1533年に作られた羅針儀海図
10世紀のベラムを藍染め し、金で書かれたコーラン
ベラム (英語 : vellum 、別名:ヴェラム 、犢皮紙・とくひし )とは、子牛 などの動物の皮をなめして作った皮紙である。
パーチメント(羊皮紙 )が、この素材のカテゴリに含まれたり別名とされる。しかし厳密にいえば、パーチメントがヤギ から作られるのに対し、ベラムと呼ばれるものは子牛から作られたもの、もしくは高級な紙を指す[ 1] 。今日においては、質感が似た紙(擬羊皮紙、別名:硫酸紙 )などにも使用される[ 2] [ 3] [ 4] 。
ベラムは一般的に滑らかで耐久性があるが、処理方法によって大きく異なる。
言葉について
語源
ラテン語 で「子牛から作った」を意味する vitulinum を由来とし、古フランス語で「子牛皮 」を意味する velin を通してVellumとなった[ 5] 。
専門用語
ヨーロッパでは、古代ローマ 時代から「ベラム」という用語は、子牛、子羊、ヤギ、その他(馬、豚、ラクダ、ロバ、鹿、リス、ウサギ・・・)などの皮から作られた高品質な紙の呼称として使用された。最高品質とされる「uterine vellum(ユータライン・ベラム、ウテリン・ベラム「子宮 ベラム」の意)」[ 6] は、死産 児・胎児の皮から作られると言われていたが、若い動物の皮から作られたものにも使用される[ 1] 。しかしながら、これらの用語の境界については長い間ぼやけていた。
パーチメントとの区別
元の語源に近いフランスでは子牛だけからのものとしているが、英国規格協会 では種に関係なく裂けた皮から作られたものとしてパーチメント、裂けてないものをベラムと定義した[ 7] 。
製本などの実務者レベルでは、子牛製のものがベラム、それ以外はパーチメントとしている[ 8] 。
製造
生皮を石灰 (水酸化カルシウム )や水で洗い。石灰水に1日から数日さらし(その後、脱毛酒:dehairing liquor と呼ばれる植物を発酵させた物に浸す場合もある)、毛を柔らかくしてから除去する[ 9] 。奇麗になったところで、内側と外側を区別して処理する。内側の面は外側の生前の傷などがある面よりきれいである。また膜には veining(静脈 )と呼ばれるパターンがある[ 10] 。
残った毛を擦ったりなどして除去し、herseと呼ばれるフレームに取り付け乾燥させる[ 11] 。その際は、外周部に小石を包み破けないよう紐で引っ張る。まだ濡れているうちに、軽石 の粉を内側面に擦るなどの工程を行う作業者もいた。皮はコラーゲン からなるので、一度乾燥すると形状が保持される。その後、三日月形のナイフ(lunarium、または lunellum と呼ばれる。古代ではフリント が使用された。)で最後の毛の処理を行う。
使用者の要求するサイズに裁断する。丸い平らな物で摩り(pouncing)、インクをしみこみやすくする[ 10] 。滑らかで白くするために、石灰、小麦粉などをこすりつける作業や、別の色に染色することもあった。
用途
半透明であるため今ではトレーシングペーパー (別名:擬羊皮紙)が使用されるような書き写しや青図 などに使用されていた。また、政府機関などの格式のある書類で使用されていた。しかし、1849年以来使用していた英国議会は年間8万ポンドのコスト削減のため2016年に終了した[ 12] 。
1500年以降では、広く画家が使用するキャンバス として使用されていたが、水彩 画の技法が広がると滲みの効果が悪かったため別の紙が使用されるようになった。
その他、製本時のカバーやリンプ・ヴェラム (英語版 ) 装丁、ユダヤ教 の経典、バンジョー やバウロン などの楽器 を使用するオーケストラ 等で使用される[ 12] 。
製造する会社
製造が煩雑で代替品もあることから製造量は低下しており、イギリスのバッキンガムシャー を本拠地とする William Cowley(創立1870年 - 現在)が唯一の会社となっている[ 12] 。
関連項目
出典
^ a b Stokes and Almagno 2001, 114
^ Drafting, 60-61
^ “Japanese vellum - CAMEO ” (英語). cameo.mfa.org . 2017年9月3日時点のオリジナル よりアーカイブ。2017年9月3日 閲覧。
^ “How Modern Day Vellum Stationery is Produced” (英語). The Note Pad | Stationery & Party Etiquette Blog by American Stationery . (2011年7月4日). オリジナル の2017年9月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170903010030/http://www.americanstationery.com/blog/how-modern-day-vellum-stationery-is-produced/ 2017年9月3日 閲覧。
^ “vellum ”. Online Etymological Dictionary. 2014年9月4日時点のオリジナル よりアーカイブ。2014年8月9日 閲覧。
^ Houston, Keith (2016). The Book: A Cover-to-Cover Exploration of the Most Powerful Object of Our Time . W.W. Norton & Company . ISBN 978-0-393-24479-3 . オリジナル の2016-12-02時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161202124352/https://blog.longreads.com/2016/12/01/hidebound-the-grisly-invention-of-parchment/ 2 December 2016 閲覧。
^ Young, Laura, A., Bookbinding & conservation by hand: a working guide , Oak Knoll Press, 1995, ISBN 1-884718-11-6 , 978-1-884718-11-3 , Google books Archived 2017-01-18 at the Wayback Machine .
^ エドワード・ジョンストン (1906 et seq.) Writing, Illuminating, and Lettering ; Lamb, C.M. (ed.)(1956) The Calligrapher's Handbook ; and publications of Society of Scribes & Illuminators
^ “The Making of a Medieval Book ”. The J. Paul Getty Trust. 2010年11月25日時点のオリジナル よりアーカイブ。2010年11月19日 閲覧。
^ a b “"Recording the physical features of Codex Sinaiticus". Codex Sinaiticus , in partnership with the British Library ”. 2012年5月1日時点のオリジナル よりアーカイブ。2012年4月2日 閲覧。
^ Clemens and Graham 2007, p. 11.
^ a b c Vellum: UK's last producer of calf-skin parchment fights on after losing Parliament's business (インデペンデント 参照日:2019.5.19)
参考文献
Clemens, Raymond; Graham, Timothy (2007). Introduction to Manuscript Studies . Ithaca: Cornell University Press. ISBN 978-0-8014-3863-9
"Drafting": Dana J. Hepler, Paul Ross Wallach, Donald Hepler, Drafting and Design for Architecture & Construction , 9th edition, 2012, Cengage Learning, ISBN 1111128138 , 9781111128135 , google books
Stokes, Roy Bishop, Almagno, Romano Stephen, Esdaile's Manual of Bibliography , 6th edition, 2001, Scarecrow Press, ISBN 0810839229 , 9780810839229, google books
Ustick, W. Lee (1936). “'Parchment' and 'vellum'”. The Library . 4th ser. 16 (4): 439–43.
外部リンク