『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(ダンジョンにであいをもとめるのはまちがっているだろうか)は、大森藤ノによる日本のライトノベル、およびその派生作品群[2]。本編のイラストはヤスダスズヒトが担当[書 1]、派生作品のイラストははいむらきよたか、ニリツ、かかげが担当する[書 2][書 3]。2013年1月からGA文庫(SBクリエイティブ)より既刊43冊(本編19冊[書 4]、派生作品24冊[書 5][書 6][書 7]、2023年9月現在)が刊行されている。また、本作品を原作とする漫画、テレビアニメ、劇場版アニメ、ゲームなどの作品がメディアミックスされている[2]。略称は「ダンまち」[3]。
円形都市オラリオとその地下に広がるダンジョンを主な舞台とする神の眷族が織り成すファンタジー作品[4]。本編は駆け出しの冒険者である主人公ベル・クラネルがオラリオで出会ったヒロインたちを救い、仲間との絆を育みながら英雄へと成長する物語である[5]。外伝『ソード・オラトリア』は本作品のヒロインであるアイズ・ヴァレンシュタインがあまりにも強過ぎて、本編で全ての出番を奪いかねないことから、その実力を遺憾なく発揮できる場として企画された派生作品であり[6]、『ファミリアクロニクル』シリーズは本編と外伝で掘り起こしきれないキャラクターたちの過去を描くための作品である[7]。
本作品は大森のデビュー作であり、書籍化前は小説投稿サイト「Arcadia」に投稿されていた[注 1]。これを大森が第4回GA文庫大賞に応募して大賞を受賞し、2013年に本作品の本編がGA文庫から書籍化され[9][書 1]、2014年には外伝『ソード・オラトリア』が、2017年には『ファミリアクロニクル』シリーズが刊行される[書 2][書 3]。2020年に宝島社から出版された『このライトノベルがすごい!』では「2010年代総合ランキング」において第4位となる[10]。2023年にはシリーズ刊行開始から10周年を迎え、本編と外伝に加えてゲーム『メモリア・フレーゼ』のシナリオや記念小説が12カ月連続で書籍化・公開され[8]、シリーズの累計発行部数は2024年3月時点で1700万部を記録している[11]。
メディアミックスとして、2013年に本編が、2014年に外伝『ソード・オラトリア』が漫画化される。2015年に本編のテレビアニメが初めて放送されて、作品に登場する女神ヘスティアのキャラクターが人気となり[12]、また、2015年には本作品を原作とする初めてのゲームとしてブラウザゲーム『クロス・イストリア』が配信される[13]。2017年には外伝『ソード・オラトリア』のテレビアニメが放送され、『ファミリアクロニクル』の漫画が文庫本と同時連載され、さらにスマートフォン用のゲーム『メモリア・フレーゼ』が配信される[14]。また、2019年には劇場版アニメ『オリオンの矢』が公開される[15]。
作品世界では、千年前よりも昔の時代、ダンジョンから無限に産み出されるモンスターが、問答無用に人間に襲いかかる敵として存在し[16]、かつてモンスターと戦った英雄たちの活躍が様々なお伽噺(英雄譚)として作品が描かれる時代に伝わっている[17]。約千年前に天界より神々が降臨し、神の眷族となった人間たちはファミリアを組織して下界に蔓延るモンスターに対抗するようになり[18]、ダンジョンの上にバベルという巨塔が建設されてモンスターが地下に閉じ込められたため、地上には一定の秩序がもたらされる[19]。本編が開始される15年前にオラリオで最強を誇ったファミリアが黒竜に敗れて全滅し、過激派ファミリアが跋扈する暗黒期がオラリオに訪れるが[17]、5年前にギルドなどにより過激派は鎮圧される[20]。新たなファミリアも台頭し、オラリオに再び安寧がもたらされた時代に本物語が始まる。
