パルヴィカーソル [ 1] (学名 :Parvicursor )は、アルヴァレスサウルス科 パルヴィカーソル亜科 に属する獣脚類 の恐竜 の属 [ 2] 。モンゴル国 のゴビ砂漠 に分布するバルンゴヨット層 から化石 が産出しており、後期白亜紀 カンパニアン 期に生息した[ 2] 。ホロタイプ標本は2021年時点で最小のアルヴァレスサウルス科恐竜であるが、幼若個体と見られている[ 2] 。2023年の系統解析ではケラトニクス に最も近縁とされるが[ 3] 、2021年時点でケラトニクスが本属のジュニアシノニムである可能性が指摘されている[ 2] 。
日本語 でのカナ転写表記には表記揺れがあり、パルヴィカーソルの他にはパービクルソル [ 4] 、パルヴィクルソル [ 5] 、パルビクルソル [ 6] と表記される場合がある。
発見と命名
モンゴルにおけるアルヴァレスサウルス科の産出状況。パルヴィカーソルは他の属とともに朱色で示されている。
パルヴィカーソルはモンゴル国 ウムヌゴビ県 のネメグト盆地北部に位置するフルサン (英語版 ) に分布する、上部カンパニアン 階にあたるバルンゴヨット層 で化石が産出している[ 7] 。タイプ種Parvicursor remotus はホロタイプ標本PIN 4487/25 のみが標本として知られる単型 である[ 7] 。1992年に発見された本標本は部分的な骨格であり、主に椎骨 と骨盤 および右後肢 から構成され、1996年に記載に至った[ 7] 。
タイプ種Parvicursor remotus の属名・種小名はいずれもラテン語 に由来する[ 5] 。属名は「小さな」paravus と「走者」cursor の組み合わせからなり、種小名は「遠い」remotus を意味する[ 5] 。
特徴
体サイズと成長
パルヴィカーソルは推定全長39センチメートル程度の小型の獣脚類とされ[ 5] 、グレゴリー・ポール による体重推定値も0.2キログラムとされる[ 4] 。ただし、椎体同士で癒合した仙椎 が少ないこと、遠位足根骨 -中足骨 間に縫合線が存在すること(完全に癒合していないこと)などを根拠とし、Averianov and Lopatin (2021)はホロタイプ標本を幼若個体と判断している[ 2] 。原記載では本標本が成熟個体である根拠が示されていたが、Averianov and Lopatin (2021)は椎体 -神経弓 の癒合が必ずしも成長停止年齢を示唆しないことや根拠の1つであった寛骨臼の大きさがそもそも不明であることなどを挙げ、前提を否定している[ 2] 。
解剖学的特徴
パルヴィカーソルの胴椎 は椎体 の関節面が三角形 に近い[ 2] 。後側の胴椎には腹側に鋭利な稜が存在しており、シシアニクス (英語版 ) やシュヴウイア と区別される[ 2] 。また中部胴椎に大型の含気孔を持つリンヘニクス と異なり、パルヴィカーソルの胴椎は側腔(pleurocoels)を持たない[ 8] 。最後側の仙椎は左右に狭く、また腹側に鋭利なキールを持つ[ 2] 。前側尾椎 の横突起はキウパニクス と比較して前側に位置する[ 2] 。リンヘニクスの前側尾椎の椎体の関節面が前後両方で窪むのに対し、パルヴィカーソルの前側尾椎の椎体は前凹型である[ 8] 。
骨盤 を構成する骨は寛骨臼 の周囲で癒合していない[ 2] 。腸骨 には寛骨臼の背側に水平方向の稜が走っており、その前端はpubic peduncleの最も腹側に発達した部分よりも前側に伸びている[ 2] 。腸骨のうち寛骨臼よりも後側の部分には背側に長軸方向の稜が存在しておらず、ケラトニクス と区別できる[ 2] 。坐骨 のシャフト部は恥骨 のシャフト部と同程度の高さであり[ 2] 、恥骨は強く後側に向く[ 4] 。
後肢は顕著に細い[ 4] 。大腿骨頸は背側から見て転子稜に対し垂直である[ 2] 。大腿骨 には第四転子 が存在せず、モノニクス やケラトニクスやネメグトニクス (英語版 ) と異なる[ 2] 。転子稜はモノニクスやヤキュリニクス と同様に直線状であり、内側にカーブする他のアルヴァレスサウルス科の属と異なる[ 3] 。また、大腿骨外側顆の外側面に顕著な外側突起が存在する点もモノニクスやヤキュリニクスと共通する[ 3] 。一方で、大腿骨外側顆のectocondylar tuberが内側顆よりも後側に拡大することはヤキュリニクスと異なる[ 3] 。膝窩 が遠位に位置する点はモノニクス、シシアニクス、シュヴウイアと異なる[ 2] 。またリンヘニクス のものよりも目立つentocondylar tuberが存在し、かつシシアニクスと異なり後外側に向く[ 2] 。
脛骨 近位端の内側顆はヤキュリニクスほど頑強でない[ 3] 。距骨 はアルビニクス (英語版 ) と異なり深い溝が存在しない[ 2] 。第II中足骨 と第IV中足骨 は共同骨化しておらず、シシアニクスやアルビニクスと異なる[ 2] 。また間に挟まれた第III中足骨は伸筋表面が平坦であり、モノニクスやシュヴウイアと異なる[ 2] 。加えて第III中足骨は近位端部に左右方向の拡大が認められる点でアルバートニクス と異なる[ 2] 。
第II趾から第IV趾にかけての基節骨 はアルバートニクスのものと比較してプロポーション的に長い[ 2] 。第IV基節骨の近位腹側には1個の切痕が存在する[ 2] 。第II末節骨 は第II中節骨 よりも短く、第IV趾の2番目から4番目にかけての趾骨はそれぞれ長さがほぼ等しい[ 2] 。第V趾の趾骨は比較的長い[ 2] 。
