アイアンブリッジ （アイアン橋[ 6] 英 : The Iron Bridge 〈鉄の橋[ 7] イングランド 中西部シュロップシャー州 のアイアンブリッジ峡谷 （セヴァーン渓谷）において、アイアンブリッジ の町からセヴァーン川 に架けられた全長約 60メートル (200 ft) の橋 であり[ 2] 鋳鉄 製のアーチ橋 である。近隣の町の名前からコールブルックデール橋 (Coalbrookdale bridge) とも呼ばれる[ 7] [ 8] 1779年 に建築され[ 9] 1781年 に開通した。アイアンブリッジの成功は、構造材料として鋳鉄の普及を促進し、産業革命 の象徴として広く知られている[ 10]
アイアンブリッジは、建築家トーマス・F・プリチャード （英語版 ） エイブラハム・ダービー （英語版 ） [ 10] 鉄 および石炭 、石灰石 を川の対岸に運ぶために使用されていた[ 11]
1934年 に指定遺跡 （英語版 ） 歩行者 だけが橋を渡ることができる。歩行者の通行料は、橋が公有化される1950年 まで取られていた。時代の大半にわたって修理の状態は良くなかったが、20世紀 後半の大規模な修復作業により橋の保護がなされた。1983年 、イギリス指定建造物 1級 (Grade I) に指定されている。1986年 、アイアンブリッジを含むアイアンブリッジ峡谷 は、ユネスコ による世界遺産 に登録された。
アイアンブリッジ峡谷 は、最後の氷河時代 の終わりに古代の大きな湖（ラップワース湖 （英語版 ） [ 12] 石炭 、鉄鉱石 、クレー （白土[ 13] fire clay ）、石灰石 といった[ 14] [ 15] [ 16] 1709年 にエイブラハム・ダービー1世 （英語版 ） コールブルックデール （英語版 ） コークス を用いて製鉄を始めた[ 14] [ 17] [ 18] [ 19] ダービー2世 （英語版 ） [ 20] 蒸気機関 を取り入れた[ 21] [ 注 1] [ 23] シュロップシャー は製鉄業の中心地となった[ 24]
セヴァーン川 は重要な輸送路であったが[ 25] 小教区 のブロズリー （英語版 ） マデリー （英語版 ） [ 26] [ 27] ビルドワス （英語版 ） [ 28] [ 29] [ 28] [ 30] [ 31]
アイアンブリッジは最初に建設された鉄橋とされるが[ 8] [ 32] 1755年 にはリヨン で鉄の橋の建設に着手されたがコスト面の理由から放棄されており[ 33] 1769年 には[ 34] ヨークシャー のカークリーズ （英語版 ） 錬鉄 製の歩道橋（支間長 72フィート (22 m) 、幅 6フィート (1.8 m)[ 35] [ 36]
1773年 、建築家トーマス・ファーノルズ・プリチャード （英語版 ） 製鉄業者 （英語版 ） ジョン・ウィルキンソン に[ 13] 鋳鉄 を材料とする橋の建設を持ちかける手紙を出している[ 37] [ 38] [ 39] [ 40] [ 41] [ 42] 1774年 の冬、ウィルキンソンはプリチャードの提案を支持し、1774年2月に地元の新聞は、鉄の橋を建設する許可を議会に請願する計画を報じた[ 43] [ 43] 1775年 、出資者からは3000から4000ポンド の資金が調達され[ 注 2] エイブラハム・ダービー3世 （英語版 ） [ 43]
1776年 3月25日[ 44] 国王裁可 を受けた[ 45] 法廷弁護士 ジョン・ハリス (John Harries) により起草され[ 注 3] チャールズ・ボールドウィン （英語版 ） 庶民院 に提出された[ 47]
エイブラハム・ダービー3世は、鋳造 および橋の建設を委託されていた[ 28] アーチ橋 を建設する意向を示した[ 48] [ 49] 1777年 7月には橋の支間長が 90フィート (27 m) に縮小されたが、その後、曳舟道 （トーイングパス、Towing-path[ 50] [ 51]
橋の位置は、マデリーとベントホール （英語版 ） [ 28] [ 52] [ 25] [ 53] アイトン・オン・セヴァーン （英語版 ） タレット 〉[ 54] [ 37] [ 55]
橋は2つに分割して[ 25] [ 56] リブ （アーチリブ[ 57] [ 58] ロングトン 15cwt （848,400ポンド (384.8 t) ）の鉄が必要とされ[ 59] [ 60] [ 61] [ 注 4] [ 28] [ 63]
