅海のサンゴ礁 や岩礁 を群れて泳ぎ、夜間に動物プランクトン を捕食する。
分類
リュウキュウハタンポは、スズキ目 ハタンポ科 のハタンポ属 (Pempheris )に分類される[ 2] 。
本種は1877年にピーター・ブリーカー によって初記載 された。タイプ標本 はモルッカ諸島 のアンボン島 から得られたものであった[ 3] 。本種の学名 はPempheris adusta である。このうち種小名 のadusta はラテン語 で「(茶色 く)焦げた」といった意味の"adustus "に由来する[ 4] 。
本種は広い生息域をもち、これまでにいくつかの生息域の異なる個体群が亜種 として記載されているが、これらの個体群には遺伝的な違いはほとんどないことが明らかにされている[ 5] 。
「リュウキュウハタンポ」という和名 は、ジョン・オターバイン・スナイダー (英語版 ) が沖縄島 から1912年に報告したPempheris oualensis という種 に対し、岡田弥一郎 が1938年に与えたものである。しかしこの後、この和名は文献によって異なる種(学名)に対して使われるなど混乱が続き、学名と標準和名の対応がはっきりしないことから単にPempheris sp. (ハタンポ属の一種)として扱われる[ 6] こともあった。2013年、琉球大学 の小枝ら[ 7] は以上のような和名と学名の対応関係の混乱の歴史を整理した上で、スナイダーが1912年の研究に用いたP. oualensis とされる標本 の特徴が、P. adusta の原記載とほぼ一致することを明らかにした。これを踏まえて小枝らは、スナイダーの標本に基づいて与えられた和名「リュウキュウハタンポ」はP. adusta に適用するべきであると結論づけた[ 7] [ 8] [ 9] 。なお、P. oualensis にはユメハタンポ という和名が提唱されている[ 7] [ 10] [ 11] 。
形態
本種は最大でも全長17 cmにしかならない小型魚である。背鰭 には6棘条 、8-10軟条 をもち、臀鰭 には3棘条36-45軟条をもつ。椎骨 数は25である[ 12] 。臀鰭の基底長は長く、体長の40%に達する。鱗 は櫛鱗 で剥がれやすい[ 13] 。吻 は丸く、体は濃い茶色から赤褐色、腹部は銀白色である[ 2] [ 13] 。背鰭は前方が褐色で、後方に向かうにつれて少し透明になる[ 13] 。
本種は胸鰭 の基部に淡い黒色斑点があることや側線 上に56-64の有孔鱗 があることなどからミナミハタンポ (P. schwenkii ) といった同属の近縁種と区別される[ 2] [ 5] 。
分布
本種はインド太平洋 の熱帯 域に広く分布し、その分布域は西は紅海 やアフリカ 東海岸から、東は中央太平洋 まで広がる[ 12] 。
日本においては琉球列島 でみられるほか、南日本の太平洋側や小笠原諸島 できわめて稀ながら観察される[ 2] [ 6] 。琉球列島以外からの報告はきわめて稀であるため、死滅回遊 の可能性が指摘されている[ 7] 。ただし、鹿児島県 本土では成熟した生殖巣 をもつ個体が得られており、当地で越冬・繁殖が行われている可能性がある[ 8] 。
生態
紅海エジプト 沖の沈没船で群れるリュウキュウハタンポ 本種は水深0-20 mのサンゴ礁 や岩礁 域で群れ て泳ぐ様子がよくみられる。昼間は岩穴や崖の下などに隠れていることが多いが、昼間にも少数がサンゴの隙間などでみられる。ミナミハタンポと混泳することが知られるほか、水面近くでヨゴレマツカサ (英語版 ) (Myripristis murdjan )と小さな群れを作っているのが観察されたこともある。夜間には開けた場所に出て動物プランクトン を捕食する[ 6] [ 12] [ 13] 。
産卵 はふつう4月から6月の間に起きるが、沖縄 では周年起こることが報告されている。産卵は日が沈んだ後におき、標準体長 11cm以上の個体のみが産卵集団に参加する[ 12] 。
利用
観賞魚 や釣り餌 として利用されることがある[ 12] 。
出典
^ Bailly, Nicolas (2008). "Pempheris adusta Bleeker, 1877" . World Register of Marine Species . 2021年11月27日閲覧 。
^ a b c d 『小学館の図鑑Z 日本魚類館』中坊徹次 監修、小学館、2018年、298頁。ISBN 9784092083110 。
^ Eschmeyer, William N.; Fricke, Ron & van der Laan, Richard (eds.). "Pempheris adusta ". Catalog of Fishes. California Academy of Sciences. Retrieved 11 April 2020.
^ Bray, D.J. (2017年). “Pempheris adusta ”. Fishes of Australia . Museums Victoria. 11 April 2020 閲覧。
^ a b Koeda K; Yoshino T; Imai H; Tachihara K (2014). “A review of the genus Pempheris (Perciformes, Pempheridae) of the Red Sea, with description of a new species”. Zootaxa 3793 (3). doi :10.11646/zootaxa.3793.3.1 .
^ a b c 『日本の海水魚』瀬能宏 監修、山と渓谷社、2008年、211頁。ISBN 4635070255 。
^ a b c d 小枝圭太、吉野哲夫、立原一憲「リュウキュウハタンポの識別的特徴と用いるべき学名」『魚類学雑誌』第60巻第2号、2013年、123-128頁、NAID 130005118050 。
^ a b 小枝圭太、本村浩之「鹿児島県本土と薩南諸島 3 島から得られたリュウキュウハタンポPempheris adusta の記録と生物学的知見」『Nature of Kagoshima』第41巻、2015年、139-144頁、NAID 120005617473 。
^ “シノニム・学名の変更 ”. 日本魚類学会 (2013年11月5日). 2021年11月27日 閲覧。
^ 小枝圭太、鏑木紘一、本村浩之「薩南諸島広域から採集されたハタンポ科ユメハタンポPempheris oualensis の記録」『日本生物地理学会会報』第70巻、2015年、275-282頁、NAID 40020740915 。
^ Koeda K; Imai H; Yoshino T; Tachihara K (2010). “First and northernmost record of Pempheris oualensis (Pempherididae), from Ryukyu Archipelago, Japan” . Biogeography 12 : 71-75. https://www.semanticscholar.org/paper/First-and-northernmost-record-of-Pempheris-from-Koeda-Imai/6876353bcb07113c7091b05622030f1d75580508 .
^ a b c d e Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2020). "Pempheris adusta " in FishBase . December 2020 version.
^ a b c d 『奄美群島最南端の島 : 与論島の魚類』本村浩之、松浦啓一 編、鹿児島大学総合研究博物館、国立科学博物館、2014年、270-271頁。ISBN 9784905464044 。