マツモ (松藻[ 4] 、学名 : Ceratophyllum demersum )は、マツモ目 マツモ科 に属する水草 の1種であり、マツモ属のタイプ種 である。根を欠き、水中を浮遊または特殊化した枝で水底に固着している。1–2回二叉分岐した葉が輪生している(図1)。この葉が松葉に似ていることから「マツモ」の名がついた[ 5] 。金魚藻 (キンギョモ) と総称される植物の1種であり、しばしばアクアリウム で観賞用に栽培される。
食用とすることがある海藻 のマツモ (Analipus japonicus )は褐藻綱 に属する藻類 であり、被子植物 に属する上記のマツモとは全く異なる生物である。以下は被子植物に属するマツモについて概説する。
特徴
マツモは淡水 の水中に生育する多年生 の水生植物 である[ 6] 。根 を欠き、ふつう水中を浮遊しているが、ときに枝が変化した構造(仮根ともよばれる)によって水底に固着している[ 6] [ 7] [ 8] 。茎は長さ20–300センチメートル (cm)、盛んに分枝する[ 6] [ 9] 。節に5–10枚の葉が輪生する[ 6] (下図2a, b)。葉は長さ8–35ミリメートル (mm)、1–2回(まれに3回[ 10] )二叉分岐して線状の裂片になり、縁にはトゲ状の鋸歯がある[ 6] [ 7] [ 9] (下図2b)。同属の他種にくらべて葉が強壮であるが[ 10] 、葉の大きさや硬さは環境条件による変異が大きい[ 6] 。秋になると茎の先端に葉が密集して越冬芽(殖芽 、長さ 2–6 cm)となり、これが離脱して水底に沈み、越冬する[ 6] [ 7] [ 8] 。また植物体の分断化による栄養繁殖も活発に行う。
2b . 輪生している10枚の葉. 各葉は2回二叉分岐している.
日本での花期は5-8月だが、1年を通じて開花しない集団もある[ 6] 。花 は単性で雌雄同株 、雄花 と雌花 が同一の茎 の別の節につくが、雄花が先に形成される[ 6] [ 7] [ 8] [ 11] 。花は直径 1–3 mm、12枚ほどの苞葉 (花被片 ともされる)で囲まれる[ 7] [ 9] [ 11] 。雄花は10個ほどの雄しべをもつ[ 6] (上図2a, c)。雌花には長い花柱をもつ1個の雌しべが存在する[ 6] (上図2a)。花粉は水中を浮遊し、雌しべに達する(水中媒)[ 6] [ 8] 。
果実は痩果 、暗緑色から赤褐色、長楕円形で長さ 3–6 mm、ふつう先端に1本(宿存性の花柱 )、基部両側に1本ずつ、計3本の長いトゲ状突起(長さ 0.1–14 mm)がある[ 6] [ 7] [ 9] (上図2a)。ニュージーランド などでは種子形成が見つかっていない[ 12] 。染色体 数は 2n = 24, 38, 40, 48, 72 が報告されている[ 7] [ 9] 。
分布・生態
南北アメリカ 、アフリカ 、ユーラシア 、東南アジア 、オーストラリア 北東部など世界中の熱帯 から温帯 域に分布している[ 1] [ 7] 。またニュージーランド などでは外来種 として問題視されている[ 13] 。日本では北海道 から沖縄 まで報告されている[ 6] [ 7] 。
湖沼、ため池 、水路 などに生育し、ふつう水中を浮遊している[ 6] (上図3)。
保全状況評価
マツモは日本全体としては絶滅危惧種 に指定されていないが、下記のように地域によっては絶滅のおそれが高いとされる[ 14] 。以下は2020年現在の各都道府県におけるレッドデータブック の統一カテゴリ名での危急度を示している[ 14] (※埼玉県 ・東京都 ・神奈川県 では、季節や地域によって指定カテゴリが異なるが、下表では埼玉県は全県のカテゴリ、東京都・神奈川県では最も危惧度の高いカテゴリを示している)。
またマツモと別種または同種とされるヨツバリキンギョモ (ヨツバリマツモ、ゴハリマツモ)[ 2] (下記参照 )も愛知県 、長崎県 で絶滅危惧I類、佐賀県 で準絶滅危惧、滋賀県 、熊本県 、沖縄県 で情報不足に指定されている[ 15] 。
人間との関わり
アクアリウム の観賞用水草として使用されることが多く、栽培は容易[ 16] 。金魚藻 (きんぎょも)と総称される水草の1種である。金魚藻とよばれる水草には他にハゴロモモ (フサジュンサイ、カボンバ; ハゴロモモ科 )、オオカナダモ (トチカガミ科 )、フサモ (アリノトウグサ科 )などがあるが[ 17] 、これらはいずれも互いに遠縁の植物である。
分類
マツモは、マツモ属 のタイプ種 である。[ 18] 。また植物の学名 の出発点であるリンネ の『植物の種 』(1753年 ) において記載 された植物の1つである[ 1] 。
種内分類群
マツモは形態変異が大きく、以下のような種内分類群が認識されている(下表1)。
Ceratophyllum platyacanthum
Ceratophyllum platyacanthum はマツモに類似しているが、果実 の上部に花柱 由来のトゲ (stylar spine) に加えてトゲ (facial spine) をもつ点で異なる。Ceratophyllum platyacanthum subsp. platyacanthum はトゲに翼状突起が発達しているが、Ceratophyllum platyacanthum subsp. oryzetorum (ヨツバリキンギョモ)は下方2本、上方2本のトゲが目立つ。後者は日本からも報告されている[ 6] [ 7] (下表2)。C. platyacanthum はマツモと同種[ 19] とされることも、別種[ 20] とされることある[ 10] 。マツモと C. platyacanthum は同所的に出現することもある[ 10] 。
分子系統学的研究からは、Ceratophyllum platyacanthum は系統的にはマツモに含まれることが示されている[ 10] 。C. platyacanthum の染色体 数は72と報告されており、おそらく6倍体起源であると考えられている[ 10] 。このことから、C. platyacanthum は倍数化によってマツモから生じたと考えられている[ 10] 。
表2 . Ceratophyllum platyacanthum の分類
脚注
出典
^ a b c d “Ceratophyllum demersum ”. Plants of the World Online . Kew Botanical Garden. 2021年7月13日 閲覧。
^ a b c 米倉浩司・梶田忠. “植物和名ー学名インデックスYList ”. 2021年7月21日 閲覧。
^ a b c d GBIF Secretariat (2021年). “Ceratophyllum demersum ”. GBIF Backbone Taxonomy . 2021年6月18日 閲覧。
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^ 「マツモ 」『世界大百科事典 第2版』。https://kotobank.jp/word/%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%A2 。コトバンク より2023年2月10日 閲覧 。
^ a b c d e f g h i j k l m n o p 角野康郎 (1994). “マツモ属”. 日本水草図鑑 . 文一総合出版. p. 117. ISBN 978-4829930342
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外部リンク
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