本作品に登場する神々は、ギリシャ神話や北欧神話などの世界各地域の神話に登場する神の名を冠し、ヘスティアが炉の神である設定などはギリシア神話を踏襲している[21][22]。本作品の神々は天界での退屈に耐えられず下界に降臨し、超越的な能力が封じられる代わりに、神の恩恵を授けた人間が織り成す未知の物語を楽しんでいるが、自身の娯楽を最優先に行動する者も多く、人間たちを騒動に巻き込んだりもしている[23]。人間たちは、ヒューマンの他にエルフなどが登場し、神々から恩恵を授けられた者にはロールプレイングゲームのようなレベルや能力などを数値で示した神聖文字が体に刻まれる[24]。これにより、モンスターと戦うことができるように心身が強化され、魔法などの超常的な力も使えるようになる[24]。冒険者と呼ばれる神の眷族は、未知への探求心から、またモンスターとの戦闘により得られる富や栄誉を求め、ダンジョンに挑戦しており[19]、オラリオの冒険者は残された黒竜の討伐を望む作品世界の人々から新たな英雄として期待されている[17]。
主人公のベル・クラネルは、英雄譚のような異性との運命の出会いに憧れてオラリオにやって来て、ヘスティアのファミリアに入団した駆け出しの冒険者であり、物語では様々な出会いと冒険を通じたベルの成長、そして出会いの結実やファミリアの絆が描かれる[25]。素朴で純粋な動機でダンジョンに挑むベルの行動が次々とヒロインを救うことに繋がり、無意識的にヒロインたちから想いを寄せられてゆくストーリ展開や、憧れを目指して努力や友情によりベルが強くなってゆく昔ながらの少年漫画のような「熱血」な展開が本作品の特徴となっている[26][21]。
作者の大森藤ノは、本編をベルと周囲の者の成長譚と位置付けており、作品の世界観は外伝の方が迫っていると評している[27]。作者はベルの成長を魅力的に描写するために、作品に登場する神の設定やベルの能力に関する仕掛けを考え、ベルを物語の最初から最強主人公としなかった[21][28]。また、本作品の世界観はファンタジーだが、作中の設定はゲームが意識されており、作者はゲームからインスパイアされた多くの設定をファンタジーの世界に溶け込ませるように苦心して作品を作り上げている[4][29]。この理由は、作者が沢山の人に作品を読んでもらえるようにと意図し、制作当時に流行していたキャラクターの能力を数値化する設定を取り入れようと考え、ゲームにおける経験値などのシステムを参考にしたためである[29][30]。ただし、作者によれば、ゲームからインスパイアされた設定は、ネット上に公開されている多くのゲーム関連の二次創作作品から間接的に受け取ったものであり、参考とした特定のゲームはないと述べている[30]。
主人公ベルとヒロインたちの出会い、ベルの最初の冒険などが描かれる。
ベルの仲間となる者たちのヘスティア・ファミリアへの集結などが描かれる。
異端児による事件を経験したベルの葛藤、覚悟、精神的な成長などが描かれる。
作者は第四部を『豊饒編』と名付けており[32]、オラリオを巻き込んだベルの奮闘と「豊饒の女主人」のリューとシルの救済が描かれる。
海上学術機関特区(通称「学区」)におけるベルの学園生活が描かれる。
アイズを主人公に据え、本編の裏で同時進行していたオラリオの運命を賭けた事件が描かれる。
本編9巻から登場する高い知性や心を備えた異端のモンスターであり、その中には人間の言葉を話す者すら存在する[417]。ウラノスによって保護され、ダンジョン内の安全な「隠れ里」を拠点とし、冒険者が落とした武器を装備してダンジョンを巡回しつつ同胞を探しているが[376]、通常のモンスターからも敵として認識されるため、生き残っている者は40体ほどである[375]。アステリオスを除いて全員が地上や人間に対する強烈な憧憬を持ち、いつか地上に出ることを夢見ている[375]。 ウィーネを通じてヘスティア・ファミリアと親交を持ち、イケロス・ファミリアが起こした事件において、全てを失う覚悟で自分たちを救おうとしたベルの決意と覚悟が異端児たちの心に大きな影響を与える[418]。外伝ではウラノスとロキと間で協力関係が成立した後、クノッソス攻略のためにロキ・ファミリアとも連携する[419]。
