リゲイア海 (リゲイアかい、Ligeia Mare )は、土星の衛星 タイタン の北極 に存在する液体 の湖 。
概要
リゲイア海と地球 のスペリオル湖 の比較。
リゲイア海は、タイタンで2016年 現在発見されている湖の中ではクラーケン海 に次いで2番目に大きく[ 1] 、地球 のスペリオル湖 よりも大きい。湖の主成分は液体メタン であるが、その他にもエタン や溶解窒素 、各種有機化合物 などが含まれていると考えられている[ 2] [ 3] [ 4]
北緯79度西経248度に位置しており、カッシーニ探査機 の観測により湖全体の画像が撮影された。大きさは420km×350kmほどで、面積は126,000km2 、海岸線の長さは2,000km以上に及ぶ。[ 5] リゲイア海はより大きなクラーケン海 と水文学的に繋がっている可能性がある。[ 6]
リゲイアの名称は、ギリシア神話 のセイレーン の一人に由来する。[ 1]
地形
リゲイア海の合成開口レーダー 画像。右はノイズ除去を行った画像。
リゲイア海の海岸線は、小鈍鋸歯状と平坦部の主に二種類の地形から構成されている[ 5] 。前者は丘が多い浸食地形であり、後者は平らな低地で、さらに長い河川が多数注ぎ込んでいる。小鈍鋸歯状の地形は湖の東から南にかけてで優勢で、平坦な地形は西から北にかけてみられる。[ 5] 荒い地形が沿岸まで続く湖の南東部を除いて、丘の地形は海岸線から分離する傾向がある。海岸線には川の河口が沈んでできた湾が多数存在する(リアス式海岸 )が、オンタリオ湖 などとは異なり三角州 のような地形は見当たらないため、近年に水面の上昇があったことが窺える。湖の北東から北西にかけての海岸線全体の1/4ほどにわたる領域には、水深5m以下の広大な浅い水域が広がっており、探査機のレーダーで湖底の地形まで捉えることができる。[ 5] カッシーニ による2013年 の観測では、湖の一部は170m以上の深さがあり、またレーダー波の透過率から湖の液体は非常に純粋なメタン であることが示された。湖の表面も、ミリメートル単位の滑らかさという極めて平らな水面であった。[ 2]
湖の平均水深は50m程度、最大深度は200mを超えると推測される。湖の総体積は7,000 km3 以上とみられる。[ 4]
水文学
"Magic Island"と呼ばれる地形の変化。
リゲイア海が主に純粋なメタン から構成される理由は未だ明らかになっていない。現在考えられているモデルでは、まずタイタンの海は元々エタン が主で、このエタンは大気上層で以下の反応により生成されている。
2 CH4 -> H2 + C2 H6
リゲイア海がエタンを欠いている理由の解明は、将来の観測を待たなければならない。エタンは湖底の地殻内に閉じ込められているという説や、隣接するクラーケン海 に流れ込んでいるという説が考えられているが、いずれも研究は進んでいない。後者の場合、エタンが少ない液体の炭化水素 というのは、タイタンにおける地球 の淡水 のようなものなのかもしれない(タイタンの降水は主にメタンである)。[ 4]
また、タイタンの大気 は、エタン以外にもニトリル やベンゼン といった幅広い光化学生成物を生み出している。これらの物質も同様に降雨となりタイタンの海に流れ込んでいると信じられている。レーダーによる観測データは、リゲイア海の湖底がこれらの有機化合物 からなる薄い層に覆われている可能性を示唆している。[ 7] [ 8]
海岸線の温度の測定結果は、海岸線に炭化水素が浸透していることを示唆している。リゲイア海や他の北極地域の海や湖は、観測中に海岸線が大きく後退した南極のオンタリオ湖 とは対照的に、いずれもカッシーニ の観測期間を通じて安定している。[ 9] しかし特異な現象として、観測初期には湖であった領域に後年になり島とみられる地形が出現した例が確認されている。観測チームに"Magic Island"と名付けられたこの地形は、画像上では260km2 もの広さを持つが、湖の波や泡の誤認とする説の他、水面下にあった氷山 が春になって浮き上がってきた、またはシルト のような物質が漂流しているのではないかといった説が唱えられている。[ 10]
探査
NASA が2009年 に提案したTiME ミッションでは、探査機をリゲイア海に着水させ、探査を行うことが計画された。しかし予算的・技術的問題から計画は2016年現在実現に至っていない。[ 11] [ 12]
スペイン で提案されたTALISE (英語版 ) ミッションも、TiME同様に探査機をリゲイア海に着水させ、探査を行う構想となっている[ 13] 。
画像
リゲイア海の地図。
リゲイア海に流入する全長400km以上の川。
脚注
^ a b “Titan maria ”. Gazetteer of Planetary Nomenclature . USGS Astrogeology Science Center. 2012年3月16日 閲覧。
^ a b “Cassini Spacecraft Reveals Clues About Titan ”. SpaceRef (December 12, 2013). 2013年12月18日 閲覧。
^ “Cassini Explores a Methane Sea on Titan ”. Jet Propulsion Laboratory News (2016年4月26日). 2016年5月27日 閲覧。
^ a b c Le Gall, A.; Malaska, M. J.; Lorenz, R. D.; Janssen, M. A.; Tokano, T.; Hayes, A. G.; Mastrogiuseppe, M.; Lunine, J. I. et al. (2016-02-25). “Composition, seasonal change, and bathymetry of Ligeia Mare, Titan, derived from its microwave thermal emission”. Journal of Geophysical Research: Planets 121 (2): 233–251. doi :10.1002/2015JE004920 .
^ a b c d Stofan, E. R.,; Lunine, J. I.; Lorenz, R. D.; Kirk, R. L.; Aharonson, O.; Hayes, A. G.; Lucas, A.; Turtle, E. P.; Wall, S. D.; Wood, C. A.; Cassini Radar Team (2012). Shorelines of Ligeia Mare, Titan - 43rd Lunar and Planetary Science Conference (PDF) . Lunar and Planetary Institute. 2012年3月20日閲覧 。
^ [1]
^ “Cassini Finds a Lake On Titan That's Almost Completely Methane ”. Astronomy Magazine (2016年4月27日). 2016年4月27日 閲覧。
^ “Cassini explores the depths of a methane sea on Titan ”. Cosmos Magazine (2016年4月27日). 2016年4月27日 閲覧。
^ Turtle, E. P.; Perry, J. E.; Hayes, A. G.; McEwen, A. S. (2011-02-15). “Shoreline retreat at Titan’s Ontario Lacus and Arrakis Planitia from Cassini Imaging Science Subsystem observations” . Icarus 212 (2): 957–959. Bibcode : 2011Icar..212..957T . doi :10.1016/j.icarus.2011.02.005 . http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0019103511000546 2012年3月25日 閲覧。 .
^ Staff. “Planetary Scientists Discover Mysterious Geologic Object on Titan ”. Sci-News.com date=23 June 2014 . 2014年10月11日 閲覧。
^ Stofan, Ellen (25 August 2009). “Titan Mare Explorer (TiME): The First Exploration of an Extra-Terrestrial Sea ”. 2009年11月3日 閲覧。
^ Let's go sailing on lakes of Titan! (November 1, 2009)
^ Landau, Elizabeth (2012年). “Probe would set sail on a Saturn moon ”. 2012年10月9日 閲覧。
関連項目
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外部リンク