サラ・ジェーン・ムーア (Sara Jane Moore , 1930年 2月15日 - )は、1975年にジェラルド・フォード 大統領 暗殺未遂事件 を起こしたことで知られるアメリカ合衆国の女性である[ 1] [ 2] 。事件により終身刑 が宣告された彼女は32年間服役した後、2007年12月31日に仮釈放となった。ムーアの17日前には同じカリフォルニア州 でリネット・"スクィーキー"・フロム (英語版 ) もフォード大統領暗殺未遂事件 (英語版 ) を起こしており、2020年時点で女性によるアメリカ大統領暗殺未遂事件はこの2例のみである。
背景
ウェストバージニア州 チャールストン でルース(旧姓はムーア)とオラフ・カーンの娘として生まれる[ 3] 。父方の祖父母はドイツ系移民である[ 4] 。ムーアは看護学校の学生、婦人陸軍部隊員 、会計士であった。彼女は5回の離婚経験があり、1975年の事件前には4人の子供をもうけていた[ 5] [ 6] 。キリスト教徒 の家庭であったが[ 4] 、後にユダヤ教 を実践し始めた[ 7] 。
ムーアの友人によると彼女はパトリシア・ハースト に魅了され、執着していた[ 8] 。ハーストがシンバイオニーズ解放軍 (SLA)に誘拐される事件が発生した後、SLAから「『人々』に対する『犯罪人』」と非難されていたランドルフ・ハースト (英語版 ) は貧困層に食料を配給する組織であるピープル・イン・ニード(PIN)を設立し[ 8] 、ムーアはそのPINで簿記係のボランティアをしていた。また暗殺未遂事件当時はFBI への情報提供者も務めていた[ 5] [ 8] [ 9] 。
フォード大統領暗殺未遂事件
暗殺未遂事件直後の様子
ムーアは1975年初頭にシークレットサービス によって調査されていたが、当局は彼女が大統領に危険をもたらさないと結論づけていた[ 10] 。また彼女は暗殺未遂事件の前日に違法な拳銃所持の罪で逮捕されていたが釈放された。警察は44口径 のリボルバー と113発の弾薬を没取していた。
ムーアは1975年9月22日にサンフランシスコで事件を起こした。それはリネット・"スクィーキー"・フロム (英語版 ) によるフォード大統領暗殺未遂事件 (英語版 ) から17日後であった。セント・フランシス・ホテル (英語版 ) 前の群衆に混じっていた彼女はフォードから40フィート (12 m)離れた位置[ 11] から38口径 のリボルバーで1発撃った[ 2] 。彼女はその朝急いで購入した銃を使ったために着弾点が狂ったため、わずかに狙いを逸らしてしまった[ 12] 。
狙いを外したことに気付いた彼女はすぐに2発目のために構えようとしたが、元海兵隊員 であるオリヴァー・シップル (英語版 ) が飛び込み、腕をつかまれたためにフォードの命は救われた[ 13] [ 14] 。当時のシップルは「(彼女の銃が)そこに向けられるのを見たのでそれをつかんだ。(中略)女性の腕に突っ込んでつかんで、銃が消えた」と述べた[ 15] 。2発目の弾丸は跳ね返り、当時42歳だったタクシー運転手のジョン・ルートヴィヒに当たったが一命を取り留めた[ 16] 。ムーアに判決を下した地方裁判所判事のサミュエル・コンティ (英語版 ) は彼女が自分の銃を持っていたならばフォードは死んでおり、失敗したのは「彼女の銃に欠陥があったから」という見解を述べた[ 12] 。
裁判と投獄
ムーアは暗殺未遂を認め[ 17] 、終身刑 が言い渡された[ 18] [ 19] 。彼女はダブリンの連邦女性刑務所 (英語版 ) に収監され、UNICOR (英語版 ) 刑務作業 プログラムで時給1.25ドルで被収容者主任業務会計士を務めた[ 11] [ 20] 。連邦刑務所局 の登録番号は04851-180であった[ 21] 。
仮釈放
終身刑が宣告されて32年後の2007年12月31日、77歳のムーアは仮釈放 となった。フォードは彼女の仮釈放の1年と5日前の2006年12月26日に自然死していた。ムーアは暗殺未遂事件を「過激な政治的見解に盲目だった」[ 22] [ 23] 、「成功しなかったことを非常に嬉しく思っている。今の私は実行したのが間違いだったとわかっている」と振り返った[ 24] 。
2019年2月、ムーアは保護観察官への連絡無しで国外に旅行したために仮釈放違反で逮捕された[ 25] 。
ポップカルチャーでの描写
スティーヴン・ソンドハイム とジョン・ウェイドマン (英語版 ) のミュージカル劇『アサシンズ 』では9人の主人公の暗殺者の1人としてムーアの物語が取り上げられた。
2009年、28年にわたってムーアと連絡を取っていた作家のジェリ・シュピーラーによる伝記『Taking Aim at the President 』が出版された[ 26] [ 27] 。
参考文献
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^ Spieler, Geri (2009). Taking Aim at the President: The Remarkable Story of the Woman Who Shot at Gerald Ford . New York: Palgrave Macmillan. ISBN 9780230610231 . OCLC 226357171 . https://archive.org/details/takingaimatpresi00spierich
^ “Taking Aim at the President ”. gerispieler.com. 2015年7月23日時点のオリジナルよりアーカイブ 。2015年7月23日 閲覧。
外部リンク