現存するその他のファミリア・組織、その登場人物を説明する。
物語開始後に、消滅したファミリア・組織とその登場人物を説明する。
物語開始前に、既に消滅していたファミリア・組織とその登場人物を説明する。
ダンジョンから産まれ落ちる人間の敵[注 28]。階層毎に産まれるモンスターの種類と次産間隔が決まっており、殲滅後の一定時間はモンスターが産まれない[16]。ダンジョン内部で神の存在(神威)が感知されると、神を排除するために強力な漆黒のモンスターが産まれる[624][512]。
作者の大森が小説投稿サイトに投稿していた当時、大森は、ひとつの題材として確立されていたダンジョンを舞台とする作品の魅力に取り憑かれ、ギリシャ神話などを調べ上げて本作品の原型である『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』を執筆していた[30]。小説投稿サイトの読者から商業化を希望するコメントもあり、その気になって『ファミリア・ミィス』というタイトルに変更して第4回GA文庫大賞に応募し[21]、大森の応募作はGA文庫史上初の大賞を受賞し[9]、2013年にタイトルを元に戻して本作品が書籍化された[21]。
GA文庫の編集部に所属する小瀧は、作者の大森と会うまでは、大森の応募作が小説投稿サイトに投稿されていた作品であるとは知らなかった[21]。小瀧によれば、大森の応募作は、壮大な世界観にキャッチーな所もあり、伝説をなぞった美しき女神らが登場する豪華な所や、王道のファンタジーに今風の感覚も備わっている所が評価され、満場一致で大賞に選ばれた[21]。また、小瀧は、本作品のイラストを担当するヤスダスズヒトについて、かつて彼が担当した『スカーレット・ソード』という作品のイラストが印象に残り、彼を「ファンタジーでも何でも魅力的に描けるすごい人」と評価し、本作品の特徴である美しく妖しげなキャラクターたちの持つ憂いな表情を描くイラストレータとして最適と考えて採用したと述べている[21]。
本作品の着想は、ギリシャ神話のミノタウロスと戦う主人公から始まっており、ミノタウロスは本作品において重要な役割を担うモンスターであり[4]、本作品はヒロインのアイズがダンジョンでミノタウロスに襲われた主人公のベルを救うエピソードで幕を開ける[12]。作者はベルの最初の冒険となる本編3巻のミノタウロス戦を非常に力を入れて執筆しており[12]、ベルの初めてのライバルとして本編10巻で登場したミノタウロスの異端児をヒロインに位置付けている[437]。また、ベルの原型は、作者が気まぐれから考えて作成した、『不思議の国のアリス』の白ウサギとアリスの関係を逆にしたお蔵入りの小説であり、この作品では白ウサギに対応するベルが、アリスに対応するアイズを追いかける、という関係となっている[21]。
物語のプロットは、作者が小説投稿サイトに投稿していた当時から変化しておらず、当時の構想に従い最終話に向けて物語は進んでおり、本編16巻時点で全体の約7割程度が描かれている[27]。ただし、本編9巻から11巻で描かれた異端児編は商業誌になったからこそ生まれエピソードであり、さらに本編12巻は異端児編で作者の想像を超えたベルの成長を具体的に示すために作成されており、当時の構成には全くなかったエピソードである[27]。このように、物語が進むにつれて巻数が増えたりページ数が増えており、本編14巻はGA文庫史上最長となる640ページの分量となっている[27]。
CEDEC2019において、ゲーム『クロス・イリア』および『メモリア・フレーゼ』に関して、株式会社グリーの野澤武人、小泉義英、武田豊がライセンス、プロモーション、プロデュースの立場から制作経緯などについて発表した[676]。本発表によれば、漫画原作のものが一巡していた2014年当時、グリーでは新しくゲーム化可能な漫画に代わるコンテンツを開拓しており、この中でライトノベルとして注目されていた本作品が抜擢されたとされる[676]。2015年にアニメ第1期が放映されて世界的な人気となり、同アニメの放映終了後の半年ほど後にブラウザゲームとして『クロス・イリア』がリリースされた[676]。
