炭酸
別称
二酸化炭素溶液 Dihydrogen carbonate acid of air Aerial acid Hydroxymethanoic acid
識別情報
CAS登録番号
463-79-6
ChemSpider
747
KEGG
C01353
ChEMBL
CHEMBL1161632
InChI=1S/CH2O3/c2-1(3)4/h(H2,2,3,4)
Key: BVKZGUZCCUSVTD-UHFFFAOYSA-N
InChI=1/CH2O3/c2-1(3)4/h(H2,2,3,4)
Key: BVKZGUZCCUSVTD-UHFFFAOYAU
特性
化学式
H2 CO3
モル質量
62.03 g/mol
密度
1.0 g/cm3 (希薄溶液)
融点
n/a
水 への溶解度
溶液中にのみ存在
酸解離定数 pK a
6.352 (pK a1 )
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
炭酸 (たんさん、英 : carbonic acid )は、化学式 H2 CO3 で表される炭素 のオキソ酸 であり弱酸 の一種である。
性質
普通は水溶液 (炭酸水 )中のみに存在し、水 に溶解した二酸化炭素 の一部が水分子と反応して炭酸となる。
CO
2
(
aq
)
+
H
2
O
(
l
)
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
H
2
CO
3
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {CO2(aq)\ +H2O(l)\ <=>\ H2CO3(aq)}}}
この反応の平衡定数 (K h ) は 25 ℃で 1.7 × 10−3 であり[ 1] 、著しく左に偏っているため水溶液中の二酸化炭素の大部分は CO2 分子として存在する。触媒 が存在しない場合、二酸化炭素と炭酸の間の反応が平衡に達する速度は低く、正反応の速度定数 は 0.039 s−1 、逆反応の速度定数は 23 s−1 である。
二酸化炭素と炭酸の平衡は体液の酸性度を調節する上で非常に重要であり、ほとんどの生物はこれら2つの化合物を変換させるための炭酸脱水酵素 を持っている。この酵素 は反応速度をおよそ10億倍[要出典 ] にする。
炭酸は水溶液中で2段階の解離を起こす。25 ℃における酸解離定数は1段階目が pK a1 = 3.60、2段階目が pK a2 = 10.25 であり、炭酸は真の解離定数において酢酸 よりも強い酸であるが、上記の二酸化炭素との平衡が存在するために、見かけ上の pK a* が高い非常に弱い酸である。このため炭酸塩 は相応の塩基性 を示し、灰汁 として古代より日常生活のアルカリとして洗浄 などに活用されてきた。
H
2
CO
3
(
aq
)
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
HCO
3
− − -->
(
aq
)
+
H
+
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {H2CO3(aq) <=> HCO3^{-}(aq) + H^+(aq)}}}
HCO
3
− − -->
(
aq
)
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
CO
3
2
− − -->
(
aq
)
+
H
+
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {HCO3^{-}(aq) <=> CO3^{2-}(aq) + H^+(aq)}}}
K
a
1
=
[
H
+
]
[
HCO
3
− − -->
]
[
H
2
CO
3
]
=
2.5
× × -->
10
− − -->
4
{\displaystyle K_{a1}={\frac {[{\mbox{H}}^{+}][{\mbox{HCO}}_{3}^{-}]}{[{\mbox{H}}_{2}{\mbox{CO}}_{3}]}}=2.5\times 10^{-4}}
酸解離に関する標準エンタルピー 変化、ギブス自由エネルギー 変化、エントロピー 変化の値が報告されており[ 2] 、解離に伴いエントロピーの減少がおこるのは、電荷の増加に伴いイオンの水和 の程度が増加し、電縮 が起こり水 分子の水素結合 による秩序化の度合いが増加するからである[ 3] 。この値は以下の平衡に対するものでpK a1 *は見かけの酸解離定数である。
水酸化ナトリウム 水溶液による中和滴定曲線
CO
2
(
aq
)
+
H
2
O
(
l
)
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
H
+
(
aq
)
+
HCO
3
− − -->
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {CO2(aq) + H_2O(l) <=> H^+(aq) + HCO_3^{-}(aq)}}}
,
p
K
a
1
∗ ∗ -->
=
6.35
{\displaystyle {\mbox{p}}K_{a1}^{*}=6.35\,}
HCO
3
− − -->
(
aq
)
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
H
+
(
aq
)
+
CO
3
2
− − -->
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {HCO_3^{-}(aq) <=> H^+(aq) + CO_3^{2-}(aq)}}}
,
p
K
a
2
=
10.33
{\displaystyle {\mbox{p}}K_{a2}=10.33\,}
K
a
1
∗ ∗ -->
=
[
H
+
]
[
HCO
3
− − -->
]
[
H
2
CO
3
]
+
[
CO
2
]
=
4.45
× × -->
10
− − -->
7
