ヴァスコは2人の奴隷と共に牢獄に幽閉されている。牢中で眠るヴァスコが寝言で恋人イネスの名を呼んでいる。ヴァスコを愛している女奴隷のセリカは、軽い嫉妬を感じる。そんなセリカがヴァスコへの愛をアリア「私の膝でおやすみ太陽の子よ (Sur mes genoux, fils du soleil)」で歌う。これは眠るヴァスコを慈しむような故郷の子守歌でもある。そこへ男の奴隷ネルスコがやって来てヴァスコを殺そうとする。驚いたセリカは理由を質す。ネルスコはアリア「王の娘」で、自国の女王であるセリカが、異国人であるヴァスコに心を奪われることは許されることではないと言い、再びヴァスコを短剣で刺そうとする。ネルスコは密かにセリカを愛していたので、ヴァスコを殺害することを目論んでいたのだった。セリカはネルスコの前に立ち塞がってヴァスコを起こし危険を救うと、何事もなかったかのようにネルスコを立ち去らせる。そして、ヴァスコの海図を指差し、自分の故郷の島まで喜望峰回りでいく安全な航路を教えた。また、自分がインド洋上の巨大な島の女王であったことを伝える。セリカは嵐で難破してアフリカに投げ出されたのだった。それを聞き、これこそが自分の栄光に到達できる道だと確信したヴァスコは、感激のあまりセリカを抱き締める。そこへドン・ペドロを伴ったイネス、ドン・アルヴァロ、アンナの4人が牢屋に入ってくる。イネスがセリカと抱き合うヴァスコの姿に顔を曇らせる。イネスはヴァスコを釈放させるために、ドン・ペドロとの結婚を承諾したのだった。イネスが歌う旋律は休符で途切れ途切れとなっており、涙にむせぶ様子を表している。困ったヴァスコはセリカとの関係を誤解されないために、セリカとネルスコ2人をイネスに奴隷として差し出すと言った。これでイネスの誤解は解けて、ヴァスコの愛情を確認する。このように屈辱的な扱いにセリカが逆上するその陰で、女王セリカを愛するネルスコはヴァスコに復讐を密かに誓うのだった。ドン・ペドロが王の命により、自分が新遠征隊を率いて新大陸への航海をすることになったと言い出すので、ヴァスコは驚き憤慨した。そもそも新航路を提案したのはヴァスコなのだ。ドン・ペドロはその上、イネスと結婚するから、その奴隷たちをペドロが買い取り航海へ連れていこうと言う。呆然とするヴァスコに向かい、イネスは愛するヴァスコを自由にするために、ドン・ペドロとの結婚を承諾せざるを得なかった状況を明かし、自分への愛より栄光へ向かって進むべきだと諭すのだった。
第3幕
航海中のドン・ペドロの船内
時は間もなく夜が明けようとしているところ。低弦の奏する音楽が波に静かに揺られる船を表す。それに伴う合唱のなかで侍女たちが水しぶきをあげて疾走する船の様子を歌う。水夫たちに続き侍女たちの合唱が航海の安全を祈願する。ドン・ペドロは妻となったイネスと2人の奴隷を伴い出航していたのだった。ドン・ペドロは奴隷のネルスコに水先案内人を任せていた。ドン・ペドロは同船している王室議員のドン・アルヴァロのネルスコは怪しいとの再三に亘る忠告を無視していたのだった。その時、ネルスコは風向きが変わったので、舵を北に切ると叫ぶ。ドン・アルヴァロはこの方向転換はおかしいと言うが、ドン・ペドロはこれを許可する。ネルスコは水夫たちに海の伝説のバラード「アダマストル、深海の王よ! (Adamastor, roi des vagues profondes)」を歌って聞かせる。ネルスコの不敵な笑顔とうわべだけ陽気な歌の裏には、怪物の怒りがやがて自分の復讐を成し遂げてくれるだろうと言うネルスコの心情を暗示されている。その時そこへ一隻の船が近付いて来た。船に乗っていたのはなんとヴァスコで、彼は船の航路の間違いを指摘するために必死でやって来たのだった。ヴァスコは愛するイネスを救いたい一心でここまで忠告しにきたのだ、このまま進めばディエゴの船隊同様に遭難してしまうと訴えた。2人は互いにむっとして怒りを顔にあらわし、言い争う。ドン・ペドロはヴァスコが何かを企んでいると疑い、水夫たちにヴァスコをマストに縛り付けるよう命じる。ヴァスコはマストに縛られ、射殺されかかったところへ騒ぎを聞き付けたイネスとセリカが出てきて命乞いをする。ヴァスコは解放されるとボートで立ち去って行く。その時ネルスコの合図と共に船は無数の小舟に取り囲まれ、たちまち船上に乗り込まれてしまう。雪崩れ込んできたのはセリカとネルスコの同胞たちで、彼らは2人を救い出し、ポルトガル人を捕らえて皆殺しにしてしまう。ここで舞台が急展開する。嵐が起き、船が座礁する。彼らは座礁した船を背に母国へと帰っていった。
第4幕
美しい島の海岸にある宮殿とバラモン教寺院に囲まれた広場
僧侶達、巫女達、兵士達などがバレエ風のディベルティメントの伴奏で集まってくる。同胞たちにより救い出された女王セリカのために、バラモン教の大祭司による戴冠式が行われる。大祭司が「ブラーマ神よ、ビシュヌ神よ、シヴァ神よ」と歌い上げると舞台の全員が讃美歌のような旋律にのって女王セリカへの忠誠を誓う。そこへ一人の祭司が現れ生き残った外国人の男たちは処刑したはずだったが、まだ一人残っていると言ってヴァスコを連れて来る。外国人の女たちは毒の香を放つマンスニールの木の下に連れていかれたと言う。ヴァスコは連れて来られると深い緑が茂るその場の雰囲気に幻惑されアリア「素晴らしい国 おおパラダイス (Pays merveilleux! O paradis)」を歌う。しかし、ヴァスコの血を求める群衆によって、この歌は中断される。この国の掟は他国の者の侵入を許さず全て処刑するとなっている。ヴァスコも当然処刑されることになる。ヴァスコを愛するセリカはこの者は私の命の恩人で、私の夫となる者なのだと必死でヴァスコを擁護する。セリカに証人になるよう頼まれたネルスコは、セリカを愛する気持ちはあるものの、セリカのヴァスコに対する愛の深さに心打たれ、それが真実であると誓う。ヴァスコが困惑するが、時を移さず2人の結婚式は皆が祝福する中で執り行われる。2人はこの国のしきたりに合わせて結婚し、同じ杯から媚薬を飲む。セリカは人々の行列が寺院に入って行くのを見ながら、2人きりになると貴方の船は無事なので、ここから逃げて新航路発見の栄誉を受けるようにとヴァスコに伝えた。セリカに強い愛情を感じたヴァスコはこの提案を拒否する。二重唱で2人はお互いに愛を確認し、ヴァスコは過去のことは全て忘れセリカを妻として受け入れるのだった。行列が寺院から戻り、2人の結婚を祝福する中、死にゆくポルトガル人女たちの声が聞こえてくる。