デスマトスクス
地質時代
三畳紀 後期
分類
種
D. spurensis Case, 1921 (模式種 )
D. smalli Parker, 2005 [ 1]
デスマトスクス (学名 :Desmatosuchus )は、主竜類 アエトサウルス目 の絶滅した属。後期三畳紀 に生息していた。
形態
D. spurensis とヒトの比較
デスマトスクスは全長4.5メートル以上の巨大な四足歩行動物であった[ 2] 。背骨には椎間板 と3つの仙椎 があった。肩甲骨 には大きな肩峰(アクロミオン)が存在した[ 2] 。前肢は後肢よりも遥かに短く、上腕骨 の長さは大腿骨 の2/3にあたる[ 3] 。大腿骨は比較的長く真っ直ぐであり、足関節があり、踵骨 の結節に由来する大きな踵 があった[ 3] 。
D. spurensis の頭骨
頭蓋骨は平均して長さ37センチメートル、幅18センチメートル、高さ15センチメートルと、体格に対して比較的矮小であった。脳頭蓋は頭蓋骨の最上部や口蓋と強固に癒着していた。細い前上顎骨 は叉に分岐して前方で広がり、シャベル 状の構造を形成していた[ 2] 。デスマトスクスは前上顎骨の歯を欠いた唯一知られているアエトサウルス目であるという点において特異的である[ 2] 。前上顎骨は上顎骨 と緩く組み合わさり、関節は柔軟であったと考えられている。上顎骨には10本から12本の歯が生えていた[ 2] 。また鼻腔 の深部は非常に薄い鋤骨 に覆われ[ 2] 、比較的その容積は大きく口蓋全体の長さの約半分を占めていた[ 2] 。下顎には基本的に5本から6本の歯が並び、先端部には歯のない嘴 を有していた[ 2] 。下顎の歯列は下顎の長さの半分まで続き、先端部は上顎と同様に歯がなく角質の嘴に覆われていた[ 2] 。歯列の後ろには下顎窓 が存在した。
デスマトスクスの個体には装飾が多く、中央の2列の鱗甲が側方の2列の鱗甲に挟まれて背中の甲板が形成されていた。側方の鱗甲は横や背中の後方に突き出した発達した棘の構造を持っていた[ 4] 。典型的に5対の棘があり、後方ほど大きなものとなる。最後方の棘は28センチメートル前後に達して非常に大きく、湾曲もしている。標本によって長さは異なるものの、前方4対の棘は5対目の棘よりも遥かに短い[ 2] 。このような棘を持つアエトサウルス目の生物はデスマトスクス以外に知られていない[ 4] 。
発見と分類
デスマトスクスは19世紀 後半に初めて発見された。エドワード・ドリンカー・コープ はアメリカ合衆国 テキサス州 ドックム層群から発見された外骨格をエピスコポサウルス属の種(Episcoposaurus haplocerus )として分類し[ 5] 、後にケーズはテコヴァス層で発見された部分的な骨格をデスマトスクス属の種(Desmatosuchus spurensis )として分類した[ 6] 。コープとケーズがそれぞれ調査した地域はわずか数キロメートルしか離れておらず、2つの種はDesmatosuchus haplocerus のシノニムとされた[ 5] 。
パーカーは2008年にデスマトスクスの分類を再検討し、E. haplocerus のレクトタイプ標本がデスマトスクス属のものであることを発見したが、このとき種までは同定不能と判断された。そのためE. haplocerus は疑問名とされ、D. spurensis がデスマトスクス属のタイプ種として扱われるようになった。D. spurensis とデスマトスクス属の研究への貢献を称えブライアン・J・スモールの名を取ったD. smalli が有効と認められた[ 7] 。D. chamaensis は異なる属とみなされているが、ヘリオカンタス属(Heliocanthus )やリオアリバスクス属(Rioarribasuchus )といった名称が用いられるか否かについての議論が続いている。
以下はジュリア・B・デソジョやマーティン・D・エズキュラ及びエディオ・E・キスチュラットによる2012年 の研究結果を簡略化した系統図である[ 8] 。
ミシガン自然史博物館所蔵のデスマトスクス骨格
アエトサウルス目
アエトサウロイデス
スタゴノレピス科
アエトサウルス
コアホマスクス
ネオアエトサウルス
カリプトスクス
スタゴノレピス
アエトバーバキノイデス
ティポトラックス亜科
デスマトスクス亜科
シエリタスクス
ロンゴスクス
ルカスクス
アカエナスクス
デスマトスクス
Desmatosuchus haplocerus
Desmatosuchus smalli
生態
D. haplocerus の復元図
デスマトスクスの骨や装甲はドックム層群やチンレ層群及びポスト採石場において豊富であり、後期三畳紀 に繁栄していたことが示唆されている[ 2] 。デスマトスクスは群れや家族単位で移動していた可能性があり、これは比較的狭い領域から複数のデスマトスクスの骨が発見されていることが裏付けとなっている[ 2] 。
デスマトスクスの歯は尖っておらず球根 状で、わずかに湾曲していた。さらに同形歯性の歯列だったと推察されており[ 2] 、シャベル状の顎を利用して柔らかい植物を掘り起こし摂食していたことが示されている[ 4] 。証拠として歯がなく角質の鞘に覆われた吻部先端が挙げられ、この鞘は骨の保護や物体の切断・保持に役立ったとされている[ 9] 。以上からデスマトスクスは、ドックム地域の豊満な河川と湖沼の水で柔らかくなった水辺付近の泥の中で植物を掘っていたと推察されている。またデスマトスクスの装甲は、水辺で生活していたと知られている他の爬虫類の一部とともにしばしば発見される[ 2] 。デスマトスクスの歯がどのように生え変わったか、そもそも生え変わりがあったか否かについては定かではない。デスマトスクスの歯はあまり発見されておらず、これは歯が軟組織のみと接続していたことを示唆している[ 2] 。顎関節は歯列の下にあり、上顎と下顎の歯列を平行に保って鳥盤類 の恐竜のように噛んでいた[ 9] 。
ポストスクス とデスマトスクス