分類
小型アルヴァレスサウルス類の大きさ比較。パルヴィカーソルが緑色、ケラトニクスが赤色
Lngrich and Currie (2009)はツグリキンシレから産出したアルヴァレスサウルス科の化石がパルヴィカーソル属に属する可能性を指摘した[ 9] 。この小型恐竜の化石は第一仙椎に腹側のキールを持つ点と第IV中足骨が長い点でパルヴィカーソルとの共通点を示し、また系統解析においてもパルヴィカーソルの姉妹群という非常に近縁な位置に置かれた[ 9] 。しかし、Lngrich and Currie (2009)では簡単な言及に留まっており[ 9] 、後続研究であるAverianov and Lopatin (2021)では第II末節骨が大型であることからパルヴィカーソルとしての同定を否定されている[ 2] 。
Averianov and Lopatin (2021)では、ケラトニクスとパルヴィカーソルとの間の差異が個体成長や個体差で説明できる軽微なものであるとされ、両者がシノニムである可能性が提唱された[ 2] 。Dyke and Naish (2011)ではリンヘニクスがパルヴィカーソルのジュニアシノニムである可能性が指摘されたが[ 10] 、これはXu et al. (2011)が椎骨の形態や第III中足骨の長さに基づいて否定した[ 8] 。Averianov and Lopatin (2021)はリンヘニクスについて類似性を指摘するに留めている[ 2] 。
系統
Kubo et al. (2023)の系統解析において、パルヴィカーソルはケラトニクスとの姉妹群を形成し、さらにこの2属からなる分岐群がリンヘニクスと姉妹群を形成した[ 3] 。以下のクラドグラム はKubo et al. (2023)に基づく[ 3] 。
バルンゴヨット層から産出した他のアルヴァレスサウルス科にはオンドグルヴェル (英語版 ) とフルサヌルス (英語版 ) とケラトニクスがおり、特に後者2属がパルヴィカーソルと同じく下部バルンゴヨット層から産出している[ 3] 。この他にもパルヴィカーソル亜科に属さないネメグトニクス (英語版 ) や、パルヴィカーソル亜科のうち異なる分岐群に位置づけられるヤキュリニクス がネメグト盆地から得られており、アルヴァレスサウルス科が後期白亜紀の短期間のうちに湿潤環境と乾燥環境の両方を示すネメグト盆地において多様化したことが示唆されている[ 3] 。
出典
^ 『鳥のように眠る新種の恐竜をモンゴルで発見~恐竜の生態から明らかになる、鳥類への休眠行動の進化~ 』(プレスリリース)北海道大学 、2023年11月16日。https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/231116_pr.pdf 。2024年6月11日 閲覧 。
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac Alexander O. Averianov; Alexey V. Lopatin (2021). A re-appraisal of Parvicursor remotus from the Late Cretaceous of Mongolia: implications for the phylogeny and taxonomy of alvarezsaurid theropod dinosaurs, Journal of Systematic Palaeontology . 19 . pp. 1097-1128. doi :10.1080/14772019.2021.2013965 . https://doi.org/10.1080/14772019.2021.2013965 .
^ a b c d e f g h i Kubo, Kohta; Kobayashi, Yoshitsugu; Chinzorig, Tsogtbaatar; Tsogtbaatar, Khishigjav (2023-11-15). “A new alvarezsaurid dinosaur (Theropoda, Alvarezsauria) from the Upper Cretaceous Baruungoyot Formation of Mongolia provides insights for bird-like sleeping behavior in non-avian dinosaurs” (英語). PLOS ONE 18 (11): e0293801. doi :10.1371/journal.pone.0293801 . ISSN 1932-6203 . https://doi.org/10.1371/journal.pone.0293801 .
^ a b c d グレゴリー・ポール 著、東洋一 、今井拓哉、河部壮一郎、柴田正輝、関谷透、服部創紀 訳『グレゴリー・ポール恐竜事典 原著第2版』東洋一 、今井拓哉 監訳、共立出版 、2020年8月31日、147頁。ISBN 9784320047389 。
^ a b c d 松田眞由美 『語源が分かる恐竜学名辞典』小林快次 、藤原慎一 監修、北隆館 、2017年1月20日、398頁。ISBN 978-4-8326-0734-7 。
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