スキューズ数 (スキューズすう、Skewes number)は、南アフリカ の数学者スタンレー・スキューズ が素数 の個数に関する研究において用いた、極めて大きな数である。具体的には、x 以下の素数の個数 π(x ) および 対数積分 li(x ) について、 π(x ) > li(x ) を満たす最小の自然数 x の上界としてスキューズが与えた数を指すが、このような x 自体を指すこともある。2021年時点で、このような x は 1014 より大きく 1.3983 × 10316 未満であることが知られているが、正確な値は不明である。
歴史
素数定理 によれば、π(x ) は漸近的に li(x ) に等しい。実際の値を比較すると、現実的に計算が実行可能な程度に x が小さいあいだは常に li(x ) の方が大きいように見える。このことから、π(x ) > li(x ) となる x が存在するか、という問題が自然に考えられる。ガウス やリーマン はそのような x は存在しない、と予想していた。スキューズの指導教官であるリトルウッド は、1914年 の論文において、そのような x が存在することのみならず、π(x ) − li(x ) の符号は無限回変わることを示した。すなわち、π(x ) と li(x ) は無限回抜きつ抜かれつするのである。しかし、リトルウッドの証明は、いつ初めて π(x ) が li(x ) を追い抜くか、という見積もりを与えるようなものではなかった。
スキューズは、1933年 の論文において、リーマン予想 が真であるとの仮定の下に、π(x ) > li(x ) となる x は、次の数以下に存在することを証明した。
e
e
e
79
(
≈ ≈ -->
10
10
10
33.947
<
10
10
10
34
)
{\displaystyle e^{e^{e^{79}}}\left(\approx 10^{10^{10^{33.947}}}<10^{10^{10^{34}}}\right)}
これがオリジナルのスキューズ数であり、第一スキューズ数 とも呼ばれる。
後にグラハム数 などにその座を譲ることになるが、当時としては意味のある数学的議論に登場する最大の数であった[ 3] 。なお、この見積もりは非常に大雑把なものであり、後述のように評価は大幅に改良される。
さらに、スキューズは1955年 には、リーマン予想が真であると仮定することなしに、x は次の数以下に存在することを証明した。
e
e
e
e
7.705
(
<
10
10
10
964
)
{\displaystyle e^{e^{e^{e^{7.705}}}}\left(<10^{10^{10^{964}}}\right)}
これは第二スキューズ数 と呼ばれる。よりシンプルな表現の近似
10
10
10
10
3
{\displaystyle 10^{10^{10^{10^{3}}}}}
も第二スキューズ数の近似値としてしばしば用られる。
評価の改良
スキューズの与えたこれらの見積もりは非常に大きいため、より小さな評価を与える研究が進められた。それは、コンピュータを用いてリーマンゼータ関数 の零点 を計算することによって行われる。Lehman (1966) が示したところによると、1.53 × 101165 から 1.65 × 101165 の間に π(x ) > li(x ) となるような整数 x が連続して 10500 個以上ある。H. J. J. te Riele (1987) は上からの評価を約 7 × 10370 にまで、Bays & Hudson (2000) は約 1.3983 × 10316 にまで下げ、その付近に π(x ) > li(x ) なる x が存在することを示した。
一方、Rosser & Schoenfeld (1962) は、x < 108 においては常に π(x ) < li(x ) であることを示した。この記録は Brent (1975) によって 8 × 1010 にまで、Kotnik (2008) によって 1014 にまで更新された。
正確にいつ初めて π(x ) が li(x ) が追い抜くのかは、未解決の問題である。それどころか、π(x ) > li(x ) となる具体的な x の値はひとつも知られていない。
Wintner (1941) は、π(x ) > li(x ) なる x の割合は正であることを示し、Rubinstein & Sarnak (1994) はその割合がおよそ 0.00000026 であることを示した。
出典
^ 『モジュライのたのしみ : フォーラム:現代数学の風景』28号、日本評論社〈数学の楽しみ〉、2001年12月、100頁。 NCID BA54557143 。
参考文献
Bays, C.; Hudson, R. H. (2000), “A new bound for the smallest x with π(x ) > li(x )” , Mathematics of Computation 69 (231): 1285--1296, MR 1752093 , http://www.ams.org/mcom/2000-69-231/S0025-5718-99-01104-7/S0025-5718-99-01104-7.pdf
Brent, R. P. (1975), “Irregularities in the distribution of primes and twin primes” , Mathematics of Computation (American Mathematical Society) 29 (129): 43--56, doi :10.2307/2005460 , MR 0369287 , http://jstor.org/stable/2005460
Chao, Kuok Fai; Plymen, Roger (2005), “A new bound for the smallest x with π(x ) > li(x )” , International Journal of Number Theory 6 : 681--690, doi :10.1142/S1793042110003125 , http://arXiv.org/abs/math/0509312
Kotnik, T. (2008), “The prime-counting function and its analytic approximations”, Advances in Computational Mathematics 29 : 55–70, doi :10.1007/s10444-007-9039-2
Lehman, R. Sherman (1966), “On the difference π(x ) - li(x )”, Acta Arith. 11 : 397--410, MR 0202686
Littlewood, J. E. (1914), “Sur la distribution des nombres premiers”, Comptes Rendus 158 : 1869–1872
Skewes, S. (1933), “On the difference π(x ) − Li(x )”, Journal of the London Mathematical Society 8 : 277–283
Skewes, S. (1955), “On the difference π(x ) − Li(x ) (II)”, Proceedings of the London Mathematical Society 5 : 48–70, MR 0067145
te Riele, H. J. J. (1987), “On the sign of the difference π(x ) − Li(x )” , Mathematics of Computation 48 (177): 323–328, MR 0866118 , http://links.jstor.org/sici?sici=0025-5718%28198701%2948%3A177%3C323%3AOTSOTD%3E2.0.CO%3B2-N
Rosser, J. B.; Schoenfeld, L. (1962), “Approximate formulas for some functions of prime numbers”, Illinois Journal of Mathematics 6 : 64–94, MR 0137689
Rubinstein, M.; Sarnak, P. (1994), “Chebyshev's bias” , Experiment. Math. 3 (3): 173–197, MR 1329368 , http://projecteuclid.org/euclid.em/1048515870
Wintner, A. (1941), “On the distribution function of the remainder term of the prime number theorem” , Amer. J. Math. (The Johns Hopkins University Press) 63 (2): 233–248, doi :10.2307/2371519 , JSTOR 10.2307/2371519 , MR 0004255 , http://links.jstor.org/sici?sici=0002-9327%28194104%2963%3A2%3C233%3AOTDFOT%3E2.0.CO%3B2-N
関連項目
外部リンク