野澤らによれば、『クロス・イリア』の成功によって本作品を原作とするネイティブゲーム化の構想が進み、この中でロールプレイングゲームをそのままを題材にしたかのような本作品の内容や、性格が立った多くのキャラクターが登場して戦闘にも参加するという本作品の特徴からスマートフォンゲームが最適と考え、市場調査の結果から戦闘よりキャラクターの成長や物語にゲーム性を振ると決めた[676]。また、原作や漫画版のファンおよびアニメから入ったファンを第一のターゲットと設定し、出演する声優のファンを第二のターゲットして開発を進めたと述べている[676]。アニメ第2期が放送された2017年に『メモリア・フレーゼ』をリリースし、Twitterやラジオ番組を活用してターゲットを囲い込み、アニメ放送終了後はYouTubeを活用してユーザーをゲームに定着させることに取り組んだとも述べている[676]。
『メモリア・フレーゼ』のリリース後、監修のボリュームが非常に多くなったために原作者である大森との認識の齟齬が増えたことから、これを解決するために原作者側とゲーム制作側で企画協力の体制を築き、定期的に企画会議を行うことを試みた[676]。この取り組みが功を奏して、ゲーム内容に関する議論が深まり生産性も向上して、原作側との距離が一気に縮まるという好循環が生まれとされる[676]。グリーがアニメ制作に出資してゲーム制作側もアニメの製作委員会に参画するようになり、共同製作者として本作品に直接関与するようになった[676]。
小説は、2013年1月の刊行以降、シリーズ累計で2016年には370万部[677]、2019年には1200万部が発行された[678]。2023年にはシリーズ10周年を記念して、本編と外伝およびゲーム『メモリア・フレーゼ』のシナリオなどを小説化した作品などの小説が12カ月連続で刊行され[8]、2024年3月時点で累計1700万部が発行された[11]。また、2023年1月に発売された本編18巻はAmazonの和書ランキングで1位となり[679]、楽天ブックスの週刊ランキング(2023年4月10日から同4月16日)では10位以内のうち『ダンまち』シリーズが5作品を占めた[680]。
本作品は、2013年のGA文庫大賞を受賞し[9]、『Google Playブックベストof 2013』でベストラノベに選ばれ[681]、2014年の『第3回ラノベ好き書店員大賞』における大賞受賞[682]、2016年の『第2回SUGOI JAPAN Award』におけるラノベ部門1位などの受賞歴がある[683]。
また、宝島社が毎年発行する『このライトノベルがすごい!』では、2014年に作品部門で4位[684]および新作部門で1位[681]、2016年に8位[685]、同文庫部門では2018年に9位を獲得しており[686]、2020年に発表された「2010年代総合ランキング」では第4位に入る[10]。
2019年に行われたPR_TIMESによる調査では読者の95%が男性であり、読者の年齢分布は30代と40代が32%、50代が23%とされる[687]
大森藤ノ(著)、ソフトバンククリエイティブ→SBクリエイティブ〈GA文庫〉。
本編のテレビアニメは、第1期が2015年4月から6月までTOKYO MXほかにて放送され[696]、第2期が2019年7月から9月まで[696]、第3期が2020年10月から12月まで[696]、第4期が2022年7月から2023年3月まで放送された[696][697]。第5期が2024年秋から放送予定となっている[698]。
外伝『ソード・オラトリア』のテレビアニメは、2017年4月から7月までTOKYO MXほかにて放映された[696]。また、オリジナルストーリーで構成された劇場版アニメ『オリオンの矢』は2019年2月15日に公開された[15]。
Lokasi Pengunjung: 3.22.130.59