{\displaystyle K_{a1}^{*}={\frac {[{\mbox{H}}^{+}][{\mbox{HCO}}_{3}^{-}]}{[{\mbox{H}}_{2}{\mbox{CO}}_{3}]+[{\mbox{CO}}_{2}]}}=4.45\times 10^{-7}}
K
a
2
=
[
H
+
]
[
CO
3
2
− − -->
]
[
HCO
3
− − -->
]
=
4.7
× × -->
10
− − -->
11
{\displaystyle K_{a2}={\frac {[{\mbox{H}}^{+}][{\mbox{CO}}_{3}^{2-}]}{[{\mbox{HCO}}_{3}^{-}]}}=4.7\times 10^{-11}}
Δ Δ -->
H
∘ ∘ -->
{\displaystyle {\mathit {\Delta }}H^{\circ }}
Δ Δ -->
G
∘ ∘ -->
{\displaystyle {\mathit {\Delta }}G^{\circ }}
Δ Δ -->
S
∘ ∘ -->
{\displaystyle {\mathit {\Delta }}S^{\circ }}
Δ Δ -->
C
p
∘ ∘ -->
{\displaystyle {\mathit {\Delta }}Cp^{\circ }}
第一解離
7.64 kJ mol−1
36.34 kJ mol−1
−96.3 J mol−1 K−1
−377 J mol−1 K−1
第二解離
14.85 kJ mol−1
58.96 kJ mol−1
−148.1 J mol−1 K−1
−272 J mol−1 K−1
不安定性
長い間、炭酸は水に溶けた状態でしか存在できず、炭酸そのものを室温で単離 することは不可能だと考えられていた。しかし、1991年にNASA・ゴダード宇宙飛行センター の科学者が初めて純粋な H2 CO3 を作り出すことに成功した[ 4] 。彼らは凍結させた水と二酸化炭素に高エネルギーの放射線 を照射したのち、加温して余分な水を取り除くことにより単離を行った。得られた炭酸の構造は赤外分光法 によって検証された。宇宙空間 には水や二酸化炭素の氷が普通に存在することから、この実験結果は宇宙線 や紫外線 によってそれらが反応することで生成した炭酸も宇宙空間には存在する可能性があることを示唆している。
理論計算によって、水が1分子でも存在すると炭酸はすぐに二酸化炭素と水に戻ってしまうが、水を含まない純粋な炭酸は気体状態で安定であることが示されており、その半減期はおよそ18万年であると考えられる[ 5] 。
炭酸と雨水
大気中の二酸化炭素 (0.033 %) が溶け込んだ水の pH は 5.6 である。通常の雨水 は二酸化炭素で飽和状態になってはいないため、大気汚染物質がなければその pH は 6 前後である。工場などから排出された二酸化硫黄 などの酸性酸化物が溶け込み、二酸化炭素で飽和した雨水よりpHが低下したものは酸性雨 と呼ばれる。雨のpHはチョーク や石灰岩 などの炭酸塩鉱物に影響し、様々な地形を作り出す。岩石に含まれる炭酸カルシウム と二酸化炭素 が溶解した水の間には、以下のような平衡が成り立っている。
CaCO
3
+
CO
2
+
H
2
O
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
Ca
(
HCO
3
)
2
{\displaystyle {\ce {CaCO3\ +CO2\ +H2O\ <=>\ Ca(HCO3)2}}}
(
CaCO
3
(
s
)
+
CO
2
(
aq
)
+
H
2
O
(
l
)
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
Ca
2
+
(
aq
)
+
2
HCO
3
− − -->
(
aq
)
)
{\displaystyle {\ce {(CaCO3(s)\ +CO2(aq)\ +H2O(l)\ <=>\ Ca^{2+}(aq)\ +2HCO3^{-}(aq))}}}
これにより、水が入りこんだ断層線付近の地下洞窟が浸食されることがある。また水が蒸発したり、二酸化炭素の溶解度が低下したりすると炭酸カルシウムが再結晶し、鍾乳石 や石筍 を形成する。チョークからなる帯水層 からくみ上げられた水は多量の炭酸カルシウムが溶解しており、「硬水 」と呼ばれている。
脚注
^ Welch, M. J.; Lipton, J. F.; Seck, J. A. (1969). "Tracer studies with radioactive oxygen-15. Exchange between carbon dioxide and water". J. Phys. Chem. 73 : 3351–3356. DOI: 10.1021/j100844a033
^ D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982).
^ 田中元治 『基礎化学選書8 酸と塩基』 裳華房、1971年
^ Moore, M. H.; Khanna, R. (1991). "Infrared and Mass Spectral Studies of Proton Irradiated H2O + CO2 Ice: Evidence for Carbonic Acid". Spectrochim. Acta [A] 47 : 255–262.
^ Loerting, T.; Tautermann, C.; Kroemer, R. T.; Kohl, I.; Mayer, E.; Hallbrucker, A.; Leidl, K. R. (2000). "On the Surprising Kinetic Stability of Carbonic Acid". Angew. Chem., Int. Ed. 39 : 891–894. DOI: 10.1002/(SICI)1521-3773(20000303)39:5<891::AID-ANIE891>3.0.CO;2-E
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
炭酸 に関連するカテゴリがあります。