ウェストミンスター公爵 (英語 : Duke of Westminster ) は、連合王国貴族 の公爵 位の一つ。1874年 に第3代ウェストミンスター侯爵ヒュー・グローヴナー が叙されたのに始まる。爵位名はロンドン 中心部の地区名ウェストミンスター に由来する。ロンドン ・メイフェア を中心に莫大な土地を所有しており、全ての英国貴族の中でも最も富裕な貴族である。現在の当主は第7代ウェストミンスター公爵ヒュー・グローヴナー である。
歴史
ウェストミンスター公爵家の邸宅イートン・ホール (英語版 )
チェシャー ・ヒューム(Hulme)のラルフ・グローヴナー(Ralph Grosvenor)は、1440年代 に婚姻によってチェシャーにあるカントリー・ハウスイートン・ホール (英語版 ) を獲得した。以来グローヴナー家は現在までここを本拠としている。15世紀 以降グローヴナー家は着実に土地を増やしていき、地元社会の名士としての地位を高めた。1580年代 以降特に利益を上げたのが北ウェールズ の鉱山の賃料や使用料だった[ 1]
チェシャー選挙区 (英語版 ) 選出の庶民院 議員、またチェシャーとデンビーシャー のハイシェリフ (英語版 ) を務めたリチャード・グローヴナー (英語版 ) (1584-1645) は、1622年 2月23日 にイングランド準男爵位の(チェシャー州におけるイートンのグローヴナー)準男爵 (Baronet "Grosvenor, of Eaton, co. Chester")に叙せられている[ 2] 。彼は1640年代のイングランド内戦 中には王党派に金銭支援した。この影響でグローヴナー家の家計は一時的に困窮したが、1677年 までには回復させることに成功している[ 1] 。
3代準男爵サー・トマス・グローヴナー (英語版 ) (1656-1700) は1677年に当時のロンドン郊外に存在した数百エーカーの土地を所有するメアリ・デイヴィスと結婚した。ロンドンの市街地が広がるにつれ、ウェストミンスター宮殿に近いこの土地は高級地区として開発され、現在のメイフェア 周辺へと変貌した。そのためウェストミンスター公爵家は現在でもメイフェア一帯に1400軒を超える不動産を所有している。グローヴナー・スクエア 、ベルグレイヴ・スクエア 、ノース・オードリー・ストリート など公爵家に因んだ名称も多い。
7代準男爵サー・リチャード・グローヴナー (1731-1802) は、チェスター市選挙区 (英語版 ) から選出されてホイッグ党 所属の庶民院議員を務め、1761年 4月8日 にグレートブリテン貴族 チェスター州におけるイートンのグローヴナー男爵 (Baron Grosvenor, of Eaton in the County of Chester)に叙されて貴族院 議員に転じた。さらに1784年 7月5日 にはグレートブリテン貴族のグローヴナー伯爵 (Earl Grosvenor)とチェスター州におけるベルグレイヴのベルグレイヴ子爵 (Viscount Belgrave, of Belgrave in the County of Chester)に叙せられた[ 4] [ 5] 。
その息子である2代グローヴナー伯爵ロバート・グローヴナー (1767-1845) も襲爵前にトーリー党 の庶民院議員を務め、海軍省政務官(Lord of the Admiralty)やインド問題弁務官(Commissioner for Indian Affairs)などの政府役職を務めた。1802年に父の爵位を継承し、ついで1831年 9月13日 に連合王国貴族 ウェストミンスター侯爵 (Marquess of Westminster)に叙せられている[ 6] [ 7] 。
2代侯爵リチャード・グローヴナー (英語版 ) (1795-1869)は王室家政長官 (英語版 ) やチェシャー統監 (英語版 ) を務めた政治家で 、彼の三男リチャード (英語版 ) はストールブリッジ男爵 (Baron Stalbridge)に叙されている。[ 8] [ 9]
3代侯爵ヒュー・ルーパス・グローヴナー (1825-1899) は、襲爵前に自由党 の庶民院議員を務めた後、1869年 に襲爵し、1874年 2月27日 に連合王国貴族爵位ウェストミンスター公爵 (Duke of Westminster)に叙せられた。1880年から1885年にかけては第二次グラッドストン内閣 で主馬頭 を務めた[ 10] [ 11] 。
2019年 現在の当主は初代公の曽々孫にあたる7代ウェストミンスター公爵ヒュー・グローヴナー (1991-) である[ 10] [ 12] 。
ロンドンの他にもイングランドやスコットランド内に10万エーカーを超える土地を有しており、相続税・財産税対策でアメリカのカルフォルニアやオーストラリアにも多数の不動産を所有している。公爵家が所有する不動産はグローヴナー・グループ によって管理されている。
ウェストミンスター公爵家最盛期の第一次世界大戦 直後の頃には同家は世界第三位の富豪だった(一位はアメリカのヘンリー・フォード 、二位はアメリカのロックフェラー )。現在でも英国貴族の中ではトップの、平民や外国人を含めても英国有数の資産家である。2015年 のサンデー・タイムズ・リッチ・リスト (英語版 ) は、ウェストミンスター公爵の総資産額を約85億6,000万ポンド(約1兆5,408億円)と試算し、英国内で経済活動する者の中で第9位の資産家としている[ 14] 。
本邸はイートン・ホール[ 10] 。紋章に刻まれるモットーは「家柄ではなく美徳を(Virtus Non Stemma)」[ 10] 。
現当主の保有爵位/準男爵位