デスマトスクスの装甲と棘は捕食動物から防御する唯一の手段であった。側方の棘は個体差が大きく、特に前から2番目の棘において顕著であり、性別による差であるとする指摘もあり[ 4] 異性へのディスプレイである可能性もある[ 2] 。この棘があってもデスマトスクスは捕食動物に襲われることがあり、ポストスクス の骨格からデスマトスクスの骨の一部が発見され、捕食されていたことが示唆されている[ 2] 。ポストスクスをはじめとする三畳紀の捕食動物も群れで行動をしていたため、デスマトスクスの群れる習性が狩りの成功率を大きく下げることはほぼなかった[ 2] 。
三畳紀後期の大半の槽歯目 は深い寛骨臼 や寛骨臼周辺の隆起といった歩行の補助に役立つ骨盤の構造を欠いており、このため直立姿勢であっても這う爬虫類と大差のない可動性しか持たなかった[ 10] 。一方でデスマトスクスは長大な大腿骨や細長い恥骨 とともに上記の特徴を備えていたため、同時期の多くの槽歯目よりも活発に移動ができた。[ 2] この移動性の高さがデスマトスクスがドックム地域における主要な植物食性動物となる要因となった[ 2] 。
デスマトスクスは雑食性ないし昆虫食性であった可能性もある。これはデスマトスクスと現代のアルマジロ の間に共通点が複数ある[ 11] ためである。例を挙げると、両者には装甲があり、末端に歯のない長い吻部を持つ。また後期三畳紀にはミツバチ やスズメバチ 及びシロアリ といった生物が出現しており、アルマジロが捕食対象としている昆虫とデスマトスクスが同時期に生息していたことを示す[ 11] 。さらにアルマジロには釘のような形状の歯があるものの、大半の歯の形状はデスマトスクスのものと類似している。また本数も基本的に6本で共通している。アルマジロとデスマトスクスの四肢には肥大化している部位があり、両者とも四肢の筋肉が大きかったことを示唆している[ 11] 。ただしデスマトスクスの後肢には隆起があるものの前肢には見られず、アルマジロのようには地面を前肢で掘る能力に長けていないと考えられるため、この推論は強いものではない。このような類似点が見られるものの、一般的にはデスマトスクスは植物食性だった可能性が最も高いとされている[ 2] [ 10] 。
文化面
刺々しい外見と植物食という食性のギャップもあってか、恐竜以外の古生物の中では、比較的メディア出演が多い。
映像作品
『恐竜再生 』
『恐竜vsほ乳類 』
漫画
『Dino2 』
『恐竜物語 』所十三(作)
関連項目
出典
^ Parker, William G. (June 2005). “A new species of the Late Triassic aetosaur Desmatosuchus (Archosauria: Pseudosuchia)”. Comptes Rendus Palevol 4 (4): 327–340. doi :10.1016/j.crpv.2005.03.002 .
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u Small, Bryan John (December 1985). The Triassic thecodontian reptile Desmatosuchus: osteology and relationships (Masters thesis). Texas Tech University . hdl :2346/19710 。
^ a b Charig, Alan J. (1972). “The evolution of the archosaur pelvis and hindlimb: an explanation in functional terms”. In Joysey, Kenneth A.; Kemp, Thomas S.. Studies in Vertebrate Evolution . Edinburgh: Oliver and Boyd. pp. 121–155. ISBN 978-0050021316 . OCLC 844318914
^ a b c d Palmer, D., ed. (1999). The Marshall Illustrated Encyclopedia of Dinosaurs and Prehistoric Animals . London: Marshall Editions. p. 96. ISBN 1-84028-152-9 。
^ a b Parker, William G. (March 2007). “Reassessment of the aetosaur "Desmatosuchus" chamaensis with a reanalysis of the phylogeny of the Aetosauria (Archosauria: Pseudosuchia)”. Journal of Systematic Palaeontology 5 (1): 41–68. doi :10.1017/S1477201906001994 .
^ Gregory, Joseph T. (3 June 1953). “Typothorax and Desmatosuchus” . Postilla (Yale Peabody Museum) 16 : 1–27. http://peabody.yale.edu/sites/default/files/documents/scientific-publications/ypmP016_1953.pdf .
^ Parker, William G. (12 May 2008). “Description of new material of the aetosaur Desmatosuchus spurensis (Archosauria: Suchia) from the Chinle Formation of Arizona and a revision of the genus Desmatosuchus ” . PaleoBios (University of California Museum of Paleontology) 28 (1): 1–40. http://www.ucmp.berkeley.edu/science/paleobios/abstracts_26to30.php#pb281 .
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