石積みや橋台 （英語版 ） 1778年 のうちに建設され、1779年の夏にはリブが所定の位置に引き上げられた[ 58] [ 64] [ 65] [ 66] [ 67] [ 13]
上空から見たアイアンブリッジ（2008年）左: 南岸 右: 北岸 橋の開通が峡谷の集落の様子に変化をもたらし、橋の周辺の道路は建設後数年のうちに良くなった[ 68] [ 69] 駅馬車 （コーチ （英語版 ） [ 70] [ 71]
1997年 、ストックホルム でエリアス・マルティン （英語版 ） [ 65] デリック の柱からなる動かせる木の櫓（やぐら）が、橋の片方のリブを据えるクレーン として使われているのが分かるもので、リブは 500メートル (1,600 ft) 下流のダービーの鋳造所（コールブルックデール会社[ 72] マデリー・ウッド会社 （英語版 ） [ 73] BBD の番組「タイムウォッチ （英語版 ） [ 74] 2001年 に規模2分の1の橋の主要部分のレプリカ がブリスツ・ヒル・ヴィクトリア・タウン （英語版 ） [ 65] [ 75]
1775年の当初の見積りは3250ポンド（3200ポンド11シリング [ 76] [ 77] [ 注 5] [ 28] [ 注 6] [ 78] [ 79] 1789年 に死去したが、橋は1790年代 中頃には高い収益を得るようになっており、その通行料の配当 として資金援助者に年8パーセントが付与されている[ 80]
1783年 7月、北岸が川に滑落するのを防ぐために 35ヤード (32 m) の壁を建設することになり[ 81] [ 82] [ 83] 地すべり をよく起こしやすく、英国地質調査所 の全国地すべりデータベース (National Landslide Database) に20以上が地域内に記録されている[ 84] 1784年 12月には南側にある石造の陸橋（陸上アーチ）に亀裂（クラック）が見つかり、隣接する橋台に動く兆候が見られた[ 58] [ 58] 1791年 、1792年 には補修がなされた[ 85] 1795年 2月の洪水で被害を受けずに残ったセヴァーン川で唯一の橋であり、それは橋の強度ならびに洪水に対しての細い外形にあった[ 86] [ 87]
1800年 より経営者は数年続く修繕を委託したが、それには中央支間への圧力を緩和するために南岸の石造の陸橋2つを木造のものに替えることが含まれ[ 58] [ 88] 1801 -1804年 に施工された[ 89] 1970年代 のその後の修復において実現している[ 90] 1812年 、チャールズ・ハットン （英語版 ） [ 91] [ 92] 1803 -1804年 に架設された木製のアーチは、1823年 には鋳鉄のアーチに架け替えられたが[ 88] [ 93] 19世紀 にわたってさらなる修繕が必要とされ[ 58] [ 94] [ 95] 1902年 8月に長さ 30フィート (9.1 m) の高欄 （パラペット、parapet ）が川に落ち、1903年 7月には重さ約 5ロングハンドレッドウェイト (250 kg) の床版 （しょうばん）の一部が橋から落下している[ 96]
1909年 に無料のコンクリート橋「フリーブリッジ」(‘Free Bridge’) が開通したが[ 97] [ 98]
1923年 のコンサルタント会社 Mott, Hay and Anderson の報告によれば、塗装面以外、橋の中央支間は良好な状態であったが、金属の橋の床板が危険なほど重く、死荷重（自重）を取った後に、橋は2トン未満の車両かつ道路の中央に制限して再開する必要があるとされた[ 99] 1930年代 の住宅建設ブームによってジャックフィールド （英語版 ） タイル を配送する運転手が橋の使用を許可するよう主張したため、経営者は1934年 6月18日から車両交通の閉鎖を行使する決定を下した[ 99]
歩行者の通行料は、橋の所有権がシュロップシャー州議会 （英語版 ） 1950年 まで徴収された[ 100] [ 101] [ 99] 1940年代 から1970年代 のうちに橋を廃棄して架け替えるか、別の場所に移すかといったいくつかの提案がなされた。1956年 に州議会は橋を解体して新しいものに置き換えることを提案したが、この計画は結実しなかった[ 30] 1968年 にアイアンブリッジ峡谷博物館トラスト （英語版 ） [ 102] [ 103] [ 104]