現当主ヒュー・グローヴナー は以下の爵位・準男爵位を保有している[ 10] [ 12]
第7代ウェストミンスター公爵 (7th Duke of Westminster)
(1874年 2月27日 の勅許状による連合王国貴族 爵位)
第9代ウェストミンスター侯爵 (9th Marquess of Westminster)
(1831年 9月13日 の勅許状による連合王国貴族爵位)
第10代グローヴナー伯爵 (10th Earl Grosvenor)
(1784年 7月5日 の勅許状によるグレートブリテン貴族 爵位)
チェスター州におけるベルグレイヴの第10代ベルグレイヴ子爵 (10th Viscount Belgrave, of Belgrave in the County of Chester)
(1784年7月5日の勅許状によるグレートブリテン貴族爵位)
チェスター州におけるイートンの第10代グローヴナー男爵 (10th Baron Grosvenor, of Eaton in the County of Chester)
(1761年 4月8日 の勅許状によるグレートブリテン貴族爵位)
(チェスター州におけるイートンの)第16代準男爵 (16th Baronet, styled "of Eaton in the County of Chester")
(1622年 2月23日 の勅許状によるイングランド準男爵)
歴代当主一覧
(イートンのグローヴナー)準男爵 (1622年)
グローヴナー男爵 (1761年)
グローヴナー伯爵 (1784年)
ウェストミンスター侯爵 (1831年)
ウェストミンスター公爵 (1874年)
法定推定相続人・推定相続人
2019年現在、ウェストミンスター公爵位には法定推定相続人 も推定相続人 もいない。現当主の7代公は結婚していないため子供がなく、また7代公の他には初代公の直系の男子は残っていないためである。一方ウェストミンスター侯爵、グローヴナー伯爵、ベルグレイヴ子爵、イートンのグローヴナー男爵、イートンの準男爵については第8代ウィルトン伯爵 フランシス・グローヴナー (1934-)が推定相続人である。ウィルトン伯爵グローヴナー家は初代ウェストミンスター侯爵のヤンガーサン の血統だからである。
系図
脚注
出典
^ a b “Grosvenors of Eaton ” (英語). Welcome to the Eaton Estate . 2019年8月30日 閲覧。
^ Lundy, Darryl. “Sir Richard Grosvenor, 1st Bt. ” (英語). thepeerage.com . 2016年4月21日 閲覧。
^ Heraldic Media Limited. “Grosvenor, Earl (GB, 1784) ” (英語). Cracroft's Peerage The Complete Guide to the British Peerage & Baronetage . 2016年4月21日 閲覧。
^ Lundy, Darryl. “Richard Grosvenor, 1st Earl Grosvenor ” (英語). thepeerage.com . 2016年4月21日 閲覧。
^ Heraldic Media Limited. “Westminster, Marquess of (UK, 1831) ” (英語). Cracroft's Peerage The Complete Guide to the British Peerage & Baronetage . 2016年4月21日 閲覧。
^ Lundy, Darryl. “Robert Grosvenor, 1st Marquess of Westminster ” (英語). thepeerage.com . 2016年4月21日 閲覧。
^ Tedder, H. R., rev. K. D. Reynolds (2004) 'Grosvenor, Richard, second marquess of Westminster (1795–1869) ', Oxford Dictionary of National Biography , Oxford University Press , Retrieved on 18 April 2010. (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入 )
^ “No.25570 ”. The Gazette 19 March 1886. 2019年12月3日 閲覧。
^ a b c d e Heraldic Media Limited. “Westminster, Duke of (UK, 1874) ” (英語). Cracroft's Peerage The Complete Guide to the British Peerage & Baronetage . 2016年4月21日 閲覧。
^ Lundy, Darryl. “Hugh Lupus Grosvenor, 1st Duke of Westminster ” (英語). thepeerage.com . 2016年4月21日 閲覧。
^ a b Lundy, Darryl. “Gerald Cavendish Grosvenor, 6th Duke of Westminster ” (英語). thepeerage.com . 2016年4月21日 閲覧。
^ 英エリザベス女王長者番付TOP300から転落__連続入り25年で終了(2015年12月3日閲覧)
参考文献
関連項目