兆芯(ちょうしん、ザオシン、拼音: Zhào xīn、英: Zhaoxin)こと上海兆芯集成電路有限公司は、2013年に設立されたx86互換CPUの製造企業[1]。
2018年現在においてx86-64(x64)ライセンスを所有する3社(Intel、AMD、VIA)のうちの一つであるVIA Technologiesのライセンスを受け継いでいる。
概要
兆芯は、VIAと上海市政府のジョイントベンチャーによるファブレスの半導体会社である[2]。主に中国市場における組み込みシステム向けとして、x86互換CPUであるZXシリーズを設計・製造している。SoCはLenovoのラップトップなどで主に採用され、中国の政府機関などで主に使われている。
2019年現在では廉価市場をターゲットとした組み込み向け製品をリリースしており、性能的にはせいぜい数年前の Intel Core i5 と互角のレベルだが、近く(早ければ2020年中旬以降、おそらくは2021年)、2019年現在でコンシューマ最速とされるAMDと対抗できるレベルのハイスペックな製品をリリースしたいとの意気込みを社長は語っている[3]。
アーキテクチャとしてはもともとセントール系のCPUコアにS3系の内蔵GPU(iGPU)が統合されたものだった。2021年にセントール・テクノロジの人員がIntelに買収されたため、それ以後、VIAからIPの供与を受けた兆芯がアーキテクチャの開発を行っている。2022年発売のKX-6000G以降、iGPUはVIAグループのS3が開発したS3 Chromeベースではなく、兆芯グループのGlenflyが開発したGlenfly Ariseベースとなっている。
2010年代後半以降、米中貿易戦争のためにアメリカ製品の中国への輸出を停止されるなどされており、中国の安全保障の観点から、中国で全てを自力開発することが求められているという背景がある。
ZXシリーズ
ZX(兆芯、英: Zhaoxin)シリーズは、2013年から兆芯が開発しているCPUのシリーズである[1]。
ZX-Cまでのコアは、VIAグループのS3社が開発したGPUであるS3 Chrome 640/645をVIAのチップセットに統合した「VIA VX11H」チップセットに対応し、S3 Chromeのグラフィック機能によりWindows 10およびDirectX 11をサポートする。ZX-D以降ではついにS3 ChromeがCPUに統合された。
ZX-D以降のCPUはパソコンやサーバーなどで使われる前提で、KX(開先、中: 开先、英: KaiXian)シリーズとKH(開勝、英: KaisHeng)シリーズがある。それまでのVIAのx86互換CPUはIntel製品を下回る性能で、そのためVIAは2000年代後半以降、Intel製品と対抗できる性能が要求されるパソコン向けよりもソリューションの安定供給が重要視される組み込み向けビジネスにシフトしていった経緯があるが、2017年リリースのZX-Dにおいてはアーキテクチャの一新とともにIntel Atomと互角レベルにスペックを向上させ、同時にDDR4デュアルチャネル、USB3.1Gen1/Gen2、PCI-E3.0に対応するなど足回りを近代化させた。KXシリーズはデスクトップ用CPUであり、マイクロソフト社よりWHQL認証を取得するなどWindows他各種OSに正式対応している。KHシリーズはサーバー用CPUであり、KXシリーズから内蔵GPUを省いたもので、ECCメモリなどに対応している。
ちなみに、ZhangJiang(张江)マイクロアーキテクチャ以降のコードネームは全て上海の駅名から採られている。
チック・タック戦略を取っており、マイクロアーキテクチャの刷新と微細化を交互に行っている。2017年に行われたKX-5000(「チック・タック」の「タック」にあたり、VIAの既存のCPUのOEMではなく兆芯が初めて自力で開発したCPU)の製品発表会では、2013年の開発開始から2017年の量産まで9000人月と4年の歳月をかけて自力でx86互換CPUを開発するに至るまでの苦労が語られた[4]。
ラインナップ
- 「ZX-A」は、2013年にリリースされた兆芯の最初のX86互換CPUである。CPUコアのアーキテクチャは、セントールのx86-64「コードネーム:Isaiah」マイクロアーキテクチャであり、VIA NanoのOEMとみられている。TSMCの40nmプロセスで製造されている。
