数学 における右連続左極限関数 (みぎれんぞくひだりきょくげんかんすう、英 : right continuous with left limits, RCLL ; 仏 : continue à droite, limite à gauche, càdlàg )は、実数直線 上で(あるいはその部分集合上で)定義された関数で、至る所右連続 (英語版 ) かつ左極限 を持つものを言う。右連続左極限関数は、(連続なパスを持つブラウン運動 とは異なり)パスの跳びを許す(あるいは要求する)確率過程 の研究において重要である。与えられた定義域 上の右連続左極限関数全体の成す集合はスコロホッド空間 (Skorokhod space ) と呼ばれる。
これと関連する二つの概念に、左右を入れ替えた左連続右極限関数と、定義域の各点において片側連続片側極限関数がある。
定義
累積分布函数 は càdlàg 函数である。
距離空間 (M , d ) および E ⊆ R に対して、関数 ƒ : E → M が右連続左極限 (càdlàg) であるとは、任意の t ∈ E において
左極限 ƒ (t− ) := lims↑t ƒ (s ) が存在し、
右極限 ƒ (t+ ) := lims↓t ƒ (s ) が存在してかつ ƒ (t ) に等しい
ときにいう。つまり、càdlàg 函数 ƒ は右連続かつ左極限を持つ。
例
任意の連続函数は càdlàg である。
定義により任意の累積分布関数 は càdlàg である。例えば点 r における累積値は r 以下であるような確率 P (x ≤ r ) に対応する。言い換えれば、両側分布に対して考える半開区間 (−∞, r ] は右閉である。
開区間上定義された任意の凸関数 f の右微分 f+ ' は単調増大 càdlàg 関数である。
スコロホッド空間
E から M への càdlàg 関数全体の成す空間をしばしば D (E ; M ) あるいは単に D と書いて、スコロホッド空間 (Skorokhod space ) と呼ぶ(ソヴィエト の数学者アナトリー・スコロホッド (英語版 ) に因む)。スコロホッド空間には、直観的に言えば「時間と空間を少し飛び跳ねる」こと ("wiggle space and time a bit") が許されるような位相 を入れることができる(旧来的な一様収束 の位相では「空間を少し飛び跳ねる」ことしかできない)。簡単のため、E = [0, T ] および M = R n ととる(より一般の構成については文献 (Billingsley 1995 )を見よ)。
まずは連続度 (英語版 ) に対応する類似の概念 ϖ′ƒ (δ ) を定義せねばならない。任意の F ⊆ E に対して、
w
f
(
F
)
:=
sup
s
,
t
∈ ∈ -->
F
|
f
(
s
)
− − -->
f
(
t
)
|
{\displaystyle w_{f}(F):=\sup _{s,t\in F}|f(s)-f(t)|}
とおき、δ > 0 に対して càdlàg 度 (càdlàg modulus ) を
ϖ ϖ -->
f
′
(
δ δ -->
)
:=
inf
Π Π -->
max
1
≤ ≤ -->
i
≤ ≤ -->
k
w
f
(
[
t
i
− − -->
1
,
t
i
)
)
{\displaystyle \varpi '_{f}(\delta ):=\inf _{\Pi }\max _{1\leq i\leq k}w_{f}([t_{i-1},t_{i}))}
なるものと定める。ただし、下限 は任意の分割 Π = {0 = t 0 < t 1 < … < tk = T } (k ∈ N , かつmini (ti − t i −1 ) > δ ) に亙って取る。この定義は(通常の連続度が不連続関数に対して意味を持つのと同様に)càdlàg でない ƒ に対しても意味を持ち、ƒ が càdlàg であるための必要十分条件 は ϖ′ƒ (δ ) → 0 (as δ → 0) であることが示せる。
いま、Λ は E から E への狭義単調増大 連続全単射 (これらは「時間を飛び跳ねる」)全体の成す集合とする。E 上の一様ノルムを
‖ ‖ -->
f
‖ ‖ -->
:=
sup
t
∈ ∈ -->
E
|
f
(
t
)
|
{\displaystyle \|f\|:=\sup _{t\in E}|f(t)|}
と書くとき、D 上のスコロホッド距離 (Skorokhod metric ) σ を
σ σ -->
(
f
,
g
)
:=
inf
λ λ -->
∈ ∈ -->
Λ Λ -->
max
{
‖ ‖ -->
λ λ -->
− − -->
I
‖ ‖ -->
,
‖ ‖ -->
f
− − -->
g
∘ ∘ -->
λ λ -->
‖ ‖ -->
}
{\displaystyle \sigma (f,g):=\inf _{\lambda \in \Lambda }\max\{\|\lambda -I\|,\|f-g\circ \lambda \|\}}
と定める。ここで I : E → E は恒等写像である。直観的な「飛び跳ね」("wiggle") の言葉で言えば、||λ − I || は「時間を飛び跳ねる」大きさを測るものであり、||ƒ − g ∘ λ || は「空間を飛び跳ねる」大きさを測るものである。
このスコロホッド距離函数 σ が実際に距離関数 となることが示せる。σ の生成する位相 Σ を D 上のスコロホッド位相 と呼ぶ。
スコロホッド空間の性質
一様位相の一般化
E 上の連続関数の空間 C は D の部分空間 であり、スコロホッド位相を C に相対化したものは、C 上の一様位相に一致する。
コンパクト性
D はスコロホッド距離 σ に関して完備 でない (Billingsley 1999 ) けれども、位相的に同値な距離 σ 0 が存在して D が完備となるようにすることができる。
可分性
σ あるいは σ 0 の何れに関しても D は可分 である。従って、スコロホッド空間はポーランド空間 である。
スコロホッド空間の緊密性
アルツェラ–アスコリの定理 を応用して、スコロホッド空間 D 上の確率測度 の列 (μn )n =1,2,… が緊密 であるための必要十分条件は以下の二条件:
lim
a
→ → -->
∞ ∞ -->
lim sup
n
→ → -->
∞ ∞ -->
μ μ -->
n
(
{
f
∈ ∈ -->
D
|
‖ ‖ -->
f
‖ ‖ -->
≥ ≥ -->
a
}
)
=
0
{\displaystyle \lim _{a\to \infty }\limsup _{n\to \infty }\mu _{n}{\big (}\{f\in D\;|\;\|f\|\geq a\}{\big )}=0}
および
lim
δ δ -->
→ → -->
0
lim sup
n
→ → -->
∞ ∞ -->
μ μ -->
n
(
{
f
∈ ∈ -->
D
|
ϖ ϖ -->
f
′
(
δ δ -->
)
≥ ≥ -->
ε ε -->
}
)
=
0
for all
ε ε -->
>
0
{\displaystyle \lim _{\delta \to 0}\limsup _{n\to \infty }\mu _{n}{\big (}\{f\in D\;|\;\varpi '_{f}(\delta )\geq \varepsilon \}{\big )}=0{\text{ for all }}\varepsilon >0}
を満足することであることが示せる。
代数構造および位相構造
スコロホッド位相および関数の点ごとの和のもとで、D は位相群を成さない。これは例えば
E = [0,2) を単位区間として、f n = χ[1-1/n,2) ∈ D は指示関数の列とする。スコロホッド位相に関して f n → χ[1,2) という事実にも拘らず、関数列 f n − χ[1,2) は 0 に収束しない。
のような例がある。
参考文献
Billingsley, Patrick (1995). Probability and Measure . New York, NY: John Wiley & Sons, Inc.. ISBN 0-471-00710-2
Billingsley, Patrick (1999). Convergence of Probability Measures . New York, NY: John Wiley & Sons, Inc.. ISBN 0-471-19745-9