改修中のアイアンブリッジ（1974年） シュロップシャー州議会、イングランド歴史的建造物評議会 （英語版 ） 1972年 から1975年 のうちに費用14万7000ポンドで橋の基礎部位の修復事業が行なわれた[ 104] [ 105] 鉄筋コンクリート の地中梁（インバートアーチ （英語版 ） [ 58] [ 106] [ 107] 1973年 春に建設会社ターマック (Tarmac Construction Company ) によって着工されたが[ 108] [ 109] 囲い堰 を飲み込み、一夏のうちに作業が終わるという目論見は実現しなかった[ 110] [ 111] 1974年 春に無事再開され、夏頃には主な作業が終了した[ 112] 1972年 には軽量化のために北側の橋台から中詰め土砂が取り除かれ[ 113] コンクリート で補強されている[ 114] アスファルト （マカダム （英語版 ） [ 115] 1980年 には構造部が20世紀 になって初めて塗装され、200年記念祭が開催される1981年 1月1日の式典に向けてその作業は完了した[ 116]
1999年 の夏から、橋にはイングリッシュ・ヘリテッジ による調査のための足場が組まれ、小規模な修理が実施された後、橋はまた塗り直された[ 117] 2016年 にアイアンブリッジにおける125万ポンドの修復事業を発表し、2017年 よりイングリッシュ・ヘリテッジが手掛ける「史上最大の保全事業」が開始された[ 118] 2018年 には360万ポンドと見積もられ、イングリッシュ・ヘリテッジはそれを「リブとアーチ、石積みと橋床の意欲的な保全」と述べている[ 119] [ 120] 青灰色 （英語版 ） 赤褐色 に戻された[ 121] [ 122]
この事業にはクラウドファンディング の活用を通して調達された4万7545ポンドが一部として出資された[ 124] 北ドイツ （英語版 ） ドイツ の財団、ヘルマン・レームツマ財団 （ドイツ語版 ） [ 120] [ 125] [ 126] [ 127] [ 128]
アイアンブリッジ、アイアンブリッジ の町および隣接する集落などアイアンブリッジ峡谷一帯 5.5平方キロメートル (550 ha) が、1986年に国際連合教育科学文化機関 （ユネスコ、UNESCO）世界遺産 「アイアンブリッジ峡谷 」として登録された[ 129] 指定遺跡 （英語版 ） [ 4] [ 58] イギリス指定建造物 1級 (Grade I) となり[ 5] テルフォード・アンド・リーキン評議会 （英語版 ） [ 120] 1979年 にはアイアンブリッジは米国土木学会 による国内外の歴史的土木建造物 (Historic Civil Engineering Landmark ) に認定された[ 130]
2020年 、アイアンブリッジの保存・修復の取り組みが、ヨーロッパ・ノストラ （英語版 ） EU Prize for Cultural Heritage/Europa Nostra Awards ) を受賞した[ 131] [ 132] 欧州連合 (EU)・欧州経済領域 (EEA) のヨーロッパ全土から最大30（2020年受賞数21[ 132] [ 133]
高欄中央部に架設年1779の凸型刻印がある
[ 23] （2007年）
橋の構造上のリブ間の装飾的な円形やオジーアーチ （英語版 ） [ 134] [ 135] ガゼボ （望楼）に[ 136] [ 4] [ 64] [ 58] ほぞ継ぎ の接合や、蟻継ぎ （英語版 ） [ 137] [ 28] [ 72] [ 58] [ 138] くさび やほぞ継ぎの接合材には、木炭精錬法でなされた柔らかい錬鉄も使用された[ 1]
2本の外側のリブには、「この橋はコールブルック＝デールで鋳造され MDCCLXXIX [ 注 8] [ 4] flood arch ) としての役割も果たす。またヴォールト （円筒形天井）状の石造アーチが北の町側の川岸にある小道を渡している[ 4]
アイアンブリッジは鋳鉄製である。鋳鉄は圧縮力にかなり強いが、その脆弱性と低強度 のために、引張力 ないし曲げモーメント には鋼 や錬鉄 より性質が劣る[ 139] [ 60] [ 72] 元素 が次のように解析された[ 140]