- 「ZX-B」は、アーキテクチャはZX-Aと全く同じだが、FABが台湾のTSMCではなく上海市のHLMC(上海華力微電子)で製造されている。
- 「ZX-C」は、2015年にリリースされた。CPUコアは、ZhangJiang(張江)マイクロアーキテクチャを使っている。ZhangJiangマイクロアーキテクチャはVIA QuadCore-EやVIA Eden X4で使われたIsaiah IIマイクロアーキテクチャをベースとしており、そこにAdvanced Cryptography Engine(ACE)によるAES暗号化をサポートするなど、いくつかの機能が付け加えられたものである。4コア・2.0GHzでTDP 18W以下と、そこそこの性能で低消費電力なことをアピールしている。TSMCの28nmプロセスで製造されている。
- 「ZX-C+」および「ZX-C+ Dual Die」は、2016年にリリースされた。4コアのCPUをデュアルダイすることによって、最大8コアに対応。ネイティブ8コアではなくノースブリッジを介して接続することによるボトルネックがあることと、低消費電力・低性能というVIAのマイクロアーキテクチャの特徴をそのまま継承しているため、8コアと言っても性能は相当低い。
- 「ZX-D」ことZhaoxin KX-5000/KH-20000シリーズ、コードネーム「Wudaokou」(五道口)は、2017年にリリースされた[1]。TSMCまたはHLMCの28nmプロセスで製造、x86-64アーキテクチャ、最大2.0 GHz、4/8コアCPUで、DDR4、PCI Express 3.0、USB 3.1 (Gen 1 and 2)、USB 2.0、SATA 3をサポートしている[5][6]。VIA製CPUの伝統にのっとって、低コストと電力効率を念頭に置いて設計されており、Intel Atomと競合していると考えられている。28nmプロセスでありながらSPEC CPU2006ベンチマークで22nmプロセスのIntel Atom(2013年発売のサーバ用Atom、コードネーム「Avoton」、Silvermontマイクロアーキテクチャ)と互角以上のスコアを叩き出したことが製品発表会でもアピールされた。大手メーカーではLenovoのビジネス用PC「開天」シリーズ、上海儀電のオールインワンPC「Biens」シリーズ、Lenovoのサーバー「ThinkServer」シリーズなどで採用されている。
- 「ZX-E」ことZhaoxin KX-6000/KH-30000シリーズ、コードネーム「Lujiazui」(陸家嘴)は、2019年6月に量産が開始された[7]。最大3.0GHz、4/8コア、TSMCの16nmプロセスによる製造。KX-5000と比較すると、性能が2.0GHzから3.0GHzへと5割アップし、ワットパフォーマンスは3倍になった。内蔵GPUは最大解像度4K、3基までのディスプレイ出力に対応。開発元によると、競合製品としてはCore i5をターゲットにしているとのことで、SPEC CPU2006ベンチマークでIntel Core i5-7400(2017年発売の4コアCPU)と互角以上のスコアを叩き出したことが製品発表会でもアピールされた。
- Zhaoxin KX-7000シリーズは2023年12月にリリースされた[8]。SMICの7nmプロセスを採用、マイクロアーキテクチャが一新され、PCIe4.0とDDR5に対応した。
関連項目
- 海光(Hygon) - AMDよりライセンスを得て中国でx86互換CPU「Hygon Dhyana」を製造する中国の企業。AMD EPYC相当の性能を持つが、完全なOEMであり、自力開発ではない。
- 宝徳(PowerLeader) - 暴芯(Powerstar)というx86アーキテクチャに基づくプロセッサを製造する中国の企業。Intel CPUをリブランド/再パッケージした製品である可能性が高い。[4]
- Vortex86 - 台湾のDM&P Electronicsが製造するx86互換CPU。SiS/Rise Technologyが持っていたx86のライセンス(SiS500/Rise mP6)を受け継いでいる。intel 486/Pentium MMX相当の性能だが、組み込み用としては2019年現在も現役である。
参照
外部リンク