鋳鉄の5元素のうち[ 141] 硫化マンガン (MnS) の形成に至っている[ 140]
攪拌精錬法 （パドル法）による錬鉄 は、鋳鉄よりもずっと良い構造資材であったが、1800年以降まであまり利用できず、最終的に橋、レール 、大型船 などの優先的資材となるのは、19世紀後半にベッセマー法 といった新しい製鋼法 が開発されてからであった[ 142] [ 143]
1780年当時の赤褐色 の橋の描画（ウィリアム・ウィリアムズ （英語版 ） [ 121] 1750年 から1830年 にかけて50人余りの画家や版画家 がコールブルックデール周辺を訪れて[ 144] [ 103] 1780年 の橋を描いた最初の画家の1人はウィリアム・ウィリアムズ （英語版 ） [ 145] [ 注 9] マイケル・アンジェロ・ルーカー をロンドンから招いており、その後版画として発売されたルーカーの描画は人気を博して、トーマス・ジェファーソン も複写を購入し[ 147] 大統領 の官邸 （モンティチェロ ）に掲示された[ 148]
1979年にロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ は、架橋200周年を記念して ‘A View from the Iron Bridge’（アイアンブリッジからの景色）と題した展覧会を開催した[ 103] [ 149]
アイアンブリッジは、金属製の最初の大橋として「技術と建築分野の発展に大きな影響を与えた」[ 129] 18世紀 末から19世紀初頭にかけて多くの鉄の橋が建設された[ 95]
1786年 、政治思想家でかつ博識であったトーマス・ペイン は、橋に鉄を使用する建設の実例に模型を作成し、翌1787年 、パリ の科学アカデミー [ 150] 王立学会 に提示した[ 151] [ 152] パディントン のパブリックハウス （ヨークシャー・スティンゴ （英語版 ） [ 153] [ 151]
1793 -1796年 、サンダーランド のウィアマス橋 （英語版 ） 迫石 の代わりに、迫石に少し似た鋳鉄製の箱形により構築された[ 154] ロザラム の鋳造所に送り返されたペインの壊された橋の部材が使われたともいわれる[ 155] [ 156]
1795年のセヴァーン川の大洪水により、アイアンブリッジを除いて付近の橋はすべて壊された。ビルドワスの中世の橋は[ 157] [ 158] トーマス・テルフォード により鋳鉄製の橋に架け替えられた[ 159] [ 160] [ 161] [ 162] [ 163] [ 164] [ 159] [ 163] 1815年 に建設されたクライゲラヒー橋 （英語版 ） スコットランド に現存する最古の鉄の橋として知られる[ 165]
コールポート橋 （英語版 ） 1799年 に3本の鋳鉄製アーチリブに木製の橋床を施して架橋された[ 166] 1818年 にその部材の一部を使用して再建され、現在も存続している[ 166] [ 167]
^ 1743年にはニューコメン の蒸気機関 が導入され[ 19] ボールトン・アンド・ワット の蒸気機関を導入している[ 22]
^ 1773年当時の3,000ポンドから4,000ポンドは、2016年の361,000ポンドから482,000ポンドに相当する。
^ ジョン・ハリスは、地元の聖職者エドワード・ハリスと関係があったといわれる[ 46]
^ 1ロングトン (long ton) は2240ポンド (lb) 、約1016.1キログラム 。1cwt（ハンドレッドウェイト ）は20分の1トン [ 62]
^ 当時の3,250ポンドは、2019年の405,000ポンドに相当する。
^ 当時の6,000ポンドは、2019年の748,000ポンドに相当する。
^ 隠し蟻継ぎは、連結部が鳩 (dove) の尾 (tail) のように見えることからブラインド・ダブテイル・ジョイント (blind dovetail joint) と呼ばれる[ 123]
^ 1779のローマ数字 による表記である。
^ 1ギニー (guinea ) は21シリング 、1シリングは20分の1ポンド[ 146]
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